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[ "荷物の一部"を抱えたまま、椅子から立った。
結われた白髪を揺らして、細い肩から別の鞄をさげる。
…大きくはあれど、あまり物は、入っていない。
此です、と 主を見上げる。 ]
わたしの物は、これで大丈夫です。
あまり 多いと、…ソマリ様の分が持てませんし。
[ もうひとつ、…流石に抱えるのは難しいけれど、
片腕に抱えた鞄の他に、持つことにした。
主の荷物に埋もれるのも
"こう"し始めてからの何時ものこと。
バランスを取って、部屋の時計を見上げた。
─── 多分、"インテリア"のひとつだ。
出航時間から逆算しつつ、扉までちぃさな足音。 ]
…… あの、やっぱり
わたしは お見送りだけで、
良いのではないでしょうか。
[ 自分と、主の、理想郷 とは言われても。
同列に置かれることに、
彼の船の話を聞いてから首を傾げ続けていて。
主伝いの知人も見たことがある故、
……相手が居ないと言う訳でも、無い様な。
今でも主の"ひとり旅"という感覚が抜けないまま、
一旦荷物を置いて扉を開き、
先に通るのを 待った** ]
[ ─── 何時かの、はなし、
頭の上からおんなのひとの声が聞こえ、 ]
「 坊ちゃん"の"従者だって聞いたけれど、── 」
「 未だこの歳の子を連れてくるなんて思わなかったわ 」
「 ご主人に怒られたりしないかしら? 」
[ 広すぎるバスルームの、
…世間も知らない売り物風情にだってわかる、
高そうで 湯の張られたバスタブに突っ込まれて、
( あたたかい、より先に、
痛い!が出てきたのだ。
湯の熱さが肌を刺すなんて思ってもいなかった! ) ]
[ 多分、その頃は、未だ、
髪だって今ほど伸びてはいなかっただろうし、
長さだって不揃いで、
美しいなんて形容詞とも遠かった。
その時、こどもの髪を洗っていたのは、
数人居る"使用人"のうちの、ひとり。
きっと、"一番偉いひと"。 ]
[ その時は、一瞬、
"引っ張られる"と思ったから、
バスルームの中でちぃさく "鳴いた"。
しまった、と 当時のこどもは思ったけれど、
……それ以上に使用人の方が驚いた様で、
謝られた 記憶はある。
謝られた理由は、わからない、 ]
「 ── ひとりで何でも出来るんですよ、あの子は。 」
「 私たちが要らないぐらいに、 」
[ …そう言った"先輩"の声を疑ったのは、
揃いのメイド服を着て部屋に招かれた瞬間。
初めてのお仕事、同時に今でも続くお仕事は、
多分、主のお部屋の片付け。
更に言うならば、家のことを知った後でも、
他に仕える相手も居ない以上、
こどもにとっての"ソマリ様"は、
当時から 彼 だけ。 ]
[ あの時から何度"片付け"をしたのか!
ちら、と部屋を一瞥した後、 ]
─── ですけれど、そもそも、
こんなに荷物を 持って行かなくても
良いのでは…?
[ きっと背に投げるだけで終わりそうなお返事。
主を通したあと、また 荷物を抱いて、
スカートを翻らせ、その背を追う。
今メイド服で無いのは、
…無論、お出かけなのだから、という理由だ。
今日の脳内議題は"人に酔う方法"。
運転できない車に乗る最中、
考え事は、尽きることはない 筈。 ]
[ ………只、どうあっても
何時かのこどもにも、自分にも、
外の知識は足りないものだったから、
幾ら、道中も変わらず口数が無いに等しいとはいえど、 ]
─── 港 ───
──── あの大きな船が、
ソマリ様の言っていたものですか?
[ 港に到着し、車から出る前、
表情は変わらないとはいえ、
窓の向こうを凝視してしまったのは、
仕方の無いこと、だと 思う。 ]
「 ねえ、" "
あのこ、ご主人に逆らったから
"うみ"に落とされちゃったんですって。」
「 また来たの、
今度は誰が買われていくのかしら? 」
「 それにしたってひどい話よね!
