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お前を後継者に命じても良いのだが。
……お前がそういうものに、興味があるのならばな?
[ フ、と笑う。 ]
だが、お前は探究者だ。
王とは適性が違う。
下らぬ政治駆け引きをやるよりは、ひとつの道を通すことに一途であるべきだ。
− カレン東平野・夕刻 − >>422続き
[イングリッドがこちらへ馬を走らせて近づくのを認めれば、フードを目深におろした。
テオドールが手元に置く人間の女。
だが、妃と呼ぶことはない。
己の呪われた姿に、イングリッドが怯むのも同情するのも見たくなかった。
平然とされていても癪にさわる。
捻くれた心情であった。]
[ろくな挨拶も交わさないまま、イングリッドから連絡用にと、頭巾を被せられた鷹と笛を託される。]
夜ですよ。
[だからこそ笛を併用するのだろうが、ベリアンは胡乱げに翼もつ生き物を見やった。
屍鬼は空を飛べない。
以前、ハーピーの屍鬼を作って試してみたがダメだった。]
…お預かりします。
[礼ではなく、ただ受諾をもって答えた。]
[ウェルシュのところへも行くらしいイングリッドが去っていった後、ベリアンは預かった二羽を骨の輿に移した。
頭巾を外せば、猛禽の黄金の双眸がかりそめの鷹匠を睨む。
躾けた人間と気性も似ているのやもしれぬ。]
……、
真実を告げても、詮無きことはままあります。
[美しいと評する代わりに呟いて、視線を逸らした。]
[ほどなく、戦いが始まった。
自然のものではない風が運ぶ声。カタパルトの轟音。
重い地響きと血の匂い。
選んだ地形と輿の高さが見通しをよくしてくれている。
ウェルシュが、槍煌めかせる騎士団とぶつかったのもわかった。
頑強なゴーレムは動く城壁のごとく。
撒き餌に釣られて矢の的になったゴブリンたちはしばらくすれば屍鬼として蘇ってくる。
例の丸薬を飲まされているのだ。
矢の刺さったままの姿で、のたりのたりと進軍を開始するだろう。
テオドールの差配により、異臭を放つ食いかけの豚が残される。>>400]
[いくつものことが同時に起こっていた。
ベリアンに戦の良し悪しはわからない。
だが、双方が互いに対する情報を動員して手を読み合う、知的な駆け引きだと思った。]
──そろそろ、ですか。
[戦況のセオリーは知らない。
ウェルシュに不利な何があったわけでもない。
ただ、ベリアンは何かが”変わった”のを感じて、第二陣を動かすべく身を乗り出す。]
[と、不意に側方から合流してくる部隊があった。
それを率いているのはテオドールその人だ。>>467]
なん──…
[後衛本陣で泰然と構えているはずの魔王がここにいる。
それに驚くと同時に、なるほど、自分が感じたのはこの変化だったか、と理解した。]
[屍鬼隊に紛れて移動するというテオドールを隠蔽するために、自分も輿を進める。
忌避剤について言葉を賜れば、口元が緩んだ。]
御意、 同様の効果を発動させる魔法も試行済みです。
「腐海の瘴気」と名付けました。
[薄い薬包を指し示す。
そう難しい印形と呪文ではないが、発動には魔力が必要になる。
テオドールが欲しいというなら伝授するのはやぶさかではない。]
[「お前を害する可能性の高い者は、先手を打った」、その言葉に、自分は気づかぬところで守られてきたのだと知る。]>>490
ありがたき幸せ。
おこたりなく注意をはらっておきます。
[こみあげるものをそっと噛み締めた。]
[テオドールは屍鬼研究にも関心を示す。>>499
死者から記憶を引き出して情報にする懸案は、ベリアンも取り組んでいたがまだ成功していない。
見つけ出したいものは他にもたくさんある──]
廃都モーリス ── “門”
[テオドールが示唆したは、ベリアンの心を揺さぶった。**]
[だが、その時、
テオドールの身に異変が起きた。>>500>>501
支えようと伸ばした手を止められ、恬淡とした口調で告げられた ”予知できない結末” に、ベリアンは目眩を覚える。]
ご無体を──
[そんな体で戦を続けていたら、20年どころか1年だって保証できない。]
[吐き出すような笑みとともに告げられたのは、決して公言されてはならない類の選択。
そこまでの信と理解を与えられたことに、血が滾る。けれど、]
わたしには…、 無理です。
[テオドールが指摘した「適性」と同じ結論をベリアンも導く。]
自らの手で人の命を背負うことのできない人間に、王たる資格はない。
[「長く人間の支配者でありたい」「必要ならば屍鬼になってでも」>>501
テオドールの告げた願望を、ベリアンは困惑しつつ受け止める。]
生前の意識と、知恵と、活動可能な肉体…
それが「あなた」を構成する要素だというのですね。
[ ベリアンの返答を、静かに聞く。 ]
「見つけ出す者」か。
巧く言う。
[ 気を悪くするどころか、楽しげにして。 ]
お前の、自分自身の扱い方を理解している所を、
俺は好ましく思う。
[ 死霊術に手を出さなければ、この男の運命はどうなっていただろうか?
