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[人の中で暮らしているうちに、人の食べ物を味わうことを覚えました。
初めはちっとも美味しくなかったのよ。
まずくて、まずくて、もう。
それが一体いつからかしらん。
人の肉なんかより、誰かの手料理の方が、よっぽど美味しいと思えるようになったのは。]
[小憎ったらしい若造には、こんなことを言われました。
「ずいぶん痴呆が進んだなババア」と。
そいつは殺してやったわ、乙女に向かって失礼な口を聞くのだもの。
いつのことだったかしらん。
随分遠くのこととも、つい最近のこととも思えます。
やだ、そんなことも思い出せないのね。ほんとうに痴呆かしらん。]
[ちょっと奥まったところにある、遊び場のような場所で、転げて死んでたコンスタンツェ。
人の体と記憶を奪う古い術をいつものように使って、わたしは「わたし」になりました。
その時に、この少女のばかさ加減を知って、ちょうど良いと思ったのです。
わたしは、人として生き直そう、そして人として死のうと。
同胞を増やすわたしの仕事も、もうおしまいにしちまおう、と。]
[その夜、わたしはなんとなく胸騒ぎがして、自室の窓をそっと開けました。
まさか突然、この窓に人狼が降りてきやしないでしょう。
物語の中ではままあることだけれど。]
どうか
[どうか、また家族一緒に、母さんの作ったシチューを食べられますように。
隣の部屋の姉さんと、どこかにいる両親へ、この祈りが届きますように。*]
オットー。
こうなりゃ仕方ない、お前はたんとおあがりなさい。
そして思うまま生きなさい。
わたしはどのみち老衰で死ぬ。
たとえ殺されようが、死が少し早まる程度さ。
ただ、わたしが生きているうちに
わたしの家族を喰うことは許さないよ。
― 翌朝 広間 ―
[良い香りに誘われるように広間へ向かったわたしは、オットーが作った朝食>>9 に、わあと歓声をあげました。]
すごい、美味しそう!
ありがとうオットー、いただきますね。
全員の分を一人で作るなんて、
ずいぶん早起きしたのではなくて?
[すでに食べ始めてたオットーに、目を向けて感謝を告げました。
別に彼のことを嫌っているのではないんだから、きっかけさえあれば普通に話しかけます。
そういうものです、よね?]
[それにしても、朝から「暇だから」なんて。
わたしだったら、とても無理。いつもなら二度寝をしてしまうところですから。
枕が変わって眠れなかったとかではないかしらん。
そう思えば少し心配で、オットーの顔色をよく見ようと、ベーコンを切り分けつつ目を見張ります。]
[若者のとまどう様子、その青さに目を細めます。]
お前は前々から、いつも血のにおいをさせるくせに、飢えていたからね。
よほどのもうろくじゃなけりゃ、同胞とわかるものよ。
時期に鼻の使い方も覚えるだろうから
わたしの正体もいずれわかるだろうさ。
[わたしはこの地で狩りも仕事もしていないので――痴呆が進んでおらず、記憶が正しければ――、若者が誰により目覚めたのかは知りません。
源流をたどれば、もしかしたらわたしのせいかも知れませんが。
責任なんて、これっぽちも感じません。
だってそれが役割だったのですから。]
[わたしはローレル姉さんとは違います。
人狼だもの。
せっかく得た家族を失うのが怖いから、旅に出る勇気もありません。
人の世は短くて、ちょっとでも目を離すと、お気に入りがすぐに消えてしまうのですから。]
わたしは人狼さ。
でも、わたしは人として死ぬんだ。
どんな目にあおうがね。
[やがて食卓もにぎやかになります。
わたしはせっせとパンをちぎっては口の中に詰め込んでいました。]
じゃがいもの皮むきだったら、ん、うぐ
[パンをのどに詰まらせて、あわててミルクのピッチャーを手にとり、グラスになみなみ注いで飲みこみました。
いやだわ、ほんとうに。悪ガキのころの性分がたまに顔を出すんだから。
一人こっそり恥じらいながら、ふうと一息つきました。]
[オットーから返答>>29 があれば、いつぶりの会話かしらんと思いつつ、確かにパン屋は朝が早いですねと頷きかえします。]
いつも通りなら、良いんですけれどね。
[彼に比べてわたしの昨晩ときたら、両親と会えぬ心細さと胸騒ぎで、星空をいつもより長く見つめてからの眠りでした。
もう18になるのよ、コンスタンツェ。それにあとで会いにいけば良いんだわ。]
[ふとジェフロイさんとフランツの会話が耳に届きます。>>30>>36]
な、何よそれ!
[フォークが手から滑り落ち、皿を叩いてカンと鳴らします。
がた、と勢いよく立ち上がったわたしは、フランツをにらみつけました。]
父さん母さんにも会いにいっちゃあいけないの!?
そ、そんなの嫌よ!
[みんなが家族に会うのを我慢していると諭されても、それが正しくとも、わたしの気持ちは大きく荒れます。
フランツ>>55 に明らかな嫌悪感を向けました。]
ほんとうに、人狼がいて、それで……
わたしが殺されたらどうしてくれるの!
[だって、だって、もうすぐ、わたしの誕生日なのに!
一週間は長過ぎるわ、その間にわたしは18になってしまう。
なにも決意することも出来ず、ここで閉じ込められたままに――……]
[それ以上広間で過ごしているのがつくづく嫌になって、わたしは分別も忘れて広間から走り去ります。]
フランツなんかだいきらいよ!
