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[湯気が見える。あそこならば、湯気で身を隠せるかもしれない。
それに、どうやらあの辺りはオークたちのナワバリではないらしく、そちらの方に向かう姿も無かった。
己に捕まる主人に、ハッキリとした声で告げる]
あそこは、少なくとも集団のオークはいなそうですが…こんな場所です、あの湯気がどんな影響をもたらすかわかりません。それでも、このまま飛び続ける訳にもいきませんから、おりますよ。
シェットラント様、ご自身に治療魔法をかけながらいけますか?
それとも、風を纏いながらいきますか?
[風を纏えば、湯気になんらかの害があったとしても影響は少ないはず。
自分の苦手な補助魔法であるが、この状況ではそんな事を言えないのだ。
相手を捕まえる手にきゅっと力を込め]
シェットラント様、おりますーー。
[ゆっくりと、白骨温泉へと降り立つ。
相手が求めるなら、風を纏わせただろう]
[相手の言葉にわずかに頷く。ハッキリとした事は己にも分からないのだ。それでも、危機的状況を打破しなくてはいけないのは確か。
そして、オーク大群のいる平原を抜け取り敢えずの危機を回避し、ゆっくりと大地に降り立った]
『エアリー・シールド』
[そっと魔法を唱えれば自分と主人とに風を纏わせる。盾、とは言えぬほどのものだが、湯気や瘴気を払う程度には効果がある筈で、より相手の方へと効果を強めておく。
確かに辺りには生物の気配はない。奇妙な場所に降り立ったものだ、と小さく溜息をついた]
そうですね、ですが生物が全くいないという事はこの湯には入らない方が賢明でしょうね。
あまり長居をしても良くないかもしれませんが…平原で、オークに潰されたり私の魔法に巻き込まれるよりは安全かもしれません。
……私から離れないでくださいね?
[そっと相手のそばに寄る。そして、相手が歩き始めるなら湯気の中を歩き始める筈で]
転移か変異か……、平原の植物はご覧になりましたか?
普通の植物は殆ど無くて魔物と化していました。それが元々の場所にきたのか。それとも、あの黒い光によって全てが変質したのか分かりません。
ただ、ここの風の流れは…閉ざされています。その原因を探らないと、取り除かないと、抜けられないのかもしれません…。
[相手に頷いては自分の考えを述べる。しかし、あの強い魔力、波動。
こんな事を行える者に自分が、自分たちが立ち向かえるのか?
それを思えば身震いし、カチャカチャと胸元の鎖が音をたてていた]
嗚呼、ここが源泉である可能性はあるかもしれませんね?
…流石にこんな所ではフラフラしません。でも、この結界はどこまで続いているのでしょうか。まさか、村まで広がっていたら…。
いえ、そうでなくても、あの村には魔力の強い方々がいらっしゃいました。彼等もまたここの調査に向かっているとしたら。
まとめて、この中にいるとしたら…。
[誰が何の目的で。それとも目的など何もなくただ自分たちが何者かの意図に巻き込まれただけなのか。
思案を言葉に漏らしては、しかし相手の魔法の効果を見る]
………………………。
ここは笑うところでしょうか。
[自分たちの体に、魔力探知の光が集まる。それはそうだ、先ほどから魔法の風をまとっているのだから。それはそうだ。そりゃそうだ。
あえて真顔で首を傾げて見せ]
[次の瞬間、目を見開いた]
……っ?!
何、これ、は……?!
[突然自分の中に生まれた、狂気とも呼べる衝動に戸惑い、頭を抱え込む。
ぐっと瞳を閉じ、何とか抗おうとするがそれがいつまで保つ事かーー]
う……、ううう………っ!
[眉を顰め頭を抱え、その声に抗おうとしても、その『声』の力は己より圧倒的な魔力を孕んでいるようだ。
首輪が作用していない事が解る]
[ふつり]
[自分の中で何かが途切れた、そんな気がした]
ーそれはシェットラントと出逢う直前のことー
[どうして私がそんな目に遭う羽目になったのか分からない。
私はただ、風に誘われるままいつも通りにフラフラとしていた。
魔族とは言え年若い私は、世の中の事をあまりにも知らな過ぎた。
家族という家族もなく、自由気儘に風と共に旅をして。
そんな毎日だったのに]
[魔族だから。人間ではないから。そんな理由で私は狩りの対象となったらしい。
そう、彼らが私を嘲笑いながら言っていた。
降魔士の指示で隷魔が私を罠にかけ、魔術を封じーー私なんて魔法を封じられれば体の少し頑丈なだけの、人間の少女とそう変わらないだけの力しかなくて。
どちらに屈するか。
どちらに従うか。
そんな賭けの為に、私は弄ばれた。
死霊使いは死霊を呼び出し。
降魔士は私を罠にかけた隷魔を使い。
只管に私を辱めた。
クスクスと笑いながら。
ーー彼女たちが、同じ女性なんて、思いたくない。
ーーあの時の隷魔が同胞だなんて信じたくない。
ーー死霊なんて、以ての外だ。
私を、モノとしか見ていない彼奴らなんか。
辱め、弄び、それを楽しんで。
彼奴ら、なんか。
死んで当然だったのだ。
切り刻まれて当然だったのだ。
なのに]
シェットラント様。私は……。
あなたにとって、何なのでしょうか?
