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[ それにしても、バルタと直接対決しようなどと思い至ったのは、まさに、暦と狂気を司る月の女神の影響に違いあるまい。
彼を殺してしまえば、ゼファーにマイナスを与えられるが、
生かして理解者になってもらえたならば、王国にとって大きなプラス。
思いつけば、どうしたって後者にそそられた。
ただし、実現に漕ぎつけるためには、彼を武にて屈服させるという最難関が控えているのであるが。]
三本先取でよいかな。
[ 挑む者にしか、運命は肯かない。*]
− 過去 −
[ 二人が出会って4年がたつある日。]
まだ起きているだろう?
入るぞ。
[ ギデオンは声をかけて、ベリアンの部屋へ乗り込む。]
[ それぞれに個室をあてがわれているが、世話係のベリアンとは続き部屋になっていて、消灯時間後も廊下に出ることなく行き来できた。]
ようやく、『諸王伝』の筆写が一段落した。
[ まだインクの香りも新しい羊皮紙を持ったまま、今日、書庫に籠もっていた成果を報告する。]
その中の一節に、こんな物語を見つけたぞ。
──昔、ある森に、神が手慰みに創造して捨てた化物が住み着いた。
近隣の村人たちは化け物を恐れ、土地をおさめる藩主…領主のことだな…に訴え出た。
民の陳情を聞いて藩主は森へ出かけ、化物と取っ組み合いをはじめる。
6夜を経て互いの力を認めるに至った両者は意気投合し、藩主は化物を居城へ連れ帰った。
風呂に入れてやると、なんと、化け物の皮が脱げて、中から勇壮な男が現れたのだ。
人の姿となった化け物は藩主のもと、知識と礼儀を身に付け、両者は力をあわせて国を発展させたという。
二人の友情はいまも語り伝えられている──
なんだか、我々に似ていると思わないか?
あの日、君が涙で魂の扉を開けなければ、自分はきっと人になれなかった。
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ちなみに、バルタに送った『波間の月をば奉らん』は元ネタなし。
「波だつ海面に映っている月影をみせてあげるよ」→「船で一緒に美しい月を眺めませんか」or「あなたの心をその月の姿のように千々に乱してあげよう」or「月の映っている海に突き落としてやる」
どの意味で解釈してもOK
武辺者ゆえ返歌はできない、とのことだったけど、お返しの地の文が詩的で美しく、とても嬉しかったのだよ。
─ 過去 ─ =4
[ ベリアンが神殿へ送り込まれた理由は、とうに耳に入っていたが、当人の資質とはまったく関係ないところで憎愛劇に巻き込まれて邪険に追いやられた、というのが妥当だろう。
だが、それをベリアンは「神殿に保護された」とみなしているようであった。
今も、幼い彼をそんな目にあわせた義母のことを、憐みを持って語るのが、ベリアンという人間なのだ。]
君はどうして、そんな気の回し方ができるのだろう。
[ しみじみと呟いた。]
別に、家に帰ってやりたいことがあるわけでもないんだろう?
ここに残るという気持ちはないのか?
