情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新
行ってまいりますね。
[付き人と別れ、巫女は独り森の中を進む。
荷物は最低限の食糧と、手にした細身の杖のみ。
道標となるものは見受けられないが、不思議とその歩調に迷いはなかった]
――きっと今回も、何処かで進めなくなるでしょうから。
[付き人の姿が見えなくなったところで、巫女は小さく溜息をついた]
[――巫女は森を抜けたことなどない。神魔に会ったことすらもない]
[自ら考えた言葉を、神魔に託されたものとして語る。
それが現在の、翡翠の巫女の役割であった**]
― 回想 ―
[リュカ・ブレッタがグリュングレースにて生を受けたのは、23年前のことだった。
手に翡翠を握って生まれることは、この国では即ち巫女候補であることを意味する。
物心つく頃になれば、リュカも自身が周囲からそのような眼差しで見られていることは意識していたのだけれど]
ほら、どうだ!
また私が勝ったぞ!
[リュカはそれに反発するように、野山を駆け回り、ままごとよりも剣士ごっこを好み、男の子に混じっては彼らと競い合っていた。
中でも棒を用いた戦闘訓練では、男子にも負けない程の立ち回りを見せた。
そんな彼女には、ずっと心の中で温めていた計画があった。
それを実行に移したのは、13歳の時であった]
― 回想/10年前・火山地帯 ―
[グリュングレースから山越えの道を進んだ先の、国境付近。
やや道を外れた場所にある湧き水の畔に、黒髪の人影があった]
――ちょっと、切りすぎたかなぁ。
[そう呟くリュカの視線の先には、湧き水の溜まりに映った自身の顔があった。
短く切られた黒髪は、長さが不揃いな上に左右のバランスも悪く、如何にも素人が慣れない鋏で切った風であった]
ま、でもこれなら、まず女とは思われないだろ。
[最大の目的は達したというように頷いた後]
あとは……これだな。
[と目線の高さに翳したのは、自身の天命石である翡翠。
捨てることも隠すことも出来ないことは既に知っていた]
国を離れてしまえば、特に気にされることもないんだろうけど……。
[思案の末、ひとまずウェストバッグの内に隠すことにする。
そうして再び歩き始めた先は、故郷とは反対の方角であった]
[国を離れて旅に出る。
いつしかそれが、リュカの密かな目標になっていた。
誰にも明かせなかった故に得られる知識も限られていたが、リュカには秘策があった]
この木に成る実は食べられたはず……。
よーし、育てー!
[生まれ持った"樹"の能力は、食用となる植物を成長させるのに都合が良かった。
しかしそんな行き当たりばったりの旅が上手くいくはずもなく]
……なんか、体がだるい……。
[能力の濫用は、知らず知らずの内にリュカの身体を疲弊させていた。
そんなリュカの背後から、突如がさごそと、奇妙な物音がした]
へ? なに……?
[と振り向いた先。
そこには火の魔力を纏う巨大なネズミが、その鋭い牙を剥いていた]
ひあ、ま、魔物……!?
[戦わなければ、と唯一の武器である身の丈程の棒を構える。
しかし体に力が入らず、先端の位置が定まらない。
そうこうしている内、ネズミの牙は眼前へと迫り]
う――うわあぁぁぁああ!?
[リュカは悲鳴を上げながら尻餅をついた*]
す……すごい……。
[感嘆の呟きを漏らすリュカには、彼のぼやきめいた言葉は耳に入らない。
否、既に心は決めてしまっていたから、耳に入れる気もなかったと言うべきか]
あの……!
[抜けてしまった腰に鞭打ちながら、脚を曲げ正座の姿勢となる。
そのまま素早く頭を下げ、固い地面へ着けながら言った*]
オレを弟子にしてください!!
うん、一緒に行きたい……!
これからよろしくお願いします、師匠!
[立ち上がって身支度を整え。
こちらからも勝手に呼称を決めながら一礼する。
そして師と決めた人の後に付き従いながら、ウルカニスの街を目指すのだった*]
― 回想/10年前・火山地帯 ―
[どうやら旅に出たいというこちらの望みを、あちらは汲んでくれたようだ>>61。
拒絶の態度が見えないことにも、申し訳ないというより安堵や嬉しさが先に立つ。
相手の思惑を察するには、年齢やら経験やら、色々足りていないようだ]
それじゃあきっと飽きちゃうなぁ。
同じ景色ばかり見てるんじゃ、田舎に居るのとそう変わらないし。
[改めて師匠と共に行くことを選んだと告げて。
歩を進めれば、見えて来るのは溶岩の流れる山>>62]
へえ……あんなに熱そうな山を見るのは初めてだ。
あそこじゃ植物も生えないんだろうな。
[樹に属する自身の力とは、相性のよくない場だと内心で思う。
とはいえ興味だとか浪漫だとかは、それとは別の話だ]
――なんだか、オレが考えたこともないようなことも知っているんだね。
やっぱり只者じゃないよ、師匠は。
[相手の経歴も何も知らぬままにそう持ち上げる。
覚悟>>63、の言葉に、大きく頷いて]
おう!
