情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
―村はずれの自宅―
かぁちゃん待ってよ、あと5分でいいからさぁ……。
[自室の粗末なベッドの上で、頭から布団を被ってもごもごと不明瞭なうわ言を零す。
窓から差し込む日差しは、悪天候のせいでおぼろげだ。
朝を告げる小鳥の囀りの代わりに響くのは、びゅんびゅんと唸る風の声。
ガタガタと窓を揺らすそれに、被った布団を更にぎゅっと引っ張った]
こんな天気なんだし、もうちょっとのんびりさせてくれよー。
[昨日はカタリナに一方的に不満をぶつけて、放り出して帰ってきてしまった。
その事を考えると妙に寝付かれず、おかげさまで今日は寝不足なのだ]
[「馬鹿言ってるんじゃありません! 吹雪くなら雪掻きもしなきゃ駄目だし、酷くなるようなら非難しなきゃいけないでしょう!」
対峙する母親はひどい剣幕で、一人息子の言い分など聞く耳持たず。
容赦なく布団を剥ぎ取ると、ペーターをベッドからぽいっとつまみ出した。
寒さで冷えた床の上に落とされて、痛みより冷たさに跳ね起きる]]
ちょっと母ちゃん、あんまりだって――
[問答無用にも程がある。
情けない抗議の声を絞り出して、母親を見上げた瞬間だった]
[不吉を報せる鐘の音>>15が、村中に響き渡る。
思わず親子して顔を合わせ、ぱちぱちと目を瞬かせた。
数秒の間を挟んで、「集会の知らせだわ。朝食前でわるいけれど、ちょっと行ってくるわね」と母が部屋から飛び出してゆく。
妙な胸騒ぎを感じながらも、母が外出の支度を済ませる物音を呆然と聞いていた。
窓の外を眺めて、雪がひどくなりそうだから避難するようにという通達でも出るのだろうかと思案する。
数分後、すっかり防寒具で身を固めた母が、「何かあったら、ご近所の牧場に行ってなさいね」とペーターの部屋に顔をのぞかせた]
えぇー、ヤだよー。
オレ、昨日カタリナと喧嘩しちゃっt「だったらとっとと謝ってきなさい!」
[ごねる息子を有無を言わさぬ口調で黙らせ、母は慌ただしく家を出てゆく。
一人家の中に取り残されて、途方に暮れたよう溜息を吐いた*]
な、なんだ今の……!
[位置的に、何が起こったのかは伺い知ることができなかった。
けれど吹き荒れる雪の中、街へ向かう道の方からざわめきが聞こえてくる気がする。
反射的に半歩後退して、そちら側をじっと見つめた]
ど、どうしよ。
……おばちゃん達に何が起きたのか聞いてこよう!
[迷ったのは、ほんの数秒。
ややおいて、意を決すると柵に足をかけて乗り越え、牧場の中へと駆け込む]
おばちゃん、カタリナ、いるのかー!?
何か今、向こうからすっごい音が……
[玄関まで踏み込んだところで、異様な空気に言葉を途切らせた]
あれ、おっちゃんもいるんだ?
さっき、集会を報せる鐘が……。
[よく見知ったはずのカタリナの父親が、今まで見た事もないような沈鬱な表情をして押し黙っている。
隣に寄り添うカタリナの母親は、泣きはらした目を更に潤ませた]
……どしたの?
[急に、心臓を鷲掴みされたような不安がせり上がってくる。
いつもの口振りで、でも表情を強ばらせて、彼らにぎこちなく問いを投げた。
帰ってきた、答えは――]
[カタリナが、伝承と同様に氷漬けの状態で死んでいた、というもので]
……なに言ってんの?
[耳にした情報を、真っ先に脳が拒絶した。
双眸を見開いて、意味の理解できない言葉の羅列として、カタリナの両親の話を聞く。
カタリナが、死んだ。
麻痺してまともに働かない頭の中に、受け入れがたい異物のようにその言葉が漂った。
急速に世界が色を失って、現実感が消えてゆく。
まるで、夢の中で自分を俯瞰しているかのようだった]
……嘘、だよ。
[理解、できない。したくない]
だってカタリナ、昨日は元気で……。
オレ、一緒にパン分けあって食べたりしたんだぜ。
それで、つまらないことで不貞腐れて、それっきりで……。
[声が惨めに震えて、目の前が滲む。
理解なんてしたくない。
そのはずなのに、喋りだすと悲しみが溢れ出してきて、抑えが効かなくなった]
だってオレ、カタリナにきちんと謝ってない……。
……っ、そんなの、嘘だ!
[弾けるように声を荒げて、カタリナの両親へ罵声を叩きつける]
カタリナが死ぬわけねーじゃん、タチの悪いジョーダンやめろよ!
