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《嘘言ってどーするよ。
分かったらさっさと引き上げて来い。
巻き込まれねぇうちに沖合いにずらかるぞ。
広島の仕事はそれからだ》
なに言ってんのおじぃ!?
やべぇって、味方ごと撃つって言ったのおじぃでしょ!?
《…おいバカ、紗々お前。やめとけ。軍人の仕事は軍人の仕事だ》
だったら!機械を作ったり直したりは私たちの仕事でしょ!?
壊れるって分かってるのにほっとくなんて!
《だから、きちっと直すために俺らは無事でいなきゃならねぇだろうが、こんのバカ孫っ!》
人は、死んだら直せないんだよっ!?
《―――ッ!!》
それに、いつもおじぃが言ってんだからね!
できることをやれって!
だから!私!できることしてくるっ!!
《オイ!待てっ!待てってんだろ紗々ッ!!》
バルタさん、私、行きますから!
…あのっ!クライナー・テラーと…よかったら、ウチの船のこと、お願いしますっ!
[そう言い残して。ジェットに火を入れる。
その音の高まりももどかしく、駆け足で屋外まで飛び出し、そこから文字通りジェットを噴かして飛び出して行った]
[ぱたたたたっ たんっ
呼び出すのは、『小惑星帯航行モード』と名づけられた機動制御ファイル。
たたたたんっ たっ たっ
小惑星を自動で察知して回避、回避し切れなかった場合の衝突に備えて装甲板と同じ高張力セラミックの盾を構えようとするところを、マニュアル操作で短刀とグルーガンに持ち替える。
たっ たっ たたたんっ
短刀を持った手の操作を、独立して宇宙ゴミを切り離す自動モードに変更
たんっ たんっ たたんっ
最後にグルーガンの操作を手動に設定して、前方を見据える]
う…わ…
[ひどい。蟻が暴れているところは数え切れないほど見たことがあるし、連合軍の軍人さんが戦っているところもたびたび見たことはあるけど。
目の前の光景は、そのどれよりも、酷かった。
だって。
人の作ったモノが、人を撃つなんて。
ニュースの向こう側の話だと思ってた。
目の前で見ることになるなんて、思わなかった。
今はまだ、ブロークンアローのコールを受けて、恐慌に駆られた一部と、蟻もろとも地雷に巻き込まれた一部だけ、だけれど…]
やめっ…!!
[だから。気がついたら叫んでいた]
やめてくださいっ!ひとですっ!人がいるんですよっ!?
[叫んだその反響みたいに、耳の奥で、おじぃの言葉が脳裏に響いた。―――軍人の仕事は、軍人の仕事。…これが?]
―――っ!
[納得なんてできないまま。蟻の群れに突っ込んでいく。
無数に群がる蟻たちを、障害物と認識した糸川くんが自動でかわし、かわしきれずに接触しそうになれば、切り払う。
その合間。
蟻と蟻との合間に、人が見えた。人が乗っているはずの、特装の姿が]
…動かないでくださいねっ!
[ぱすぱすぱすっ
特装のその周囲に向かって、グルーガンを続けざまに撃ち込む。
群がってこようとしていた蟻たちが接着剤を踏みつけ、その場に縫い付けられる。
飛び去り際に、もう一度。 蟻同士の体が接着されて、壁になる]
うぇっ…うぅぅぅ…
[無理やりに軌道を捻じ曲げる『小惑星帯航行モード』だから、上下左右のゆさぶりがひどい。
ちょっとの贅沢と中尉さんの厚意で食べたクラブハウスサンドが帰ってきそう。
もういっそ吐いちゃおうか。否、今はとにかく操作に集中して―――!]
まだっ…もう、いっかいっ…!!
[ぱたたたたんっ!
蟻の群れから抜けそうになったら手動でジェットを操作して、ぐるり反転。Uターンして、もう一回]
[きんっ! ききんっ!
