情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
いや、…あ…うん、機会があったら。
[彼は昴を素直というけれど。
自分の好きなひとを忠告したのに奪った相手と話したいだろうかと。
疑問が残る。
けど、もしそんな機会があったのなら。
逃げずに向き合おうと。
こくりと頷いて。]
うん、そうね。
お見合い…しているのかなぁ?
だって昴は榎國さん第一だし、私達女子って男子が思う程、仲良くないのよ?
[一度昴とは話さなければならないとは思っている。
退部の事ではなく、お互い同士の事で。]
俺のって…
[髪を梳かれる感触に、胸が跳ねる。
呆れる風にして溜息を吐いて、動揺を逃がすけれど。]
そう言う簡単な問題じゃないの、女子って…。
[もう、勝手言ってくれると溜息を吐く。]
ハンバーグの誘惑? 私何か言ったかしら?
[首を傾げて問い掛ける。
本気で覚えがないから、きっと些細な事なんだろうと片付けてしまう癖があるだなんて。
小さなことにくよくよ悩んでいる所しか見たことのない彼には、きっと理解しがたいだろう。
まぁ、付き合っているといっても、未だ手を出さない彼の考えも少し理解できないけど。]
うん…実は少し眠いかも。
だから帰る前に――…
抱っこじゃなくて…
[早口になる姿に、小さく噴き出すと。
私はそっと彼の額に唇を寄せる。]
ジルから…お休みのキス位は、欲しいかなって。
思っていたんだけど、な…**
[海に浮かぶ月を眺めるのも。
良いねと微笑みを浮かべながら。]
はっ!! 三途の川の向こうで死んだおばあちゃまが手を振ってた…。
[悪い夢から飛び起きると、辺りは暗く。
しかも見たことのない天井に、一瞬私は誰かに拉致られて暴行されたのかと思うけれど…]
手は、縛られてない。
痛みも、ない。
おまけに聞き覚えのある音がする。
あれ、私何してたんだっけ…。
[低く唸るモーター音に耳を澄ませながら。
昨夜のことを振り返る。]
―― 昨夜 ――
[ジルと入り江からの帰り道。
少し背伸びして強請った恋人としての甘えは、家族のキスのような清潔さでそれ以上進むこともなく。
気遣われたままいつもの場所に戻って、別れていた。
その後、寝付けない事を口実に、オーディオプレイヤーを片手に再び独りで海へ行き。
私はずっと打ち寄せる波に擁かれていた。]
まさか世間のジンクスが、私のジンクスを打ち破るとは…。
[私は過去二度ほど。あの入り江で告白をしたことがある。
結果は惨敗。
だから私にはこの海での良い思い出があまりない。
それでも、少しずつ塗り替えられていく記憶に。
けれど引っ掛かるのはやはり昴の事で。]
あの果敢無さは、まるで泡沫人みたい。
[海にまつわる童話。
――嗚呼、人魚姫みたいだと。
彼女を美しくも果敢無く消えゆく物語に準えて。]
…それだと私、完全に隣国の姫よね。
[乾いた笑いで一蹴して。海を見つめる。
昴にとって私が横取りする姫ならば。
それよりももっとひどい呪いをかける魔女でも良いだろうと。]
…茨姫? ってこれこそ的確すぎて笑えない。
[童話に準えて、彼女との距離を推し測ろうとするのは。
もう、これ以上私のエゴで、彼女を傷つけない為にも。
離れた方が良いのではないかと思うからであって。]
やっぱりそれって、逃げ…か。
[ヘッドフォンから流れる曲は、よく失恋していた時に聞いていたバラード。
私はこの場所に来て、ジルという愛を得、昴という恋を失ったのかもしれないと。
哀しみのフレーズは、ずっと耳に静かに響いていた。]
―― 現在 ――
[空が白み、朝日が昇るのを見届けて。
ふらつく足許で何とか裏口まではたどり着いたものの。
その後、ビールケースを抱きかかえたまでは覚えがあるけれど、その後の事が判らない。]
と、とりあえず起きなきゃって痛っー!!
[元々人の気配があると眠れない神経質な一面に加え、ゴタゴタで部屋を抜け出し、挙句食事もろくに喉を通らなかったツケが回ってきたのだろうか。
動くと身体がぎしぎしと軋み、痛みが走る。]
あははっ…笑えない。
[それでも這いずる様に布団を出ると、手に、膝に畳の感触。
あれ? これってもしかして…。
と、部屋を出ると同時に。
私は店長に頭を叩かれたのだった。]
[出会い頭に遭った店長から、こってり搾り取られながら。
早朝以降の話を聞く。
ビールケースに伸した私を店長が休憩室に運んでくれたこと。
その間に森下くんが溺れ、昴が助けていたらしいこと。
今は鳴神くんが統率を取ってバーベキューをする話になっているらしいこと。
おまけに昨日は夜釣りに行き、ライフセーバーのバイトもしていたというおまけつき。]
おのれ…向こうに居たなら何故クーラーボックスを…。
[恨み言を言うが、それなりに他のメンバーはイベント事をこなしているらしい。]
それを聞いて安心しました。
人間関係でちょっとギクシャクしちゃってたので…。
ほら、そういうのって伝染しちゃうでしょ? だから…。
[歳の離れた大人になら。
こんなにも素直に打ち明けられるのかと思いつつ。
打ち明けると、バーベキューに参加しないのかと言われる。]
え、だって…私、誘われてないし。
それに私が行ったら空気悪くなること請け合いだもの。
[と言ったら思いっきり頭を叩かれた。
痛い。頭がジンジンする。
こんなに思いっきり叩かれたのって何時以来だろう。
泣ける。
涙目になりながら店長の語気の強まった言葉を聴く。
ガキなんだから、誘われてなくても「混ーぜーて!」で良いだろうって、未就学生じゃあるまいし。
一応成人しているんですが?