[相手の問いかけには答えず、そんな唐突な問いを相手に向ける。ザワザワとした感覚を必至に押さえ込みながら。それでも抑えきれない衝動が、周囲に風を不自然に吹かせた。
ぐっ、と強く拳を握りしめ相手を見据える]
私は。
私は、本当は降魔士なんて大嫌いなんです。
死霊使いも大嫌い。悪戯に他者を命を弄んで、モノとして扱って、玩具にして。
隷魔も嫌いです。
彼等に命令されているから仕方がない部分はあっても、同様の事を自らやり始めたらもう同類。
自分たちの能力を競って、力比べして、悪戯にーー。
ひとの魔法を封じて、勝手に従えようとして。弄んで。
あんな奴ら、死んで良かったんですよ。
[それでも言葉は止まらない。攻撃的な感情を吐露するかのように、自身の一番の憎しみのーー嫌悪の対象を口にしては眉を顰める。
相手にとっては唐突で支離滅裂なものだっただろう。だが、そうして口にしないと、押さえ込んでしまえばまたあの時のように気持ちも力も暴走してしまいそうな恐怖があった。
否、そうしてしまいたい衝動もなくはないが、それをまた必至にすり替えようとしていたのかもしれない。
改めて相手を真っ直ぐに見つめる]
……私は、シェットラント様のモノですか?
それとも、私は、……。
[過去。拾われた時に言われた言葉が蘇る。
『もう、お前はーー』
それでも縋るような目で相手を見つめ]
嗚呼、貴方には聞こえなかったし気づきもしていないんですね…。
[それは仕方がない事なのかもしれない。恐らくあれは、従う側に向けられた甘言なのだ。そして、それは己を縛る枷すら外す力を伴っていた。
そして自身の中の狂気を呼び起こさんとしているのだ。
モノ。
その一言に哀しげに笑い首を横に緩く振る。
分かっていた筈なのに。
どうしてこんなに哀しいのか。
ーーどうしてこんなに苦しいのか]
既に、私たちは罠に嵌っていたようです。そもそも、ここに来たのが矢張り間違いだったのかもしれません。
もう、私は、貴方のモノじゃない。
ーーこんなモノ、役に立たない。
[するりと首輪を外す。本来ならば決して、彼女の手では外せない筈のものだった。
それを、地面に落とせばジャリっと鎖が鈍い音をたてた]
私は貴方のモノではなくなりました。
そもそも、私はーーモノじゃない!
[悲痛な叫び。それと共に涙がこぼれ、強い風が巻き起こった]
『繋がりは毀たれよ。欲望を解き放て。
闇に染まり、絶望に咽び、略奪を楽しみ、強者となれ』
…そんな声が響いてきました。
きっとアレは、私のような従属者に対する甘言だったんです。現にその言葉と共にその首輪は役に立たなくなりました。そして、私は。
ーー命を簡単に摘み取ってしまえそうな、そんな、気持ちに。
それも、あの声と同時にです。…今もそう。私が気を緩めれば、きっと狂気に囚われて貴方の命なんて簡単に。
[風は吹き荒れるものの、それでも刃へと変化することはない。
辺りの湯気は散り、視界が大分開けただろう。
溢れる涙をそのままに相手へと手を伸ばす。叶うならば防御壁に手を伸ばし、砕く為に指先に魔力を込めただろう]
ーー結局、私はモノでしか無いんですね…。
優しくしてくださるから、すっかり騙されてしまいました。
…でも、私がモノならば。
ーー貴方は私よりも脆弱な、私がいつでも命を奪える存在なんですよ?
