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[出発した後で、そういえばシメオンは(お菓子的な意味で)ソマリの垂涎の的だったと思い出して、あ! となったとか。
シメオンが「
[ここは、時間の流れが他と違うかのようだ。
神官の古めかしい衣服、その典雅な所作も。
カナンは招かれるままに、静謐の奥へと向かった。
己が始めての異邦人とは知らぬ。
だが、見るよりも見られていると感じた。]
― ドルマール神殿・檜の間 ―
[謎めいた木目が唯一の飾りとなっているその空間。
佇むシルキーは今日も美しかった。
その美しさはこの場にあっては、可憐さよりも神秘めいた色合いを強める。
カナンは自然と膝を折って礼をした。]
貴女も、よく戻られました。
不自由はありませんか。
― ドルマール神殿・檜の間 ―
そうでしたね、巫女姫は本来、この神殿で生活するのでした。
[しっかりとしたシルキーの反応に、春の綻ぶごとき笑みの気配に、ふ、と息をはく。
彼女は自分の芯を見失っていないと安堵して。]
[嵐に託してナミュールの変革を語るシルキーの清楚な声が檜の香りを伴って届く。
自然であれば、風も熱も悪ではない。
だが、戦を起こしたのは人だ。
彼女はどう思っているのだろう──
全神経を澄ませて傾聴する。
シルキーは「お願いしたい儀」があると続けた。
その宵藍の覚悟を受けとめるべく、カナンもまた静かに応じる。]
どうぞ、仰ってください。
― ドルマール神殿・檜の間 ―
[シルキーが言葉を告げる前に息を詰める。
それは揺らぎではなく、緊張。
だが、発せられた言葉を聞いた瞬間、今度は緊張に固まったのはカナンの方だった。]
── つ、 …っ、
[床に三つ指をついたシルキーの傍らに、そっと膝をつく。]
御国のため ですね。 よくお覚悟を。
ここへ…、かどうかはわかりませんが、
クロード・ジェフロイから、いずれ正面玄関からお邪魔すると言伝を預かっています。
[約束はきっちり果たしておく。]
おれは、彼と殴り合うはめになるかもしれませんが──
それでも、貴女に望んでいただけるならば、喜んで。
──穢れ?
[不思議なことを言われた、という顔をする。]
浄めの巫女であれば、それは確かに障りとなりましょう。
あるいは、それが法で裁かれる類の犯罪行為であれば。
だが、軍人の妻になるのに、自ら戦ったことが瑕疵となることはありません。
[確固とした態度で答える。
衝撃に上ずった声も、今は覚悟のいろを定めて落ち着いた。]
むしろ、ナミュールの民は、おれが貴女を穢すと考えるでしょう。
それは、よいのですか?
― ドルマール神殿・檜の間 ―
[カナンが軍人であることを知らなかったと驚くシルキーへ小さく微笑む。]
これからもお互いを発見してゆきましょう。
貴女にとってこれは政略結婚──国のための人身御供に他ならないのかもしれない。
ナミュールの民はおれを略奪者として恨むかもしれない。
ですが、おれにとっては愛しい人からの、この上ない申し出です。
政略結婚が必ずとも不幸なものと決まっているわけではない。
おれは貴女を大事にしてきっと幸せにします。
それは、二人の努力でできることでしょう。ならば、やり遂げて見せます。
その…流布とか宣伝というか、あなたが本当に幸せそうにしていれば、国民も祝福してくれるでしょう。
あなた次第です。
[そっと手を重ねる。]
公表の手順などを、公的なものとして計らなければならないのは、その通りです。
ソマリは心得てくれるでしょうが、クロード君とは、まあ…、
先程、申し上げたように、向こうから来ますよ。
しかし、巫女姫というのは、結婚するものなのですか?