[せめて捨て台詞で、彼の心を傷つけようとしながら。]
― 庭園 ―
[玄関から外に飛び出して、そのまま館を囲う門へと手を伸ばしかけました。
ですがみんなが館の中にいることを思えば、一人だけで開け放つことなんか出来やしません。]
…………。
[「一人だけ逃げようとした、だからあいつは人狼だ。」
ばからしい考え方ですが、そうやって虚像を作り上げるのが人間というものです。
大声で泣きわめいて解決するのならそうします。
でも、解決しないことなんて分かっています。
村の人間は例外無くこうして監視しあって過ごさねばならないのですから。]
ラズワルドねえ。
[夜の闇を通して若者の狼としての名を知って、ああやっぱり青いのねとおかしく思いました。
わたしは生まれた時から獣であったので、せっかくの人間の名を持っているのにとなんだかもったいなく感じました。
それを言うと怒られそうなので言いませんが。]
さあて。
いろんな名で呼ばれたから、どれが本当の名なんだか。
[人の肉体を支配する術により、吐息<ヘヴェル>だとか魂<ネフェシュ>だとか、わたしはさまざまな名を伝承の中に残しておりました。
若者にあわせるならば、わたしも色の名を告げた方が良いかしら。]
[ふと、ラズワルドの語りかけが耳を撫でます。
わたしは心の中でひっそりと笑みを浮かべながら、あいわかったと返事をすることにしました。]
わたしの気の変わることなんかあるものか。
だけど、良いよ。そいつらは決して食べないさ。
[彼がコンスタンツェと信じているものは、そもそもわたしには喰いようがありません。
それにしても、普段はアルビンに冷たく振る舞っているというのに、なんともまあ。
くすくす笑いをかみ殺します。
上手にかみ殺せたかしらん?ふふ。*]
よろしく、ラズワルド。
[彼がわたしをコンスタンツェと思っていないということは、彼はわたしの姉を、家族を喰う可能性があるということです。
でも、もしそうであるならば、人間のわたしにはどうしようもないことです。
(そう、わたしは人間、わたしは人間……。)
*願いとは、叶わぬものなのですから。*]
― 庭園 ―
姉さん……
[ローレル姉さんがわたしの隣にやってきて、同じように座ってくれています。>>83
姉はなんだかんだと、賢明な女なのです。
こういう時には言葉をかけるのではなく、ただ隣にいることが大事だと知っているのですから。
わたしの心に影を落とした、通り魔のような恐ろしい予感たち。
それらが過ぎ去るのを、わたしは嗚咽をかみ殺しながら待っていました。]
[幼い頃のいたずらで、怒られた日の夜は、姉のそばにいるのが一番良かったのです。
遊ぶのは「おにいちゃん」のアルビンや、オットーと一緒の方が心強いけれど
怒られたあとに彼らに顔を合わせるのは、気まずいものがあったのですから。
わたしは知っています。
泣きつかれてやがて眠くなったとき、姉の体に寄りかかった時のあたたかさを。
頭を撫でてもらって感じるなぐさみを。
しばらく会えずにいたとて、その優しさが変わるものではなく
やはり姉の手は心地よいものでした。>>117]
……もう、大丈夫、です。
[ひ、とするどく息を吸い込みながら、わたしは顔を上げます。
眼鏡を外してうるんだ目元をこすりました。]
[昨日の勢いはどこへやら、ラズワルドの申し訳なさそうなささやきが聞こえてきます。
この世はわたしのものではありませんし、若者が食欲を満たそうとすることの何が悪いことなのでしょうか。]
あら、ずいぶんと殊勝な声色だねえ。
くっくっく。
そんな風に言われたら、わたしの気が変わって
ラズワルドの獲物を横取りしたくなっちまうじゃあないの。
[どんなことになったとて、わたしはコンスタンツェとして最期まで生きるだけです。
どんなことになったとて。
理性で、本性を押さえ込んでみせましょう。
それがわたしの最期の闘争となるでしょう。]
[ローレル姉さんの微笑み>>125 に、自分の幼稚さへの苦い思いが胸の内にシミを作ります。
いつものことです、ささやかな劣等感は。
ささやかに、細かく、胸の内にふりつもるそれら。
フランツに謝罪を、と促されます。
集団の中でやっていくには必要なことですから。
そう、そうです。それは全く正しいことです。]
顔が赤くなっているでしょう?
泣いたって知られるのが恥ずかしいので
もう少し冷ましてから、戻るわ。
[言外に、先に戻っていて欲しいと、私は姉にそう言いました。*]
[今フランツに会ったって、何について謝罪したら良いのかと思うのです。
だって、わたしはやっぱり、悪かったなんて思ってないのですから。
決まったことだからと、みんなだって我慢してるのだと言って、わたしの焦燥を知ろうともしないのはフランツです。
他のみんなって誰よ、名前で指して言ってご覧なさいよ、そして本当にその人たちが、この状況に納得しているのか教えてちょうだいよ。
今ならずいぶん詰め寄ってしまえそうで、わたしはその衝動をひたすら押しつぶします。
――我慢しなくてはいけないの、それは何のために?]
[告解したい、誰かに胸の内の、積もりに積もったちりあくたの話を聞いて欲しい。
そんなことを願えども、教会に行くことは出来ません。
館を囲む壁たちは、わたしたちを閉じ込める檻なのです。
美しい花々が咲いているさまを、
わたしは憂鬱な思いを抱いて眺めていました。**]
あんたはまだまだ、
随分あまちゃんな坊やだねえ。
人の一人や二人喰った程度で、
わたしのことが分かるかどうかも、疑わしいねえ。
[初めは絶命の瞬間に、彼にのみ聞こえる遠吠えでもしようかと思っておりました。
しかし、だんだんとラズワルドのことを気に入り始めた私は、
やはり、最期まで正体を言うこと無く、上手に人間として死んでみようと思い始めておりました。
さて、方法をよく考えてみることにします。**]
見つけられたんなら、
昔話をいくらでも聞かせてやるさ。
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