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− ホートン砦 (現在) −
[陥落の混乱覚めやらぬホートン砦へと入ってゆく。
集められた死者たちに術を施し、新たな兵力となるよう手を打ってきたところだ。
これからは元村人も元騎士も元魔物も等しく”屍鬼”として肩を並べて進むことになる。
そこには争いも功名心もない。]
攻略に手こずった砦ではあるが、閣下はここの守りに執着しないだろう。
[ひとりごちて、魔の軍勢が次に進む先を思う。]
[テオドールはその答えを明確に抱いているのだろう。
彼が告げる洞察は、卓越というには桁外れの精度だった。予知にも等しい。
その力が、いかなるものか、尋ねたことはない。]
力の属性に「善」も「悪」もありはしないのだから──
[それがベリアンの持論であった。]
− 学び舎 (回想) −
[ベリアンは、キアラはこのまま残って研究を続けると考えていたのだ。
彼女の成績や熱意からしても、それが当然の判断だろうと。
だが、彼女はクレイグモア騎士団に行きたいと言い出した。
それも、あのシェットラントを追って、だ。
成績優秀で品行方正、美男で血統もいい御曹司。]
なにが──、
[気に食わない。]
[シェットラントに対してはたびたび挑発を繰り返してきたが、涼しい顔ですかされてきた。
騎士団に戻ると聞いて、少しだけ安心した自分に、今は歯ぎしりしている。]
キアラはアイツのものじゃない。
[そして、ベリアンは自分の魔法実験に立ち会ってくれとキアラを説き伏せた。]
これまでの先達たちが無理だと投げ出した術式を完成させた。
まだ誰も成功したことのない魔法だ。
それを見れば、魔法の素晴らしさが君にもわかる。
ここでの研究がどれだけ価値のあるものか再認識してもらいたい。
実験に付き合ってくれたら、君の願いをなんでもひとつだけ叶える──
[なんとかキアラの同意を取り付け、ベリアンは儀式魔法を試行した。
それは太古の精霊を召喚する魔法──のはずだった。
実際に現れたモノの正体は今でもわからない。
だが、そいつは一薙ぎでキアラの命を奪った。
キアラに持たせていた護符など何の役にも立たなかった。
そして、そいつは「贄は受け取った」と笑い、ベリアンに「おまえの望みをひとつ叶えてやろう」と告げたのだった。]
[本来なら、キアラの願いを叶えてやろうと立ち会わせたのに、彼女は物言わぬ骸となって転がっている。
悪夢のような光景だ。]
おまえに用意した贄は彼女じゃない。
彼女を──キアラを無事に戻してくれ。
[ベリアンは真摯な”望み”を告げたが、召喚されしモノは「可能性は無限とはいえ、いかなる者にも死んだ者を蘇らせることは許されていない」と応えた。
その理屈にはベリアンも頷かざるを得なかった。
「代わりに、この娘を”屍鬼”にすることならばできる」と、そいつは囁いた。
「おまえの命令に従う、柔らかな人形だ」
そして、魔導書を取り出し、「この娘を”屍鬼”にすることを望むか?」と問うた。]
わたしが望むのは、彼女を”屍鬼”にすることではない。
彼女を”屍鬼”にすることができる方法そのものを、わたしに寄越せ。
[迷いのない声は、欲するものを見出し、告げたのだった。]
[召喚されしモノは呵々と笑い、手にした魔導書をベリアンに投げ渡した。
そこに烙印された文字は《奈落の書》と読めた。
あるいは、初めからベリアンをそこへ誘導すべく、事はなされたのかもしれない。
だが、とにもかくにも取り引きは終了した。]
…汝を元の場所に戻す。
[宣言すれば、儀式のしきたりどおりに召喚は解かれ、部屋には静けさが戻った。
だが、長い夜はまだ半ばも過ぎてはいなかった。]
[手に入れた魔導書の手引きに従い、ベリアンはキアラを”屍鬼”にすべく術を施した。
確かに骸は立ち上がり、命令に従って歩いたり座ったりした。
ただ、彼女の闊達さの象徴だった翠の双眸は玉髄のように曇り、唇は冷たかった。
ベリアンは、これをキアラだと考えるのを止めた。]
[キアラの死の実態を隠蔽すべく、ベリアンは計略を巡らせた。
”屍鬼”には思考する力も言語能力もなかったから、遺書を捏造することはできなかったけれど、鐘楼から飛び降りるよう命じて、ベリアンはアリバイを作りに去った。
だが、この工作は看破されることとなり、ベリアンは学内裁判にかけられ、二度と魔法が使えないよう舌を切られた上で追放されることと決まった。]
[それに従うを拒み、ベリアンは監禁場所を抜け出すと、学長の部屋に侵入して《奈落の書》を取り戻した。
だが、そこにかけられていた護りの術はベリアンの肌を、闇の道に堕ちた者の証に染めたのだった。
誰の目にもわかる忌避の印。]
──… 、
[死霊魔導士は、そうして野に放たれた。]
− 回想・終わり −
− ホートン砦 (現在) −
[砦陥落後、商魂逞しいファミルがさっそく商売をしているのではないかと予測していたが、支援物資が届く前を見計らっての取り引きはとうに完了した後だったようだ。]
なんとまあ。
ファミル君を見ていると、自分の動きが屍鬼並みに思えてくるな。
[実はファミルに頼みたいことがある。
後で自分を尋ねてきてくれるよう伝言を残して、ベリアンは階段を上がって行った。]
− ホートン砦 書斎 − >>258>>260
[本棚の上に武具が飾られているのは守備隊長だった者の信条ゆえだろうか。
