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アレイゼル卿、
『たまごプリン』はクレメンス殿によってアレンジされた新生ナミュール菓子だ。
おれもそのレシピ欲しいぞ。
[とはいえ、ソマリに声をかけたのは張りあって値を釣り上げるためではない。]
まあ、マチュザレムの菓子はプリンひとつにあらずだ。
他にも、カルメ焼き、カスタードエクレア、ロールケーキ、チョコフォンデュ…
もし、貴卿が同好の士だというなら、交歓はやぶさかではない。
パティシエ裸足の腕をもつこのシメオンを、貴卿にお預けしようか?
──むろん、お安くはないが?
おっと、勝手に提案したが、おまえを売るワケじゃないからな。
アレイゼル領というのは、件の神殿や太古の森を含む一帯だったはず。
そこの領主についてゆけば、余計な詮索もされず、向かうことができるんじゃないかと思ったんだ。
それに、新しい文化に興味ある人は、開国についても否定的ではないだろう。
よしみを通じておきたい。
頼めるな?
ああ、この任務、おまえの他にできるヤツはいない。
頼りにしてる。
ついでに、こっちの料理人のスイーツレシピもゲットしてきてくれ♪
[やっぱり私欲も皆無ではない。]
[仕方ない、とクレメンス邸の門をくぐりながら、もう一度だけ振り返る。]
──それにしても、見事な兵の掌握ぶりだ、
ソマリ・フル・アレイゼル。
ああ、フられたー
…おれは、彼の領地で救助された同胞の身柄を取り戻したかったんだよ。
[お安くはないもの──それは使節団のメンバーの命だ。]
彼も頭の切れる男のようだから、異邦人だという理由だけでむやみに殺したりしないと願いたいが…
ただ、彼の領地で行動するリスクは高くなったように思う。
[シメオンが指摘したとおり、こちらについてすでに調べはつけているのだろう。
そして、使える手勢もある男だ。]
シメオン、どうしようか。
[宝珠の情報は欲しいが、シメオンを危険にさらしたくはないという葛藤が声に滲む。]
[そう前置き、ひとつ呼吸をおいた。]
あなたが侵略を危惧していることはわかった。
巫女姫がどれだけ大事な存在かということも。
つまり、あなたの冷静な分析に照らせば、この国には今、国体を脅かす状態が訪れた場合、対処する能力がない──正直にそう認めるということでよろしいか。
[侵略者と仮装する国の使節に答えたくないことだろうが、カナンは直情だった。]
ありがとうな。
[危険を承知で、行っても良い、と返る答えにしみじみと呟く。]
現在進行形の会談次第では、状況が変わるかもしれない。
今すぐ出発しなきゃならないワケでもないから、ちょい決断先延ばしにしよう。
[菓子作りにキッチンへ向かうというシメオンの依頼には、おう、と承諾の声を投げておいた。
甘過ぎない菓子とやらに興味津々だが、そちらに気をとられてもマズい。
アレクシスの発言や様子をかいつまんで流す。]
「最恵国待遇」という言葉をご存知か。
ナミュールが、マチュザレムと最初に修好条約を結べば、他の国はその条件より悪い条件をナミュールに課すことはしないという、国際社会の取り決めだ。
無理にでも結ばせようという国があれば、最恵国たるマチュザレムがナミュールに協力してそれを防ぐ。
侵略を受けてから、無理矢理に酷い条件で国交を結ばされる、あるいは植民地化されるのを避けるにはそれがベストの選択肢だ。
言われるままに開国してみて、マチュザレムが率先してナミュールに無体を働いたら取り返しがつかないという不安はわかる。
それに関しては、わたしの生国の例を保証にするしかない。
セドナはマチュザレムに訪われ開国したが、いまだ君主制を維持している。
マチュザレムは内政干渉はしない。
ただ、世界地図に空白があるのを許せない国民性なんだ。
この国の国体を──姫巫女を護りたいならば、マチュザレムと組むべきだ。
マチュザレムは、ナミュールの開国を──人と物資の自由な行き来を望む。
マチュザレムは、ナミュールに内政干渉を行わない。
マチュザレムは、己の権益を犯そうとする諸外国に対し、ナミュールに協力してこの国を護る。
──どうしても呑めないものがあるだろうか?
[理論的に、だが熱意をもってアレクシスに伝えた。*]
うん、彼らの不安はもっともだ。
これまで巧くやってきたのに、来られても困るって言いたくなる気持ちはねー、あるよなー
ただ、もうすでに「開国したくない」という気持ちだけでおれたちの同意が得られる段階じゃないこと、わかってもらわないと。
ベルサリス学館の若者たちはすでに、「開国後、いかに外国の侵略からこの国を守るか」を考えている。
それと同じレベルで話しあうならば、反対派の命題は「開国せずにすむために、如何にして外国の目を逸らすか」ではないのかな。
最恵国待遇を受け入れた時点で反対派は反対派じゃなくなるのだし。
もし反対派に、「開国しないまま外国を侵略できる方法」まで組み立てて動けるヤツがいたら──、立場は逆になるけど。
会ってはみたい、 ような。
[そんな危険な敗北の期待は、友だけに零すもの。]
[理解はできても、信用はできないとアレクシスは告げた。
同じ人間が説得をして、クレメンスとは正反対の答えが生じたというわけだ。
これが人の人たるおもしろさだと思う。]
あなたの立場で、そう言ってもらえたなら、
おれが伝えたかった意図は伝わった──そう判断していいと思っているよ。
[あくまでも前向きに受け止めて、指先を組む。]
ユレ殿、ひとつ個人的なことを聞いてもいいか?
あなたは過去にベルサリス学館で教鞭をとっていたと話していたが、
そこで何を教えていたかより、「色んな種類の人間が居て、議論には事欠かない」場所で、あなたが何を感じ取ったかの方に、おれは興味がある。
あなたは、あそこで何を学んだ?
先代がセドナを開国すると決めたとき、死をもって諌めた臣がいたと聞いている。
その苛烈さに恐れをなして黙ったのは、むしろ開国反対派だったそうだ。
権益を護りたいだけの者たちは、命を賭してまで反対する意志がなかったんだろう。
あなたも、あまり苛烈にならないよう──
[老婆心とも思ったが、アレクシスにそう告げておく。]
次は、大使として巫女姫に親書を渡しにゆく。
どうかご健勝で、とお伝えしてほしい。
[そろそろ国交に関するこの場の会談は幕だ。
シメオンが運んで来た新しい菓子にあわせるよう、カナンは使用人に代わり美味しい茶を手づから淹れるべく立ち上がった。*]
温度が命──なるほど。
[室温や器の材質などで微妙に違って難しいのだろうなあと思う。]
細心の注意を払って、こんなに美味しいものを作ってくれるおまえにいくら感謝してもしたりない。
おれの身体はほとんど全部、おまえが食わせてくれたものでできているんじゃないかな。
[そう思えば、なおのこと大切にしないといけないと思える。]
おれの原動力な、ほんと。
ガキの頃、セドナにはこんな潤沢な菓子はなかったから、マチュザレムの文明に毒されたといえばそうなんだけどな。言わせておくー
今日もいろいろあったけど、ご褒美もいっぱいだったぜ。
[これからもよろしく、と殊勝な口調でニッカリ。**]
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