どこまでだってついて行くからな。
[そうしてしばらく後、辿り着いたのは石壁と洞穴の街。
物珍しそうに周囲を眺めている所へ、声を掛けられ視線を師の方へ戻す]
了解です!
――ねえ、その間にあそこまで行ってもいい?
[それからは訓練だとか学習だとか、それなりに充実した日々を過ごした。
互いの名を知る機会も遠からず訪れるだろう**]
― 現在/『神魔の領域』外周の森 ―
[巫女が『領域』に立ち入る際は、いつも神殿の裏手から繋がる小道を利用していた。
他と比して変化に富んだ森ではあるが、それでも結界が作用する位置は、おおよその見当がついていた]
[形骸化した儀式とはいえ、一応は巫女の務めとして。
真摯な祈りを抱き、清浄な心でもって、その場へと臨む]
――どうか、我らの国に平穏を。
[踏み出した足が弾かれたなら、己自身のなすべき事を立ち止まって考えることにしただろう。
しかしその足は抵抗なく、森の中心部へ向け進んでいく]
[ずっと待ち望んでいたその声に、歓喜のあまり思わず膝を着く]
ああ、ようやくこれで……巫女の務めが果たせるのですね……!
[とはいえそれっきり、神魔のものらしき声が返って来ることはない。
お目通りは試練を越えた先のことと解釈し、目元を拭って立ち上がった。
特別扱いはされないようだが、心情は前向きだった――何せ今までは、開始地点にすら立てなかったのだから]
ええ、やり遂げてみせますとも。
ずっと待ち望んでいた機会なのですから……!
[手中の花を押し抱くようにしながら、未だ姿の見えぬ神魔へ向けて宣言する。
そして相まみえよと言われたその人を探すため、更に森の深部へ足を向けた]
あいつ――まさかシュラハトの……!?
[新興の軍事国家であるその国の名は、巫女もよく知っている。
幾度となくグリュングレースへ兵を差し向け、国土を切り取っていった国。
神殿を焼かれることはどうにか免れているものの、頭の上がる相手ではなく、何らかの要求をされれば断れぬ間柄であった]
あの国の人間が、この聖域に何しに来たんだ……!
[願いを叶えるのが目的か、それとも土地か。
いずれにせよ彼らの好きにさせるつもりはないが]
――でも、あいつも神魔様に結界を通されたっていうことだよね?
[グリュングレースを脅かす国の者であっても、神魔はお目通りを許すのか。
恩寵を受けたは遠い過去の話と知ってはいたけれど、その事実は巫女の胸に暗い影を落とした*]
[戦闘訓練の他にも、様々な旅に役立つ知識を教えられた>>115。
特に薬草や食用の植物のことなどは、能力のこともあり進んで多くを学んでいった。
それ以外の知識だって当然、出来る限り覚える努力をしたけれど]
師匠の話、たまに長老並に長くなるんだよなー。
[知らないことを知るのは楽しいから文句はないけれど、たまに何についての講義だったのかわからなくなることもある>>116。
教訓めいた言葉を付け足したりもするので、ますます村の先生役もしていた老人の事を思い出すのだった]
実は思ってるよりずっと年上だったり……?
[おじさんと呼んだら失礼なくらいの年齢だと思っているが、時折父よりもずっと年上にも思える。
人生経験の差がそう思わせるのだろうか――彼がどうやって路銀を稼いでいるのか、実のところ知らない部分も多々あるが]
――互いに、聞かない方がいいことってあるもんね。
[そう自分を納得させつつ、青ヨモギの薬について質問を投げたりするのだった*]
― 『神魔の領域』・外周の森 ―
[こちらの名乗りには気のない返事をされる>>120。
権威がないことは承知の上だが、『領域』で好き勝手されるならば見過ごす訳にはいかない。
軍務だと返す声に、鋭い気配は感じつつも視線を険しくし]
この『領域』で?
この地が如何な国でも不可侵であることは、貴方とて承知のことでしょう。
[詳細は明かされなくとも、良からぬ理由であることは推察できる]
……一体どんな手を使って入り込んだのか知りませんが。
貴方のような輩を、神魔様がお認めになるとお思いで?
[神魔により試練が課されるというなら、相応しくない者は排除されることになるのだろうと。
そんな当て推量も込めつつ、相手へ向けじり、と一歩を踏み出す*]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新