文武両道とかバランス精神とかいった標語はベリアンには響いてこないものだった。
と、扉の向こうで甘い猫なで声がして、ファミルが訪ねてきたと知れる。
入室を促せば、仲人もかくやというほどの満面の笑みを向けられた。
いかにも急いで駆けつけましたという呼吸と礼節を保った身だしなみ。
かすかに魔力の残り香。
大方、戦場で火事場泥棒をしていたのだろうと予測しつつも、慇懃に出られて悪い気はしない。]
さっそくの御用聞き、感謝しよう。
今回は、君に、売って来てもらいたいものがあってね。
[これまでは、海豚の死体が欲しいとか樟脳を樽いっぱいとか、注文をする側だったから、「売り」を頼むのは初めてになる。]
──これを
[サンプルとして差し出したのは袋に入った丸薬だ。]
騎士団側の人間たちに売り込んでほしい。
強壮剤でも喉の渇きを押さえる薬でも、効用はなんでもいいが、戦闘の数時間前に飲んでもらえる能書きがいい。
毒じゃないかと疑われたなら、相手の目の前で飲んでみせても構わないよ。
別に害になるものは入ってない。
──生きてる人間にとっては。
薬が作用している間に死んだ場合だけ、わたしにとって喜ばしい事態が生じる。
[屍鬼に噛み殺された者が屍鬼になるのと同様の効果をもたせた薬。
つまり、ベリアンが出向いて儀式を行わずとも、死者が屍鬼になるということだった。]
服用した魔物と、しなかった魔物において、優位な差が確認されている。
今度は、騎士団側にも広げてゆきたい。
薬は無償で提供する。
価格や販売方法も任せよう。
[ベリアンにとって必要なのは、きっちりと薬を服用してもらうことだ。
その間にファミルがどれだけ儲けようと才覚次第。
口を出すつもりはなかった。
ファミルが、薬を売りつけた人間たちにどうこうされても気にしない、という意味でもあるが。]
[ファミルにそんな交渉を持ちかけていた最中に、テオドールが姿を現す。
それだけで部屋の空気が一変した気がした。
威厳といってもいい堅いオーラを纏う人界の魔王に会釈をし、彼がファミルに語りかける内容を黙って聞く。
思えば、初めて会ったときも、テオドールはベリアンの名と得るべき称号とを口にしたのだった。
自分はあれを心地よいと感じたが、ファミルはどうだろうか──]
[と、テオドールはベリアンへも指示を出す。>>292
彼がわざわざ足を運んだのはそのためであり、ファミルを勧誘したのはついでだったと判断して、ベリアンの自尊心は弾んだ。
かてて加えて、「お前なら出来る」という、予言とも信頼ともとれる断言がベリアンの気を良くする。]
── 御意。
近いうちに、ご期待に添えるものをお届けします。
[魔物を退ける効果がある品は、人間側の手に渡れば厄介なものでもあろう。
だが、その運用についてベリアンは疑惑を挟むことはしない。
テオドールはベリアンが必要とする環境と資材を与えてくれている。
そればかりでなく、苛烈にして冷厳。
崇敬の念すら抱かせる漢だ。
胸に手を当ててテオドールを見送る眼差しは、ベリアンなりに謝意をこめたものだった。**]
[美辞麗句を並べ立てるファミルに目を細める。>>410
世辞が充分に盛られていることは認識していても、あれだけ舌が回るなら巧くやるだろうとファミルへの評価が下がることはない。
元より、一目置かれることを好む性格でもある。
テオドールの勧誘を受けて、まがりなりにも隊を預かる身となったファミルが去った後は、自身もテオドールの依頼を果たすべく動くことにした。]
/*
テオドール閣下が一度、入り直したので発言抽出ができないショック!
閣下、独り言使い切ったとか?
おれはようやくこれが初灰。
年度末は忙しいー
− ホートン砦近郊・猟館 −
[その程度はベリアンにも予測できたとおり、テオドールは攻略した砦に腰を据えることなく軍を進めるつもりらしい。>>290
騎士団が何処を決戦の場に選ぶかまで、例によって”予告”していた。>>375>>376
進軍すれば砦の守備隊は少なくなるだろう。
とはいえ、魔物が忌避する代物を錬成するのに、砦の中でというわけにはいかなかった。
ベリアンは砦からさほど遠くはない猟館に拠点を移すことにした。
かつて駐留していた騎士団が狐狩りなどに使った別邸だ。]
すべての魔物が忌避する共通項目というのは難しい。
硫黄や酸か── 逆にある種の清涼ハーブか。
[思考を巡らせながら、テオドールの言葉を思い出す。>>292
あの彼も、ベリアンが作る忌避剤の成分を”知らなかった”。
ただ、「死臭」というヒントは口にしていたから、イメージにはそれがあるのだろう。]
ふむ…、 いっそ屍鬼そのものを材料に?
[荷運びをしているそれらを横目で見やる。]
[魔軍がティレルとアニーズを攻略しながら北上している間、ベリアンはテオドールから受注した忌避剤の研究に勤しんでいた。
煮詰まれば気分転換に、屍鬼をより強化するための術式や、虫は屍鬼化できるのかといった実験を行う。
腹がすけばドライフルーツを噛んでいた。
こう見えて菜食主義である。]
[試行錯誤の末、まだ改良の余地はあるものの、テオドールの要求水準は果たせるだろう忌避剤を作り上げることに成功した。]
さて、どこで披露しよう?
[実用性の証明と同時に、魔物が蜘蛛の子を散らして逃げてても問題ないタイミングと場所が必要だが。
ブツを納めた壷を抱えてしばし思案。]
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