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軍の2/3の速度で河川上空を北進。
目的地は、ミロワール湖だ。
[天使たちの攻撃重点である《シャドウ・パレス》が軍と共に移動したのでは、そこまで前線を押し上げることになる。それでは、撤退戦ではなく、殲滅戦だ。
そう説明せずとも、皆の顔を見れば、「貧乏くじをひいた」と思っていないのは明らかだった。
「マチスが造った新しい土産>>3:217もありますしな」と子爵が愉しげに言う。]
よし、
《ホーネット》は逃げ遅れている部隊を援護。
兵に原隊復帰の手だてがないようならここへ運べ。
[天使の下に残してはゆかん、との決意に、おう!と声が重なった。*]
[応えがあった。
だがやはり、いつものマチスの雰囲気ではない。]
おれは《シャドウ・パレス》にいる。
ひとまず、そう聞けば安心だろうと思ってな。
[良かった、と返ってきたマチスの声には安堵の色が乗るが、浮ついた気配はない。
マチスが次に口を開く前から、悪い予感は限界まで募っていたけれど、]
── …
[いざ、確定すると、呼吸をするのも忘れそうになる。]
− 《シャドウ・パレス》 −
[指輪に触れてマチスと通信していたダーフィトが不意に俯く。
艦長代理であり、ほとんどお目付役と呼んでもいい子爵が、ダーフィトを背中に庇いながら、
「少し、お休みくだされ、殿下」と囁いた。]
…15分、 それで戻る。
ワァズ。
[ズルリと身を滑らせる海蛇を伴って、ダーフィトは船室への扉を潜り、しばし姿を消した。*]
それでも、 なすべきことをしなきゃいけないって、 辛いな。
[元帥杖とか任命書とか、そんな形あるものを残して、
あの人はいなくなった。]
マチス ── おまえの、 答えは?
了解。 始めよう。
[マチスの声から不安が消えることはないのかもしれない。
それでも、進まねばならないことを、彼は理解している。]
おまえが、笑って、好きなだけ宇宙船談義ができる日のために。
おれもありったけの力を貸す。
皆の動揺はもっともだ。
指揮官クラスの天使を倒しても意味がなかったという失望がある。
この先を戦うのに必要なのは「勝てる」という希望、
具体的な作戦の提示だ。
「これまでになく天使に有効な武器の提供」になると思っている。
おまえにしかできないことで、皆の心を掴め。
とりあえず、そういう武器がもうすぐ出来上がると言っとくだけでも、その場は掌握できるだろ、
おまえのこれまでの実績からくる信用に、元帥のお墨付きまであるんだからな。
[正直ばかりが美徳じゃない、と嘯いて]
天使の弱点について、ひとつ考えていることがある。
これから、実地で試してみて、使えそうならすぐおまえに知らせる。
おまえも、思いついたことがあれば教えてくれ。
[まだ戦場にいる、と言外に伝えた。]
− 《シャドウ・パレス》 −
[約束の時間を違えることなく甲板へと戻ったダーフィトは、全身黒尽くめの美女を伴っていた。
ウェーブのかかった長い黒髪にショートヴェール。
幾重ものレースで膨らんだゴシックなスカートはアシンメトリー。
前面はガーターペルトが見えるほど短いが、背面は床につく長さである。
喪に服す色でありながら、扇情的なまでに美麗であった。
唇と双眸のみが紅く、その奥には歯車が静かに回転している。
ワァズである。
子爵は、二人が纏う同じ金属臭にあえて言及せずにおいた。]
[ダーフィトは甲板中央に立つと、左手の銃剣を空へ向けて、青い気弾を一発撃つ。
弔銃であった。]
総員、 持ち場を離れず聞け。
デューラー臨時元帥閣下が侵入者によって暗殺された。
交戦中につき、黙祷は各自の心の中で捧げよ。
( あなたは少年の憧れるものを備えていた。
あなた自身、いつまでも少年の心を持っていた。
あなたは今も ── いつまでも、
おれの憧れだと、誇れる男だ。)
遺命により、全権は、マチスが引き継ぐ。
[クレメンスとは面識のない船員たちにとっては、その訃報よりも、知己であるマチスが総司令官に就任したということの方が、大事件であった。
熱を孕んだ低いどよめきが走る。]
あいつの花道を、飾ってやるぞ。
[艦内のいたるところで、男たちの拳が突き上げられた。]
[ほどなく、見張りから、「追っ手あり!」との報告がもたらされる。>>134
ダーフィトは船尾楼に移動した。]
ワァズ。
[呼べば、黒衣のオートマタは前に進み出て、天使の群れを見据える。
── 静かに、音が広がり始めた。]
[歌っていた。
否 ── オートマタは先に間近で聞いた天使の声を模して、体内で音を生み出していた。
それは、船乗りを急流に誘い込むローレライにも似た、妖の声。
忍びやかに、天使の群れへ伝いよる。*]
[空を映す川面を白く染め変えて、天使の群れが迫る。
その中心にいるのが、異様な戦車を御すマレンマだった。]
自分が殺した人間が、天使になって追ってくるっていうのは、
どう考えても悪夢だね。
[望遠鏡のレンズの向こうにある顔は、神々しいまでに無垢で、愛に満たされているかに見えた。
かくも穢れないものに対し、暴力をもって相対することを怯む気持ちは確かにあったが、
彼らがその純粋さでもって遂行したことを忘れはしない。
失われた仲間に対する弔旗はいまだマストにある。]
── 迎撃せよ!
