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[ナミュールの郷土料理に舌鼓を打つ和気あいあいとしたこの宴の中で、カナンはクレメンスに、「提案」について話しておくことにした。]
長老、
シュビトで市長に立候補してみませんか?
[とても唐突に、とても楽しげに持ちかけた。
酔ってなどいない。
明日のこともあるので、あまり酔わないようにしたい、とシメオンにあらかじめ言っておいた。
そうすれば、うっかり立て続けにグラスに手を伸ばそうとしても止めてくれるのがわかっている。]
住民による、市長選出です。
実際に何の権限があるのかはさておき、公選挙で決めよう、と言って乗り込めば、学館の連中が乗るでしょう。
[誰に選挙権を与えるとか、投票場所どうするかとか実務はこの際、気にしない。
学館の生徒たちが仕切るだろうと丸投げのつもりだ。
お祭騒ぎ上等。]
対立候補には間違いなく、クロードが出るでしょう。
面白がって他の候補者も出てくるかもしれませんが、それはそれで開かれた選挙のイメージがわかりやすくなるのでいい。
おれはね、
クロードに足りないのは、手順を踏むことによる「正当性」だと思っています。
ですから、彼にそれをぶつけてみたい。
民衆の声を、民主主義を旗印にするなら、選挙の洗礼を受けてこいと。
あ、立候補しろと言っておいて敗北予想すみません。
長老殿なら、いい勝負をした上で楽しんでいただけると思って。
[正直に、目論みを認める。]
長老殿は、なんかもう、中央政府に「何するかわからないヤツ」ってマークされているらしいですし、いっそのこと目立った方が安全なんです。
[とってつけたように言ったが、これも本音である。
外の世界を見せたい人だと。]
[クレメンスという老練な対立候補を得てクロードが民に何を訴え、味方につけるか。
考えるだにとても楽しい。
だが、これは遊びではない。]
選挙を経て、クロードが「公人」になってようやく──
おれの交渉相手たりえます。
[始まりの地・シュビトを眺めるように、視線を遠くへ流した。*]
− 乗船前 −
[夜が明けて、出航の時間が近づく。]
シメオン、
学館を出るとき持って来た弾薬から10発くらいもらうぞ。
[ちょっとしたアイデアを思いついたので、それも手土産代わりにすることにした。]
じゃあな、 美人さんに会いに行ってくる。
[友の背をギュと抱き締め、タラップを登っていった。**]
− 王府軍船上 −
[海に囲まれた島の民である。
遠洋航海技術は廃れても、ナミュールの兵の船の扱いは巧みだった。
カナンとアレクシスらを乗せた船は、安定した舵捌きでオプティモ港を後にする。
サシャもまた独自にオプティモを離れたことを、その部屋に残されたもののことを、シメオンの”声”によって知らされるのは、すでに船が洋上に出た後となった。]
[船上でのアレクシスは、存外に爽やかな笑顔を見せていた。
話し相手にもゲームの相手にもなると申し出るのを聞いて、昨日のシメオンの誠意をこめたもてなしのおかげかもしれないと考える。
親切は伝染するものだ。
だが、「海獣の類が襲ってくるかも」と付け足すあたり、やはりアレクシスは素直じゃない、とカナンは唇に苦笑を含ませた。]
ナミュールではどんなゲームをするんだ?
やってみようじゃないか。
で、おれが勝ったら──
[ふっふー、と笑って賭けに乗る気があるかと問うようにアレクシスに視線を流した。]
サシャが部下を連れてアレイゼルへ潜入したと?
[クレメンスの子飼となったのもあって、そういう仕事もするのだろうとは思う。
万一の際にカナンとの繋がりがバレぬよう、銃の預かり証を残していったのも理屈にあう。
だが、「祖父の遺骨」は別だ。]
少し──気にかかる。
シメオン、
すまないが、もし可能なら、様子を見に行ってもらえるか。
[首筋がチリチリする。
それはきっと海風のせいじゃない。]
[「準備が出来たら」と言いつつ、シメオンの声は、もうその準備を初めていた気配だった。
ふたりとも、きっとまた共感しているのだ──この、虫の知らせを。]
ああ、頼む。 おまえも、
[気をつけてゆけ、と、唇を引き結んだ。]
航海は順調だ。
ただ…
海獣が出るかも、って言われた。
[こちらの身を案じてくれたシメオンに、前後の脈絡を省いた報告を投げる。]
どんなンだろうな?