[言葉は淡々と紡がれる。だが、溢れる涙は止まることは無い。
それでもまだ、相手を傷つける事はしなかった]
なぜって。騙されていたと思ってもそれでも、貴方は優しかったから。
あんなヤツらみたいに、私を蔑ろにはしませんでした。
…だから、殺したく、ない。
[声が震える。理性を抑えるのに精一杯で、荒ぶる風を抑える事は出来ないでいた。
ぐいと乱暴に涙を拭ってもなお、更に溢れる涙。ぐしぐしと袖でそれをまた更に拭い]
私がどうしたい、と言うよりも…。
少しでも私を認めていて欲しかった。
モノではなく、個人として。
貴方だけは違うと思っていました。
…どちらに屈するか、どちらのモノになるのか。そんな賭けの後に助けられたとは言え、隷属させられモノ扱いされて本当に絶望したんです。
でも、貴方は優しかったから。
……違うと、錯覚してしまった。
[ゴウ、と風が吹き相手の足元をすくい上げようとする。それと同時に、ドンっと相手を突き飛ばした。
叶うならばそのまま、相手の腹へと馬乗りになろうとし]
でも、貴方が彼奴らと同じ、私を他者をモノとしか見ないのならば。
私も、同じところに堕ちましょうか。
この狂気を散らす為に、せめて貴方を生かす為にも。
ーー貴方が、私のモノに。
シェットラント……さま。
[暗い表情で相手を見つめる。馬乗りになれたなら、ポタポタと涙が相手に落ちていたかもしれない。
馬乗りになれなかったとて、相手の肩を両手で掴もうとはしていただろう]
[普段ならば見上げる相手の上に乗り見下ろすと、涙が相手の顔に服にポタポタと零れていった。
相手の真っ直ぐな視線に、そして何の抵抗も示さない態度に戸惑いを隠せずその目が揺らいだ。
お前のモノにしろ。その言葉にブンブンと首を横に振り]
……っ、違う!違います…。
私はただ、認めて欲しかっただけ。あんな鎖が無くても、首輪を嵌められてなくても、私はきっと貴方を護っ……た、のに。
貴方がただ私をモノとして、ずっと信じてくれなくて、首輪を外そうともしてくれなくて。
ただの友人にも、旅の仲間にもなれなくて!
それがっ、……悔しい……!
[どうにもならないものなのかもしれない。自分は魔族で、相手は人間で。より強い力を持ったこちらを相手が信じられないのも、ある事なのだろう。
普段はそれで良かった。甘んじて受け入れていた。
だが今、その心の枷はない。ないのだ。だからこそ耐えられない。
そっと相手の頬を両手で挟み込み、そっと顔を近づけた]
本当は、こんな事したいのか、私にも…分かりません。でも、でも、シェットラント様…。
[それでも。繋がりが断たれてもなお、相手への呼称は変わらない。
そっと唇を重ねようとするが、1度目は鼻先が。2度目はカチリと歯が当たり、3度目でようやく柔らかな唇同士を重ね合わせる事ができた。相手の頬に触れる手が細かに震えている。
触れ合わせるだけで直ぐに唇を離すと、相手の足の上に乗ったまま足先の方へと移動し、衣服を寛げさせようと指先を伸ばした]
そうですね。それを、否定しません。
その。自分より力のある相手を屈服させるのが好きだったんでしょうね、彼奴らは。
…私はそんなの、関係なかったのに。ただ、風と共に旅が出来ていれば良かったのに。
……?
もう一度、何を?見られれば良いと?
[独白に混じり、相手の言葉を拾えば訝しげに眉を寄せた。
そんな話聞いた事もなかった。思えば、旅の理由だって自分は特に聞いていなかったと思う。相手の事を何も知らないのだと思う。
今更ながらそれを痛感してはまた新たな涙がこぼれた]
……?
だって、人間は、自分のモノにする時はここを使うのでしょう?
自分のモノにしろと仰ったのは、シェットラント様、あなたです。
いけませんか?
それとも……。
[涙に濡れた目で相手を不思議そうに見つめる。下着を露わにさせたところで身じろぎされその動きを止めた。だが、ざわっと辺りの風がざわめいた]
矢張り、私のモノになるのは嫌ですか?
魔族に降るのが嫌ですか?
それとも、……私のような汚れた、汚された、女に触れられたら、汚れるから。
…イヤなんでしょう?
[声のトーンが低くなる。顔を伏せその表情は見せないものの、2人を中心に巻き上がる風が急に強まった。辺りの湯まで大きく波立ち飛沫を飛ばす。幸い、かかった湯は体に害はなく、ただ少しだけ互いの衣服を溶かしてしまっていた]
[相手の強い口調に、暗い影を落とした表情だったものの一瞬怯えたように震えて顔を上げた。
相手の告げる言葉。
泣きそうな顔になりながら…否、実際に涙を零しながら。濡れ、衣服が辛うじて身に纏うような状態になっていても構わずに。
震えながら相手を見つめていた。
涙は止まる事を知らない]
…でも、私はそれしか知りません!
人間を従属させる術式なんて知らない、貴方のように人間を縛る首輪もない!
力で屈しさせろと言われても…。
これだけの力の差があって。
…貴方は、私のモノになっているんですか……?
