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[しばらくして落ち着いたところで、ため息をひとつつくと、ベッドから降りて身支度を始めた。
“あの日”のことは、誰にも話していない。
自分の中に封印した。
否、封印しようとしていた。
しかし、無意識は容赦なく時折あの日の光景を見せつける。
それは今日のように夢であったり、農作業の合間に一息ついているときだったり。
身体を動かしている間だけは忘れていられたので、リハビリを終えてからは一層仕事に打ち込んだ。]
―仕立て屋―
こんにちは。エルナさん、いますか?
[昨日配達しそびれた野菜を抱え、仕立て屋の戸を開けた。
籠の中身はお詫びとしていつもより多めに入れてある。]
遅くなってすみません、野菜の配達です。
それと、以前注文した作業着を引き取りに。**
[エルナには4年前、彼女が移住してきた当初から普段着や作業着を仕立ててもらっていたが、恋人を亡くしてからは以前にもまして世話になっていた。
畑仕事で鍛えられたごつごつした手は、細かい針仕事には不向きなようで、外れたボタンをつけてもすぐに取れてしまったり、裾のほつれを直しても見事なほど不格好だったり。
そういうのを見ると、彼女はいつも気安く直してくれた。
いつだったかは、編んだマフラーを半ば強引に押し付けられたこともあった。>>0:179
その楽観的で気前の良い性格は、自分とは違って前向きで明るかった恋人を思い出させて、彼女に会うときはいつも心安らぐとともに、辛くもあるのだった。]
/*
雪で閉じ込められるのは珍しいことじゃないって認識だったから普通に出てきてしまったわ。
神父さんに聞いても「まあこの雪ならそうでしょうね〜」って答えそう。
[エルナが作業着を取りに行っている間、ふと窓の外を見た。
雪は一晩で予想以上に積もっていたので、今日は荷車の代わりにソリを使った。
この分ではもう村と街とをつなぐ道はふさがってしまっているかもしれない。
例年より少し早いが、珍しいことではない。
そう頭では分かっているはずなのに、今年は何かが違う。
何かよくないことの前触れのように思えてならなかった。]*
―パン屋―
オットー、いるか?
[エルナとの会話が一区切りつけば、次の配達先であるパン屋へと向かった。
オットーはパンに野菜を使ってくれるため、ここへは毎日のように配達に来ている。
それでなくとも彼は幼馴染で比較的気安く話せる存在だ。
無表情で何を考えているのかわからないと思うことはあったが、他人から見れば自分もそう思われているかもしれないのでお互い様。]
今日の配達だ。
昨日の分はたまたまペーターに会ったからここまで運ぶよう頼んだんだが、無事届いたかな?
[子供といっても仕事はきちんとこなすペーターのことだ。
信頼してはいるのだが、やはり自分の育てた野菜なので、確認しておきたかった。]
ニコラスには僕も昨日会ったよ。
春になったらまた旅に出るってさ。
相変わらず熱心だな。
[ニコラスも、オットーも、昔から変わらない。
少なくともヤコブにはそう見えた。
変わってしまったのは自分だけなのだろうか。
少し寂しげに、目を伏せる。
以前と同じようにふるまおうとしたことはあるものの、いくら努力しても、全く同じというわけにはいかなかった。]
[そんなとき、パン屋に身を寄せるペーターが帰ってきた。]
ああ、ペーターお帰り。
昨日は配達ありがとう。
[雪で道がふさがれているとペーターがオットーに報告するのを、ああ、やっぱり、と頷きながら聞き。
シモンが宿屋に人を集めようとしていることを知れば。]
ちょうど宿屋にも配達があったところだ。
僕は行ってみようかな。
[オットーやペーターがどうするかに関わらず、宿屋に向かっただろう。]*
―少し前・仕立て屋―
ニコさん…?ああ、ニコラス。
へえ、珍しい柄ですね。
[そういえば以前は自分にもよく土産をくれていたななどと思い出しながら、エルナの差し出したテープ>>78をまじまじと見て、彼女の上機嫌の理由を知り納得する。
もっとも、彼女が喜んでいるのは土産をもらったからというよりも、ニコラスにもらったからという方が大きいように感じたが。
確かに女性の喜びそうな柄だ。
きっとフローラも、と一瞬恋人のことを思ったのを悟られたのか、エルナがテープを持った手を若干引っ込めたので、あわてて意識をエルナに戻した。
エルナもゲルトと同じように、以前と変わらぬ態度で接してくれている。
生来の楽天家であるゲルトと違って、エルナの方は多少意識してそうしているようだった。
若干の申し訳なさを感じながらも、その気遣いはありがたかった。]
何に、使うんですか?
