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― セミヨン川南岸 ―
[対岸に落ちた焔が齎した混乱。
それに対し、娘が何か行動を起こす事はない。
それは命じられていないし、何より興味がない。
亜麻色が向かうのは、敵と見なすもの──すなわち、『刈り取る』対象のみ]
……獲るぞ、アヴァーンガルデ。
[短く呟き、大鎌を横に構えて走り出す。
近づく騎兵の横を駆け抜けつつ、馬の脚を斬り払う。
鎧をまとった相手を効率よく獲るなら、この方が早いから。
ただ、唯一の欠点は]
……張り合いがない。
[強者と対した直後故に、感じてしまうのは物足りなさ]
そんな、簡単に刈られるような力で……。
[言いつつ、亜麻色を細める。
視線の先には一人で当たるな、という指示に従い連携して仕掛けてくる敵兵の姿。
先に斬り込んできた剣を横っ跳びに掻い潜る、その着地を狙ったように横合いから斬り込んでくるのに、赤紅を翻して正対し]
あたしの前に出てくるな!
[叫びつつ、大上段に振りかぶった大鎌を振り下ろす。
持ち手の位置はやや下。
一見すると大振りと見える刃は敵兵の肩の後ろへと落ちる]
[が、と手に伝わるのは鋭い切っ先が鎧の継ぎ目か何かの装具かを引っ掛ける感触。
それを感じると、勢いよく大鎌を横に振った。
引っ掛けられた敵兵はその勢いのまま横に飛ばされ、己が同胞に叩きつけられる。
そちらには目もくれる事無く、赤紅を翻して一回転。
背面を取らんとして来た相手に向けて銀月を振り下ろす]
……ちっ。
[戦場に立っている、それだけでも血は騒ぐ。
けれど、心の漣が鎮まらない。
原因は、先に聞いた声だ。
あれは何とかしないとならない──そう、思うのに。
そう考えるとどこかが軋むような心地がして、それが更に苛立ちを掻きたてる]
― 回想/7年前 ―
[隠れ住んでいた村を離れてから9年間、生活を共にした一族を離れる、と決めたのは7年前。
母が亡くなり、一人きりになった時だった]
……うん。
でも、決めた事だし、それに。
[ようやく15歳になったばかりの少女の一人旅に懸念を示す声も多かった。
けれど]
ただ、護られているだけなのは嫌なんだ。
[この一言でそれらを全て跳ねのけた。
離れるのは、護るためでもある、と。
いつかの別れに告げられた言葉>>0:134は、その意の全てが伝えられなかった事もあり──否、伝えられていても変わらなかったやもしれないが、ともかく。
隠れ住んでいた頃にも重ねられていた、『それがお前のためだから』という言葉とも相まって、ただ庇護される事を拒む一因となっていたから]
[己が出自や、亡き父の事は知らない。
けれど、『それ』の存在には気づいていた。
──大鎌アヴァーンガルデ。
一人でも生きて行けるだけの、自分の身を守れるだけの力が欲しい、との願いに応じるように現れた銀月の牙。
一人旅に出て、最初に辿ったのはその来歴。
ただ、それは容易い道ではなく。
かつて魔族の戦士が振るっていた、という事実に辿りつき、自身も魔の者と見なされ追われた。
他者の──人の害意に晒されたのは、その時が最初。
その場をどうにか切り抜け、これからどうするか、思い悩んでいた時。
目の前に舞い降りたのは──]
……お前たち、手を貸せ。
[呼びかけに、戦場の気に酔うその一団は拒絶を示すが]
……『荷運び』をして無事に陣に戻るのと、この場であたしに刈られるのと。
どちらがいい?
