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[人々を先導するように神を讃えて歌うマレンマの背を、シスター・フリーデルは誇らしさととまどい、畏れの入り混じる目で見つめていた。
マレンマは、昔からどこか不思議な子供だった。
赤子だった彼が孤児院へ来た日の記憶は漠然としている。ただ大切にしなくてはならないということだけは、意識に刷り込まれるようにしてあった。]
[赤子はすくすくと育った。
病気とは縁がなく、熱を出すようなことも稀だった。怪我でさえ、小さなものなら目を離した隙にわからなくなってしまう。
この子は神の祝福を受けた子だと教会の神父は興奮していたけれども、シスター・フリーデルにとっては子供が何者であれ、守り育てるべきものには変わりなかった。]
[聖句は誰よりも早く口にした。
教典は、大人顔負けにそらんじた。
子供たちの間に混ざって遊ぶことは少なく、
聖堂で何時間でも一人でいるのを好む子だった。
1人でいる時は、決まって首飾りを両手で握っていた。
彼がここへやってきた時に、共に預けられたものだ。
首飾りを小さな手のひらで包み込みながら、幸せそうな顔をしているのを幾度も見ている。そんな時は、誰かと話しているかのようになにか呟いていることも多かった。]
[奇跡を体現した彼は一体何者なのか。
彼を預けたあの日の人物は何者だったのか。
この日を迎えて初めて、シスター・フリーデルは畏れに身体を震わせていた。]*
[讃美歌。鐘の音。街の人々のざわめき。
雑多な人間たちの音とは別に、"声"が聞こえている。]
( おまえは天の子 )
───はい。
[声は、いつだって側にあった。]
( 世界を救うのが、おまえの役目 )
───はい。
[その声は優しく温かい。
けれどもどうしてか、いつもそれを寂しく感じていた。]
[寂しく感じる理由はわからなかった。
寂しいなんて思うのはいけないことだと思っていた。
見守られていることに、感謝しなくてはいけないのに。
ずっとそう思っていたけれど、ようやく理由が分かった。]
( 大天使がおまえを導く )
───はい…!
[自分はずっと、あの方の声を聞きたかったんだ。
あの方を待っていたんだと、分かったのだ。]
― 天使の翼協会 ―
[光り輝ける御船が空に現れ、福音が地上に届いた日以降、教会に救いを求める人は数を増していた。
天使が来るのを予言した人物がいる。
神の奇跡とやらが起きたらしい。
それらの話が人々の口づてに広まり、一縷の望みにかけて教会の門を叩くものたちが後を絶たなかった。
一度、天使に追われた兵が教会に逃げ込んだとたん、天使たちが去っていくことがあってからは、人の流れはますます膨らんだ。
唯一神教こそが全ての元凶だと攻撃する人々も多かった。
けれども同じかそれ以上に、唯一神に祈るものは増えた。
なにしろ、明白な神威が空に浮かんでいるのだ。]
[奇跡の子。神の子。
誰からともなくそう呼ばれ始めたマレンマもまた、日増しに相応しい気配を身に着け、奇蹟の力を発揮し始めた。]
主はあなたを赦します。
主は、あなたを苦しめることは欲しません。
[魔法など学んだこともない青年が首飾りに祈れば兵の傷は癒え、老婆の病は和らいだ。おなかが空いたと泣く子があれば、空から羽根にも似た白い砂糖の薄片を降らせもした。
中には、おまえが天使を呼び寄せたんだろう、と食ってかかる人間もいたが、信徒たちがどこかへ連れ去った。]
世界を救いなさい
人の子らを救いなさい
善き魂を天の門へ導きなさい
[残響のように、時折声が心に響いた。
何を為すべきか、声は直接教えてはくれなかったけれど、
膨大な教典の中に、答えの欠片が散りばめられていた。]
[ある日、祈りを終えた青年が人々の前に立ち、呼びかける。]
みなさん。
船を、箱舟を作りましょう。
主はこの地の全てを焼き清められます。
浄化され蘇った世界にみなさんを導くのが、
天より与えられた私の務めです。
裁きの日は近い。
どうか、急いで。
[ただ祈るしかできなかった人々に、救いへの道程を示す。
人々は、与えられた希望に飛びついた。]
[すぐさま箱舟作りが始まった。
建材は、方々から寄進された。
あるいは、周辺の建物を取り壊して確保された。
今や救世主とさえ呼ばれるようになった青年は、建材のひとつひとつに祝福を与え、聖なる文言を書き記していった。
動力も何もない。ただ船の形をした巨大な建造物である。
一週間もすれば、おおよその形は完成しつつあった。]*
― 天使の翼教会 ―
[忙しい日々のさなか、これまで孤児院の仲間として一緒に遊んでいた小さな子が、物陰からじっと見つめているのに気が付いた。]
どうしたの?
