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[相手から殺気は感じられなかった。
敵わぬと悟れば抵抗はしない。
相手を喜ばせるようなことは。
何でもないことのようにやり過ごす──刑に服している間に身につけた、理不尽に耐える処世術。
冷たい石床が背に触れるのを感じた。]
― 階段・踊り場 ―
[揶揄するごとき笑みと言葉にも反駁することはしなかった。
騎乗位をとる
右肩に楔めいて打ち込まれた爪の存在が熱い。
すでにはだけられていた胸元はそれ以上の饗応を必要とはせず、襲撃者が上体を傾ければ、白く弾力ある乳房が、襲撃者のやや小振りなそれと触れ合って柔軟にひしゃげた。
首元におりてくる牙の冴えた感触。
閉じないままの双眸に青白い光を過らせる。]
[血を啜られる音。
それは自分の経験と容易に擦り合わさって喉が渇く。
襲撃者が時折、身じろぐのは肉を噛み裂きたい衝動をこらえてのものか。
しなやかな肌の緊張と零れた血の香りが言葉にならない睦言めいて感じられた。
早く終われと念じるうちに、襲撃者は牙を抜き、傷痕を舌で舐めとる。
母狼が仔狼にしてやるような振る舞い。]
[略奪を済ませた襲撃者は、様相を一変させていた。
しおらしく謝罪の言葉を口にし、支えの手さえ伸ばしてくれる。]
今さら、だな。
[飢えに駆られてやむなく、というのは事実なのだろうが、応答は恬淡としたものになった。
無抵抗でいたものの、人助けだとか、そんな意識はない。
むしろ記憶に残さずにおいてくれと思う。
だが、吸血の官能に背を向け、強いて不感症であろうとふるまうリエヴルも、感謝のついでにと与えられた情報と警告は無下にすることなく受け取った。]
[黒幕を指摘されたことで、テオドールのことを思い出す。
この城内で実物を見ている。証拠として充分すぎるほどだった。]
なるほど、「面結構倒」 か。
[襲撃者が下へ向かうのを引き留めることはしない。
そちらには、また
城から消えたのか、あるいは自分の探知能力が歪められているのか。
元老が介在しているならば、どちらも同じくらいあり得ると思った。]
[首と肩の傷が塞がるのを待つのも兼ねて、しばし壁にもたれているうちに、胸の腫れがひいた。
薬液の効果時間が過ぎたか、血とともに有効性分が吸われたか──おそらくは前者だと思うが、後者であっても責任はとらぬ。]
この先、武器が必要になる事態も想定しなければな。
[二度の襲撃を経て、いっそうの護身の必要を感じた。
投獄前に愛用していた、かつトレードマークでもあった
代用品でもこの際、入手しておきたいと、昂然と顔をあげれば、正面の壁に先程までなかった扉が出現している。]
──…、
[これもまた元老の仕掛けだというなら、回避しても無駄だろう。
より酷い形で再び供されるのはわかりきっている。
リエヴルはドアノブに手を伸ばし、ガチャガチャと
― 鍛錬場 ―
[扉の先に広がっていた空間は、武術の稽古に使うとおぼしき鍛錬場と思われた。
その中央には、紅の刀身をもつ長剣が垂直に浮かんでいる。
あまりにお誂え向き──それはまるで、リエヴルの言葉を聞いていたかのような展開だった。
と、操り手の見えない長剣の切っ先が流れるように動き、リエヴルに向けられる。]
ほう──、
[唇を洩れた声は驚愕ではなく、愉悦を含んだものだった。]
ローレルが兎とか金糸雀とかに狙われ囲まれてて、まじ絵本w
そしていつまでも風呂w
風呂人気スポットだなあww ありがとうw
[魔剣の動きは果敢にして優美だった。
閃く刃と添うように体を入れ替え、受け流し、手中に収めんと試みる。
それもまた舞踏にも似たステップだった。]
[紅の刃が翻り、リエヴルは首を逸らして致命の一撃を躱す。
その指先は魔剣を撫でるように触れ、また離れた。
身体を密着させるダンスのごとく、両者の鬩ぎあいはさらに速度と喜悦と際どさをしてゆく。]
[魔剣とリエヴルの技量は互角。
いつまでも勝負のつく気配は見えなかった。]
あはははは!
