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― 宴会場 ―
[ちょっとしたごたごたもありつつ、宴会場の夜は更ける。
新しく来た方の男は最後までこちらに警戒を解かなかったが、半分は自業自得なので文句を言うつもりもない。
鼻歌魔神の方は、なんというか、ああ見えて相当の子煩悩らしい。
そんなふうに時間を楽しんでいたら、いつの間にか戻って来ていた黒もふが、うるるぅ、と低く鳴いた。]
ん。そうか。
じゃあ戻るか。
[またな、と同席の相手に告げて、席を立つ。]
[宴会場を出た先、廊下を半ば過ぎたところで、こちらに向けられる視線に気づく。
けれどもそれは害意を感じさせるようなものではなく、呼び止めようというほどの意思も感じなかった。
だから振り返ることもせず、そのまま歩みを進める。
傍らを歩む黒もふだけが一瞬耳を、視線を背後に向けて、るるるぅぅ、と楽しげに唸った。]
[自分たちを知らぬ土地へと導いた歪み。
それと同じ違和感を辿って、宿の出口を通り抜ける。]
何人か、連れて帰りたい奴はいたけどなぁ。
[さすがに難しいか、と、彼ら自身に結び付けられた絆の強さを思い返しながら扉を潜り、すでに慣れた気もする眩暈のような感覚を越えて出た先は―――]
― アンダー・ザ・ローズ ―
邪魔するぜ。
[小洒落た内装の店内に、相変わらず黒もふを伴って入っていったのだった。]
なんだ、おまえたちか。
[気分的にはさっきまで一緒にいた連中の顔を見て一瞬あっけにとられる。
けれども、だからこそここに来たんだろうと思えば納得だ。
それこそ、運命というやつだろう。]
それじゃ、失礼させてもらうぜ。
なんだ、シルキーは堪能し足りなかったのか?
そいつは残念だったな。
けど、またの機会ってのもあるんだろ?
[盛大に嘆いているシルキーに声を掛けつつ、自分も席について置かれているメニューを見る。]
こっちにアップルパイひとつくれ。
いや、ふたつだ。
[店員を呼んで、実に嬉しげに注文する。
足元に寝そべる黒もふも、ゆるりと尾を振っていた。]
そういやおまえ、宴会場じゃ見かけなかったな。
ひと足先に宿出てたのか?
あの飯食い損ねたんなら、ご愁傷様だ。
[アレクトールへと、食事の数々を思い出しながら「美味かったぞー」と至福の表情で言う。
そこへちょうど、注文の品がやってきた。]
ほう、こいつもなかなか。
[出てきたのは薔薇の花を模したようなパイだった。
この店らしい華やかな逸品を前に、さっそくとばかりフォークを握る。
焼き色も上品な薄いパイ生地で形作られた花弁にフォークの先を立てれば、耳にも心地いい音を立てて散る。
花の奥からは黄金色にとろけた林檎のフィリングが溢れて、爽やかに甘い香りを周囲に漂わせた。]
うまいなこれ。
たまんねえ。
[食べる芸術品のようなそれをせっせと腹に収める一方で、半分に割ったもう一つのパイを皿ごと床に置いてやる。
黒もふは目の前に降りてきたパイに鼻を近づけて、しばらく匂いを嗅いでいた。]
はは。幸せってやつの基本は食いもんだ。
人間、飢えてなきゃ大抵はどうにかなる。
レシピで再現できるかどうかは料理人の腕次第だな。
その扶翼ってのは、おまえの連れか?
[聞いてから、宴会場での一件を思い出して顔をしかめた。]
まさか、あの鼻歌大魔神じゃないだろうな?
いや、違うか。
あいつ、おまえのことをえらく褒めてたけど、連れって感じじゃなかったもんな。
そういやおまえ、あいつと戦争したんだって?
どうだった?
[テーブルに手をついて身を乗り出す。
豪華な食事を前にしたときよりも、ずっと目が輝いていた。]
おう、おまえもこっちに来たのか。
縁があるな。
[扉が開く音に振りかえれば、またもや知った顔だ。>>+18
疲れているようだったが表情はどこか穏やかに見える。
なにかわだかまりをひとつ解消できたのなら良かったなと、同じ時間を共有した相手へ胸の内で祝福を送った。]
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