反転したことで、響く音に甲高い金属音が混じるようになった。
連合軍からの銃弾も切り払っているってことなのだろう。
いかに超音速弾って言っても、宇宙で遭遇することを想定した、宇宙ゴミの相対速度に比べたら、まだ、遅い**]
うーっ…うぅーっ……うぎぎぎぎっ……
[揺さぶられ続けて、お昼ご飯どころか内臓とか魂とか大事なものまで吐き出しちゃいそうな口を思いっきり食いしばって、それでもまだ、糸川くんを止めることはない。
まだ、動かせる。まだ、やれる。まだ、できることがある。
だから、やる。
現実逃避したがる脳の端っこが、これ、絶対女の子がしちゃダメな顔になってる!って叫んでるけど、構うもんか。
見る人だって、いない…はずだし]
……ぁ
[意識を前方に戻したとき。不意にその目に飛び込んできたのは、特装の軍用塗装色。
手前の蟻を避けたら、ぶつかっちゃう位置だ。
いけない。だめ。避けて。
そこにいたら、斬ってしまうから。
…無理だ。それができるなら、こんなところに取り残されていない]
…いとかわくん、おじぃ、ごめんっ!
[だったら、こっちが避ける。
決めたら迷わなかった。
否、迷うことができるだけの余裕がなかったって言うべきか。
自分の口が何を口走っているかも分からないままに、手は確かにパネルを操作する。
グルーガンは、これまでどおり、蟻で特装の周りに壁を作る。
でも、それだけじゃダメだ。ぶつかっていったら、斬ってしまうのは変わりない。
ぐいっと、ジェットが手動で上を向く。
ジェットが上を向けば、機体は下に。
地雷原に突っ込んで。
そのまま爆風で吹き飛ばされる。
周囲の蟻を巻き添えに。
そうして吹き飛ばされたおかげで、軌道が逸れた。
これで、だいじょうぶ。
ぶつからないし、斬らずに済んだ]
(よかった…)
[吹き飛んでいく機体の中で浮遊感を感じながら。
そう思うのが、限界だった。
意識がふっと抜けていく。
ただ。そう思えたってことは、体まで吹き飛んだわけじゃないってことなのだろう。そのことに、どこか安心しながら。ふっつりと、意識はそこで途切れた]
/*
Σそんな!
喉使いすぎたから戦線離脱の意味も込めて意識喪失したんだから、わたしのことは気にせずもっとのど飴を有効に使うんだっ!
−呉基地・埠頭−
《――――!》
[…うっさい。それが、最初の感想だった。
自分が誰かとか、ここがどこかとか、どうなってるのかとか、そんないろいろはさておいて、うるさいって思った。誰の声だろう…?]
《――――ぉい!》
ぅ゛ー…
[ちょっとずつ意識が覚醒に向かってくるのが分かった。
次の感覚は、痛いのと気持ち悪いのだった。
頭が腹痛で、頭痛のせいで胃がきりきり言ってるみたいな、ちぐはぐでめちゃくちゃな苦痛。自分の体がそっくりそのまま“痛み”っていう物質と置き換えられたみたいな気分]
《おい!起きろってんだよバカ孫!!》
………き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛…
[だっていうのに、おじぃはまったく容赦してくれない声で怒鳴るのだ]
《…起きたか。おい。起きたんなら連れてきてくれた軍人さんに礼言って下ろしてもらえ》
…ぇ? あぇ…?
ぁ…そか、私…
[さっきまで、飛び回ってて。地雷にぶつかって。…なんでそんなことになったんだっけ?]
…私!いかなっ…痛゛ぁっ!
[跳ね起きようとして。でも無理だった。体がぜんぜん言うこと聞いてくれない]
……すみません…ここ…まで…ありがとう、ございました…
[だから、せめて、おじぃの言ってたように。ここまで連れてきてくれたおねえさんに、連れてきてくれたお礼を言って、起きたことを知らせようと思う]
私、もう、だいじょうぶ、ですから…起きましたから。
ここまでで、だいじょうぶ、ですから…。
[だから。
…だから、どう言えばいいんだろう?『戦いに、行ってください?』
おねえさんは、自分を含めて軍人だって。コマだって、言ってたのに。
戦いに、行ったら、どうなるんだろう。
…頼んで、いいんだろうか。
いつか、死にに行っちゃうんじゃないだろうか]
…だから。おねえさんの、できることを、しにいってください。
[そう言うのが、精一杯だった。答えを出すには、知らなすぎたから]
《…説教は後にしておいてやる。それとな。
我らが糸川くんナメんな。
あの程度で壊れやしねぇよ》
…ぇ?
