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[水分の補給が済めば靴を脱がせ、足の状態を見る。
手早くテーピングをして応急処置をすると、そのまま彼の体を担ぎ上げた。]
その足では無理だ。
このまま行くぞ。
[二人分の背嚢も肩にかけて歩き出す。]
[フェリクスの声が近づいてくる。
朦朧としかけた意識で、平気だとか立てるとか無茶を言って身体を堅くしたけれど、強引に口移しで水を飲まされた。]
… う
[甘く、て。 温かくて。
舌で、唇で吸いつく。]
[ミヒャエルが何を思おうと、するべきことをするだけで、やりたいことをやるだけだ。
今回の軍事交流、内容を変えさせたのは自分だ。
ミヒャエルは知らないだろうが、この島は「見込んだ者を育てる施設」なのだから。]
駄々をこねるな。
暴れると落とすぞ。
[脅すような諭すような言葉にも関わらず、弱弱しい抵抗と抗議を無視してミヒャエルを担いだまま宿舎へと向かう。
ほんの数キロほどの距離まで来ていたのは幸いだった。
割り当てられた宿舎に到着すれば、彼を部屋へと運び入れてベッドに座らせる。
汚れた服のまま寝かせるわけにもいかなかったから、服を脱がしにかかった。]
[フェリクスの作業を助けるように腰を浮かせ、自らシャツをはだけて肌を晒してゆく。]
[こちらを止めるようなことを言いながら、ミヒャエルの動作は協力的だ。手早くスラックスを脱がせている間に、彼は自分でシャツをはだけ始める。
露わになった胸には筋肉が乗りきっておらず、まだ薄い胸板を覆うのは瑞々しい肌だ。
手を伸ばして胸の中央に触れ、両手を添えて彼の体を裏返しにしてシャツもまた剥ぎ取ってしまう。
現れた肌の全てに、目を細めた。]
― 宿舎 ―
[ミヒャエルの動きを利用しながら服を脱がせた後は、ベッドの上に寝かせて毛布を掛ける。
それからすぐに氷嚢を用意して、痛めた足首に当てた。]
放置すれば悪化するからな。
冷たいが我慢しろ。
[子供扱い、と言われても仕方ないほどに世話を焼きすぎな気もするが、彼の体を損なったら一大事だ。ゆえに彼の言い分などお構いなしに必要な処置を取っていく。
言動を見るにもう少し水分補給が必要かと、飲み物を用意した。]
[彼の上に覆いかぶさって、再び口移しに水分を含ませる。
その間に、手はなめらかな肌の上を滑らせた。
隅々まで手を動かして感触を確かめる。
他に怪我はないか。体の調子はどうなのか。
どこが柔らかく、どこが感じやすいのか。
毛布の下で、仄かな熱が灯る。]
[たぶん、焦れるような顔をしてしまった。
水が、欲しかった だけ、なんだから。]
もっ… と
[フェリクスの背に手を回して雫を含んだ唇を吸う。
喉を伝い落ちる甘さに舌を絡め、喘ぐ。]
[身体に沁みてゆく水分が、幾分、正気を取り戻させ、フェリクスの手の動きに警戒心を起こさせた。]
何 して る
[疼く身体と尖る声と。
足首に添えられた氷嚢が戦慄きを受け止めて涼しい音を立てた。
こんなに火照ったら、氷、すぐに 溶けて しまう]
[もっと、とねだる顔は艶めかしい。
意識の少しの混濁がもたらした欲の色。
つまり、正気を剥いでやれば、彼はあでやかに染まるということだ。
与えられた水分が理性を呼び戻せば、彼の声は硬さを増す。
それでも構わず一通りまさぐった。]
体の具合を確かめていた。
君の体のことを詳しく知りたい。
[彼の足元で、抗議のように氷が鳴く。
あるいは、誘うかのように。]
[水分を得て彼がいくらか落ち着いたようならば、一旦看護の手を止める。]
到着地点から宿舎までの行軍訓練はひとまず終了だ。
問題点は後ほどブリーフィングしよう。
本来ならばすぐにも次の訓練を行うのだが…
その体調では無理だな。
今日は休むといい。
その次の訓練は、少々体に負担がかかるものになる。
[二つ目の訓練の放棄を告げて、次に備えるよう促す。]
暫くはそのまま寝ていろ。
気分が回復したら少し自由に過ごしてもいい。
なにか他にして欲しいことはあるか?
