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―まらまち・格子の家―
[『格子の家』は奈良町のはずれにある、伝統的な江戸から明治期の町家を再現した施設だ。
残念ながら建物自体は新しいため、その点に感して聖前は少しがっかりとしただろうか。]
京都とはまた違った、温かさがあるな。
[日射しの陰影が美しいコントラストを生み出していて、いつまでもここにいたいような気持ちにさせる。]
なるほどね…間口を狭くすれば、税金も安く済む――って事か。
[聖前の説明に頷きながら、共に中へと入り。
格子が畳に映し出す影を眺めて、2人だけの穏やかな空気に満足そうな笑みを浮かべる。]
……い、いつからっ…て、
[昨日の今日で、不意打ちで飛んできた質問に、またもや顔が赤くなる。
だけど何も答えないわけにもいかず、]
――笑うなよ?
……その…、初めて見た時から…、
[拳を握りしめ。
文字通り顔から火を噴きそうな勢いで、告白する。]
でもお前…、なんか俺から逃げてるみたいだったし…。
[彼の姿を探し出して間もなく、そんな噂を聞くようになって。
悪い印象を抱かれてるようだと思った時、本当はショックでご飯も喉を通らなかったのだ。]
だからお前が図書委員に入ってくれたと知ったとき。
……すっげ、嬉しかった――。
―――…ああ。
[まさかそこからだったとは。
あの一件の何処に、そのような恋愛フラグがあったのか。
頭を抱える勢いだと思いはしたが、これは難しかろう。]
あの後俺を捜してるらしい、って聞いた時な?
治療費の請求に来たのかと思って、恐ろしくなって避けてた訳。
後々そんなつもりじゃないって解って、ほっとして
それなら図書委員に入っても大丈夫かなって思ってたら…。
[治療費の請求かと避け続けたあの日々が、実に馬鹿馬鹿しい
思い出として蘇る。勝手に思い込んだ自分自身が悪いのに、
それは一旦棚に上げておく。]
そうだったみたいだな。
俺はただお前に『あの時はありがとう』って、
ただ、それだけを言いたかっただけど…。
[実際には図書委員に入らないかと、いらぬ勧誘のおまけつきだったが。]
いや……、本当はもういちどお前に会いたかっただけだから――、やっぱ嘘になるけど…。
[もうすでに話の脈絡が失われて、何のことだかさっぱりわからない話になりかけている。]
[格子の間から差す陽射しと、そこから生まれる影を映す畳と。
それらを温かく見つめる聖前の横顔を記念にパシャリとした。
けれど、これを誰かに見せるのは勿体ないから。
結局また後で、別の記念写真を撮るために。
誰かにシャッターを押してもらう事になるだろう。]
お前……それは俺が言うべきセリフだろ?
やっぱりあの時の打ち所が悪かったんじゃないのか。
あぁいや、好きとかそういう部分じゃなくて
ありがとう、の部分な。
[そっと陽の光に手を翳してみて、暫く無言。]
えー…と。
それで、まぁ俺も色々考えたんだけど。
まだちゃんとした形になってないんだよ、こう色んなものが…
だけど、これだけは先に言っておかなきゃいけないなと思って。
[それは決して長くはない時間だった。
早く言わなければならない、言いたい、そんな気持ちが
口を開くのを急がせた。]
そういう意味で好きだって言われても、不思議と嫌じゃなくて
どこかほっとした…かな。
好きな女子が居るのかと思ってたからな、その辺の心配を
する必要がなくなったのは大きい。
[足は名残惜しげに土間を離れ、二階へと続く階段へ向かう。]
そういう部分から考えたら、俺も多分…同じなんだろうな。
まだちゃんとした言葉では言えないけど、多分、もうちょっと
先まで一緒に居たら、言えるんじゃないかなー。
……卑怯かね、これは。
[好きか嫌いかで問われれば、好き。そんな風に捉えられるかも
知れないが、そんなレベルの思考でも無い。
ただ単に、気恥ずかしいだけだったりする。]
じゃあ、責任とってもらわなくちゃな?
