情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
[小舟は馬たちの歩く速度で川をゆっくりと上っている。
歌うのにも飽きて、今はごろごろしていた。
寝るでもなく作業するでもない。ルーリーの男としては正しい態度だ。]
あー。ガルニエってあそこだ。
[いきなり上がった声に、一緒に乗っているペテルが不審の目を向けてくる。
起き上がって胡坐をかいて、ペテルに向かって言葉を継いだ。]
どこかで聞いたなあって思ってたんだよ。
やっと思い出した。
昔、絵描きさんがいたところ。
なんかデカい屋敷があってさあ。
あそこで食べた菓子、美味しかったなあ。
[ペテルからは既に興味なさげな適当な相槌が返ってくるが、しばらくは構わず勝手に話していた。*]
/*
やっぱり朝更新村は恐ろしいねぇ…とタイムスタンプを見ながら思うけれども、あんまり関係ないかもしれない。
まだ、プロローグですよ??((((;゚Д゚))))
― 舟の上 ―
可愛かったよなー。
[馬を眺めながらの言葉に、隣のペテルは視線だけ寄越してきた。「なにが」と聞き返せば調子に乗るので、こういう時は基本スルーだ。
される方も慣れたもので、勝手に話を続ける。]
ノーラの姪っ子ちゃんさあ。
ミーネちゃんっていうんだけどさ。
可愛かったなー。
[リンザール家の当主を通称呼び捨ての上に、姪にはちゃん付けだった。だがここにはとがめだてする口うるさい人間はいない。]
[いくつか他の領地にお使いに行ったりもしたけれども、リンザールはことのほか居心地が良かった。
なんといっても領主が堅苦しくないのがいい。
初日こそ行儀よくしていたが、翌日からはノーラ、ノーラ、と付きまとっていたし、姪っ子とは歌って踊る仲になった。
花冠を作ってあげたらとても喜ばれたものだ。
おねだりあっさり受け入れられて引き合わされた若馬はつやつやとした明るい栗毛で、よく走り良く跳ねた。]
おまえはすぐ跳ねまわるから、
[名前はまだないというからそんな風に名前を付けて、もらってきた子は今ではすっかり相棒だ。]
[兄が言うには、ノーラも来るらしい。
逞しくなったイルフェを見せるのも楽しみだ。
ミーネちゃんにも何かお土産を渡してもらおうかな、なんて考えているうちに、岸の方から声が掛かった。
ティルカンの兵を見つけた、という報せだった。*]
― ティルカン駐屯地近辺 ―
[川面を行く小舟は、当然のようにティルカンの巡回兵に発見された。
誰何され、舟の上に立ちあがって声を張る。]
マルール軍司令官の使いとして来た。
ラーシュ・ユリハルシラだ。
そちらの代表者に取り次いでもらえないかな。
[しばらくざわついたあと、そこで待て、の声が掛かる。
報せにだろう、奥へ走っていく兵の姿も見えた。
そういえば、クリフにはレトとしか名乗ってないな、
なんてふと思い出したのは、後から思えば虫の報せだったかもしれない。**]
― 小舟の上 ―
[ごろごろしていたのが、不意に跳ね起きる。
よくあることなので、側の仲間はちらと見ただけで声を掛けてもこなかった。
胡坐をかいて、届く声に意識を合わせる。]
伝言?
ナイジェルが?
わかった。伝える。
どんな顔をするのか楽しみ?
いいよ。会えたらすぐに教えるよ。
[兄が佳人と評したナイジェルの顔を思い浮かべる。
幾度か隣で戦ったことがあるけれど、確かに戦場に立つには優しげな顔立ちだ。
だからと侮った相手は、今頃冷たい場所で後悔しているだろう。]
[もうひとつのメッセージも心に刻む。
リンデマンスというのが、マルールから一番近い連邦内の国だという知識は持っていた。最近、そこの王が代替わりした、というのも。
それ以上のことは、あまり知らない。]
ブルーノの王妃とその子を王宮に送り届けること。
その障害を除くために労は惜しまないこと。
それが俺たちの大義、だね。
[認識を改めて確認しておく。
その芯さえぶれなければ、兄の目指すところからそう外れることもないだろう。*]
― 連邦軍野営地 ―
[どうやら話は上に通ったらしい。
しばらくして、来いと呼ばれたので船を岸に寄せて上陸する。
積み荷の樽は、同乗の二人が抱えて運んだ。
対岸の二人に小舟を返してくるようにと託し、残りの四人を引き連れて野営地に向かう。
兵に先導されて訪れたのは、大きな天幕だった。
供の四人は外に残し、自分だけで入り口を潜った。
腰に差した短刀を置いて行けと言われるなら、抵抗はしないだろう。]
[天幕に踏み込んで、周囲に視線を走らせる。
椅子に座る男がおそらく一番立場が上と察して、そちらに軽く頭を下げた。]
お会い戴いて感謝している。
もう伝えてもらったと思うが、ラーシュ・ユリハルシラだ。
将佐の役を任されている。
ティルカン連邦の方に、まずはご挨拶したい。
あれは手土産代わりの、マルールの特産品だ。
良かったら受け取って欲しい。
[天幕の前に置かれた樽がちらりと見えただろうか。
中にはかちかちに干された塩ダラが詰まっている。]
司令官からも伝言があるのだけれど――
[ここまで用意しておいた言葉を並べていた口が、ぽかんと開いた。
改めて、話している相手の顔をじっと見て、あー、の形に目が開く。]
もしかして、 クリフ?
[ぽかん、のまま、確認の声が出た。]
[混乱顔のクリフより先に立ち直って、あははと笑い声を立てる。]
そうだ。やっぱりクリフだ。
久しぶりだなあ。まだ踊ってる?