オレ、カタリナに謝らなきゃいけねーんだよ!
謝って、また一緒にくだらないハナシとかして……!
[日常を、取り戻せるつもりだったのに。
一夜明けたら、当たり前だったはずのそれは、二度と手の届かない所に行ってしまった]
っ、そんなの、そんなの信じねーよ……っ。
頼むから、嘘だって言ってくれよ……!!
[気がつけば、涙を零しながらカタリナの父親に掴みかかっていた。
嗚咽が次第に慟哭に変わり、自分でも何を言っているのかわからなくなる。
彼の胸板を叩いていたはずが、いつしか服を鷲掴みにして、縋り付くように泣き叫んでいた]
絶対、絶対に信じねーよ!
なんで……っ。
[傍らで、カタリナの母親の嗚咽が高まるのを聞く。
その声が、他の何よりも明確に、カタリナが二度と帰ってこないことを告げていた。
殴られたような気分になって、歯を食いしばって項垂れる]
嘘だよ……。
[何度目になるのかわからないその言葉は、力なく掠れて、自分自身にも聞き取れない。
……あぁ、もう駄目だ、と胸の内で妙に冷静な声がした。
――もう無理だ。
本当にカタリナは死んだんだ、これ以上自分を騙しきれない]
[どれくらいそうしていただろうか。
唐突に二度目の轟音が響き渡り、家が小刻みに震える。
カタリナの父親がハッと顔を上げて、縋り付くペーターの肩を掴んだ。
「とにかく、ここは危ないから避難した方がいい。ペーターのお母さんは?」
問われて、初めて母がここに訪れる気配がないことに気付いた。
のろのろと顔を上げ、彼の顔をまじまじと見詰める]
……集会に行って、それっきり。
[いつもなら、とっくに迎えに来ていていい時間だ。
口元を押さえて、項垂れた。
頭の中がぐるぐるして、何もまともに考えられない。
カタリナが死んでしまって、母も戻らなくて、外からは遠く悲鳴や叫ぶ声が聞こえてくる。
――全部、たちの悪い悪夢だったらいいのに。
目を覚ませば皆無事で、何も起こってなくて、それで今度こそペーターはカタリナに謝るのだ。
昨日は勝手に怒って、置き去りにしてゴメン、と。
本当に、そうなれば良かったのに]
[放心したペーターに、家に帰るより宿に向かったほうがいい、とカタリナの父親は促した。
虚ろな目で彼を見つめて、機械的に首を縦に振る。
だってそれ以外に、どうしていいのかわからない。
送り出されるまま足を踏み出して、外の吹雪の中にまろび出た。
数歩だけ進んで、呼び声に振り返る。
玄関から飛び出してきたのはカタリナの母親で、その手に一冊の日記帳を持っていた。
これを預かっていて、と手渡されて、目を瞬かせる]
これ、何。
……誰の日記帳?
[問いかけながらも、答えはわかっているような気がした。
――カタリナのだ。
彼女の母親は答えを返さず、早く行きなさいと暖かい手で背中を押す。
逡巡の後に、こくんと頷いて唇を引き結んだ。
きっと、この日記帳は彼らにとっても大切なものだろうに。
そんな重要なものを預けてくれたのだから、ぼんやりなんてしていられない。
虚ろだった瞳に微かな光を取り戻して、カタリナの両親へ手を振った]
ありがと、大事に持ってる。
……おっちゃん、おばちゃん、また後でな!
[言って、今度こそ確かな足取りで雪の中を走り出した**]
―宿―
[降り積もる雪に足を取られ、風に行く手を遮られながらも宿に辿り付いたのは、日頃の倍以上の時間をかけてから。
芯まで身体を冷やす風雪に、指先の感覚などはとうに失ってしまった。
悴む手で苦心してノブを捻り、雪まみれのまま宿の中へと身を滑らせる]
母ちゃん、母ちゃんここに居んのかー!?