[必要なことを伝えたあとは、看護人の顔に戻った。]
捻ったのは足首だけだから! それももうそんなに痛くないし。
他はなんともない。
[触診(?)に抗議して主張する。
傷の具合を、ではなく、「体」と言われた意味は別段、深読みもせず。
怪我人の自己申告は信用しないタチなのか、フェリクスは構わぬ態で肌をまさぐる。
ミヒャエルは、変な声が出ないようにと毛布を握りしめた。]
[「なにか他にして欲しいことは」と問われた。
さっき、シャワーを浴びたい、と伝えたが、「浴びさせてもらいたい」わけじゃない。
そんなことを頼んだら、下着まで脱がせる口実を与えるようなものだと思った。
少し気分も良くなったから、シャワーを浴びるくらいひとりで可能だろう。
なら、フェリクスにここから出て行ってもらいたいだろうか? ミヒャエルは自分の心を覗いて自問する。
否。
さっきの続きをして欲しいわけじゃないけど。
このまま放置しておくのもひっかかるのだ。なんで。なんか。]
おまえか、 おまえの国か知らないけれど、
何を企んでいる。
[裏があるんだろうと、その感触が欲しくて問うた。
それともこれは、自分の一方的な妄想なんだろうか。
フェリクスの言動に淡い期待を抱いてしまうのは。]
[ミヒャエルから向けられた視線に流し目をひとつくれる。
内心のさざ波が目にも表情にも現れているようで、言葉よりもよほど雄弁だった。]
礼には及ばない。
だが、その言葉は受け取っておこう。
期待している。
[努力するという宣言に頷く。]
そうだ。シャワーもいいが、宿舎の近くに湯が自噴している場所があるぞ。
興味があれば覗くといい。
[シャワーに行きたいと言っていたことをふと思い出し、付け加えた。]
[なにかを迷うような様子を見せたミヒャエルが、企みを問うてくる。
ずいぶんとストレートな問いだ、と片頬を上げた。]
国からの命令は、君を訓練することだけだ。
[当初の説明を繰り返した後、手を伸ばす。
彼の髪へ。撫でるように、確かめるように。]
特務部隊の───つまり私が率いている部隊の要請は、
有能な人材を確保すること。
私個人は、
君がどんなふうに成長したのか、見たかった。
[企みの一端をあっさりと口にして、
それ以上の意味を視線に込めた。]
[フェリクスの手がそっと伸ばされる。
殴られる理由もないとばかりに、背筋を伸ばしてミヒャエルは避けも竦みもしなかった。
それでも、触れてくるほのかな温もりに息をつく。 爪弾かれた弦のごとく。
尋ねておきながら、国とか組織の事情は耳を通り過ぎた。
ミヒャエルを戸惑わせたのはフェリクス個人の”望み”。]
前に… 会ってる?
[どんなふうに成長したのか──つまりは、過去と比較できるくらいに記憶に残っているという意味だと。そんな風に届いた。
脈が早くなる。]
[そうであれば、と願い、
会った瞬間に思い出せなかった自分に戸惑い、
今に始まった縁でないなら、もっと踏み込んでいいのかと焦れて、
真っすぐに見つめる眼差しに射抜かれて、
何故だか切なくて泣きたくなった。]
覚えていないか?
[目を見開かれて問われて、小さく笑みをこぼす。]
もう10年かそこらも前のことだし、
私も変装していたからな。無理もないが。
カノートの市場で、君を1日連れまわした男のことは覚えているか?
あれが、私だ。
[余人のいない気楽さで、秘密を明かす。]
私はあの時、任務で君の国に侵入していた。
たがどうにもつまらないミスで追い詰められて、
君を人質に、暫く逃げ回るはめになったんだ。
あの時の君の態度、
君が見せた度胸や私に向けた言葉に、驚かされたものだ。
あの時君と別れる直前に私が何を言ったか、
ちゃんと覚えているか?
次に会うことがあるなら、
私と君が縁で繋がっているということだ。
だから君が我が国に来ると聞いて、こちらに呼び寄せた。
縁を繋ぐために。
…会えた。 また会えた、
[髪型もしゃべり方も、目の色さえ変わっているけれど、カノートの市場の一日を忘れるはずがない。
箝口令を敷かれて報道記録にも残されていない事件でも、ミヒャエルこそは当事者なのだから。
そして彼もまた待っていてくれた。
再び縁を繋ごうと──]
ずっと大事に持っているよ、あの時もらった月長石。
[耳のカフスを見せる。]
[呼吸が浅く、早くなる。
このまま連れて行ってくれればいいのに。
でも、「見たかった」だけなのかもしれないと、小さな震えが走る。
戦争があって。10年という月日が流れて。
成人した自分は──彼に意に適う人間だろうか。
聞くのが、怖い。]
持っていてくれたか。
[約束の石。一族を繋ぐ石。
縁はやはり、ずっとつながっていたということだ。]
間違っていなかった。
[なにが、とは言わず]
一緒に行こう。
[立ち上がったミヒャエルの後を追って歩き出す。]
場所を知らないだろう?
温泉と言っても湯がただ湧き出しているだけだ。
入るのにもコツがあるんだ。
[嫌がられても、教えるとの名目でついていく気だった。]
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