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[なんの備えもないままの落下行の結果、激しすぎる大地の腕に抱き潰されてからしばらく後、深い深い森の中、静かな湖畔に吾は居た]
っはぁーーーーっ!! 生き返った!
糞ぅ、あの畜生共め! 吾が動けないと思って好き勝手しおって!!
[返り血を洗い流し、返ってない血も洗い流し、泥だの汗だの血液だので身体にへばり付くだけになっていた元は服であったボロ布も、洗い流せばほんの少しだけ気が晴れた]
いや、あれは野生か? ならば畜生と呼ぶには不適当……あの野生め? ……うむ、違和感がある。
まあ、次にあったなら考えるか。
[そういうわけなので。
落下の衝撃でちょっと肉片になった結果、通りすがりの肉食獣の腹を満たす事になったなんてことも、そろそろ水に流すことにしよう]
[赤い光が降る大自然の中、目的もない状態であるならば自然体で居続ける事も吝かではないのだが、探し人がいるのだ。そしてそれは女である。
一糸まとわぬ状況というのは少々ではなく問題となるだろうし、問題にならなかったらそれはそれで問題だ。
持ってこようとして持ってきたものではないが、着替えくらいはあるので問題ない。
吾は手を前方に差し出してなにもない空間より、制服を一着取り出した。
吾様それって俺のだよね!
やたらと膨らんだ制服のポケットに視線を向ければ、吾の中で小物が騒ぎ出すが問題ない。
ちょっと覚醒した際に、事を運ぶべくかつての吾を知る者に会いにいこうとしたのだが、
それをするには、ポケットを菓子で一杯にした姿では少々どころではなく場にそぐわなかったのだ。
詰めれるだけ詰め込まれてしまっていて、取り出すことが叶わなかったのだから、仕舞い込んでいても仕方がない]
[
こっちは食べそこねて落ち込んだのに……
小物がまだなんか言ってるが無視を決め込み、制服を着込むことにしよう。
そもそも、なくしたと泣きついてちゃっかり追加で餌付けされていたのを吾は知っているのだ。
この制服の中身に関していうのなら、小物は食べそこねてはないのである。
小物の中で見た世界では毎度毎度なにかしら与えられていたのだが、あの砦の奴らは小物をなんだと思っていたのだろう。
着替え終えて、胸ポケットから一本取り出したエナジーバーに齧りつけば、また小物が騒ぎ出した。
……これは報復混じりの鬱憤晴らしに丁度いいと、吾は小物の声を聞き流しつつ、腹を満たすことにした。
そんな吾のもとに、手荒にすぎる城館行きの案内人が現れるのはもう少し後のことである*]
[
ざわり。
風もないのに揺れた空気に顔を上げる。石で作った釜の下に小枝を放り込む。もくもくと石釜にそれらしく作られた煙突から煙が上がる]
――??
[保存食を少し用意しようとした、のだがつい熱中しすぎて燻製やら蒸留水やら、当初の目的をすっかり忘れていたりとか。首を傾げつつ、続けて小枝を火にくべようとしたら、伸びてきた弦がぺしりと小枝を手から払い落とした]
あっ。
[燻製は火をたかないと完成しないのに。邪魔するように伸びてきた弦を、そばに置いていたサバイバルナイフで切り落とし、そのまま火の中にポイする。落ちた小枝も一緒に。]
[改めて辺りを見回すと、弦だけではない。木の枝が不気味にざわめき、まるでこちらに来いとでも言うように道を作る]
………。
[ぺしぺしと伸びてくる枝を切り落としては火にくべながら、考える。あちらへ行けということか。しかしあちらに何があるのか――もしこれを起こしているのが、あの化け物だとしたら。実際何度か助けられているし、会ったところで大丈夫、なのかもしれない。けれど自分に抵抗するだけの力がないのが問題だ。顔を合わせてしまったとしたら、きっと逃げるのは難しい。
行く気の薄そうな様子に焦れたのか、少し太めの枝が燻製釜を叩き潰すようにしなるのに目に入る]
はぁ!
[ナイフで一閃。しかしこれでは落ち着いて燻製が作れない]
あー…分かった。分かった行くよ、行くけどちょっと待って。これだけ作ったらちゃんと行くって。
[植物がこちらの声を聞いて、理解できるのかは分からないけれど…少し寄ってくる枝が乾燥したものになったから、聞こえていたのかもしれない]
よっ! ほっ! とぁっ!!
[迫りくる枝を巧みに避けつつ、飴玉ひとつ口の中へと放り込む]
ていっ! ふべぁっ!! んっ!んんっ!