[ 要するに、一緒に居たいと訴えてみる。*]
久しぶりだ、将軍。
[ 旧知であると、周囲に知らしめるかの挨拶をし、高い位置にある肩を見上げる。
試合形式について、二本先取でと提案を受ければ、一拍の間を置いてから、諾と返した。]
では、そのように。
[ 相手の動きに順応する時間が減るのは難だが、比我の持久力を鑑みれば、長期戦は辛いのも確かだ。]
[ 右手に淡い黄金色の青銅剣を持つ。
対になる一本も腰に下げてはいたが、抜かないままだった。
左手は剣でも盾でもなく、肩に留めた領巾の一端を握っている。
舞装束のような柔らかな動きをみせるが、使い手の技量次第でそれは鞭とも紗幕ともなろう。
防具は前腕と脛を守るものと胸部のみ。
俊敏な動きに比重をおいたものだった。]
いつなりと。
[ ギデオンが何を考えて「神前試合」を執り行ったかなど、後世の歴史には伝わるまい。
現場に立ち会った兵らにすら、わかっていないのだから。*]
─ 過去 ─ =8
[ ベリアンが語った未来戦略を聞いて、動悸がおさまらない。]
君は、 ああ… まったく、もう
[ 胸に抱え込んで、髪の毛をくしゃくしゃにしてやろうか。
それくらい、我慢ならず高揚していた。]
自分は、ずっと神殿に引きこもって暮らしていられればいいと思っていた。
[ 兵役があるから、そうもいかないのだろうし、外での自分の立場は、ここでのようなものではない。
けれど、ベリアンが、足元を固めて待っているのなら、大丈夫だと確信できた。]
君はふたたび、ぼくを新しい世界へ連れてゆくらしい。
[ 楽しみでならない。]
明日は、新しく建築する礼拝堂の礎石を配置する。
君も手伝え。
[ その礎石のどこかに、ティノスとメランの名を並べて刻もうと考えていた。
二人がここに生きた証と、そして、この地を去っても魂が離れることはないという宣誓だ。*]
[ 天も呼応したか、流星がひとつ空を流れた。
それを、遠い場所で散った若い命と結びつけて考えることはなかったが、
その煌めきの鮮烈さと儚さに、一瞬、息を呑んだのだけは、妙に覚えている。]
[ バルタの身体が跳躍に備えて沈むのと同時に、ギデオンは回避行動に移っていた。
いささか警戒が強すぎるほど、大きく飛び退る。
直後、今しがたまで立っていた場所を、槍が抉っていった。
当たりはしていない。それでも、バルタの繰り出した一閃の風圧が肌に届いた。]
──…!
[ 恐るべき技量だ。
だが、まだ始まったばかり。]
礼を言わねばと、思っていたのだ。
[ 体勢を戻しながら、語りかける。]
ゼファーが海賊を撃退したのは、王国のためではないとわかっているが、それでも。
[ 典雅な礼の所作を挟み、再び剣を構えた。
来るのを待つ、と。**]
[ 槍を手元に引き寄せたバルタが力強く「カーマルグ領有の正当性」を主張する。
彼にしては珍しく言葉を連ねたそれは、おそらくは元首が編み出したものだろうと踏んだ。
カナンは、ゼファー歴代の元首の中でも、抜群に政治ができるようだ。
宣言に対するギデオンのコメントは必要とはしていなかったのだろう、
バルタは気勢を吐くや、次の攻撃を繰り出す。]
[ 今度は、飛び退ることはしなかった。
より近い間合いまで接近を許し、振り上げられた槍を右手の剣先で受け流す。
まともに受け止めれば、折られるのはわかりきっていた。
ギデオンのそんな反応は、バルタの目論見どおりでもあったようだ。
青銅と鉄が接触し、二種類の異なる音色が響く──
刹那、跳ね上げられた右手と交差するように左手の領巾が翻り、バルタの視界を通過する。
同時に、ギデオンは右足を軸に半円を描くよう、身体を反転させた。
突進するバルタを擦り抜けさせて、その背後をとるべく。]
[ だが、体勢が整う前に、すさまじい重量に突き倒された。
バルタは槍をいなされた先まで読んで、体当たりを仕掛けてきたのだった。
とっさに受け身はとったものの、押さえ込まれてしまえば、跳ね返すのは不可能。
実に質量は凶器である。]
かつて世が乱れ乱れたとき──
[ 視線はバルタに据えたまま、詩を吟じるかのように、語る。]
闘神が日に1000人を屠るならば、
豊穣の女神は日に1500人を産み育てようと言った。
[ 神話を引いて、現在になぞらえる。]
王国には、資源がある。
海賊を駆逐したゼファーが、諸事情で帰国に手間取っているなら、プラメージは支援をするつもりだ。
戦死者の顕彰碑も建てよう──流された血を忘れぬために。
高潔なゼファーが海賊の後釜に座るつもりだなどという下世話な風評は信じるべきではないからな。
[ 投げかけたのは、王国側の「見解」だ。
右手の剣は、ごく自然な様子で下げている。]
[ すでに一本、取られている。後はない。
それでも、焦りはしなかった。
ダンスは、実力あるパートナーと組むほど、上手くなれるもの。]
次は、こちらから行く。
[ 宣言して、駆け出した。]
[ 槍の攻撃範囲へ入るや、前方に身を投げ出して槍の下へ転がり込む算段。
膝立ちに起き上がりざま、足を狙って剣を横に薙ぐつもりだ。*]
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