[打ち所が悪かったのではいか、との言葉には冗談っぽく返して。
陽に手をかざす姿に携帯のカメラを向けて、もう一度パシャリ。]
えっと、そうだよな…。
[途中で言葉を発することなく、聖前の少し後ろを歩きながら。
彼が全ての言葉を言い終えるのを待つ。]
いきなり、そんな事言われても。
答え…出せないよな――…。
[他に好きな女の子がいなくて、ほっとしたと言う聖前。
自分が彼を思う気持ちと同じだという彼を階段にしたから、見上げる。
彼が上った段数の分、開く距離。]
別に卑怯じゃないけど…。
じゃあ、俺…待ってるから。
["そういう意味で好き"とは、つまり。
恋愛対象として見ている己と同じ意味で、好きだと言うことだけれど。
彼が本当に"そういう意味で"自分を好きなのかは、まだきっと分からないのだろうと、思い込んだ。]
答えが出るまで――。
[開いた距離を自分からは埋めようとはせず、階段の下で微笑む。
彼が二階に上れば、降りてくるのを待たずに。そっと姿を消してみようか。
そんな悪戯心が少し頭をもたげるが、実行したら彼はどんな顔をするだろう。
こんな考え起こす自分の方が、よっぽど卑怯だと思いながら。
彼がそのまま二階へと上がるのか、それとも降りてきて自分に手を差し伸べるのか。
どんな反応を見せてくれるだろうと、待った。]
―――…そうだなあ。
[来いよ、と急かす事はせずに暫く待ってみた。
それでも動かないようであるなら、階段を降りて天倉の手を
掴もうと手を伸ばす。]
ま、こうするくらいだから。
[追って来ないのなら、自分が傍まで行こう。
そうすることで共に在る事が出来るなら、と。
言葉は少ないが、この不定形な感情の形を整えるのには
然程時間を必要としないのかも知れない。]
[聖前は急かすことなく、此方を見つめてくる。
彼への焦がれる想いを抱きながら。まるで「待て」を言い渡された犬のように、じっと待っていれば。
差し伸ばされた手に微笑んで――自らその手を、しっかりと掴んだ。]
甘やかすと、片時も離れなくなるぞ?
[試した自分が愚かだった。
追って来ない者はそれまでだと、割り切る事はなく。
彼はこうして自ら意志で傍まで来て、手を差し伸べてくれる。
互いの掌から伝わる温度は、それだけで。言葉以上のものを伝えてくれている気がした。]
―格子の家―
…へへ
[>>328上からの視点でスマホを向けられれば、自然と柔らかな微笑みが浮かぶ。
無事、彼の携帯に収められれば。今度は彼の手を掴んで階段を降りるのを手伝うように、引き寄せる。
それからしばらくは夢中で、彼と彼のいる格子の家にカメラを向けて、記念写真の候補をいくつも収めた。]
そうだな…そろそろお腹すいたかも。
三輪そうめんか、それいいな。
俺は特に行きたいところも無いし、お前についていくよ。
[正確に言うなら、聖前と一緒ならどこだってかまわないのだ。]
また、来ような。
[相変わらずこちらも誰となのか言わず、代わりに聖前の瞳を見つめて目を細める。
"今度は2人きりで" また――。
格子の家を出を後にしてからは、自然と隣を歩いている聖前が、とても愛おしいと想いながら。次の目的地へと向かった。*]
―2人で歩く、奈良の町―
大仏プリン?
