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― 静寂の間 ―
[ すでに叙任式は始まっているようだった。
主催者の演説のようなものは最後に行われるのか、それとも無秩序なまま、それぞれのお楽しみを満喫する趣向なのかわからないかったが、実に魔界の集いらしいと言えた。
今この場で、自分やエディがちょっかいを出されることはないと確信している。
皆それぞれに自分の子に夢中のはずだ。
ただ、連れてこられた人間のありようにエディが動揺するだろうことは容易に想像がついたので、すぐには玉座の前へ進まず、様子をみる。
元天使から見て、許容しがたい淫猥さをまとう人間もいた。あるいは、何もまとわない者も。
だが、自分も聖騎士を飼おうと挙手したひとりなのだ。非難する資格はない。*]
馳走ありがたい。
わしがそっちに出たら…なんて詮無いことは言うまい。
乾杯じゃ♪
[ ペチャペチャペチャ。
肉球でグラス持つのは(以下略]
[ エディの指がきつく袖を握る。
ウェルシュ、と彼が呼びかけた若者は、 講堂からの帰りに会った者だとわかった。
蛇が、エディとかけあわせてみたらとか唆していた無邪気な子だ。
今は鎖で引かれている。]
…薬を盛られているようだ。
話しかけても無駄だろう。
他の者たちもすべて、心、あるいは純潔を奪われるなどして、聖騎士たる資格を失っているはずだ。
これからは魔物を主人と仰ぎ、その意のおもむくままに愛されて過ごすことになる。
魔王は聖騎士を貴重に思っているから、連れてこられた人間がそう酷い目にあわないよう、魔物たちを教育すべく、この機会を設けたのだとわたしは考えている。
[ そんな分析はエディの悲憤を癒す役にはたたないだろう。
けれど、悪しきことばかりであるとも思えないのだ。]
ああして番う者たちが羨ましくないと言ったら嘘になる。
[ 袖を握る指にそっと、自分の指を重ねた。
魔物たちのように、己の願望に素直であれば、この手を離すことは選ばなかったろうに。
力が、あるいは勇気が足りないのは自分の方だ。]
どのみち、目の毒だ。 用件を済ませて出よう。
[ す、と視線を向けて玉座を見やる。]
あれが魔王だ。
汝は彼と対面し、己が望みを語れ。
汝もまた、招かれし者なれば、魔王は歓待するだろう。
[ 共にゆく、と式典の場へ踏み出した。*]
[ 魔王の前に進み出たエディは、人間ならば当然、受けるであろう畏怖に晒されながらも、誰の手にも頼ることなく地を踏みしめていた。
それは信心にも武芸にも頼らぬ、純粋な魂の強さであろうと思う。
魔王の叙勲を断るに述べた理由は人の子の理。
正しい聖騎士などというものは雲を掴むようにあやふやなものだ。
けれど、それを語るのがエディであるからこそ、燦然たる輝きをもって掲げられる。
堕天使は、その身に沿う影のごとく、一歩下がった位置に立っていた。
自分だけの聖騎士を得んとした魔物たちと、はからずも同じく。]
[ エディが魔王に"望み"を伝えたときには、わずかに唇を開き、固まる。
魔王の下問を受けて、その眦が、ほのかに染まった。]
これが、わたしが監督した候補生だ。
その責は我にあり、また我はこれを請い求める。
[ 魔王が造り出したそれは、片手に収まる宝珠。
小さな月であった。]
あなたらしい采配、と言えようか。
[ 堕天使が受肉することで力を失えば、自分に宿る魔狼もまた力を失うであろうと憶測していた。
その一方で、魔狼が恒常的に優位に立つ可能性もあった。
魔王の処置は、それを諸共に回避する方法といえる。
望んだタイミングで魔狼を化現させられることの価値は、それが月に二度以上に増えても比べ様にならない。
魔狼王にとっても、悪くないトレードなのではなかろうか。]
酒を?
[ 魔王のつきあいの広さならば、あれの好みを知っていてもおかしくはないと思った。]
覚えておこう。
[ 受けた恩義、学んだ愛とともに。*]
くっく、ぐるる…
ぬしも悪よのぉ。
[ いっぺん、言ってみたかったらしい。]
ヒヨコを追跡する手間がはぶけたぜぃ
天使に憑いてアガリというのもつまらぬものだと思っていたところだ、
新たに強いヤツを食らって力を蓄えるニューゲームも愉しみよ。
[ いつかは、この魔王にも挑んでやろうかの、などとご機嫌で考えていた。*]
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