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− 箱船 −
[迷いなく返される答えに、もうひとつ息を落とす。]
人間に宇宙を諦めさせるには、人間そのものを滅ぼすしかないだろうよ。
そして、今、天使がしようとしていることは、まさにそれだと思うんだが。
天使たちが成し遂げると信じて、君らは地を捨てた。
理知的ではあろうよ。
ただ、善良かどうかは別にしても、
自分たちだけは天国へ行こうという考えには、意地悪をしてやりたくなるね。
それじゃあ、おれも自分の流儀を通させてもらおうか。
── 御子と箱船、分捕るぜ。
[詠唱を再開したマレンマに、ワァズごと突進する。
生け捕りにするつもりであった。
これまでの自分の”流儀”はそうであったから。
だが、
この時、ワァズは命令を待たずして、マレンマに業火のブレスを吐いた。**]
− 三年前 −
[しょぼんと引き下がったマチスは、なんだか雨に濡れた子犬のようだった。]
おれも声を大きくして大人げなかった。
互いに非を認めたんだから、詫びの品などいらない。
ただ、
[彼が差し出そうとしているのが、品物だけではないというのは感じとったから、頑な誇り高さを和らげる。]
ちょっとおれの部屋に来い。
[私室に連れ込んで、おもむろにシャツを脱ぐ。
均整のとれた、日焼けした精悍な肉体が現れる。
白手袋まで外せば、左手の肘から先が作り物であることはマチスの目にはわかるはずだ。]
いろいろあって義手だ。
[船員たちもダーフィトが隻腕であることは知らない、トップシークレットだと前置きして、]
ここに、おまえとおれの運命が交わった証をくれ。
整備は、おまえにしかさせない。
[ギミックを仕込むことで、ダーフィト自身をマチスの作品のひとつにするよう、求めた。*]
− 箱船 −
[飛竜の予想外の行動に虚を突かれた。
見開いた目に、月白色の翼が現れて炎からマレンマを守る様を目撃する。
そして、放たれた光の槍が飛来し、]
── ワァズ!
[ダーフィトを庇おうと首をもたげた飛竜の左目を貫いた。
金属の軋み。そして、吹き出す熱水。
白い紗幕が先程の翼の化現をなぞるように左右へたなびく。]
[なおも続く詠唱の声を耳にして、ダーフィトはガンソードの銃口をマレンマに向けた。
彼を優先排除すべき脅威と断じたアーティファクトの行動を是認する。
逡巡あるべからず、と断じ、連射を叩き込んだ。
《シャドウ・パレス》の船底はいよいよ頭上に迫り、天を覆っていた。
船体接触まで、あとわずか。*]
− 箱船 −
[守りの翼に阻まれ、鉛弾が威力を無くして落ちる。
だが、衝撃波が肉をとらえる音も確かに聞いた。
苦鳴を迸らせて踞るマレンマの反応は、超然としたこれまでの態度とはかけ離れた人間そのもので、
零れた血の赤さもまたそれを裏付ける。]
── チッ
[苦い自己嫌悪。
異母弟を遠乗りに連れ出して道に迷い、泣かせてしまった時のような。]
[同時に、マレンマの右手の結晶が先程と同様、猛って光を放っているのも把握していた。
持ち主が攻撃を受けた際に、自動反撃する類のタリスマンか、と判断する。
マレンマ自身が戦意を喪失していたとしても、攻撃をするのは危険であった。
しかし、箱船は上昇を止めず、マチスの改造を経て装甲強化されているとはいえ、このままでは《シャドウ・バレス》の竜骨が折れかねない。
機は今。]
おれがやる。
[ワァズを牽制するように宣言し、ダーフィトは飛竜の背から箱船の甲板に飛び降りた。]
loquimini in cordibusvestris super cubilia vestra et tacete semper.