[止せばいいのに気勢を上げつつ飴玉なんぞ舐めるはじめるから、小さな甘味は口から飛び出しかけて、その度小物は回避のリズムを乱している。
だから小物は小物なのだ。
判断するのは先方の要件を聞いてからでもいいと、吾は大人しくついていくつもりだったのだが。
どうやら小物はあれらが気に食わないらしい。
おそらく、吾から主導権を奪ってまでのおやつタイムを邪魔されたからというのも、反抗の理由に含まれているのだろう]
[森という環境下、際限なく湧いているように見える枝と、殺気のない攻撃への対処は不得手であるとはいえ吾の力を持つ小物の戦いは、放っておけば平行線を辿り続けることだろう。
……吾はそれほど暇ではないから]
[
樹を捌きながら這いずって、行き先は理解できているのか?
樹の指す先に行きたくないなら、枝の上を行けばいいだろうに。
何故、地に足をつけているのか。吾には理解しかねるな。
なんて、まだまだ気力が有り余っている小物へ囁いて。
それから吾は「吾様は天才か!」なんて瞳を輝かせる小物から、ふいと意識を背けるのだった]
[枝の上は進むも戻るも樹木次第、向かう先などわかる筈もないだろうに。
地面と違って不安定な足元に、相対する枝が一本ではないことは、先程までの攻防で嫌という程わかっていただろうに。
吾の甘言に乗った小物がどうなるかなんて、予想するのも容易いのだ]
[そうして
びたーん!!
などという派手な音と共に、予測された未来は訪れた。
意気揚々と小物が枝へと飛び乗って、わずか数秒のことである]
[
大人一人が寝れるほどに太い枝の上、顔面から突っ込んだ突っ伏したままの状態で、小物が吾に恨み言を言ってくるので。
それに「これで進めるな」と笑って返してやれば、小物は吾と意見が食い違っていた事を思い出したらしく、ぐぅと唸りながら、枝に爪を立てはじめた。
痛みは引き受けてやったというのに、そんなに悔しかったのだろうか。
このまま小物に拗ね続けられても鬱陶しい。埋め合わせはすると口約束混じりに宥めにかかるとしよう。
まあこれで、目的地に着くまでに、機嫌を直せばいいのだけれど**
]
のぉぉぉおぉぉぉ! 待ってぇ!
せっかく会えたのにぃぃぃぃい!!
[森の中、枝に揺られて小物が喚き続ける。
細めの枝でぐるぐる巻の状態のままうつ伏せだと言うのによくもまあ叫べるものだ。
あのとき、あの女を目があって>>21>>22、小物は駆け寄ろうとしたのだが、吾に騙されて乗ったという経緯が経緯であったからだろうか。
途中下車は許されなかったのである。
それにしても小物はうるさい、そして面倒くさい。
周りの木々もちょっと扱いづらそうにしているように見えるが、気の所為ではないだろう]
ひどい、酷あれが招かれてるのは吾らが向かう場所か?
[まだなにか言いたげである小物の言葉を遮って、吾が木々に声をかければ肯定との意が返ってきた]
[そうしてどれくらい進んだか。吾らを大きな門扉が出迎えて、ここが目的地であるのだろう。樹木は足を止めたのだった。
しかし、吾らは降ろされはしなかったし、拘束を解かれもせずにいる]
??
[このまま門の中まで連れていこうというのだろうかと、顔をあげようとしたところで]
!?
[がくん、と身体が傾いた。
乗ってきた枝は門の上より門の中へと差し込まれ、そう、この傾斜は、これはまるで──……]
[上体を起こせば、身体のどこかからぎしりと音がしたみたいだった]
……いつつ…
[床の上で寝るなんてことは日常茶飯事でだったけれど、
一番最初に床で寝たのがひどい状況だったから
この感覚はなかなか好きになれるものではない。
ぐっと背を伸ばして口を開ければ、あくびが口をついて出て、
そんなに寝たかなと首をかしげる]
[だって。
会いたくて会いたくて仕方がないんだ。
君の姿を見ただけで、君がいるとわかるだけで
異界からあの世界を見てたときみたいに、
胸がぎゅうぎゅうして、喉がきゅうって痛くなる。
俺は俺じゃないみたいな言葉を言いたくなるけれど、
俺は頭はよくないし、吾様が言うには小物らしいから、具体的に何を伝えたらいいのかはわからない。
でも、吾様は君をあの人だって思いこんでるから、君と話をさせてもうまく転がるとは思えない。
だからこんどは]
…………
[そういえば、口説くのにはムードも大事だって、隊長がいってたっけ]
でも
[ムードってどうやって出せばいいんだろう?