[声を掛ければ、数歩後ずさって首を横に振る。
彼の手には、玩具がひとつ、ぎゅっと握りしめられていた。
それは精巧な、宇宙船の模型だった。]
― 回想・数年前 ―
[まだ6つか7つの頃だっただろう。
ラド兄と「たいしょー」がこの日もやってきていた。
ラド兄を他の子に取られてしまい、壁際でぼんやり眺めていたら、いきなりぽんと頭に大きな手が乗った。]
あ。たいしょー。
[なにしてるんだ、とか、みんなと遊ばないのかとか、聞かれたように思う。
別に、と答えていたら、玩具をひとつくれた。]
飛行船だ!
[飛行船は人気の玩具だ。
この頃はまだ他の少年と同じように、飛行船やら戦闘機やらに夢中になっていた自分は、歓声を上げた。
けれども「たいしょー」は飛行船じゃなくて宇宙船だと教えてくれた。]
うちゅうせん?
飛行船よりずっと高いところに行くの?
てんしさまのところにも行ける?
[勢い込んでいくつもいくつも質問を並べたものだ。
手の中に納まる小さな宇宙船は、ごつごつとどこかまだ荒削りな形をしていたけれど、きらきらと輝いて見えた。
多分それは、渡してくれた「たいしょー」の目がとてもとてもキラキラしていたからだと思う。]
― 現在 ―
[あれから皆でたくさん遊んだ宇宙船の模型は、最初よりもずっとくすんで黒ずんでいたけれども、どこも壊れていなかったし、いろんなところもちゃんと動いた。]
───それは、悪いものだよ。
天使様も言っていたでしょう?
壊してしまわないと。
[手を差し出したら、小さい子は走って逃げていってしまう。
困った顔をして、彼のために赦しを請う祈りを呟いた。]**
[未だ霊妙なる天上の音を聞くことのできない身なれば、手向けられた言葉を知ることはない。
けれども。]
[どこからか届く遠い残響が、心の内側に触れていく。]
アデル、さま。
[口に出した響きの美しさに胸を打たれ、いっそう深く首を垂れた。]*
/*
なんかもうそわそわしていろいろ手につかないけれど、そろそろもう来ないものとして見切りつけて、忘れた方がいいよね。
あうあうあうー。
/*
ところで。
集まった信者の皆さんを無慈悲にやっちゃうつもりではいるのですが、人間を扇動して英雄さんたちに攻撃を仕掛けるのも楽しそうではありますね。
と思いましたが、手数とか時間とか私が墓落ちするタイミングとか、諸々考えると難しいかもしれません。
あと、人間同士が醜く争うよりは、清く美しく天使と戦ってほしい。(きらきら
絵面の華やかさが、欲しいのです。(きらきら(きらきら
― 天使の翼教会 ―
[教会の門は───本来の教え通り───常に開かれている。
このところは入信希望の者、あるいは単に避難してきたものをも受け入れるために、それこそ一日中開かれていた。
ただ、教会を天使の走狗とみなして石を投げてくる者も少なくはなかったので、門を守る者達はぴりぴりとしてもいた。
なので、"箱舟"を見上げているその男の、一般の民衆とはどこか違う雰囲気に警戒したのも無理はない。>>310]
そこの。
入信希望なら向こう、炊き出しだけならあっちだ。
用がないならさっさと帰れ。
[多少、居丈高になってしまったのも無理もないといえば、ない。]
/*
あっ。やばい。
またF5を連打するモードに入りつつある。
こんな時は落ち着いて灰を埋めるんだ。
なにか、なにか書いて気を紛らわせてないと、ああっ!
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