[先頭にいた者を鎌の柄で殴りつけた上で、改めて問う。
選択肢というには余りにも極端なそれは、血の酔いすら醒ましたようで。
いそいそと『荷運び』に勤しむ一団を一瞥した後、空を見上げた]
……あの、黒いの。
なんとしても、獲る。
いや、その前に、あの声をどうにかしないとだな。
[どうにかしないと、と思う相手を、己が主が求めているとは未だ知らぬけれど]
……ほんとに……何なんだ、アレは。
[わからない。わからないのがイラつく。
なのに、その事を考えるとどこかが軋むように痛んで]
……ちっ……。
[苛立たし気な舌打ちの後、ぎゅ、と左の手首を掴む。
そこにある、金と黒の石をあしらった飾りの由来は思い出せないけれど。
触れていると心が鎮まるような、そんな気がしていた。*]
[落ち着いた所で装束を解き、黒との対峙で受けた傷を見る。
肩と脇、切られはしなかったが、肌の上には痣が浮かんでいる]
……骨や内側がやられてる訳じゃないな。
なら、いける。
[問題はない、と自己完結し、簡単な手当てだけをして再び赤紅に身を包む。
可能なら沐浴したい所だが、この状況ではそうはいかないだろう。
戦いを第一とする狂犬とはいえ、恥じらいまでは失ってはいないから]
…………。
[手当てが済み、多少なりとも気が鎮まると、大鎌を抱えて座り込む。
右の手は無意識、左手首の飾りを掴んでいた。
軋んで見えなくなったものに揺さぶられている自覚はない。
それ故に、安定を欠く理由がわからなくて。
は、と小さく息を吐いた後、緩い微睡みに落ちた。
動くべき時に動けるように休息する、というのは、血と共に受け継いだ本能に基づくもの。**]
/*
……うん。
何故、そこらへんちょっと書こうかと思っていたのがわかったんだい?
[現在軸はちょっと待ち状態なのでそっちやろうとしてた]
― 5年前 ―
[その命が、どんな経緯で下されたのかは知らない。
娘にとって重要なのは、それが主からの言いつけであり、果たさなくてはならないものだ、というその一点のみ。
だから言いつけられた通り、『運搬役』も兼ねる一隊を引き連れ、その一団を強襲した。
娘の亜麻色が獲物として捕らえたのは、一際目を引く銀。
跳躍から、問答無用とばかりに斬り下ろされた大鎌の閃は、さすがに強い警戒心を抱かせたか。
獲物と見なしたそれは、引く様子もなくこちらに向かって来た]
……この状況で、逃げない、か……!
[それだけ腕に自信があるのか、それともただの無謀か。
いずれにしても、立ち合いは一筋縄ではゆかぬもので。
それが感じさせる楽しさは、自然な笑みを口の端に浮かべさせていた]
……っ!?
なん、だ……?
[そう、呼ばれたころの記憶は霞んで見えない。
思い出せなくても、僕としての務めには支障がないから、気にもしていなかった。
なのに、その叫びは確かに、霞の向こうのそれを揺るがして]
……あたしは、コレを持って引く。
後は、好きにしろ。
ただし、ちゃんと持って帰るのを忘れるなよ。
[これ以上ここにいるのが苦しくなって。
近くにいた運搬役にそう告げると、獲った銀を運ばせて一足先に引いた]
― 橋北側 ―
[持ち帰った銀がその後どうなったかは、特に気にしていなかった。
総大将たる魔王の元で何かに使われた、という話を聞いても興味はなく。
ただ、実際にヒトガタを目にした時、獲った時の揺らぎを思い出して息苦しくなったから、必要がなければ近づく事はしなくなっていた。
それと共に、知らない呼び名と、それを紡いだ声の事もずっと忘れていた──というのに]
……なんなんだ、ほんとに。
イラつく……。
[浅い眠りが齎した、いつかの夢。
それが破れて最初に零れたのは、愚痴めいた呟きとため息ひとつ。*]
― 橋北側 ―
[再度の進撃、その報を齎したものなんだったか。
いずれにせよ、進むというならばそれに従うのは常の事]
……次は、必ず獲る。
[そんな密やかな決意と共に、娘は戦支度を整える。
動いていれば、余計な事は考えなくて済むから、と。
……実際には、余計な事も考えなくてはならないかも知れないが、それはそれとして。**]
……っ!
[ちり、と焼け付く感触が伝わる。
直後に感じたのは、息苦しさと重苦しさ]
や……だっ……。
たす……け…………おにぃ……。
[途切れがちの言葉は、木々のざわめきに飲まれて。
無意識、助けを求めた先の事も何もかも──それきり、淡い霞の向こうに閉ざされた]
[力による支配に崩れ落ちた後、再び目を覚ましてから。
娘は、これまでとは全く異なる在り方に疑問を抱く事もなく、当たり前のように、下される命を果たす日々を過ごすようになる。
半魔という点で、純粋な魔族にはどうしても劣る。
それでも、父から継いだ異界の魔戦士の血と、それによって生み出されし魔鎌はそれを十分に補っていた。
銀月の牙を振るい、赤紅翻して駆ける姿はいつか、人のみならず魔族にも恐れられるようになっていたけれど。
それを気にする機微もまた、霞の奥に捕らわれたまま──今に、至る。*]
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