隊長が言ってたのは、いい音楽、いい風景……あとなんだっけ?
いい感じのなにかがあればいいんだろうけれど思いつかない。
ああ、そうだ、きっと、君に触れればなにかを思いつくかもしれない。
今は邪魔者もいないから、今のうちに君にぎゅっと抱きつこう]
[やることは決まっているのだ、君の姿を見たのなら、俺はまっすぐ君の元へいこう。
銃で撃たれようがナイフで切りつけられようが、痛みはないから問題ない。
足を切り落とすか腕を切り落とせば、さすがに動きは鈍るし君を抱きしめられなくなるけれど。
そうやって君を抱きしめられたなら、君の目の前にいけたなら]
──会いたかった。
[いろいろ考えていたはずなのに、それしか言葉にできなかった。
君は女の子にしては硬いけど、戦場での思い返せばその硬さだって仕方がない。
硬くても柔らかくても、君に会って数ヶ月、会いたいが募りに募っていたのだ、感極まってしまうのはきっとしょうがないことだ。
はらはら涙を零す俺に何やら吾様がうるさくなるけれど、今はそれ以上に俺の心音がうるさいから、気にしないようにするのは難しいことではない**]
離せ!!
[そんな声は相手に届いているのだろうか。しばらくはじたばたと無駄な努力をしてみるのだけれど。
触れた頬が濡れているのに気付けば、ほんのちょっと抵抗は弱くなった*]
[これは違う。
あの女ではないと、ここまで近づけばさすがに気づくことはできたのだが。
ならば何故、これを見ただけで吾の封は緩んだのか。
いや、違う、のだろうか?
封が緩んだのは小物であって、吾は、吾はただの──…
この世界に来て、より本来の吾らに近づいた今、
吾の中にはひとつの疑念が浮かんでいる。
あの女とこれの違いを理解していたということは、
吾以上にあの女を知っていたということではないのか?
小物の痛みを吾は引き受けることができるが、吾の痛みを小物に押し付けることはできない。護られているのはどちらといえるだろうか?
吾と小物、この生き物の主体はどちらだ?
]
[君の悲鳴は耳に痛いけれど、それでも縛めはときたくない。
背に回そうと伸ばされた腕の感触はともかく、ぐっと胸を押そうとする銃を持ったままの手の圧も、なんだか嬉しくなる状況に、さすがに今の自分が正常な精神状態ではないことは理解できるけれど。
でもね、それを知ったところで、どうしたらいいのかわからない]
えっとね、ええっと、一目惚れなんだ。
夏のエルディリ渓谷で君を見たんだ。
[うちの国が奇襲をかけたけど返り討ちにあったあの日、
観測手だった俺は、遥か遠くの森の中からでも君の姿を捉えることができたから。
泥と煤に塗れて張り詰めたままだった君の顔が、伝令からなにかを聞いた途端にへにゃりと崩れた瞬間に、俺は──…]
[吾はその瞬間に目を開けた。
風の臭いが嗅ぎなれたものであるのはきっと、眠ってからそれほど経っていないからだろう。
人間に眠らされるとは不覚をとった。
あんな別れは納得できるものではないだろう?
はやくあの女の元に行って、文句の一つも言わねばならないと──…
あのときの吾はそれだけを思っていたはずだった]
[
目覚めて生まれたやるべきことは小物の感情を大きく揺さぶり、焦燥を恋に誤認して。
それから吾は再び目を閉じてしまったから、置いてけぼりの小物がどうなったのかを知らなかった。
会えない焦燥は小物の感情を引っ掻き回し、
引っ掻き回された感情は小物の中で新たな形をとって育まれていったなんて。
今の小物の中を占める恋しいは、小物だけの感情は、吾の手には負えそうにもない。
これからどうするべきかなんてことはわからないけれど、今は。
昔のように暴走しかけの感情に蓋をすべく、吾が表に出るとしよう]
[思わずこぼれた思考に目を瞬かせたが、今は腕の中の……男への対処が先決だ。
その顔を見れば軽い恐慌の混じった混乱が浮かんでいる、これでは腕を緩めた途端に逃げられそうだ。
さてどうしたものかと視線を彷徨わせ悩んでいると、影の姿を見留めた。
それらにこちらを攻撃する意図はないらしい。じっと侍る姿はまるで指示待ちの──…
ならば]
……そうだな、場所を変えたい。
[と、要望を口に出してみる。
それは、ここから更に知らぬ場所へ移動してしまえば、逃れるのも難しくなるだろうという判断からのもの]
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