[両手で顔を覆う。どうしたら良いか分からない。
自分はただ、相手に自分と同じ傷を負わせようとしていただけなのか。
相手もまた、嘲笑われたと、傷を負っていたのに。
ひく、ひっく、と泣きじゃくる声が風の音の合間に混じる]
『ならば殺せば良いだろう?』
『手に入らないならば、壊してしまえ』
『お前は魔族だ、人間など、全て殺せ』
『そして、魔に帰るが良い』
うる……さい、です……ね……!
[少女にしては怒気を孕んだ声は、目の前の青年に向けて放たれたものではなかった。
ゆらり、立ち上がると二歩、三歩と頭を抱えながら相手から離れていく。頭に囁きかける声に、ズキズキと酷い痛みが伴っていた。
眉を顰めきつく目を閉ざし、はあっ、と震える息を吐く]
私は……、それでも、幸せだったのに!
シェットラント様と旅ができて、幸せだったのに!!
モノとしか見て貰えなくても、いつかは、信じて貰えるんじゃないかって!
いつかは、……いつか、は……。
だから、私に……。
私に、シェットラント様を殺させないで!!
『シルフィード・ステップ!!』
[短い詠唱と共に、後方に勢いよく飛ぶ。より、相手から離れるように。
ギリギリと締め付けられるような頭の痛みは限界だ。
あいてが、自分のモノにならないなら。
それを。相手を殺す理由にするくらいならば]
[ーーいっそ、じぶんが]
[ただ、最後に一言]
[サヨナラ、と]
[小さく呟かれたその言葉は届いただろうか]
[空高く飛んだ少女の周囲に生まれた無数の風の刃は、少女自身を切り刻む]
[悲鳴すら、あがらない]
[自らの風の刃でその身を、切断出来ずとも切り刻んだ少女は]
[血を滴らせながら、ドサリ、地面へと堕ちただろう]
[夢を、見ていた]
[ただ、シェットラント様と共に旅をする夢]
[首輪はなく、鎖もなく]
[泣いたり、笑ったり、喧嘩したりしながら]
[長い長い旅を続ける]
[それはそんなに強欲な夢なのか]
[それとも、奥底の願望を見透かされていたのか]
[首輪が本当に効いたのだとしても、違うと思うだろう。
違う、違う、そんな事を望んではいない。そんなんじゃない。
信じて欲しかった。
でも、どうすれば良いのか分からなかった。
…哀しい、と思う。
でも、矢張り分からないのだ。
どうすれば良かったか、なんて]
[相手に受け止めてもらえた事を、少女は知らない。
多くの血を流し気を失っていたからだ。そのまま、死んでしまうつもりだった。殺したくはないのだ。どうしても。どうあっても。
少しでも、彼によって自分は希望を見出せたのだから。
幸せ、だったのだから。
だからきっとこれは多くを望みすぎた罰なのだと。
相手の衣服も体も血に染まったかもしれない。
無数の傷口はそれでも、ゆっくりと閉じていく。この地にいた事が、幸い魔族の少女の自己治癒力そのものを高めているのだろう]
う……っ。
[全身が軋む。暖かな何かに包まれている気がした。眉を顰め小さく呻いては薄っすらと目を開きーー生きていること。そして、頭に響く声が続いている事に絶望する。
ぐっと相手を両腕で突き放そうとしたが、そもそも筋力は人間の少女のそれとほぼ変わらない、しかも全ては回復していない腕ではどれだけの力が込められていたものか]
だめ、やめてください……っ!
私は、…シェットラント様を……っ。
きず、つけ、る……。
[先程の言葉も。何より、こんな事に魔力を使ってはいけないのだ。
自分が居なければ自身で身を守らなければならないのに。
ぐっと拳を握り、ふるふると頭を振った]
…私なんかに、魔力を使うのはいけません。温存、しないと。
だから、やめてください…。
[良かった。そう言ってくれる相手]
[そして、脳裏に響く暗い声]
ダメ、いや、やだ……!
[譫言のように呟いては頭をイヤイヤと幼子のように振っていた。
しかし今は自身が弱っているからか、魔力が回復していないからか、弱い風が辺りの湯気を軽く散らすのみである]
考え、られないん、です……。
怖い、この声は、狂わせる……私を……。
手に入らなければ殺せって、奪えって、……いやっ、や、だ、…!
[魔力が回復しきっていないのが幸いだろう。それは攻撃的な風に変わることは無いが、弱り切った少女は青年の腕の中で小さくなり頭を抱え込む。
2人で抜けるにしても。
この声の影響は強すぎた。ただ只管小さくなり涙を零し耐える少女が]
[果たしてこのまま、いつまで保つものなのかーー]
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