(床の上で静かに自分の心に語りなさい)
[幼い頃、眠りにつく前に母が唱えてくれた祈りの言葉。
苦しみを長引かせぬよう、胎児のように丸められた首筋へと刃を振り下ろす。
影の天使の接近にはいまだ気づいていない。>>146 *]
− 箱船 −
[振り下ろした刃は、マレンマが動いたために首筋を捕らえ損ねた。
迎え入れるように開かれた胸郭を断ち割り、その奥の鼓動を貫く。
結果は、同じだ。
けれど、死の意味は、すり替えられた。
苦しみの終わりではなく、栄光の始まり。
殉教の陶酔に笑む双眸に、ダーフィトは憐れみと嫌悪を同時に感じた。
彼が天に捧げられるための鍵として利用されたと感じる。]
[マレンマには、まだ言葉を口にする力が残っていたらしい。
その声は重傷を負った者にしては滑らかに、そして澄んでいた。
それが最後の詠唱となり、箱船を包む光が脈動を始める。
危惧していた報復の光の発動はないかった。
けれども、より大きな異変が起きつつある。]
[ダーフィトは刃を手元に引き戻し、マレンマの血から羽化するような光の粒子を躱すように数歩、後じさった。
その足下に、光る触手めいた聖句の化現が這い寄る。
細くとも確かに実体のあるうねりだ。
ここにいては、マレンマと箱船もろとも繭に封じられると思った。
自分ばかりではない、このままなら《シャドウ・バレス》も巻き込まれる。
一刻も早く、]
[そう焦る一方で、ダーフィトの理性はギリギリまで冷静に布石を打った。
ガンソードを腰のホルダーに納める前に、右腕を突いて血を滴らせる。
それを、足下に振りまいた。]
御子の血が浄めになるならば、咎人の血は烙印であれ。
[ダーフィト自身に魔法の才はないが、教養として原理は学んでいる。
己が発動させることはできずとも、いつか触媒として使えるかもしれない。
退却するにも、やれるだけのことはしておく、それが身についている。]
ワァズ! 戻るぞ!
[呼ぶ声に応じて、飛竜がやってくる。
しきりと首を振り立てているのは、片目が潰れたせいで距離感がとれないためだろう。
声で誘導し、首に抱きつくようにして捉まえ、背中の定位置へとよじ上った。
そのまま《シャドウ・パレス》の甲板へ躍り出る。]
− 《シャドウ・パレス》 −
[飛竜からおりて艦橋へ走り、艦長代行とハイタッチをひとつ。
指揮権の返納は速やかに行われた。]
急速浮上!
箱船から離れろ。 巻き込まれるぞ。
[命令はただちに実行され、タンクのバルブが開放されて、タンクに詰められていた水が滝のように箱船へと降り注ぐ。
水はバラストでもあり、スチームエンジンにとっては欠かせない動力源でもある。
それを捨てるということは、ふたたび補給するまで、長時間の連続運用ができなくなるということであったが、逡巡はなかった。
身軽になった飛行艦は伸びてくる光の糸から逃れるように浮上を開始する。*]
− 《シャドウ・パレス》 −
[マレンマの赦し>>162がダーフィトに届いていれば、彼の瞼を閉じてやってから去るくらいのことはしたかもしれない。
現実には、ダーフィトは艦長としての立場に復帰し、矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。]
あの箱船に、通常弾はおそらく無効だ。
場合によっては天使が大挙して護衛に駆けつけるぞ。
今は友軍の援護に徹する。
− 現在 −
マチス、おそらく何処からもあがっていない報告をしておく。
首都エリアから離陸した未確認飛行船上において、民間人マレンマ・フリーデル ── 当人はマレンマ・リヴィエルと名乗っていたが ── を殺害した。
未確認飛行船は現在、上昇を停止しているが、これから何があるかはわからない。
気をつけておいてくれ。
そして、《シャドウ・パレス》は、そろそろ戦闘終了を視野に入れている。
[六翼の天使の姿までは確認できなかったが、その投げかける光の鮮烈さは士気に響くほどだ。
マレンマが斃れても、天軍が崩れたつ気配は欠片もない。
宇宙船が道をつけたとはいえ、後に続く者がないのが現実だった。]
これは、指揮官を落とせなかったか。
厳しいな。