なんか、すごい名前だな…。
[>>360甘いもの好きな聖前らしく、すでに地元のスイーツ情報もチェック済みのようだ。
大仏見たいな巨大プリンを想像しかけたが、瓶入りという言葉に慌てて脳裏から恥ずかしい妄想を消す。]
もちろん行くよ。
お前の嬉しそうな顔見れるの、楽しみだし♪
[いったい、どこのカップルかと間違われるようなセリフを吐いて。
少し背の低い聖前を見下ろし形で、再びにこりと笑みを浮かべた。
聖前とこうして2人だけで、歩いているだけで。
見るもの、聞くもの。全てが美しく素晴らしい景色に変わる。]
お米のプリン? って…どんな味だろうな。
健康にも良さそうだし、ちょっと楽しみかも
[わくわくとした表情を隠すこともなく、すべては聖前にさらけ出される。]
そういやー…さっき、離れなくなるって言ったなあ。
[同様に席に着いたか、天倉の姿を見上げて笑う。]
去年会った時から付かず離れずだもんなあ。
委員会でも同じ受付になることもないし。
[温かな茶を口に運んで、ふと小さな息を吐き出し]
……いいと思う。傍に居たら、俺がほっとするし。
[何故かそこだけは、視線を逸らせて零した。]
―東大寺前―
え…大仏プリンて、そんなにあるのか?
ああでも、俺達高校生だし。地酒はまずいかな…。
[予想に反して、随分と種類が豊富そうなプリン達に少々驚きながらも。こうして聖前と2人で、プリン話に花を咲かせて歩くのは楽しい。
やがて気づけば東大寺前のある店に着く。
自分たちよりも先に、誰かが訪れていたとは気がつかないまま店内に足を踏み入れる。
席に着きメニューを開けば。
聖前と同じ「よしの」と少し迷ったが、結局寿司5貫と天ぷら盛合せ、 それとごま豆腐がついた「天ぷらセット」を頼むことに決めて。
店員に注文を伝える。]
…え?
[おもむろに話を切り出してきた聖前に、ふと見れば。
まったりとお茶を味わいながら、しみじみと零す言葉に。今度はこっちが赤くなる。]
あーうん……。
…いい……、うん。
[彼の言うとおり、委員会でもなぜか担当がすれ違ったばかりいて。
狙っているわけではないのに、奇妙な距離感があった。
それを今、目の前で「ほっとする」とまで言われるなんて。
正直、嬉しいを通り越して身体が熱くなる。]
俺もお前と…ずっといたい…。
卒業しても、いつまでも一緒に――いたい…。
[高校生を追えたその先、ずっと遠い未来までも、共にありたいと言う望みを口にする。]
―――…じゃあ、一緒に住む?
[所謂シェアハウスというやつだ。
大学生活にもよるが、一人暮らしをした方が都合が良い事も
あるだろうからと思案している部分もあった。
ただ、この何気ない一言が、天倉の耳にはどう届いただろう?]
卒業するまでは、"学生"だからな。
みんなは…、どうだろうな?
会えたら嬉しいな。
[聖前の言葉に、今度は気兼ねする必要のない旅先で。
再び馴染んだ仲間達に会えたら、どんなに嬉しいだろうと思う。
やがてやって来た煮麺は関西らしく、薄く上品な味付けのもの。
柿の葉寿司の方はと言えば、想像していたような柿の葉の匂いはまったくせず。
包んでいる葉を剥いてしまえば、割と普通の寿司のよう。]
昔は山で貴重だった魚を食べるための、「保存食」だったっけ?
……聖前、天ぷら食べる?
[それなら昔は、もっと塩辛いような気もするが。さすがに現代では塩分控えめだ。
歴史好きな聖前に話を振りながら、楽しい食事をすすめる。]
――大学が決まったら今度は絶対、卒業旅行で来ような。
京都と奈良、2人で一緒に巡ろう。
[そして結局、寿司と煮麺を食べ終え、胡麻豆腐を食べれば。余った天ぷらは聖前にあげただろうか。
どうやら理想の素麺に出会ったらしく。
にこやかに素麺を語る聖前に頷きながら、なごやかな奈良での昼食を終えただろうか。]
ぶっ…い、一緒…!?
[聖前は突然何を言い出すのか。
彼の大胆な発言に、思わず煮麺を喉に詰まらせそうになり。慌ててお茶で流し込む。]
それって……
[意味が分かってるのだろうか。
好きな相手と2人きりでの暮らし――言い換えるなら、新婚生活と言ってもいい。
それをあえて口に出してくると言うことは……、]
プロポーズ…?