と、言い返したら俺にとってはお前らはみんなションベン臭ぇガキだと言われてしまった。
流石にぐうの音も出ない。]
……えぇ、じゃぁ混ぜてって言ってみたいと思います。
恥ずかしいけど。
でも…もし無視されちゃったら店長恨みますからね!
[キッ! と強い視線を向けてうんともすんとも言わなくなったスマートフォンを見る。
お説教を喰らっている間に、少しは充電されたらしい。
さて、伺いのメールは誰に出そうかしら。
無難な所で小津宮くんなんだろうけど、違う所からの攻撃が怖い。
という訳で私は榎國さんへメールを打ってみることにした。]
榎國さんへ
急にごめんね。
店長からバーベキューの話を聞いたんだけど、
私も参加していいのかな。
詳細、教えてくれると嬉しいです。
[おどおどしながらメールを打ち。
送信終了と共に泣きそうになりながら顔を上げる。]
ほ、ほら! 返事が来ないじゃないですかぁ!
[って言ったらまた思いっきり殴られた。
ハイそうですか、早とちりですか。すみません。]
[ぶうぶう文句たれながら外へ出ると、違うメールに気付き、内容を見ると一瞬戸惑いが生まれる。
けれど――]
…駄目なら引き返せばいいか。
やらないより、やって後悔したいもの。
ごめん、昴。
私でよければ行く。
というより来るなって言われても行くから。
[駆け出しながらメールを打ち、送信を押す。]
形切さんへ
いいけど、あなた一人だけで足りないと思うの。
だから入り江の近くまでは行くわ。
あとはあなたに任せるから。
[何もないとは思うけれど。
何かった時の為には人手が必要だろうと付け加えて。]
[榎國さんからのメールにはっとする。
また余計な事を…と頭を抱えるけど。]
大丈夫。大したことないわ。
変な心配させてごめんね。
[と一文打って送信する。]
[掛け入る後輩の姿を見届けて。
私は物陰にずるりと滑り落ちるように腰掛ける。
きっと各々が各々の事情があるだろう。
自分が来るべきでなかった事は悟っているけれど。]
でも……
[子どもは楽だ。喧嘩してもごめんねですぐ仲直りできる。
だけど私たちは、いつから大人ぶって拗れるような事をしているのだろう。
店長の言うように、私たちはまだ学生で青臭いガキなのに。]
それに、一応私、年長だし…。
少しはみんなの役に…立てて…ないか。
[それでも全てが終わるまで見守ろうと。
呼吸を整えて耳を澄ませる。]
[物陰に隠れていたため、丈二くんからは私は見えなかっただろう。
兎も角、此処はもう大丈夫そうだと判断すれば、私はほっと胸を撫で下ろし、入り江を一瞥して海の家へ戻ることにした。
昴の事は形切さんだって想うことがあるだろうから。
彼女に任せて。]
―― 海の家 ――
[地元だからこそ知り得る近道を辿り。
海の家に戻るなり、私は榎國さんへ微笑みかける。
勘の良い彼女の事だから、恐らく向けた笑みに幾許かの意味が含まれている事は悟ってくれるだろう。]
というか私はどこを手伝えばいいのかしら。
[男二人がキャッキャウフフと野菜の切り方を教え教わっている様を生温かい目で見守りつつ。]
とりあえず串に差せばいいのかしら。
[バーベキュー?
そんなハイカラなもの、食べるに徹するに決まっているじゃない。]
店長、生ビールのサーバー使っても良いですか?
え? 洗浄? あぁ、私できますよ。
というよりバイト初日に上がったら一杯いただこうかと思っていたんですけどね。
[誰かさんの所為でありつけなかったことを思い出し。舌打ちでもしようか。]
はーい、じゃぁお借りしますね。
お代はうちの副部長が出すそうなんで!
[恨みは即現金にて清算する。]
[教えてくれる榎國さんに、短くお礼を告げ。]
榎國さんって手際いいのね。
[そう言えばオーダーもかなり捌いていたなとぼんやり思い出す。
と、後ろから噴き出す声が聞こえて振り向くとジルの素姿が映る。]
だって聞こえるように…ってそこ笑う所なの?
[よく解らない、と表情を浮かべるも。
釣られて噴き出してしまった。]
そういえば、森下くんは?
[溺れかかったとは聞いていたけれど。
無事だろうかと、結局サーバーを引っ張り出すと紙コップに注いで。]
鳴神くん、飲む? それとも他のが良い?
ちょっ…ちょっとは…、もう…
[小津宮くんのハリセンは、いい仕事をする、と語ちりながらも。
それでも嬉しいと思ってしまう私は、既にアルコールに酔っているのかもしれない。]
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