《その話も後だ。ほれ、水もらえ。呑め。せっかくくれてんのに軍人さんに悪いだろうが》
…ぇ。ぁ。はい…。
[それからようやく気がついて、水を受け取って、口にした。
冷たい。 …またちょっと、痛んで、口を離した]
町工場の サシャが「時間を進める」を選択しました。
………え?
[糸川くんを、ゆずる。ほかの誰かが操縦する。考えたこともなかった。
そのほうが、いいのかもしれないって思った。
でもそのもっと奥の方で、絶対やだ!って言ってる自分がいた。
それを言葉に出来なくて、言葉を探しているうちに、質問がおじぃのほうに投げかけられる]
《あァ?コンセプト?》
[おじぃの返事は、ぞんざいだ。孫の身ながら、お客さん相手にはもっとちゃんとしてほしいと思う]
《外宇宙だ。外宇宙目指して作った。 …てのがコンセプトっていやぁコンセプトだが、まぁお題目だな。
目標があれば、技術を磨く気も起きるだろ?
だから、ありゃあ半分が腕試しで半分が趣味みてぇなもんだ。
金稼ぎが目的じゃねぇんでな。
カネが払いたいなら余所当たってくれ》
《あぁ、そりゃ侮っちまって悪かった。けどな。糸川くんは“俺たちの夢”だ。
後から来たやつに興味本位でほいほい手出し口出しされたんじゃたまんねぇや》
ちょっとおじぃ!そんな言い方!
《うっせぇ!バカ孫は黙ってろっ!!》
…っ!
《加えて言うならな。カネが足りねぇからいい。暇がねぇからいい。
設備だってたいしたことねぇからいい。
やりがいがある。工夫のしがいがある。
ウチの連中はどいつもこいつもそんなろくでなしばっかりでよ。悪いな。頼れるとこが見当たらねぇんだ》
[…その辺はまぁ、分かる。ウチの工場の人たちも、ほかの工場の人たちも、組合のヒトたちはみんなそんな感じだ]
《まぁ、酔狂じゃねぇならいいじゃねぇか。ほっときゃ済む話だ。
そんでもどうしてもってんなら、財団のトップってヤツ連れて来な。
俺たちの糸川くんが外宇宙にたどり着くとこくらいは見せてやらぁ》
えっと…さっきのアリたちに最初に襲撃された広島に向かって、損傷した機体の回収と整備、それに欠損パーツの供給をして、それから襲撃のあった大阪に。
そのあと小笠原沖で襲撃を受けた艦隊の修復に向かって、そこから太平洋を北上して北海道に。
北海道までは到着に時間がかかると思うので修復整備は終わってるかもしれないですけど、戦車部隊がずいぶん手ひどくやられたって話ですから部品の供給を…そしたら大連で壊滅したっていう大隊の面倒見に行くとか、おじぃは言ってるんですけど、こっちは情報がはっきりしないとこが多くて…
途中予定変更はあるかもですけど、今のところはそんなとこですね。
この基地でも、もうちょっと仕事していくことになるかもしれませんし…
[あれだけの戦闘の後だ。いかに腕のいい整備士がいるって言っても、部品が足りなくなったらどうしようもないだろうし、もしそうなったら我ら工場組合の出番だ。
どれだけ仕事があるかは、交渉して見積もりしてみないことには分からないけれど]
《おう、技術屋は仕事してなんぼだからな。
まー、忙しいのは間違いねぇが。そんでも孫の恩人だ。アンタが詫びるこっちゃねぇよ》
うん…、それにこっちこそ、おじぃがいろいろ失礼を言ってすみませんでした!
《…紗々てめぇ》
[おじぃがすごんでるけど、ダメだ。その件に関してはおじぃが悪い]
《…あー、まぁ、な。アンタの言うことにも一理あr》
私!糸川くんに乗るの止めませんからっ!
[おじぃがなんか言いかかってるけど。
そうだ。答えは、さっきの会話の中にあった]
糸川くんは、『私』たちの、夢ですから!
足りないとこがあったら、工夫して、がんばって…それでなんとかしますから!
《…だとよ。まぁ、後で説教だな》
[なんかこわいこと言ってるけど、決めたことは決めたことだ。おじぃごときに屈するものか。
そう心に決めて、ジンロボに乗り込むおねえさんを見送る**]
本当にありがとうございました!
…あの!上手く言えないですけど!命は大事にしてくださいねっ!
《武運くらいは祈っとくわ。達者でな》
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