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[ 己を呼ぶ名が聞こえた。
その声の方が、よっぽど辛さを抱えているように感じた。]
ベリアン──
[ 覆いかぶせるように呼応する。]
[ バルタは先ほど、「いつか地に人が溢れ、皆飢え死にする」と言った。
人が増えれば食料が足りなくなる、というのは、食らうのみで生産はしないゼファー兵らしい思考だと思った。
人が増えればそれだけ余力が増え、生産量も文化水準も上昇すると考えるギデオンとは基準から異なるのだ。
世界の捉え方は千差万別。
だからこそ、ぶつかりもするし、模索もする。]
[ それまでは今のゼファーについてしか口にしなかったバルタが、「海賊がまた襲ってきたら」と問いかけたのは大きい。
未来には、変わる余地がある。
ようやく、交渉のテーブルの椅子を引いてくれた、というところか。]
語る覚悟は、ある。
[ どちらかの滅亡しかない未来を回避する努力は、この試合同様にギデオンを熱くする。*]
[ 次が最後、と語る男の声音に耳を傾け、肩布を外して右の剣を鞘に戻す。
投了ではない。抜刀術の構えだ。
この相手に、同じ手は通じないとわかっている。]
では、 いこうか。
[ 誘うように言って、右へ身体を動かした。*]
月があまりに綺麗だったから、北回りの船を待つ間、少しお楽しみに耽っているところだ。
[ 左腕がわずかに熱い。自分の傷ではない。
気付きながら、あえて気楽そうな声を送った。]
土産話を待っているといい。
釣果は無いかもしれないが。
[ 悠然と言葉を交わしながらも、円を巡る動きは徐々に早くなる。
同じ軌道を踏んでいるようでいて、距離は削られていった。
緊迫感が募る。
──と、
水面を渡る風がかすかなどよめきを運んできたのと同時に、二人の周囲に矢がパラパラと突き立った。
何事かと、周囲の兵らが人垣を乱す。
北から、王国船が近づいてきていた。*]
[ 北から来て、神前試合が行われている事情を知らない者たちには、王国旗艦がゼファー兵に乗り込まれているように見えたのは容易に察せた。
果敢に突っ込んでくる船を止めようと手を振り回す兵らの動きが却って混乱を助長している。
ギデオンは赤髪を掻き上げて、足を止めたバルタに視線を戻した。
これだけの敵兵に囲まれても平然としている彼に、目を細める。]
ああ、話が早くて助かる。
このまま続けるべきではないな。
すまないが、いったん預かってもらえないか。
[ 神像の前でするように、わずかに膝を曲げて礼をした。
人垣に道をあけよと命じるまでもないだろう。
月の面を叢雲が過り、ひとときの暗幕を引く。*]
[ 加えて、毒の使用を呵責するではなく、低姿勢で要望を伝える様子に目を瞠る。
間違いなく彼が笑ったのを見た。
意外な一面に絆されてしまいそうだ。]
代わりに、その毒消し薬酒の調合を教えてもらうとしよう。
[ そんな取引を持ちかけて、次の楽しみにしておく。]
他にも、互いにわかちあえるものがたくさんありそうだな。
今回のことで、さらに手応えを得られた。
後は、いかに落とし所をみつけるかだ。
──薬も飲み過ぎれば毒となる。ほどほどがいい。
[ 託すともなく伝え、堂々と去る背を見送った。*]
北からの船と合流した。
将軍の足止めもここまでになるが、これ以上、海側にゼファーの脅威はないだろう。
君の傍に帰ろうと思う。
篝火を目指してゆけば、苦労人の君が見つかるのかな。
少しばかり、将軍と言葉を交わす機会を得た。
ゼファーが困窮状態にあるという彼ら自身の危機感はとてもよくわかったよ。
海峡を渡ればすぐそこにあるカーマルグを領有したいと考えるのは自然なことだ。
一方で、自分には、カーマルグの民を元の居住地に戻し、これまで同様の生活を保証する使命がある。
譲れないラインだ。
自分は、あちらの民も、こちらの民も、飢えさせないようにするのが最善と思う。
君の意見を聞きたい。
[ 「篝火が要る間」に関しては、実際に今夜のうちに王国軍拠点へ駆け戻るのは不可能と承知している。]
間に合うべきときには間に合うものだろう?
早く会いたかったら、北の方に騎馬の捜索隊を出してくれてもいいぞ。
干潟は通らないが、北側から戻る考えでいる。
[ 軽口にまぜて、方針を伝えておく。]
[ ベリアンが語る未来の図に、楽しげな声が返った。]
カーマルグは目下、王国領の一部であって自治権があるわけではないが、
今後は、有事にいちいち陛下の裁断を仰がずとも済むよう、領主をおくのはいいな。
カーマルグ領主ベリアン・グラウコス──などはどうだ?
自分としてはなにより安心だ。好きな時に顔を出せるしな。最高だろう?