[充分に引きつけるまで耐えた、《ホーネット》が、大砲が、格納庫の扉からはフライハイトの魔導機銃までもが、天使の群れに弾幕をはる。*]
− 私室内/少し前 −
[アデルに対するマチスの評価を興味深く聞く。]
やっぱり、おまえの観察や分析は的確だよな。
その能力、戦いにも活かせるぞ。
指揮が下手だなんて思い込みだ。
[無理はするなと伝わる声に、ひとつ笑みの気配が零れる。]
新司令官殿に、ひとつ、頼みがあるんだが。
── カルカリアス号、
動けるようにしといてくれ。>>2:201*
[必ず帰る、そして、おまえを援護するとの宣言だった。]
− 《シャドウ・パレス》 −
[オートマタの奏でる音は、揺らぎ、移ろい、
時に、人の聴域を超えて放たれる。
それは、密やかな目的のもとに行われていた。
天使らの命令系統を狂わせる音の領域を探っているのみならず、
誰が味方かを誤認させる同士討ちの音や、
強制的に光に還元させる音を求めて。
そんなものがあれば、下級天使は数の如何に関わらず、もはや敵ではなくなる。]
− 現在 −
マチス、
やはり、天使に「音」は通用する。
ワァズに、天使の声を真似させたら、誘導できた。
工場生産品みたいな下級天使らには、命令の是非を判断する能力はない。
彼らの活動を停止させるための音をつくり出すことができれば、下級天使は無力化できるはずだ。
[音のデータが必要と言われれば、ワァズを抱擁することで、その発する音を指輪に伝え、マチスに転送しよう。]
この先は、おまえの領域だ。 頼むぞ。
[けれど、いくつもの声域を重ねた多重詠唱は、オートマタの再現能力の上をゆく。
清らかな波動が、艦を揺らすことなく、戦意を押し流した。所構わず兵員たちが頽れ始める。
物理攻撃を軽減する魔障壁も、精神攻撃には効果が薄い。]
…く、
[首に手をやり、服に隠れた新しい傷をあえて破る。
その痛みで意識を保つ。]
幽霊船にされてたまるかよ!
おまえら、隣のヤツに昔年の恨み晴らしていいぞッ
私闘を許す!
[部下たちへと乱暴な声をかけ、殴り合って目を覚ませと示唆する。
耐えられない者も多くいたが、体力のある幾人かは、術の効果から抜け出せたと思う。]
あいにくと、この艦の連中は”善き人々”じゃなくてな。
── ワァズ!
[やはり殴って目を覚まさせた子爵に艦長代行に託すと、自らは空へ飛び出す。
ワァズは、女の顔に鳥の身体をもつ魔獣に変じていた。
天使らを引きつけんと、二丁のガンソードが火を噴く。*]
− 川の上空 −
[飛来する光の槍をガンソードのブレードで叩き落とす。
が、続けざまに別の一本が、機械の羽根を散し、強化戦闘服を裂く。
ボロボロにされながら、深手を負っていないのは、
ダーフィトを乗せた魔獣が、乱戦の中で、すり抜けられる場所を瞬時に見極めて飛び込むからだ。
そして、女の顔をした魔獣は声なく歌い続けていた。
天使の群れのわずかな乱れ。>>179
それを見出すや、ダーフィトは弾丸を叩きこむ。]
[と、西の方から飛来する部隊があった。
マチスが寄越した援軍だ。>>165]
嬉しいね、
[決して、気を抜いたワケではないけれど、
その時、南に光輝く流星が落ちて、視界を白く染めた。*>>175]
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