あーー、そう。ラーシュは父さんのくれた名前なんだ。
レトは通り名というか、一族の名前というか、
今はユリハルシラの家に戻ったんだけど、
うーん、まあいいや。元気そうでよかった。
……ってことは、え? クリフが、こっちの司令官?
あーーーー。
そうか。ガルニエ騎士団か。そうかあ。
[記憶と、散らばっていた固有名詞がようやく繋がって納得の顔になる。*]
[納得ついでに隣に立つ人物の顔を見たら、もう一度、え?の顔に戻った。]
え、え?
なんでチシャの兄さんがいるの??
えっ?
[こちらはどうにも記憶が繋がらない。]
[昔々、これも10年は前のことだ。
旅の途中で通りかかった畑の
ひとつでいいやと思っていたけれど、気づけばふたつめにかぶりついていて、おまけに誰かが近づいて来るのも気づかずに食べていたから、後ろから声を掛けられて飛び上がったことがある。
それが、チシャの兄さんだった、というわけだ。*]
[もう一つのニアミスに気づいていれば、やはり驚いただろう。
とはいえ、こちらはさすがに予想の範疇だった。
来ていないと良いな。
でも来てるだろうな。
そんな、厄介な相手をひとり知っている。]
― 回想・とある戦場 ―
[気ままに集めた仲間を集団として動かすにはそれなりの経験が必要で、手っ取り早く言えば手頃な戦場を求めて各地をうろついていた頃のことだ。
隊商の押しかけ用心棒や野盗討伐では手ごたえが無く、かといってこんな怪しい集団を雇ってくれるようなところはなかなかない。
と探しあぐねていたところに、降ってきたのはまさに、手頃で手ごたえのある戦場の話だった。]
おねーさん、良い買い物をしたね。
俺たち、けっこう使えるよ。
[預かると言う女将軍に、任せてとばかりに胸を叩く。
なお年長の女性は、母でない限りはみなお姉さんだ。間違いない。]
つまり、あのひとは頭堅いってことだね。
[受け入れに難色示した将について、ナネッテが語ったことにふんふんと頷き、ひとことでまとめる。
可愛げはあったのかな。
おねーさんから見れば、みな可愛いのかもしれない。
その理屈で言えば自分も可愛いの対象に含まれるのだが、そんな認識はさっぱり抜け落ちていた。]
レトだ。連中の頭をやってる。
自分たちの動き方は把握してるよ。任せておいて。
[そして示されたのは、いつ出るか、という選択肢だった。]
いいよ。二の矢で出る。
あの人が頭堅いなら、きっと正面からこうぶつかるよね。
俺たちは、あそこの上から、こう、相手の横に突っ込むよ。
[こう、と示したのは馬で駆け下るにはやや急な斜面だ。
自分たちなら問題ない、と自信を示す。]
一当たりしたら一度引くから、あと任せるよ。
[倍以上も年の離れた相手に向かって物怖じもせずに言ってのける。
奇妙な共同戦線だったが、負ける気はしなかった。
ただ、女将軍の手腕に何度も驚かされることになるとは予想もしていなかったけれど*]
― 小舟にいた頃 ―
[兄の口にかかると、ナイジェルはまるで深窓の令嬢のようだ。男だと思っていたけれど、本当は男装の麗人か何かなのかな。]
えっ!ほんと!?
風呂!!?
やったあ。みんな喜ぶよ。終わったら飛んで帰る!
[伝言を聞いて疑問はどこかへ吹っ飛んだ。
でも、風呂に一緒に誘おう、ということだけ頭に残る。]
[兄が語る大義について、一言一句を頭に入れる。
騎士たる者の誇りと義務については実感のないところだったが、兄が望むのなら、それを果たせるよう
自分とて、あの母子を守りたいのだ。
幼い子を連れてマルールへやってきた王妃の顔が、母を思い出させるから。*]
[声を掛けられた時点でさっさと逃げればよかったのに、つい人のよさそうな顔と、のんびりした声に、逃げ出す機会を無くしていた。
うまくすればもうちょっとチシャをもらえるんじゃないかとまで思っていたら、畑仕事をさせられそうになって慌てたものだ。
ルーリーの男に、畑仕事ほど似合わないものはない。]
代金代わりに一曲歌うから、それで勘弁してよ。
それで気に入ったらもう1個ちょうだい。
美味かったから、母さんにも食べさせたいんだ。
[お人よしっぽいから押せるんじゃないかな、なんて小悪魔的に強請ったのだった。]
― 連邦軍野営地・軍議用天幕 ―
[驚きの時が過ぎ去れば、クリフの纏う空気は責務負うもののそれになる。
もう一緒に歌って踊ったあの時とは違うのだと不意の感慨を覚えたが、それはこちらも同じなのだった。]
今回、マルールの全軍を預かるのは、タイガ・メイズリーク・ユリハルシラ司令官。俺の、兄だ。
司令官から連邦の指揮官に伝言がある。
「ブリュノー王の死後、国を纏められなかった第一王子に国政を摂るのは難しいだろう。しばらくティルカンに留学して帝王学を学んで来られるがよい。」
第一王子はもう歩けるのだから、自分の生きる場所を探しに行くべきだろう。
家は一番若い者に譲るべきだ、と俺は思ってる。
[使者の役割のついでに、自分の考えも告げる。]
それともうひとつ。これは司令からあなたに。
「我らの大義は、リンデマンスを侵攻することはない」
とも。
[ずいぶん驚いたが、この場にリンデマンスの指揮官がいるのは好都合だった。
もう一つの伝言も、メレディスに伝えておく。**]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新