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− 陥落後・クロスター王国 (回想) −
ああ…、魔法って代償が必要なんだよな。
[エトヴァルトが支払うそれが血であると知れば、いくらか声を落とす。
むやみに使わせてはならないと反省しつつ。]
− 陥落後・ジルヴァーナ (回想) −
[エトヴァルトの血を用いた魔法により、3人は瞬時に王都ジルヴァーナにある彼の家の地下室へと移動した。
最初に感じたのは強い違和感。
漂う匂いも、肌に触れて来る湿度も、記憶にあるものとは異なり、どこかから伝わってくる正体の知れない騒音。]
これは、 思ったより…
[鼻頭にしわを寄せ、傍らの二人の存在を確かめるように振り向く。]
[エトヴァルトの自制は、危険度の高さを感じた緊張だと誤認した。]
ああ、城に向かおう。
きっと偵察がうろついてる。気をつけて進むぞ。
[魔物から情報収集とか、魔力探知とか、そういうことは頭にない。
カレルは土地勘だけで、父王らの幽閉場所を探そうと考えていた。]
貴人を閉じ込めるなら塔の上の部屋だな。
[エトヴァルトの意見を入れて、基本的に戦闘を避けて身を潜めつつ、大胆な敵中突破を提案した。
そのノリは、街で大人たちを出し抜いて悪戯するときのそれである。
とはいえ、家族の命がかかっているのだから、真剣であった。]
ベネディクト、ここは本当はこんな街じゃないんだ。
落ち着いたら、俺がちゃんと案内するからな。
[クロスボウを手にした異国の友に囁き、自ら先頭にたって扉の外へと出る。]
もちろん、任せてよ。
[エトヴァルトの確認に自信を持って答えるも、裏口から外へ出れば、しばしば足を止めざるを得なかった。]
く…どうやったら、あの白亜の都をこんなにメチャクチャにできるんだ。
あっ、ホントに魔物がいる…!
[伝説の本の挿絵で見たような連中が、地上を闊歩しているのを見れば、事の異常さは身にしみた。]
地獄の門が開いた? 封印が解けたってこと?
何が起きたか予想がつく?
[問いを乗せるほどに、自分が何も知らずに飛び込んできたことがのしかかってくる。
それでも、カレルは前進を止めなかった。
動揺を噛み締めながら、エトヴァルトとベネディクトと助け合い、堀を越えた。
留学でしばし離れていたとはいえ、カレルにとっては生まれ育った城だ。
見張りの目を擦り抜けるくらい、やり通せると思ったのだが──]
[背後の騒ぎがひときわ耳につく。
魔王から命令が出ているとは知らないままに、略奪など行われているのだろうと考えた。
酷い、とベネディクトが零す声が刺さる。
治安の維持も王族の役目。
だが、今はもっと優先することがあると、心で短く詫びて足を運ぶ。]
…エディ?
[やや遅れがちな目付役に気づいて呼びかけた。
そういえば、彼の家族も王都にいたはずなのだ。だが、それについては何も言わずにカレルにつきあってくれている。]
二人とも、俺の身勝手さに呆れないでくれ──
[言いさしたところで、カレルは行く手に強烈な存在感を見出した。
城門近くに立つ赤い髪をした男。
これは回り込めない、と悟った。]
貴様が首謀者か。
[魔物たちを従えるただならぬオーラにそう呼びかけた。
エトヴァルトを葛藤させているものの正体に気づくことはなく、また、
門に晒されているのが父と兄の首だともいまだ気づいてはいない。]
悪を制し、国を救わんがため! 王を返してもらうぞ!
[正々堂々と来意を告げて、剣を抜き放つ。
その構えは無謀なまでの果敢さに溢れていた。]
ロルフの血も 途絶える…?
[不意に遠い先祖の名を出されて繰り返すも、その意味するところが遅れて理解されれば動揺が走った。
オークが門を示して笑う。
素直に視線が動いた。]
これ が、 …だって 、
[感情は拒絶している。
けれど、嘘だ、と言い切ることはできなかった。
ふたつ並んで晒された首級は確かに父、そして兄の面影を残していたから。]
く、 ああぁ…っ!
[絞り出した慟哭は、そのまま嘆きでは終わらなかった。]
死者に何の敬意も抱かぬこの仕打ち…っ
俺は貴様に仇討ちを挑む!
[涙に視界を歪ませながらも、叩き付ける声はあくまでも真っすぐなもの。
ギィのいうとおり、相手がなにものか思い悩むこともなかった。]
[ギィの名乗りと受諾の返事を聞くやいなや、駆け込んで間合いを詰める。
剣は左脇身に下げ持ち、勢いを乗せた刃で切り上げんとする──わかりやすい太刀筋。
だが、それは相当に速い。**]
……あんまり、無茶しては。
……ダメ、です、よ?
