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− 宇宙船 艦橋 −
[自分たちがいるのは、船の艦橋だとわかる。
見知った艦ではない。]
ウルケルとの技術提携…だったか?
タクマ・ナギが到着したと?
[しかし、窓の外に広がる紺碧は海ではなかった。]
[「これも陛下が征服すべき新しい航路です」
傍らの”ルートヴィヒ”が囁く。
その言葉が、世界の理であった。]
ならば 征こう。
[目の前の蒼を紅蓮に染めるべく。**]
− 宇宙船 艦橋 −
[“ルートヴィヒ”を傍らに従え、艦の新しいシステムを検分してゆく。
そこへ、闖入者があった。>>47]
── ?!
[見知った顔である。
心が掻き立てられるのを覚えた。
だが、それは、すでに傍らの位置を占めている姿であった。]
[期せずして、彼の者が発する問いと重なるタイミングで声に出す。
そのシンクロニティ。]
まるで ── おれの、
[「もっとも確率が高いのは、何者かの策略でしょう。かなり危険度は高いかと」
逡巡を押し伏せるように、“ルートヴィヒ”が分析する。
確かに、後から現れたそいつは銃を手にしていた。
こちらを正しく認識した上でだ。
腹心の姿を真似て入り込んだ刺客、という判断を“ルートヴィヒ”がするのは妥当である。
扶翼はいつだって辛辣なまでに事態を解析してみせるのだ。]
[“ルートヴィヒ”に頷くと、彼はそっと近づいても耳元に囁く。
「あれの血が飲みたいです」
それを聞いて、若き皇帝は、意外そうな顔をした。]
おまえが、おねだりするとは珍しい。
[しかし、滅多にないことだからこそ、叶えてやりたいとも思う。
アレクトールは、腰のホルスターに手を伸ばす。*]
[闖入者は、手にした銃をこちらへ向けることなく、言葉を紡ぐ。
冷静さを保とうと努力しているかに感じられた。
敵わないから、というのではなく ── もっと別の次元で苦悶しているかのような。]
おれに相応しい戦場?
興味深いことを言う。
[相手から注視を外す余裕を見せ、鋼鉄の艦橋に視線を走らせる。
馴染みがあるような、違和感があるような。]
[ホルスターに添えた手とは逆の掌を差し伸べ、見えないグラスを傾けるような仕草をしてみせた。
空に浮かぶ戦艦は、その意のままに、巨体を傾ける。
大波に持ち上げられたごとく。
“ルートヴィヒ”には酷だと考慮して、支えるべく、腰を引き寄せた。
腕を投げかけられたのは想定外だったが、さて、闖入者は立っていられたか。
追い打ちをかけるように、銃弾を一発、撃った。
致命傷を与えるつもりはない。
“ルートヴィヒ”の望みは血だったし、何やらいろいろと知っているらしい男だ。
捕まえて尋問しよう。*]
− 宇宙船 艦橋 −
[傷を負いながらも、闖入者はなおも矜持を保っていた。
教え諭すような口調で、アレクトールの何かを否定している。]
“ルートヴィヒ”の顔で、その声で、
おれのことを「トール」と呼ぶのはいただけないな。
[しなだれかかったままの”ルートヴィヒ”に、促すように視線を向けると、「陛下」と甘い声が返る。
それもなんか違う、という顔をした。]
まあいい、
戦場に立ちたいのなら、そこが特等席だ。
[告げるや、戦艦は紺青の空間を進み始める。
闖入者のことは、手当をしてやることもなければ、拘束もしない。
むしろ、何をするだろうと期待している。
そして、操作板に指を走らせ、ボタンをひとつ選んで、押した。