海賊については、将軍も、王国兵の手に余るだろうと示唆していた。
ゼファーとしては、海賊を相手にするのはやぶさかでもなさそうだったから、
君のいう"協力体制"の一環として、共闘を依頼するのもありだと思っている。
戦費は同盟の運用金かなにかの名目で王国が出すことにしよう。
有事以外にも、定期的に軍事教官を派遣してもらって、教練を行ってもらうというのを期待したいな。
交流があれば、連携はよりうまくいく。
トルーンを要塞都市化して、王国兵を常駐させるのは前提だ。
これまで、独自に森に逃げ込んでいた民は、城壁内へ逃げ込んで王国兵に守ってもらえることになる。
ああ、地元の者たちに自警団組織を作ってもらって手伝ってもらえば、王国のかかりも削減される上、自分たちの故郷は自分たちで守るという、この戦で培われた義勇の志を後世に伝えることもできる。
残る問題は──そう、ゼファーが「折角占領した地をむざむざ明け渡して」くれるかだ。
ゼファーは、王国軍を蹂躙してすめば、王国に協力する必要などないのだから、
我々がこの戦いに勝って、彼らを話し合いの席につかせなければならない。
ただ、──
交渉というものは、最初から落とし所を目指してやったのでは、それ以下の結果しか得られないものだ。
今は、ゼファーを殲滅する気で行動してくれ。
それくらい死に物狂いになってやっと、勝ちが拾えるかどうかという瀬戸際だと思っている。
陛下が君にカーマルグを預けてもいいと認めるほど、手柄をたててくれたまえよ。
[ 今も戦いの渦中にいるだろうベリアンに、感謝しつつも口にする言葉は軽妙だ。
そういうところは昔から変わらない。]
ゼファーが納得するどうかは、相手の柔軟さ次第だろう。
先ほど、ザール将軍にゼファーが兵を引けば、侵攻の件は不問に付し、ある程度は損害補償も出すと打診してみたが一蹴だった。
あれは多分、遠回しすぎて、裏が伝わっていないな。
[ 帰還を支援する船を王国側から出すと言ったのは、兵のみを乗せるにあらず、彼らが国で「戦果をあげてきた」と報告できる程度に物品を積み込んで引き渡すためだ。
顕彰碑もまた、海賊討伐をして王国に貢献したという形で戦死者の面子をたてて、遺族に謝恩金を出せるようにという名目になる。
ゼファーが二度と侵攻する気を抱かないように叩き潰すのではなく、慰撫する。そういう戦略である。>>91]
王国としては、隣国が暴徒化──それこそ海賊の強化版になるのは避けたいことだ。
彼らが、飢えることのないように、ただ、施しとは思われない形で援助していきたい。
少しばかり豊かになれば、彼らの意識も軍事以外に向くのではないかな。
好きなことをしたいとか、外国に行ってみたいとか。
[ 餌付けして飼い馴らすというと聞こえが悪いけれど。
人は、衣食住が足りれば、快適さを求めるようになるものだ。]
あの地で新しい文化が芽吹くのを見られたら、素晴らしいと思わないか。
[ きわめて個人的な野望を述べた。*]
− 東海上 −
[ バルタを送り出した後、ひとつため息をつく。]
彼には幸運の神の恩寵もあるに違いない。
[ 好機であったのに。
矢が射込まれた瞬間、友軍が来たと思うより先に、場が乱され、神意が離れたと感じてしまったのだ。
指揮官としての資質が疑われる、と自分でも思うのだが、気持ちの切り替えは早かった。]
未来について言葉を交わした相手が生きているのは、悪いことではないな。
[ 各船の長を旗艦に集めて労をねぎらい、今後の方針を伝える。
各船、航行に必要な人数と人員を残し、兵1000は半島北部の砂浜へ上陸すること。
漕ぎ手と見張り以外は、上陸までの間に眠っておくよう命じた。
上陸地点から拠点に向かうか、平原に向かうかは戦況報告次第だ。
ギデオンが直接、指揮をとる。
うまくすれば、ベリアンが迎えの騎兵を派遣してくれるだろう。
兵を上陸させた後、船団は再び南へ戻る。
2隻はトルーンに向かい、現地での抵抗運動を支援すること。
ゼファー軍が退却するならば深追いはせず、トルーンに下ろした兵を集めて王国軍拠点へ帰投する。
他3隻はゼファー軍拠点に向かい、海上から監視を続け、プレッシャーを与え続けること。
機会があれば、残存するゼファー船の破壊を狙う。
おおむね、そんなところだ。]
真っ直ぐな将軍は、おそらく、真っ直ぐそちらに向かう。>>-18
森づたいに騎兵をつれていた可能性もあるから、自分よりよほど早くつくはずだ。
不意打ちを受けないよう、注意をしておいてくれ。
ところで、実戦を指揮してみた君の感触はどうだ?
ゼファーがいうほど王国兵は弱いか?
[ ベリアンの言葉に、状況を察した。
自分が残した命令だ。
ひたすらゼファー兵を苛立たせ、休ませないようにして疲労させる一方で、抜きん出たリーダーシップを発揮する者を見つけ出して落とせと。
兵にとっては華がない作戦だから士気は上がりづらかろう。
けれど、ベリアンは兵らの働きに手応えを感じているようだった。
自ら率いている実感、そして各所からの報告を受けることで読み取れたものか。
戦いによって見出され、磨かれて輝く星。
王国は徴兵制を活用することによって優良な人材を見出し、抜擢してきたのだ。]
[ 自分は、兵役という制度は悪くないと思っている。
3年でゼファーのような精鋭が育つはずもないが、郷里に帰った後、自警団をつとめたり、災害時にノウハウをもって動くことができる素地は作れる。
それに、兵役のような機会がなければ、他の職種や異なる身分の者たちが一緒に生活をすることはないし、国のさまざまな地区を訪れることもないのだから、共同体意識を育むにも有効な制度だと考えられる。
欲をいうならば、成人に兵役を課すのと同様に、子供に3年間の基礎教育をすべきだ。
そうすれば、この国はもっと成熟する──
そんな話をしたかったけれど、今はベリアンの集中を妨げるべきではない。]
我が加護を。
[ ひとつ、声を送って、月を仰いだ。
ベリアンにも等しく降り注いでいるだろうその光に同化して、彼の元へ行けたらいいのに。*]
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