[転移の術が発動する間際、小さく小さく紡ぐ。
それが、
− 陥落数日後・ジルヴァーナ城門前 (回想) −
[切りつけた刃を、ギィは無刀の手を伸ばして握り込んだ。
散るのは、その髪にも似た赤い血──魔物の緑や紫ではなく。]
こいつ── 人間なのか?
[カレルの驚愕とは無縁に、失望の色で再び英雄王の名を呟いた悪魔ならぬ紅は攻勢に転じる。
魔力を纏うショートフックを叩き込まれて身体が軋んだ。
存在の根底から薙ぎ倒されるような衝撃。
かろうじて気絶を避けることができたのは、柔軟な身体と、エトヴァルトの護りの魔法のおかげ。
だが、ベネディクトの援護が逆に利用されかけた危機にも気づかぬまま、頽れた体勢を建て直す間もなく突き飛ばされ、エトヴァルト共々、土埃に倒れ込む。
ギィの動きはエトヴァルトの魔法援護を阻害し、かつ、間髪いれぬ追撃に槍の穂先がきらめき──
ズドッ、
痛みのない柔らかな振動だけをカレルに伝えた。]
[いつもはおっとりとしているエトヴァルトが、その本来の役目に忠実に、身を挺してカレルを庇ったのだと悟るのに時間は要らなかった。]
エディ…!
[呼びかけに応えたのは転移の呪文。
エトヴァルトの命の温かさ──血が魔力に変じてゆく。]
− 陥落数日後・ジルヴァーナ郊外 (回想) −
[エトヴァルトが命を傾けて行った転移魔法。
不安定な魔法が、祈りが、運命が、カレルとベネディクトを別れ別れに逃れさせた。
術の結果、カレルが自らを見出した場所は王城からはいくらか外れた場所であったが、程なく魔軍に包囲された。]
おまえら、 なんかに…
[剣もなくし、拾った木の枝を構えつつ涙目で睨みつけるカレルの上へと、不意に巨大な影が落ち掛かり、鱗に覆われた長い尾が結界のごとくカレルの回りに円を結ぶ。]
[「お前、生きているかい?」と、人間の言葉で問われたことに驚きつつ、カレルは拳を掲げる。]
── 死んでたまるか!
[「死にたくない」でも「生きている」でもなく、突きつける意志。]
[竜もまた、ギィと同じく英雄王の名を口にし、「お前の身柄は一端、あたしが引き受けよう」と爪を差し伸べた。
ディルドレと名乗った竜へ、カレルもまた身ひとつで名を名乗る。]
──俺はカレル。
ってててててて…!
[舞い上がる負荷に、ギィに痛めつけられた身体が悲鳴を上げるも、ペガサスの飛翔より高い位置からシェーンバルト王国を眺めおろしたカレルは、その惨状に唇を噛み締めた。
魔物はいたるところにいた。]
− 港湾都市ハールト (回想) −
[戦火に家族を失い、支えてくれた者たちとも引き離され、傷ついた身体で孤独に投げ出されたカレルを導いたのは年古りた竜だった。
持たざる者となった亡国の王子は、竜の巣の中で癒され、また学び、荒れ果てた故郷に戻ることとなる。
王都が陥落して、2年がたっていた。]
[シェーンバルトの民は懸命に自分たちの命と居場所を守ろうとしてきたが、際限なく湧き出るような魔物軍の前に疲労困憊し、すでに人間側の拠点は港湾都市ハールトを残すのみという事態になっていた。
カレルが古の竜とともに舞い戻ったのは、そのハールトがまさに陥落せんとする瀬戸際であった。]
[水門を兼ねたハールト城門は、崩れずにいるのが奇跡のような状態だった。]
よくぞ持ちこたえた。
[カレルは城壁に立ち、奮闘するレトらに合流して、共に剣を振るう。
非戦闘員を海上へと逃す時間を稼ぐために。
だが、国中の船を集めたここでも、とても全員を運びきれないという絶望的な事実が突きつけられる。]
[その局面を打開したのは、半島を大きく回り込んで現れた船団だった。
帆を染め抜くデザインを認めたカレルは、魔軍も味方も不審に思うほど朗らかに笑う。]
皆、あれは我が盟友の援軍だ。 歓呼して迎えよう!
[ベネディクト率いる義勇軍船団の支援により、ハールトの人間たちは無事に海上へと撤退し、そのままベルガー島へと辿り着いたのだった。]
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