仕組みはよくわからないが、地上へと落ちる光の柱が窓のひとつに映し出される。]
これで攻撃できるらしい。
[裡なる声のままに、それはまるで無差別な侵攻であった。*]
[新しい玩具を試すごとく触れていたが、投げかけられる言葉とともに、窓に艦隊が映れば、チラと背後を伺った。]
なるほど。
おまえを奪還しに来たか。
おまえがおれのものであれば、おれでもそうしたろうな。
[理屈ではなく、そう感じた故に、声には巧まぬものが混ざる。]
── “ルートヴィヒ”、何をしている。
[“ルートヴィヒ”は、皇帝と扶翼が直接、戦い続ければいいのにと歯噛みするように
傷ついた鏡像を睨んでいたが、アレクトールにせっつかれて媚びた眼差しを皇帝に返す。]
違う。
[アレクトールは不満げな声で、“ルートヴィヒ”の腕を振りほどいた。
何故、いつものように求める前から、敵情分析だの腹案だのを出して来ないのかと。*]
[壁を背に座り込んだ闖入者は、相変わらず弱音のひとつも吐かない。>>120
あまつさえ、「あなたを、奪還しにきたんです」と告げる強かさに、アレクトールは口角をあげた。]
顔に似合わず大胆だな。
ただの奇策でもなさそうだ。
[そのまま、彼の前に整えられた盤面に視線を向ける。
共通の認識を形に落とし込むもの。
この感覚は懐かしく、好ましい。]
[明らかにアレクトールの興がそちらに惹かれているのを察して、危機感を覚えたか、
”ルートヴィヒ”は、さらに胸元をはだけて左胸にある邪眼を見せつける。]
── …ああ、 誓いの 証
[アレクトールの瞼が重くなった。]
[と、闖入者は警告の声をあげて、負傷した身で跳ね起きる。>>122
わずかに遅れて、船体に到達する響きがあった。
魚雷に似て非なるそれ。
艦橋までは破壊されてこそいないが、命中は確実だ。]
── 深い、
[飛び込んできた男をワルツに誘うように衝撃を逸らしながら抱きとめつつ、
同時に、銃口を彼のこめかみに突きつける。*]
[血の匂いのする身体を腕に抱き込む。
理解に戸惑うようなことを口にするのは、失血のせいだろうか。
コイツに危害を加えられるようなことはないだろうとは、踏んでいた。
飛び込んできた動き、あれはむしろ身を挺するといった方が正しい。
が、アレクトールの考えはともあれ、
ルートヴィヒの読みどおり、誰かを操る以外の能力はない”ルートヴィヒ”が、アレクトールの手に手を重ねてトリガーを引き絞らせようとしていた。*]
[目の前にあるガラス越しの双眸に強い感情が交錯する。
憎悪の入り込まない悪態に、何故だか和んだ。
だが、続く諌言には眉間の痛みを覚える。]
そんなもの? 操られる?
[拳銃に添えられた指を辿って”ルートヴィヒ”を見やる。
「その男はあなたを詰り、あなたに罪悪感を抱かせようとしているのです。
あなたが、皇帝として相応しい望みを抱き、飛ぶのを妨げんがため」
しどけない姿の"ルートヴィヒ"は、腕の中の男とは対照的に婉然と微笑み、嘯く。
「陛下は覇者たる野望にその身を委ね、熟まし果実をご賞味あれ」]
[アレクトールは、腕の中の温もりを強く抱き寄せ、次の瞬間には、その胸を突き飛ばした。
直後、今まで彼がいた場所を銃弾が虚しく貫通する。
間近な銃声に顔をしかめるようにして、アレクトールは”ルートヴィヒ”が触れている拳銃を背後に投げ捨てた。]
戦を始める権限は、
そして、機をみて終わりにさせるのもまた、おれの責務だ。
[“目”が健在である今、その呪縛を逃れることはできない。
それでも、我を通してみせた。]
全速前進!