おれに組み伏せられる相手ではないな。
ならば──真っ向、口説こう。
おまえを支配するとは言わぬ。
おまえが望むだけの間、この手に抱かせてくれ。
[胸に掌を置き、武人らしく率直な礼を示す。]
[鋼の思惑は未知数なれど、魔剣は抜き身のまま、リエヴルの腰に寄り添った。
傍目には剣を下げているように見えるかもしれないが、実際には浮いている。]
喜びを共に。
[歩き出そうとしたところに鈴を振るような音がして振り向けば、クッションを敷いた鳥籠の中に美麗な小瓶が置かれていた。
鳥籠の格子は開いており、取れと言うがごときである。]
[トラップならば、もっと選択の余地なく飲まされるだろう。
元老たちは強引だが、貴族趣味であることも多い。
これは、贈り物と見た。
魔剣の姿なき操り手からかもしれないと想像する。]
Para Bellum,
[すなわち「戦いに備えん」を乾杯の祝辞として瓶の中身を呷る。
濃密な薔薇の香りが滴り、身体に活力を蘇らせた。**]
― 書斎 ―
[ひとまず当初の目的地──書斎へ戻ろうと思った。
タクマがまだそこにいるかわからないが、いるならば情報交換もできよう。
蝋燭を灯して本棚の裏の通路を探ってみるのもいい。]
書斎へ戻るぞ。
[声に出して言えば、魔剣はリエヴルの側を離れずついてくる。
そのまま迷うこともなく書斎の前へ出られたのには、なんらかの意図の介在を予測させたが、どうせ答えは得られないだろうと問いはしなかった。]
[書斎の中には男がひとり。タクマではない、初めて見る顔だ。
身体を擦り、何か警戒するような気配がある。
ただ、どちらかと言えば逃げている側の印象だ。獲物を狙う目ではないと感じた。]
失礼、邪魔をする。
脱出口は見つかったか。
[戸口のあたりから声をかけて反応を窺った。]
風呂=ツェーザル(兎)・ローレル・シルキー(金糸雀)
廊下?=クロイツ・ジェフロイ?←エレオノーレ?
客間=ジャン・タクマ(羆)
書斎=アルビン・リエヴル
[こちらの存在に気づいた男は本を取り落とす。
何かに怯えてでもいるのか。
男の名乗りを聞いて、わずかに眉を動かす。
その家名を帯びる者が恐れるものなど、そう多くはないだろうと。]
リエブル・コウだ。
[同じように血統を知らせる。家柄的にも敵ではないはずだ。]
[そして、アルビンは自分の発見したものを惜しげもなく教えてくれた。
隠し物置。紫の繻子が敷かれているからには、貴重なものがあったはず。]
おれに心当たりはないが──
[タクマが発見した可能性はあると思った。]
ここに他に誰かいなかったか?
先程、おれはここでタクマという男と出会った。
見つけた隠し通路──ああ、その壁龕とは違う──の先を探索すべく、蝋燭を手に入れて戻ってきたところだ。
時間がかかってしまったし、一緒に行くという約束をしたわけではないんだが…
[タクマがひとりで探索に赴いたならそれで構わない。
ただ、危険であろうとは思う。
と、そんなタイミングで、アルビンが条件(?)つきながらも協力しあいたいと申し出る。
「故あって」とか、言葉を封じたままとか、一癖ある連中が多いことだ。]
何人が「団体」に当たるかは知らないが、
その窪みに嵌りそうなものについて、注意しておくことにしよう。
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