[突如吹き込んできた雪に、扉の周囲にいた者はいい顔をしなかった。
構わずに、宿の中へ向かって声を張る。
見知った顔、見知らぬ顔。
宿の中に集まる人々を順に見詰めたけれど、その中に母の姿を見る事はできなかった。
……返事も、戻ってこない]
[室内の暖かさで緩み始めた雪を、髪からぽたぽたと滴らせながら、ドアの前に佇んで床に視線を落とした。
たったひとりで取り残されてしまったみたいに、途方に暮れた気分になる。
けれどすぐさま首を振ると、パッと再び顔を上げた。
ペーターの乱入で一瞬静まった宿の中には、再び人々のざわめきが舞い戻ってきている。
『伝承と同じ』
『雪崩で分断』
『人 狼』
断片的に聞こえてくる話題は、少しも気分を明るくしてくれそうにはなかった]
[オットーの元へ向かう途中、呼び止められて足を止めた。
視線を移せば、村長であるヴァルターが母の事を問いかけてくる>>196]
……うん。
母ちゃん、集会に出かけてそれっきり……。
[何かあったら牧場で待っているように、と言い聞かされた事を思い出す。
もしかしたら、牧場に向かう途中に雪崩に巻き込まれたのかもしれない。
状況が状況だけに、込み上げてくる想像は暗いものばかりで、慌ててぶんぶんと首を振った]
カタリナのトコにオレを探しに行って、そのまま雪で動けなくなってるのかも……。
[まるで自分に言い聞かせるように、希望的観測を口にする。
ここで待っていなさいという言葉には、無言のまま首を縦に振った]
[そうしていると、オットーがティーカップを差し出してくれた>>205]
……ありがと。
[言葉少なに礼を言い、落とさないよう気をつけながら、冷えた手でティーカップを受け取る。
カップから指先に伝ってくる温かさだけは、こんな状況でも心を慰めてくれた。
――と、次いでオットーの口から飛び出してくるのは、彼自身の父親の口真似で]
…………。
[ぱちぱちと目を瞬かせた後で、強ばった表情をようやく崩す]
なんだよ、兄ちゃん全然似てないよー!
もっとこう、眉間にシワ寄せて怖いカオしないとさー!
[表情を実演してみせながら、いつものようにそんなおどけた言葉を返した]
[そんなたわいのないやり取りをしているはずなのに、目の端に滲むのは涙。
安堵で気持ちが緩んだのか、視界を歪ませるそれに慌てて目を擦って下を向いた]
ありがと、そうする。
母ちゃんが見つかるまで、オレもっとしっかりしなきゃ。
風邪ひいてらんないもん。
[ほんのすこし鼻声になった返事を投げて、暖炉の方へとティーカップを抱えて走り出す]
[暖炉の前までたどり着くと、座り込んでずずっと音を立てながら紅茶を一口。
お前にはまだ早いから、と母親はペーターに紅茶を飲ませてくれた事はなかった。
いつも、「独り占めズルいよ、すっごく美味しいんだろ!」と子供っぽく不貞腐れていたものだ]
……思ったより、ちょっと渋いや。
[これなら、いつもの林檎ジュースの方がずっと美味しい。
道理で、まだ早いとお預けをくうわけである。
……それでも、暖炉の炎も温かい紅茶も、冷え切った身体を温めてくれるものには違いない。
一口、また一口と飲みすすめる内に、あっという間にティーカップは空になった]
カタリナ、ごめんな……。
[項垂れて、今さらのようにこぼすのは、もう二度と届けられない少女への謝罪。
唇を噛んで、日記帳の表紙に目を落とした。
……今はまだ、これを読む勇気が持てない。
ふるふると首を振って、挫けそうになる気持ちを追い払う]
[そのまま、二人が言葉を交わす様子をなんとなく観察した。
思い出したように濡れて重たくなった防寒具を脱いで、珍しくきちんとたたむ。
カタリナの日記は、畳んだ防寒具の中になんとなく隠した。
視線を移せば、見知らぬ旅人がうずくまるシモンに手を差し出している姿が目に入る>>224
その近くには、昨日ひと悶着あったディーターの姿>>256
彼が宿のドアを開く様子を見守って、あれじゃしばらく誰も避難してこないだろうな、となんとなく思った。
そんな内心の呟きと、それを裏打ちするように村長が口を開くのは同時>>227
先ほど姿を見た気がするリーザは、手伝いにでも行っているのか、今は見当たらない。
表面上は立派な神父なのに、堅苦しいだけでなくて口が悪い一面もあり、親しみが持てるジムゾン。
珍しい物を取り扱っているので、姿を見かけるたびにいつもまとわりついている相手のアルビンが、頃合を見計らったようにそれぞれ引き上げてゆく]
[なお、お風呂云々の遣り取りは聞こえている>>280
聞こえてはいるけれど、異性を気にし始めるお年頃なので、あえて口は挟まなかった。
……というか、慌てて視線をそらしてわざと聞こえないフリをした。
今は回りの様子を観察するのに忙しくて、姉ちゃん達の会話は聞こえてませんよ、という演技をする。
その仕草が実にわざとらしい事など、自分では気づかないのである。
なお、これが日頃なら、何か悪戯しーちゃお! となるところである。
流石に今はそんな気分になれないし、この状況で悪ふざけをするほどお馬鹿ではないけれど。
――日頃の罪状を知るパメラには、釘のひとつやふたつ、刺されても仕方ない状況ではあった**]
/*
このタイミングで変顔入れるのどうよ!
と、思ったけれど、一番ぴったりくる表情がこれだったんだよ、っていうな……!(
我ながら、ペーターも残念な子である……!
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新