[とりあえず船を動かせとの提言を入れ、号令を発する。]
…医療キットを使っておけ。
[記憶はいまだ曖昧なまま、そこにあることを欲した相手に命じた。*]
[彼我の布陣を示す盤を一瞥する。
押し掛け参謀が述べる補足にひとつ頷いた。
心地よい。
再び窓に目を向け、見慣れた旗艦の姿に笑みを浮かべる。]
あれを沈める機会が来ようとは思わなかったぞ。
[これは夢なのかもしれない。腹心が二人いるのもそれなら納得である。]
[盤の傍らにある参謀が、戦闘の方針を問う。
「殲滅なさいませ」と寄り添ってきた”ルートヴィヒ”が重ねる。
邪魔者を排除したい、という苛立ちを滲ませつつ、世界を壊すという点でなら妥協してやると言わんばかりの眼差しをルートヴィヒに向けていた。
“目”の支配下にありながら、ルートヴィヒを認めてしまっているアレクトールの手で殺させるのが無理ならば、誰かの手を借りてもいい。]
敵旗艦に砲撃を集中させよ。
どう動くか見てやる。
[同じ顔同士の無言の駆け引きを他所に、アレクトールは艦を指揮した。*]
[モルトガット帝国皇帝に取り憑いている"目"より、同じく寄生した"目"たちへと協力依頼が発せられる。
誰か、ここへ来て、銀髪の腹心を排除して欲しいと。]
[白光は重さのないもののように直進してシュヴァルツアインの艦橋を破壊する。
先程の試し撃ちでは、地上を狙ったために砲弾との違いに気づかずにいた。]
軌道が異なるのか。
それを加味して運用せねばな。
[未知の武器であれ、あるもので戦う。順応は早かった。
心づもりさえ伝えれば、扶翼がそれを実現してくれる ── その安心感に支えられている。]
[敵戦艦が鉄壁の盾を構成し、さらにその後方からは爆撃機が飛び立った。
制空権をとって攻撃してくるつもりだろう。
極めて順当な反応であった。
手数が足りぬ、という参謀に、]
格納機を出せ。
[迎撃を指示する一方、]
この船を下げる。
[掌で押さえ込むような仕草で示した。
海上であれば、おおよそ無理な動き。
だが、ここでなら敵艦の下をとれると。*]
[言葉と意志によるコンビネーションによって戦局がめまぐるしく変わってゆく。
巡洋艦が斜めに傾く光景には、また新しい世界を見たように目を輝かせた。
中に人が乗っていれば叶わない荒技だろうが、ああなるとなかなか船底を狙えなくなる。
そればかりか、水雷艇が水面下に突っ込むカツオドリさながらに迫ってきていた。
護衛機が飛び回るが、すべての水雷艇を仕留めるには至らず、足下に衝撃が走る。
直感的に、先程、青い魔弾に抉られた場所を狙われたとわかった。]
[亀裂が広がり、艦の一部が折れて落ちる。
いまだ、自分の乗る船の全容を把握しているわけではなかったが、明らかに推力が減退するのを感じた。
さらにダメージが増えれば、空中分解もあり得るか。
と、タイムリミットは別の形でもやってきたようだった。*]
[なんとも暢気な様子で艦橋に加わった男に、有能な参謀が躊躇なく発砲した。
攫ってゆくと言われたのだ、当然だろう。
手元に拳銃があれば、アレクトールとて同様にしていた。だが、あれはさっき、投げ捨てたままだ。
「彼は味方です」
“ルートヴィヒ”が囁き、瞬間、認識を書き換えられそうになるが、
ダーフィトと名乗った自称・お尋ね者が参謀に対して捕縛を仕掛けたのを目にすれば、怒りが支配を上回る。]
それは、おれの
[駆け込んで、ワイヤーを踏みつける。
これでルートヴィヒはこれ以上、引きずられまい。
そうしておいて、もう一足、ワイヤーを踏み込んでダーフィトに拳を叩き込んだ。*]
[あんな名乗りをしておきながら、男は反撃されてどこか驚いた様子だった。
倒れて呻く相手に追い打ちをかけることはせず、視線は外さぬままに、己が庇った者の方へと手を差し出す。
が、もたらされたのは銃声だった。>>232]
── 扶翼…
[誰が何を撃ったかは聞かずともわかる。
新たに増えた者が、倒れたお訪ね者に駆け寄る(?)のを妨げることはせず、
撃った者と撃たれた者を交互に見た。]
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