それとも、これは貴女が始める新しい歴史なのですか。
[おそらくナミュール国民には当然の知識だろうが、カナンは怖じずに問うた。]
そして、宝珠と結界についても、教えてください。
宝珠はどこにあり、貴女はどのようにして結界を制御しているのですか。
− 間奏曲 −
[これはまだ、二人が生国セドナを離れて程ない頃、
始めて”声”を通じあわせた日の物語──
夏だった。
湖にボートを出して、カナンとシメオンは涼をとっていた。
シメオンの注意を引こうと、カナンはわざとボートを揺らす。]
― ドルマール神殿・檜の間 ―
薔薇の花は、蕾の頃よりすでに人の心を奪います。
それと同じことでしょう。
[まだ二度しか会っていないのに、というシルキーに、囁くように告げる。]
ご不安はわかります。
これまでが不自由ない暮らしだったならば、なおさら。
けれど、どうか、勇気を出して、その御手を預けてください。
おれがあなたを護り、エスコートします。
[「幸せになりたい」と囁き、綺麗な涙をこぼすシルキーの頬をそっと拭う。]
この涙が、喜びの涙に変わるように。
[過去の事例としてクレメンス家の名が出れば、は、と笑みの色を変え、]
クレメンスもまた、革命児の血筋に連なるものでしたか。
その前例が巡り巡って、祝福となるとは。
[形見の指輪にそっと触れる。]
宝珠は──気になって当然です。
だって、ここはかの伝説の神殿だ。
意識しないでいられますか。
[今、この神殿に宝珠の脈動が感じられるか感じ取ろうとするように視線を投げる。]
長い時間を経て、巫女姫の祈りに育まれた宝珠は、きっと、これからもナミュールに恵みをもたらすでしょう。
人々の交わりを阻むものとしてではなく、この国の皆が、心健やかに、四季世豊かにあるよう、歩き出す力として。
貴女の願いのあるままに。
[かくあれかしと、心の裡で祈りを捧げた。]
− 間奏曲 −
ただでは止めん!
だって、おまえ、「どうして湖の上は涼しいのか」とか、そういうこと考えてそう。
もっと元気に遊ぼうぜ?
[ケラケラと笑いながら揺れるボートの上で立ち上がり──、そのまま後ろ向きに湖へドボン。]
― ドルマール神殿・檜の間 ―
[シルキーが宝珠をクロードに託すというのを聞いて、わずかに首を傾げる。]
何故、彼に?
それこそ、一度、会見しただけの相手なのでは?
いえ、反対するつもりはありません。
クロード君がどう対処するのか、おれも見守りたい。
[カナンはクロードを語るのに、これまで「革命家」「破壊する者」という言葉を用いてきた。
シメオンを通じ、クレメンスとクロードの会見の様子を聞いてからは、少し変わってきているけれど──
彼の実が試されることになろうと思う。]
感謝は、おれからも。
よく心を決めてくださいました。
[シルキーが立ち上がるのに手を添える。
今は、それだけ。]
外に、飛行船をご用意してあります。
空の旅を、ご一緒にいかがですか。
上から見るナミュールも、とても綺麗です。
[誘いはしたけれど、シルキーが祈りに入るならば、邪魔はしない。*]
共和国大使 カナンが「時間を進める」を選択しました
― 間奏曲 ―
[泳げないわけではなかった。
だが、見えない流れがあるのか、湖に落ちたカナンは底へ底へと引きずられる。
胸が潰れそうになって、肺の空気がコポリと溢れた。
泡は砕けて散って逃げてゆく。
覗き込むシメオンの顔が歪んで見えた。
繋がりそうで 届かない 運命の糸は 半ば ]
[投げかけた”声”がしっかりと響いていることがわかる。
読心術ではなく、骨伝導でもなく、不思議と──話せるのだ。]
ひとりじゃない… なら、 死んでたまるか。
[伸ばした指先にシメオンの手が、想いが絡む。
ふ、と身体が軽くなった。]
― ドルマール神殿 ―
ええ、 是非。
[今度はカナンがシルキーを神殿の外へと導く。
やがて、ゆっくり空に舞いあがる飛行船の下に広がるのは、クレメンスが最期に讃えた美しいこの国の姿だ。
碧い森と宵闇迫る空の境目は朧に霞み、天穹にいつしか群れ集う 星。*]
― 間奏曲 ―
[シメオンの腕が身体を支え、水を掻く。
重い束縛が剥がれてゆくようだった。
ほどなく頭が水面に出る。
シメオンの手で引き寄せられたボートの縁につかまって日差しの温かさを背に受けた。]
はははは…! あはははは!
ありがとう、シメオン、 やったな! 嬉しい。
[溺れかけたばかりだというのに、弾けるように笑う。
生きている、そして、生きてゆく上でとても大切なものを得た実感が身体を駆け巡っていた。]
― 間奏曲 ―
[日差しとは異なるシメオンの肌の温もりが伝わる。
笑いに転じた声が水面をキラキラと波立たせた。
ひとしきりじゃれあってから、
よいせ、と手を貸し合ってボートに上がり、脱いだ服を絞って水を切る。]
おれは生まれた時に、予言されたそうだ。
「この子はすぐ近くと 果てしなく遠くに かけがえのない宝を見出すだろう」って。
なんとでも解釈できそうな予言だけど──
こうして血よりも強い絆を得たんだから、信じてもいいな。
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