しかし、それはテオドールにも分からないことだった。
分かっているのは、
テオドールの知るいずれの未来においても、
辺境まで追われて孤独に、あるいは正当な裁判の末に、
または被害者の家族の私刑で、そして最も多いのは魔物の牙にかかって、
ベリアンはとっくに無残な最期を遂げていたはずだということだけだ。 ]
[自分よりべリアンの方が、テオドールに必要とされている人材なのかもしれない。
そういう思いが、常に心のどこかにある。
潜在的なその思考――そう、それはきっと嫉妬のようなもの――それが、彼に嫌悪感を抱く原因の一つ、なのかもしれなかった。
尤も、本人はその理由を明確には意識できていないのだけれども。]
ああ…
[この人を”自分の
ベリアンだけが知る方法で。
それは何ものにも代え難い歓びだ。]
[そう思う心のどこかで、切なさを感じるものは、なんだ。]
あなたは、もう ──
[その続きを口にすることは、できなかった。]
ご武運を、呼び寄せなさいませ。
[屍鬼とテオドールの一隊が戦場へ進んでゆくのを見送る。>>586
上空では炸裂弾がハーピーたちをわめかせ、カオスを助長していた。
戦場の中央あたり、変成して間もない屍鬼たちが聖水に灼かれる気配がする。>>551]
死んだはずの者が、もう一度、死の苦悶にのたうつ姿をどう思います?
[大義を背負って戦場に立っているだろう敵の耳もとで訊いてやりたい。
死とは何なのか。
もっとも、攻撃を受ける距離まで出張るのはベリアンの役目ではない。
ベリアンはローブを被せた屍鬼を輿にあげ、自身は先ほど描いておいた魔法陣へと移動した。
テオドールの退路を死守する任、果たさねばならない。
[呼んだつもりはなかったが、イングリッドが置いていった連絡用の鷹のうち「夜に動ける貴重な子」が後を追ってきた。>>570]
監視、ご苦労さま。
[揶揄して言ったが、猛禽は高い感知力をもっている。
呪文の構築中に敵が近づいた場合、反応してくれるならありがたい。
戦況をコントロールすべく、魔法の構築儀式にとりかかった。]
閣下の代わりに指揮を執っているのは誰でしょうね?
健闘しているけれど、やはり、閣下の動きとは差がある。
本物が突撃した以上、敵に見抜かれるのも時間の問題。
けれど、閣下の帰る場所を堅持していただくために、崩れられては困ります。
ウェルシュ君は独力でどうともなる方ですし、他に失って困るものがない右翼です。
いっそ、ここで最大の殲滅戦を。
[魔法陣の中央に立ち、両手を組んで印を結び、意識を集中する。]
聴け、なほ叫ぶ髑髏、急瀬の小石、
影せぬ冥府──
[《奈落の書》に書かれた古韻の咒文を詠唱し、身体呪文たる印を切る。
魔法陣を描くのに使われた触媒が、ほのかに浮き上がった。]
[地面から滲むように闇が湧き出して、魔法の光と対消滅してゆく。
ひとつ。またひとつ、戦場の光が飲まれて、闇が濃くなる。
戦う者を敵味方の別なく呑み込み、まだ詠唱は続く──]
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