[かなり真剣に受け取って、真顔で聖前を見る事になる。]
―食事中の話―
あぁ、うんそう、一緒。
一人暮らしだと大変だし、それなら二人のが……
[どうも天倉の反応がおかしい。
篤史の言葉が足りなさ過ぎたのも大きな要因となっているが、
彼が篤史に対して抱いている感情を加えるのを忘れていた。]
ぶふっ
[出汁を味わっている時でなくて本当に良かった。
カマボコの欠片が少し飛んだだけで、被害は最小限に
食い止められたが…何を言い出すのかと思えば、そんなこと。]
シェアハウスって意味で言ったんだけどな!
ま、まあ確かにやってる事ってのはそうなるの…かな?
[何処までを本気で考えているのだろうか。
結婚までかそうなのか、と篤史もまた真剣な眼差しで
天倉を見つめ返した。]
―その後、旅館へ―
[<ゐざさ>で食事を終えてからは、予定通り大仏プリンの店へ行き。
それぞれプリンを購入して、駅までの道を食べながら歩く。
買った種類も違えば、瓶の形も……大きさも違う。]
あ、じゃあ一口だけ。
[見た目からして、かなり量を誇る暴力的なプリンを、すでに三分の一程消費した聖前に勧められるまま。
スプーンで一匙掬い、口に含む。
途端、口中に広がる甘さは優しくも、どこか懐かしさを感じるもので。
普段スーパーで売ってるものよりも濃厚な甘さを、舌の上で丹念に味わう。]
素朴で美味しいな!
こっちもどう?
[今度はお返しとばかりに、四角い瓶を差しだす。
こちらは古代米を使ったプリンで、4種類あるうちの1つ<青龍>だ。
どうせなら違う物にしようと思ったのと、聖前から聞いて気になっていたのもあって、これを選んだ。
まだ半分も減ってないそれを差し出して。
聖前がそのまま、自分の使ってたスプーンでプリンを口に運ぶ様子を眺めていたが。
そこでようやく自分達がしている行為に気がついて、耳まで赤く染まる。
そして旅館に着いてからも、思い出の瓶はもちろん捨てず。
きちんと洗って大事にしまった置いたらしい。*]
[尚、篤史の初日のメモ欄には
「下鴨神社の縁結びのお参りで天倉の事を祈って来た!」
と走り書きされている。
これが天倉の何かに拍車を掛ける事になるのかも知れない。]
―修学旅行3日目―
本当にな……。
[溜息混じりに呟く聖前の隣で、こちらも同じく溜息をつく。
どうして今、一緒にいるのかと言えば、つまり。
そうならざる得ない理由があるわけで。]
…俺はこのままでも…、
[「かまわないのに」と言いかけた言葉は飲み込んだ。
なぜなら。そもそも、こうなった原因の半分は自分にある。]
―時はさかのぼって、ほんの少し前―
[めでたくも聖前との両思が判明し。恐らく生まれてこの方、一番爽やかな朝を迎えられた3日目の朝。]
みんな、おはよう! 今日は良い朝だな。
完全に自由な1日だが、みんなは今日これからどうするんだ?
[体操のお兄さん張りに爽やかすぎる笑顔は、友人達をどん引きさせるには充分な威力を放っていたようだ。
どこか気遣わしげな、憐れみの混じったような奇妙な視線に晒され、首を傾げる。
15時までに京都駅に着けばいいと言う、アバウトかつ生徒の自主性尊重し過ぎな日程に、奈良を観光して行きたい者や、もう一度京都に戻りたいと主張する者もいた。
どちらにせよ、今日は完全に自由なので。
結局、班のメンバーは皆それぞれ好きな場所を観光してから集合と決まった。]
あ…俺、聖前のしおり借りたままだった。
とりあえず、返してこないと!
じゃあ、また後でなーーー!
[友人達の背に手を振って見送り。
一緒になれなかったあの日を確認し合うように、
互いの持つしおりを交換したのは、昨日旅館に着いてから直ぐ。
「図書委員の仕事の一環として、今後のしおり作りの参考に」と、
一見もっともらしい理由をつけて交換したしおりには……。
とあるページに、聖前の心の声が克明に記されていた。]
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