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― アレイゼル領・宿『ポンドフィールド』 ―
宿に火を。
先頭はお前、次にサシャが。貴様は後方を頼みます。
[ 宿の外から合図が見えた。
二人が頷く。一人が縛り上げた宿屋の主人を入り口付近の柱に縛っておくと、もう一人が宿の裏手に火を放った。
小さな火がじわじわと、大きく焼け拡がっていくのを待ち続ける。]
( 火を見ると落ち着きますね。)
[ 既にあの耐え難い痛みは遠のいている。忘れているだけかも知れないが、構わなかった。薬による眠気も既にない。]
行きますよ、手筈通りに。
[ 縛られた主人の前に金の詰まった財布を置き、片手で詫びる。善行を仇で返す羽目に陥ったのは申し訳なかったが、これ以上構う余裕は無い。一番火の遠い場所に置いたものの、焼け崩れる前に助け出されるかどうかは彼の持つ運だろう。]
出ますっ!
[ 煙が立ち上がり、次第に騒ぎになっていた。近くにいた警邏隊の一行が慌てて駆けつけてくる瞬間、一人が飛び出した。少し遅れて続き、もう一人も後を駆ける。
隊長らしき馬に乗った兵の首筋に剣を叩き付ける間、サシャは抜き放った剣を小さな所作で振り、隊長の傍の兵を二人、負傷させる。残り一人も、残った兵の腰を切り払っていた。]
「 姐御、馬を!!」
[ 手早く死体を蹴落として隊長の馬を奪った副官から、手綱を受け取ると拾った槍を握ったまま馬に跨った。騎馬の扱いは上達には程遠かったが、構っている暇は無い。おっつけてくる一隊に向けて、馬の腹を蹴った。]
うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
[ 吼える。馬の頭を突っ込ませるように正面からぶつかった。槍が相手の胸を貫く。勢いのまま馬から剥がれていく後ろを副官が続き、その馬を奪った。
もう一人。目を見張っている姿。手綱を返す。
蹄で蹴倒したように、その顔が目前から消えた。]
( 門は全て抑えられています。指定の外壁までっ)
[ 残り一人を今まさに奪った馬に上げるまでの間、周囲の兵士達を牽制する。
押っ取り刀で立ち向かう勇者はその蛮勇の報いを食らわせる。槍使いは歩兵の華だ。馬上ではあるが、不安になる余裕もない。
三騎揃えば、それ以上留まる事無く、脱出を図るべくすぐさま馬を駆けさせる。*]
― アレイゼル領・外壁 ―
[ 馬を駆る。
全力疾走はまるで風に乗っているかのようだった。実際は酷く揺れ、足並みの揃わない騎馬の鞍に尻を打ち付けられ、腰を上げる。追走する二騎は自分よりも明らかに巧みで、むしろ先頭の自分が崩れないように見張っているかのようだった。]
( 上手は鞍ダコができると言いますが…)
[ 腹が熱い。叩き付けられて、じくじくと痛みが沸いていく。馬も血の臭いに慣れていないのか、酷く興奮している。暫くは保つだろうが、時間の問題だった。]
( ――追っ手は?)
[ 思ったよりも初撃が良かったせいか、追尾してくる軍の動きは遠かった。打ち合わせ通りであれば、いいのだが不安が過ぎる。最悪の事態は避けたい。]
「姐御、もうすぐ――っ」
[ 蹲りかける自分に後ろから副官が声をかけてきた。長い平和の間に、壁面が幾つか罅割れて、よじ登る事が可能な外壁。潜入初日に街全てを囲む外壁の全てを見て周り、登る事が可能な箇所を数箇所、目星をつけて置いた。その一つに向かって駆け込む。]
( 一番判りやすく、一番オプティモに近い場所です。)
[ 市街地を駆け巡り、幾つかの曲がり角を曲がってから、移民の多い居住区の裏手を折れて目的の外壁近くまで駆ける。]
火急時により馬上にて非礼致します。領主様。
見回り、ご苦労であります。
[ 平然とした顔をしたまま、ゆっくり近付くと馬上のまま敬礼をした。*]
火急時により馬上にて非礼致します。領主様。
見回り、ご苦労であります。
[ 平然とした顔をしたまま、ゆっくり近付くと馬上のまま敬礼をした。*]
― アレイゼル領・外壁 ―
騎馬を駆って、三人で一斉にあの貴族に襲い掛かります。
周囲は彼を守るべく盾を構えた歩兵が覆うでしょう。
矢を射る者がいればサシャが払います。
そのまま、皆で個々、歩兵の持つ大盾を蹴って、外壁を越えます。
[ 副官達二人に小声でとても簡単なように途方もない無茶を言った。]
そのぐらいの無茶ができるとサシャは信じておりますよ。
[ こちらはたった三騎だが、相手もそれほど多くは無い。一撃さえ凌げれば活路はあるようにも見えなくもない。
こちらの開き直りに相手も乗ってくれた>>447らしい。どうやらこちらのやけっぱちの奇襲>>455は成功しない。ただ、狙いは異なる。相手も笑顔のまま近付く。白々しい貴族の顔が間近に見えた。]
( この程度でしかなかった部隊長で申し訳ありません。)
[ 最後まで連れ添ってくれた二人に内心で詫びる。自分は居残って、二人のいちかばちかを支援するつもりでいた。二人を逃せれば、反対方向の外壁から脱出する予定の他の者達も無事ならば、自分以外の全員が帰還できる。
彼らが戻れば、クレメンスに幾らか詫びる事ができよう。]
次っ。
[ 盾歩兵の攻囲に守られた弓兵をそのまま、潰していこうとすれば敵が割れる。馬の足を速める。数騎が襲い掛かってきた。一騎は薙ぎ倒し、もう一騎は叩き落した。
気付くと身体に矢が刺さっていた。展開した兵のどこからかに射られたらしい。槍を突き出し、盾を構える兵がいた。]
( 羨ましい。サシャはそちらの指揮官になりたかったでありますよ。)
[ ボヤく。血を吐いていた。背後から掛け声と共に獣のような気配が襲いかかってくるのを感じて振り返って、槍を突き出した。槍で受け止められる。数合わせの兵から、親衛隊に顔ぶれが変わっていた。]
全く、不甲斐ない…。
落ち度もいいところです。
[ 馬に槍を受け、脚を折ると自ら転げるようにして馬から離れた。立ち上がって剣を抜きながら、貴族の位置を確認する。陣形が見えた。飛び込んだところで、及ぶまでもなかった。矢が迫り、刃で断ち切った。]
!! やめ――っ!!