[ちなみに、タコを見ると蕁麻疹が出るのだった。]
[アレクシスが「21ゲーム」のルールを説明する。]
ほう、ナミュールではそれをゲームと呼ぶのか。
マチュザレムでは、子供をからかうジョークのネタだ。
それも、算数のできないチビ助をな。
[あえて、こちらに先攻を振ってくるからにはカラクリを承知しているのだろうと、目を細める。]
[続く、賭けの内容についての吟味には、肩を竦めた。]
ゲームの質に比して、大層なことを。
…おれが勝ったら、この先、あなたのことを「ユレ君」と呼ばせてもらおう──と考えていた。
[過去形で意図を明かし、そのまま背を向ける。]
すまん、
身体が冷えた。船室で休む。
問題。
余程バカさえやらなければ自分が勝つルールでゲームをやろうと言ってくる理由はなんだ?
[またも唐突に、事情解説を伴わない状況報告を投げる。
苛立ちを押し殺した声だ。]
例の21ゲームをやろうって言われた。
しかも、賭けの対象おまえ指名。
[沸点そこ。]
…気遣い? んんー
[指摘を受けて、ちょっと冷静になったらしい。]
今回の国交交渉にあてつけてンのかな。
おれたちのやり方はそれと同じだと。
[最終的には力押しのワンサイドゲームを、ナミュールは強いられているのだと。]
そのまんまのルールじゃ勝てないと思ってるなら、どっかで手を加えるか、ゲームを降りるかだ。
だが、降りられないなら──
− クレメンス邸 (昨夜) −
[公選挙を、という唐突な提案をクレメンスは、ちゃんと吟味してくれた。
彼の基準に照らし合わせて、面白いかどうか。
難しい、と告げたのは貴族としての経験からくる状況判断だった。
まずもって、選挙実施までクロードが無事でいられるか、という点において。
クレメンスは、近いうちに軍事衝突があると推測しているのだろう。
あるいは、いや、確実に、自分たちもその一因である。]
…ええ、 クロードを殺されてはならない。
[それゆえに、クレメンスとその取り巻きをシュビトへやるのも選挙にかこつければ叶う。
マチュザレム軍人でありながら、今は自分の麾下部隊を持たないカナンはそっと拳を握りしめた。]
[それでも、保留つきながら、クレメンスは選挙の実施を考えておくと言ってくれた。]
ありがとうございます。
長老殿にお頼みしてよかった。
楽しくなりそうです。
[私が負けるとは限らん、と笑みを浮かべるクレメンスの意気込みに破顔する。]
むろん、おれの見込み違いで、クロードが集会での決起成功でなにか成し遂げた気になっているようなガキだったら、容赦なく叩きのめしてやって結構です。
[音高く、クレメンスとグラスの縁をあわせた。*]
− 船 −
[船室のベッドに寝転がり、しばし沈思している。
このままじゃ後味がよくない。]
…おまえは、絶対に手放さないけどな。
[深呼吸。
それから、えいやっ!と起き上がると、もう一度、甲板へ出た。]
[アレクシスを探し出し、声をかける。]
さっきのゲーム、
この船上だけのローカルルールを考えてみないか。
頭振り絞って、どっちもが納得できる落しどころを探す。
[開国交渉のミニチュア版だ、知恵を貸せ、と求めた。
道はなければ作ればいい。]
− ブラバンド城 −
[王がおらずとも、城に相当する建造物はあるらしい。
貴族たちの会館のようなものかもしれない。
明らかに手の込んだ装飾で飾られた室内に通されたところへ、巫女姫の帰還が告げられる。
見送りに出るアレクシスに案内の礼を言い、自分もまた謁見のために身支度を整えることにした。
親書を挟んだファイルを脇に挟み、カメラは組み立てて盆に乗せ、クレメンスが遣わした護衛に運んでもらうことにする。
姿見に映してみた自分はなかなかの貴公子だ。
この国の基準に照らしても、多分。**]
ああ、そうだ、おまえのいうとおりだな。
恨みが残る形にはしたくない。
おれたちがもたらすのは光だ。
[国交交渉に対する自分達のスタンスの確認に頷く。]
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