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そうね、そろそろ降る頃なのかしら?雪…
このあいだ、桜の季節だったようなのにねぇ
[行って見てから考えましょうか?]
[覚束ない足元、土を優しく覆う黄金の鳥][かさり]
[日だまりを作る秋の陽が綺羅]
門はあちらかしら?
私ね、人の声がするような気がするのだけど
ご本を見に…
ああ それなら私の本もそこにあるのね?
[良かった、と笑みを浮かべて]
[胸の前に手を当てた。提げたロケットが揺れる]
どうぞ中へいらっしゃいな
きっともうすぐお茶の時間なのよ
私はここに住んでいる?
ああ…そうね、きっとそうだわ
貴方も逢いに来たの?坊や
[微笑みながら、落ち葉の少ない道を洋館の方へと示した]
― 玄関前 ―
[古びた大きな、木製の扉]
[その前に、鮮やかな黄と赤の門番が立った]
綺麗、ね
[門番の正体は雪だるま、ならぬ]
[…どうやら案山子]
[背伸びをするようにして][その額に銀杏の冠を飾る]
[花冠の技で編んだ紅葉と黄葉と]
[たくさんに彩られた案山子は得意げに胸を張り][玄関前で背を伸ばす]
ふふ、ね
きっと驚くわ?
[くすくすと楽しげに笑った老婆は、ふと瞬いて空を見上げた]
……あら…そろそろお茶の時間になってしまう?
[数歩分、洋館から離れて見回せば、屋根の上の隠れん坊]
[見つけて目尻の笑い皺が深くなる]
見つけた──
ねえ そんなところで、
風が吹いたら飛んで行ってしまってよ?
[紅葉に彩られた木と藁の門番は、客を驚かせて遊ぶだろうか]
そう…ね
[こめかみに指を当てて][ふうわり降り立ったベルに首を傾ぐ]
けれど私、逢いに来たんだわ 貴方に
ねえそうでしょう?約束なんていらないの
[ふふ、と笑うのは親しい少女のように]
[薄い青を瞬たかせた次には、記憶がまた円環に遊ぶ]
ところで、そろそろお茶の時間なのね?
私のおうちはここで良かったかしら
レモンはきっと好きだわ
うんと甘くしないと、私まだ苦いのは苦手なのよ
[薔薇のお茶なんて素敵ね、きっといい香り]
[老いた少女は微笑んで]
[通り抜ける][案山子の門番へ会釈をした**]
― 洋館の中 ―
[建物の内に踏み入れば][変わる、何かが][纏う空気が]
あ…覚えていて?初めて逢った時のこと
[ 私は…ジュリエットはどう?
うんと上品で悲しいレディーの気分になれるもの。
…似合わないかしら。でも、
ねえ、ここでだけはジルと呼んでね、内緒よ! ]
[足音は弱く引きずるものから、軽やかな響きへ]
[杖はどこに置いて来ただろう]
[廊下の窓にチラと映る][ふわり][揺れるスカートの裾]
[暖かい髪色の少女の幻]
― サロン ―
[そして微笑む][柔らかい頬にえくぼを浮かべて]
ハロウィーン?まあ
じゃあ、こうね
[片目を瞑り、ティースプーンを指揮者のように振った]
とりっく "あんど" とりーと!
[悪戯もご馳走もどっちも楽しいもの]
キャンディー、チョコレート…
早くおいでにならないかしら?
[ゆらゆら][白いリボンの結ばれた靴先を揺らし]
たしか、カボチャで馬車を作って飾るのだった?
それともランプを作るのだったかしら
[笑う声は転がる鈴のよう]
……ねえ、ベル
[声を潜めて身を乗り出す]
[周囲に視線を走らせて、くすぐる淡い囁き]
ふたりだけのひみつよ、
だってまだお菓子がないんだもの──こうして、
[綺麗に爪の整った指先が][摘まみ上げる角砂糖]
[こっそり口に含む仕草]
[砂糖はあっという間にほどけて消えた]
甘ぁい
[両の肘をテーブルにつき、その手へ顎を乗せて]
[些細な背徳を帯びたマナー違反をくすくすと笑う]
― サロン ―
[座り心地の良い椅子と、丸い木のテーブル]
[天井から下がる照明も][どれも古びていながら艶めいて]
[さらさらとひとりでに揺れたカーテンも、まるで生きているよう]
私、屋根に登ってみたいわ
ベルがしたみたいに
[ティーカップを斜めにして、底の円を支点に回す]
[手遊びに]
[指先で操るまま、カップがテーブルの上で][くるり][くるり]
[逆の手でスプーンを寄り添わせれば、賑やかな茶器の舞]
窓を隣へ 隣へって伝えたら、ねえ
他の部屋にいる人を驚かせられる?
私のロミオ、誰かしら?
ベルは?素敵な殿方はいらっしゃらないの?
[くすりと笑むけれど]
[夢見るような眼差しは指に馴染んだ指輪には向かわない]
[丁寧に丁寧に手入れされた古い指輪は記憶の輪の外]
太っ腹で素敵なお菓子屋さん、カボチャに乗っていらっしゃるかしら
早く来てくれないとお砂糖を全部舐めてしまうわよ
[頬をつつくベルの指]
[ジルとベル?これで私達、ちょうど姉妹みたいね、と][昨日のことよりもくっきりと浮かび上がる記憶]
あら、特訓の賜物だったのね
いいわ、私きっと上手に出来るのよ ほら
[カップをソーサーへ戻して立ち上がる]
[両手を真横へ広げた]
[床板の継ぎ目に沿って、一本道][踵と爪先を交互に進める]
[ふらり][ふわり]
[どこか軽やかな靴音]
門番にバレたら、ふふ
花飾りを贈って赦してもらいましょう
[窓の木枠がぎし、と古い音を立てた][吹き入る秋の風]
[庭を見下ろす薄青は、透明な光を宿す]
[そこにロミオの姿を探すように]
…あら?
特訓したなら窓から颯爽と登場するつもりだったのに
先にいらしてしまわれたのね?
[開いた窓辺から向き直り、入って来た顔へ瞼を細めた]
[僅かばかり不安げに][こめかみへ指を当て]
ええと…はじめましてかしら?
私達、かぼちゃの馬車を待っているのよ
…つまみ食いも、少しね
[殿方二人へはにかむように会釈をひとつ]
[小さな金髪の淑女には、口許を綻ばせて手を振った]
オルガン。聞こえていた曲のこと?
ねえ、私も見てみたいわ
[そのオルガンを][瞳を輝かせて]
そう…貴方、私はもうお名前を伺ったかしら?
[少年へ尋ねて首を傾いだ]
クリフ君?こんにちは いい天気ね
[ふわふわと覚束ない挨拶を返す]
そう…自分で勝手に弾いてしまうなんて
オルガンも退屈だったのかしら
ひょっとすると、あんまりずーっと誰にも鳴らしてもらえないから
こう…
[胸の前に手を垂らして]
[う〜ら〜め〜し〜][と、ジェスチャーを]
あら、だって退屈ってつまらないものよ?
私 じっと待っているのは苦手なの
[くるり][その場で回ってみせる]
今もね、カボチャの馬車を迎えにいこうかしらって
甘い匂いを辿るの
もうお茶の時間よね、クリフ君?
後でオルガン、見に行くわ
[約束はしない][きっとこの今ひと時だけで、覚えないままの会話]
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