だって、誰かが買われたとしても、
きっと あのこの"かわり"なのよ! 」
[ 適当に飾られた
"少女"同士の、"売り物"同士の、内緒話。
身元も知らない、どうして買われるのかもわからない、
おんなじようなこどもたちの、* ]
[ ─── 想像していた"海"は。
もっとずぅっと暗い空の元で、
"理想郷"等とは結び付いてもいなかった。
きっと聞いたこともあっただろう。
そう、家に招かれて未だ直ぐの時、
片付けの後、スペースの空いたテーブル越し、
辞書を開いて、紅を 向け、
( ……… 当時、文字が読めないぐらいの話はした。
必要じゃあなかったのだ。"送っていた生活"では。 ) ]
[ ─── と、
窓の向こう、扉の向こうへ、向かわせるよう
背を、押されたから。
仕事をしないと、と 買われたものは思う。
…とはいえ扉は運転手の仕事だった故、
すこぅし 迷いを見せ、
荷物を抱えて、港に出る。
ふたつの、白髪が揺れ、 ]
うみ……。
[ "しおかぜ"とか、其れだけじゃあなくて、
名前だけ知っている世界のものを紅に映し、
─── それでも感動らしい感動を見せないのは、
あまり見ていて楽しいものでも無い気がするので。
遠くに見える蒼を眺めた後、
( もしかしたら、昨日食べた魚も居るかもしれない。
…言わずともその程度は思った、きっと。 ) ]
─── でも、荷物を 置かないと
船は あちらですので、…ですよね?
[ 怖い、とか、きれい、とか、
例えば時折、主の隣に立つ彼女のように、
おんならしいことを言うべきなのだろうか。
…言わない"従者"なのは、もうしょうがない、けれど。
然しそれでも "するべきこと"は、どうしたって其れだから。
ぽつ と、乗船を促した。
別に、そう、
自分の世界を広めるための"ふたりたび"では無い。 ]
[ "うみ"に名残惜しさも見せないまま、船の方を示す。
チケットを持っていたのは主の方だったし、
荷物を抱えている自分じゃあ
手間取るのが目に見えていた ので、
…手続きは お願いすることになりそうだった** ]
─── 部屋 ───
……猫じゃ 無いん、ですね。
[ 豪華客船どころか、船の中すら知らなかった。
"スイート"らしい室内を見回して、
主の鞄を端に揃えて……置いたのだけれど、
嗚呼、何時ものこと!
主が持ってきた諸々を出す光景は直ぐ見ることになる。
……散らばった物を拾い上げながら。
果たしてこれらのうちすべて使うことはあるのだろうか。
最低限の荷物だけ持ってきた自分と つい比較する。
犬の置物と、誰が居るのか、写真をちらと見遣り、
"感想"をひとつ投げ、何時も通りのお仕事。 ]
[ ひとつ、ふたつ、拾って。
置物の類はテーブルの上に並べて、
衣類はハンガーにかけて、
…此れだって数年経てば慣れたものだった。
……自分が仕事をもらう時までどうやっていたのか、
すこぅし不思議ではある。
"従者"であることは勿論、
抑も、"自分"である故、
昔を問うことなど、きっと 無いけれど。 ]
[ 只、柔らかな絨毯に、
まるでどうでも良いものみたいに転がったちぃさな箱。
何気なく中身を見てしまった 時は。
流石の"従者"も、─── すこぅし驚いた、と、思う。 ]
─── ソマリ様 これは、
ちゃんと 持っておかないと いけないのでは…?
[ ぱたん!と勢いよく閉じて、
"ゆびわ"の入ったちぃさな箱を、差し出した。
( …多分主は未だ部屋を飾っている途中だった。 )
見てよかったのか、程度には弁えていた。
自分には、
─── 何時かの "自分たち"には
縁のないものではあった、だからこそ。 ]
[ 両手に乗せた箱が取られたのは、
想像していたより、ほんのすこぅし、
ずれたタイミングだった。
反応を紅は終始見ていて、だから、
……あんまり重要そうな物じゃあないんだな、
程度は 察した。
空いた両手を 一瞬 見下ろし、 ]
………きんこじ じゃあ、ありませんよ?
小さすぎます。
[ 主に聞いた"縛る輪"は、頭のサイズだった筈。
指を立てるジェスチャーは
見たまま、真似をしてみるけれど、
比喩を飲み込むまでには時間がかかるのだ。
テーブルに仕舞われた其れを、
確かに"ある"って、顔で、紅で、見詰め。 ]
─── "けっこん"、は。
幸せなことだと、聞いたので。
…帰ったらお返事しないと。
[ 口数の少ないこども だけれど、
経験からの言葉は、ちぃさな舌に よく、乗る。 ]
「 お金持ちに見染められたいの! 」
[ "おんなじ"こどもたちのうち、ひとり。
"幸せ"を語ったあのこ。
いまどうしているのか、知らない。 ]
「 ねえ、" " あなたは? 」
[ ……確か 首を振ったきり、何も答えなかった。 ]
わたしのものは 良いので、
……お休みになられるか、気晴らし、でも
して頂いて問題ありません。
[ 数着残った"従者"の服へと紅は移り、
提案だけして片付けの続き。
付き人ではあれど 付いていったところで
護衛ができる訳でもなく、
…抑も、護衛を求められている訳でもないので
折角の豪華客船、何処かへ行かれては? と。
─── このお金を"きんこじ"の彼女に
使わないのでしょうか。とも。
すべて買い与えられた服に対して思うけれど、
自分が言うことでもないのかもしれない。 ]
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