[苦くとも現状把握はしっかりとしておく。]
[マチスまでもがマレンマと知己であるという認識はなかったが、声の調子から察するものがあった。
親友のコンラートの”弟”ならば、マチスにとってもそれに近いものなのかもしれない。
天使が奪うのは、空だけではないのだ。]
地上に戻ったら、殴られても文句は言わん。
コンラートにも、そう伝えてくれ。
そろそろ《ホーネット》たちも残存航行時間を見越して戻るはずだ。
整備班、スタンバイ。
通信班、地上部隊と手旗交信できるか。
戦闘後の着艦場所確保と補給を申請しておいてくれ。
なんなら、デューラー臨時元帥に、ダーフィト船長からの依頼だと伝えよ。 それでなんとかなるはずだ。
− 三年前 −
[マチスが提案するギミックの説明を楽しんで聞いていた。]
握る武器と連動する魔法的効果か。
特定の組み合わせでより強力な能力を発揮する、というのが友情みたいでいいな。
隠し武器的要素もある。
[その路線で頼む、と頷いた。]
今夜、おまえの送別会を開く。
その時は、作業を止めて必ず出席すること。
おまえが改装したキッチンを活かして、おれが手料理を振る舞うからな。
[スピーチか隠し芸でも準備しておけよ、と笑った。*]
− 《シャドウ・パレス》 −
[帰還する《ホーネット》に混じって、共和国軍臨時本部からの連絡員が複葉機からパラシュートでやってきた。
返信ついでに飛行場までのナビゲーターを務めるという。]
北部の山岳地帯? 遠いな。
いや、なんとか無補給で辿り着けるとは思う。案内を頼む。
デューラー臨時元帥はそこにおいでか?
[さすがに機密です、と言われたが、目線の動きで、まだ本部にいるのだろうなと予測はついた。
いつも艦長代行を任じている旧臣を見やると、「御意のままに」と唇が動いた。]
[天使らは、人間の退却に対しどう出るだろうか。
ダーフィトが艦を艦長代理に託して勝手をするのは、それを見届けてからではある。
行き先は共和国軍本部だ。
マチスと、彼を通じてコンラートに約束したことを果たさねばならない。
そして、可能ならばデューラー臨時元帥とも会っておきたかった。]
ワァズ、 まだいいよ。
[光の槍に貫かれた頭部の自己修復はまだ完了していない。
どこか動きのぎこちないオートマタを撫でてやりながら、ダーフィトは時を待った。*]
− 三年前 −
[マチスの設計はどれも面白そうだったが、ダーフィトは2丁揃いのガンソードを選ぶ。]
生身の右手で扱う方は実弾を、魔装連動させる左手の分は気弾を、と使い分けてみたい。
[遠慮なく要望を述べてみた。*]
− 現在 −
《シャドウ・バレス》を、ファレーズ飛行場に係留する許可をもらった。
補給と修理が必要なんだが、おまえの手が必要なほどの損傷じゃないから、駆けつける必要はないぞ。
おれもいないし。
おれは、本部の方に顔を出すつもりだ。
紹介状? ないとダメだって言われたら、おまえの名前出すから。
最初っから案内するよっていうなら、《シャドウ・バレス》に迎えに来て?
[作戦本部どこにあるかよく知らないし、と、しれっと告げた。]
− 三年前 −
[マチスがガンソードとサイバネティクスの連動を仕上げた最後の晩、《シャドウ・パレス》の食堂では宴の準備が整っていた。
塩漬け魚のフリッター、塊肉と根菜のビール煮込み、粒割コーンスープ、岩塩ラード乗せライ麦パン、果実酒。
ピンにつけられた小さな紙旗に「マチス最高」とか「早く彼女作れ」とか、艦員それぞれからのメッセージが書かれ、刺してある。
そんな肉体労働派の料理が並んだ後、ビアジョッキを利用した、ビッグサイズの焦がしキャラメルプリンが提供された。]
遠慮なく食うがいいぞ。
あ〜ん、してやろうか。 ふっふっふ
[そんな無礼講の食事をしながら、宴たけなわともなれば、マチスは即席のステージに引っ張り出される。
スピーチタイムだ。*]
− 現在 −
ワァズ、犬になったら乗れるんじゃ?
でも、その位置情報があれば、自力で辿り着けると思う、ありがとうな。
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