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[抜ける瞬間の気持ちよさは言うに及ばず、彼の声が佳かったのですぐまた突き入れたくなった、が、自重した。
落ち着いた彼は、自分の体を見下ろしている。
何を確認しているのかと眺めていたら、頬を染めていた。]
ああ。
私と睦み合った痕が残っているね。
これは、脱がせている途中につけたもの。
ここはおまえの中に入った時のものだ。
[彼の肌に散らした痕は耽溺の軌跡だ。
ひとつひとつに指で触れながら、その時の事を語る。]
これはいずれ消えてしまうだろうけれども、
おまえには消えない痕もつけてしまいたい。
私のものだという印をね。
[未来のことを語って、彼の体に指を滑らせる。
どこにつけるのがいいだろう、と思案する手付きだった。*]
[ 睦み合うなどと照れくさいことを、彼が平然と口にするものだから、ノトカーの方が焦ってしまう。
それ以上、二人の秘事を物語られてはたまらないと、慌てて彼の口に掌を被せた。]
だ、ダメです。
聞いているだけで、のぼせてしまう。
[ 彼は楽しげに先の予定もたてていた。
指先で触れられ、ノトカーは呻いて身をくねらせる。
どうしてこんな感じやすくなっているのか。
料理を作ったのが自分でなければ、一服盛られたと思うくらいだ。*]
[口を塞がれたので、指の腹を吸ってほんの小さな痕をひとつ増やしてやった。
恥ずかしがる彼を見ているのは楽しいけれど、触れている内にもっといいことをしたくなってくる。]
では、のぼせないうちに、
手早く綺麗にしてしまおうか。
[彼の言葉を引いて言い、ダンスでもするかのように彼の手を取ってくるりと回した。]
[背中から彼を抱き、膝を使って足を開かせる。]
ここは流しておかないと、
後で痛むこともあるからね。
[もっともらしい理屈を語って、彼の後孔に指を差し入れる。
未だ熱を持つ中を探るように、緩やかにかき混ぜた。*]
[ 吸血鬼の口元に指を差し出すなんて、ちょっと考えればどうなるかわかっているだろうに、馬鹿な真似をしたものだ。]
痛っ
[ 反射的に声をあげたが、実際にたいしたことはなく、出血もほとんどない。
思い出してみれば、もっと激しいことをあれこれしたというのに、「痛い」と口にしたのは初めてかもしれない。
あんなにされても気持ちよかったのだと自覚すると顔から火が出そうだ。]
[ 流れるように背中から抱擁される姿勢になって、彼の指の訪いを受ける。]
…ああっ
[ 声を出してみて驚いた。
天鵞絨のような闇の中とは異なり、浴室ではタイルに声が反響するのだった。*]
[牙先で指を突いた時の反応は初めてのものだった。
嬌声ではないのが、どこか新鮮だ。
あるいは慣らせば、こんな痛みからでも感じてくれるようになるだろうか。
例えば今、こんな風に足を開いているときなら。]
気持ちいい?
おまえの声をもっと聞きたい。
[後ろから、耳朶を唇と舌で啄んで、濡れた音を響かせる。*]
[ もっと声を聞きたいとか、彼は恥ずかしくないのだろうか。]
そんな、 誰か 来た…らっ
[ 極めて常識的な反駁をするけれど、耳元に淫美な音を注がれると、腰骨が浮くような感じがして、じっとしていられない。]
…だ、 ダメで す── !
[ 彼の狼藉を阻止しようとして、ごぽりと湯の中に滑り落ちた。*]
おや。
[腕をすり抜けて彼が湯の中へ逃げていく。
意表を突かれ、それを見送ってから後を追った。]
[湯の下で彼に覆い被さり、浴槽の底へ押しつける。
騒がしく弾ける泡のさえずりを聞きながら、唇を合わせ、舌を絡めた。
彼の肩と腰に腕を回し、体を横へ傾けていく。
くるり、くるり。
数度転がってから、彼と共に空気のある場所へと帰還した。]
蘇った気分になるだろう?
[数度頭を振って水を飛ばし、髪を掻き上げながら楽しげに笑う。*]
[ 水中まで追いかけてきた彼と、ダンスめいた運動になり、頭からずぶ濡れになって水面に顔を出す。
彼は楽しげに笑っていたが、同じようにするだけの息は続かなかった。]
お…戯れが 過ぎ ます、
まっ たく、 何度 昇天させ る気ですか。
[ ペチペチと掌で水面を叩いて、彼の方に飛沫を飛ばした。*]
叶うならば、何度でも。
[跳ね飛ばされる飛沫を手で防ぎつつ、弾んだ声で言う。
心赴くままに抱きついて、息整える彼の唇を再び塞いだ。
舌を絡め、互いの息を交わすほどに深く接吻ける。]
[唇を離して、彼を間近に見つめた。
彼の鼓動がこちらに伝わる距離。
自分にも鼓動があれば、彼に伝わっただろうか。
この高揚する気持ちが。]
おまえを私のものにしたい。
私の隣で、共に永遠を歩んでほしい。
受けてくれるかい?