[彼女のニコラスに対する想いを感じとっていたものの、それを茶化すような性格ではなく。
口にしたのは単純な疑問だった。]**
―宿屋厨房―
[勝手口から宿屋の厨房に入ると、エプロン姿のシモンが茶の用意をしているところだった。>>145
鍛え上げられた身体にひよこ柄のエプロンという不釣り合いな組み合わせには、初めて見た時こそ面食らったが、今ではすっかり慣れてしまったので特に言うことはない。]
おはようございます。
今日の配達です。
…ええ、さっき仕立屋でペーターから聞きました。>>94
今年は早かったですね。
[定型文を口にすれば、帰ってくるお礼の言葉。
茶に誘いながら道がふさがったことについて尋ねられたので、「ではお言葉に甘えて」と談話室まで同行しながら、そう答えた。]
―宿屋談話室―
[談話室につくと、シモンが手際よく茶を配り始めた。>>146
用意を一人に任せるのは少し悪い気もしたが、お茶くみなど慣れていないし、今は客の立場である自分は、下手に手伝わない方がよいだろうと判断。
船を漕いでいたゲルトがクッキーに手を伸ばすところや、毛布にくるまって寝ているペーター>>137を横目に、自分もソファに座った。
やがて玄関から聞こえてきたフリーデルの声>>163にシモンが出て行き>>164しばらくすると、ジムゾンも携えて戻ってきただろうか。>>166
ニコラスの声も聞こえた気がしたが、談話室には来ていないようだ。>>202]
[それからしばらく、シモンから受け取ったカップを口にしながら、一冊の本を間においてリゼットとヨアヒムが話している>>156>>157>>161のを何気なく聞いていたが、その内容が“人狼”に関することであると知ると、明らかな不快感を顔に出した。
怯えるリゼット>>165>>170>>171に対し、ヨアヒムは容赦なく話を続けている。>>167
「いい加減にしろ!」と、思わず声を上げそうになったところ、フリーデルが窘めた>>175ので思いとどまった。
当のヨアヒムは悪びれた様子もなく>>184リゼットも自分が悪いのだとヨアヒムを弁護している。>>191]
…人狼なんて、おとぎ話だよ。
[ため息をひとつき、ぽつりとそう呟いた。
それは怯えている子供たちのためというより、他でもない自分に言い聞かせるように。]
[ジムゾンから何か返答はあっただろうか。
ふと外を見ると、雪がいっそう激しく降っていた。
農場までは少し距離がある。
これでは帰れないと判断し、泊まっていくことに決めた。
今の季節、畑には何も植えていない。
温室の野菜は気になるが、明日の朝、早くに帰ればいいだろう。]
シモンさん、部屋をひとつお借りしてもいいですか?
[女主人から宿屋の留守を預かっている負傷兵に声をかけ、同意を得られたなら鍵を受け取って、与えられた部屋へ向かっただろう。]*
…っ
[天候のせいか、酷使したせいか、不意にきしりと痛む右肩。
夜を迎えるのはいつも憂鬱だった。
眠ればまた夢を見るかもしれない。
けれど、休息を求める身体に抗うことはできない。
観念したようにベッドにもぐりこむと、そのまま眠りについた。]**
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