[ その時に、同じく馬をなくしていたらしい生き残りの二人が鉄壁の陣形に向かっていくのが見えた。静止の声など間に合わない。
遺体が二つ、できた。別れの言葉も、からかいの餞の言葉も告げられないまま、未熟な指揮官の下で彼らは死んだ。
無茶振りに付き合う事無く、彼らが脱出する気などさらさらなかったのは、その傷だらけの姿ですぐにわかった。あれだけ血を流しながら、二人とも背中に傷がなかった。]
お見事です。
実に良き兵です。
[ 褒める。アレイゼルの兵はとても良かった。彼自身が率いる親衛兵になってからは、全く歯が立たない。一人を斬り上げれば、すぐさま横から剣が突き出されていく。伸ばされた剣を弾き飛ばそうとして、受け止めそこない剣を落とした。跳躍し、兵が落とした剣を拾う。間断なく、襲ってくる兵。
貴族は見ているか、指揮をしているか。
矢音がして、しゃがみ込んだ。息を吸う暇もない。動く隙をついて襲ってくる。自分が敵兵達の詰めろにかかっているのがわかった。死地に呼び出されるように、
攻撃を受け、斬り付けては離れ、矢を避けては、槍を断ち切る。]
はぁ… はぁ… はぁ… はぁ…
[ 気付けば足元には二人の配下の死体。目の前には全く手も出せそうもないソマリ達が、ただ自分を見詰めている。あちこちで弓の弦が撓る音が聞こえ、後ろから槍を構える兵が拠って来るのがわかった。
――――ここで、詰んだ。*]
申し訳ありません。
卿の良き兵を、殺しました。
[ これ以上殺す事に意味は無い。そう思えばすっと楽になった。それ以上、口を開く事無く、ただソマリを見詰め返して微かに促す。]
駆け足は基本です。
――良く駆ける兵は、強くなります。
[ スルジエでは常日頃兵士達には訓練のない日は軽装のまま、長躯をさせる。自主性に任せるという事は無かった。駆けられない者は、訓練から外す。兵士達からは「走れ走れのサシャ将校」と陰口を叩かれていたが、駆ける事こそ自分の信念だった。自分は駆け続けられただろうか。今立ち止まってしまっているのではないかと問う。どうなのか。]
― 回想/オプティモへの船中>>278 ―
副使様。
それは助かります。
[ まだ見ぬ国の人々達。好人物である。それでも信頼する勇気を持てる機会はなかった。卑屈にならない程度に縋るのは打算ではなく、他に思いつかなかった事もあげられた。
彼らは自分が何故こんな事をしているのか理解できていないだろう。まだ見ぬ世界に希望や期待を抱いているでもない。望郷の念などあろう筈もなく、身の置き場がという言い分も、異国である必要は無い。それこそオプティモや余所の街に逃げ込めばいいのだ。この国から居所を失くすほどの事は無い。
実際、クレメンスも愉快がりながら、警戒を外す事はなさそうだ。]
( サシャに判らない事が、判る筈もないでしょうし。)
[ これら全てが運命や偶然だとすれば、スルジエの脚本家は最早神ででもあろうか。]
( 誰も、誰も見ても居ないし。気付いても居ない。その癖、何かのついでにように奪っていく。命を。全てを。)
[ 己の命令で、人が死ぬ。殺すのではなくて、死ぬ。それが偉い人。
セルビアの主として産まれたかの人はきっと、それが嫌だったのだろう。嫌で嫌で仕方ない癖に、どうする気もなかった。できもしなかった。だから、偉い人であり続けた。誰よりも。
歴代のセルビアの主の中で、誰よりもセルビアの主であり続けて、終わるのだろう。命乞いをして偉い人らしく余命を繋ぐのか、偉い人の終わり方として毒を仰いで死ぬのか、裏に逃れて偉い人であり続ける作業を続けるのか、どれも彼の本意ではない、偉い人という存在として続き、終わるのだろう。]
( 偉い人は、雲の上。)
[ 遠く遠く、目を凝らしても何も見える事は無い。青空が広がる上空、雲の隙間からは太陽の日差しが降り注ぎ、眩しさに目を細める。眩しくて、何も見えなかった。**]
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