[まさにプロポーズの言葉であったが、同時に闇の世界へ攫っていきたいという望みの表明でもあった。*]
[ 水攻撃をものともせず、彼が距離を詰めてきて抱きしめられる。
恋人のスキンシップ。
そのまま息を盗む接吻けを与えられた。
おずおずと彼の舌に応えてみる。]
ん… くふ ぅ
[ 顎の先から滴るのは、髪から流れた雫だと思いたい。]
この先、僕の作る料理の味が変わったとしたら、あなたのせいで間違いありません。
[ 彼は相変わらず高揚した面持ちでいたけれど、ふと正面から覗き込まれる。
魂の奥まで見透かすような眼差し。]
あなたと、共に── ?
[ 湯に浸かっているというのに、喉が渇く。
目眩く一夜の終わりが近づいているようだ。]
[ けれど、これは夢ではない。]
愛のある限り── 萎れぬ花を捧げましょう。
[ 指先が彼の指先を探し当て、互いに組み合って、きゅっと力を込めた。*]
おまえがこれから、私の舌を喜ばせる料理を作ってくれることは期待しているし、信じている。
[彼の才を伸ばしたいという言葉に偽りはない。
その才がこれから自分のために発揮されるだろうことは、楽しみであり喜びでもある。
向かい合い絡み合う言葉と視線は、接吻けよりも濃密で、溺れそうだ。]
[告白を受けた彼が最初の言葉を発し、次の音を紡ぐまでの数瞬、息を詰めて口をつぐんでいた。
返答を待つ時間はひどく長く感じる。
彼の心を掴んだと思っていてもなお、不安が影を落とすのだ。
それも、彼がこたえを捧げるまでのこと。]
誓うとも。
私の命ある限り、おまえを愛し慈しむよ。
おまえは私のために咲く花、
私の魂を満たすものだ。
[唇の触れる距離で誓い、そのまま再び吐息を交わした。*]
喜びをもって、誓いを共にします──
僕の愛しの君
[ 息だけの声で口移しに告げる。
彼との時間はどんな蜜よりも甘く、満たされよう。*]
[誓いが交わされた後、浴室で、また別の場所で存分に濃密な時間を過ごす。
コンテストが終わるという頃合いになって、ふたりの姿は邸宅の入り口にあった。
彼を見送るためだ。]
全ての準備を整えて迎えに行くよ。
楽しみに待っていておくれ。
[このまま連れ去ることだってできたけれども、そうはしなかった。]
身辺を整えて、祝福で送り出されておいで。
[彼にはそう語ってある。]
[闇の世界の住人になると語れば、信じてもらえないか忌避されるかだろうが、そのあたりは彼の才覚に任せておく。
後見人となる人物を連れて行くことを約して、一旦別れることとした。
選んだ証である赤い花に、蓮の花を添えて、約束の印とする。]
[そうしていくらかの時が過ぎたある夜、エレンゲ家の前に一台の馬車が停まった。
馬も車体も闇に溶けそうな漆黒だったが、随所に施された装飾が軽やかな印象を加える、一目で上質な造りと分かる馬車だ。
あらかじめ連絡は送られていたので、驚かれることはないだろう。
男をひとり伴って馬車を降りる。
連れの男はまだ若いように見えたが、理知的な面差しと穏やかで誠実な雰囲気を身に纏っていた。]
[ノトカーの家族と会い、後見人として連れの男を紹介し、
コンテストでノトカーの才能を見いだしたことを説明し、
ノトカーが家族と別れの挨拶を交わすのを見守る。
魔としては丁寧な手順を踏んでノトカーと共に馬車に乗り込み、重厚な扉が閉まったところで彼を抱きしめた。]
迎えに来たよ。私の愛しい子。
待たせたね。
これからは、もう離しはしないよ。
[言葉の合間に唇をいくつも降らせる。
ほんの僅かな間とはいえ、彼と離れているのは切なかったのだ。
もう離さないという意思を、声でも動作でも示していた。*]
[ エレンゲの屋敷に戻り、賞金は手に入れられなかったけれど、もっと素晴らしい栄誉を得たのだと説明すれば、花を日々の糧とする純朴な家族は喜んでくれた。
軍にいる兄に手紙を書いて屋敷を離れる旨を綴り、自分の服や靴を売り払って、当座の生活資金に残してゆく。
自分は身ひとつで彼の元へ行くことに何の心配もしていなかったが、いくつかの苗や種子は持っていくことにした。]
[ やがて、彼が迎えに来る満月の夜。
語った通りの貴公子の登場に、家族は劇を見るように喝采した。
彼の抱擁は、母や義姉には幾許かの憶測も与えたかもしれないが、見送る家族の顔に、別離の寂しさはあっても、不安の色はない。
涼しげな木陰を思わせる後見人の雰囲気に安堵しているようだった。]
お迎えに感謝いたします、敬愛する我が君。
[ 待ち侘びていたことを隠しもせず、進み出て彼の手をとる。
自分が安堵するのは、この手に触れている時だとわかる。]
[ コンテストの夜にもらった胸の花はシュガーコーティングした上に食紅で色を乗せて、あの時のままの艶やかさを誇示していた。]
心よりの花を、お受け取りください。
[ この花を外すときは、衣服全部もと眼差しに込めて微笑んだ。
きっと、その時は遠くないだろう。***]
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