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[ディーターの料理を頂く事にした。
ディーターが調理する姿をパメラとふたり眺めていただろうか。
そして、出て来たニシンのマリネに、
クララは思わず両手を合わせて、]
わあ、おいしそう。
いただきます。
[フォークで刺せばそのままぱくり。]
[けれども、クララは鼻をすんと言わせる。
海のにおいは普段と比べてどうだっただろうか。うみねこはやけに騒がしくなかったか。]
でも、さっきから肌を撫ぜる風がしめっぽいわ。
それに今日の海のにおいはずっと濃いわ。
わたしにはその理由が何だか分からないけれども何かが来る気がするの。
[クララは海の事情を知ってる訳ではなかった。だけども、何か予感めいたものを肌で感じ取っていた。
気のせいではないかと鼻で笑われてしまうかもしれないけれども、クララは至極真面目な顔をして意見を求め二人を見た。
そういえば、浜辺で死体が上がったなんて噂も出ている。]
[突然、食事の最中でそんな事を言い、また何事もなかった様にマリネを食べ始めるクララ。
すっかり平らげて皿を綺麗にしてしまうと、]
そっか、もうお昼なのね。わたし、図書館に戻るわ。
ディーター、美味しかったわ。ありがとう。パメラはまたね。
[ディーターに礼を言い、パメラには挨拶を言い残して、その場を立ち去ろうとする。]
― 図書館 ―
[クララが働く図書館は本だけを所蔵している訳ではなく、
この島に古く伝わる言い伝えや星にまつわる話、過去に起きた騒動や事件の資料も保管されている。
とは言っても、小さな図書館だ。管理する人間はクララひとり。
元々人口の少ない島、利用する人間も限られている。
クララは図書館に戻ってみたが、利用客はそうそう訪れない事を知っていた。
だから特別何をするでもなく資料の整理をしていた。]
[昼間であるのにも関わらず図書館のなかは薄暗い。
あるのはたった小さな窓。それでもクララは暗い部屋をものともせず慣れた手つきで棚から冊子を引っ張り出す。
それは、十年前にあった人狼騒動について纏められた資料だった。]
[クララはカウンターの椅子に座り、
人狼騒動の資料を膝の上に置いてぱらぱらと捲った。
人狼の他にも、人狼を見つける能力を持つ占い師。
人間の身でもありながら人狼に加担する人間がいると書いてある。
ただし、10年前の騒動に居た筈の狂人の名前は綴られていなかった。]
[扉が軋む音と共に外の光が暗い部屋の中へと差し込む。
続いて、「こんにちは」という挨拶。
控えめな声ながらもクララはしっかりと聞き取って、何の資料なのか相手に悟られないように裏表紙を表にしてカウンターの上に置き、]
こんにちは、ペーター。
本の返却期限はまだ先だったと思うけれども。
[入り口の方を見れば、視界にぼんやりと小さな頭が浮かびあがる。]
[数少ない図書館の常連。小さなお客様ににこりと微笑む。
嵐が来る前に本を返しに来たと言う。
その返事にクララは感心する。また、ペーターが本を熱心に読む姿も知っていたので、]
そう。ペーターは真面目なのね。
勉強熱心なのは知っているけれど。
[くすり、くすり。
次いで、司書らしかぬ発言をして。]
そんな、ちょっとくらい過ぎても問題なんてないのに。
だって貴方以外本を借りに来る人なんて殆どいないもの。
その本、もう読んだのなら、
また新しい本を借りて行く?
嵐が来るなら外にでも出れず暇でしょう。
さあ、次はどんな本を読む?
[ペーターが返しに来た本を受け取りながら、クララは次の本を勧める。
このやり取りも見慣れた光景。
今までペーターはどんな本を借りていっただろう。]
そう、嵐のせいだったのね。今朝の空気が可笑しかったのは…。
随分と大きいの。それじゃあ、大変ね。
[何かが来る、という予感は嵐だったのか。それとも……。]
[今度こそクララはびっくりした。ペーターの口から大嫌いなんて言葉が出て来ると思っていなかったから。>>110
いっそ憎しみすら込められた台詞にクララは戸惑う。何故、ペーターはこの島を嫌いなのか。
その理由が分からないまま質問に答える。]
……わたしは、この島好きよ?
パメラが描いた島の海の絵を見て、なんて綺麗なんだろうって思ったの。
実際にこの目で見てみたいと思ったわ。実際見てみてやっぱり綺麗だったわ。
……本当よ。
[この質問をしたのが他の村人だったら答えさえしなかっただろう。
海を見たいと思ったのもこの島へ来た理由のひとつだった。嘘ではなかった。]
[自分の言葉が目の前の子供を傷付けたのがクララには分かった。
子供扱いをしてしまったのがいけなかったらしい。
島を嫌いな理由は分からずとも、ペーターの大人びた言動はどうしてだか悟る。
きっと、島を出て行きたいと思っているから。]
ねえ、何を焦っているの。
ペーターにはまだまだ時間があるわ。
ゆっくり、色んなものを見てゆけば良いじゃない。
この島は悪いところじゃないわ。
そんなに急ぐのには理由があるの?
[分かってくれると思ったのに、というのには頷かず。
決して、甘い言葉も掛けてやらなかった。
ペーターのことを子供扱いはするけれども、
対等な人間として扱っているからだと、
相手が気付くか分からないけれども。]
[もしも、少年と心を通わせていたら。ペーターが島を嫌う理由をクララも分かってやれただろうに。
淋しさやもどかしさを理解して別の言葉を掛けてやれただろうに。
ただ、ペーターは急がないで良いのだと。
自分の住む島の美しさを知って欲しかった。
自分の置かれた環境と周りの人々と、
ゆっくりと時間を掛けて世界を見て欲しかっただけなのだ。
ペーターの声は少し震えていた。クララははっとして、]
待って、ペーター。
あっ……。
[クララはペーターを追いかけようとした。>>123
けれどもカウンターを出た所でつまづいてしまった。いつの間にか出来たタイルの剥がれた部分に靴を引っ掛けてしまったのだ。]
[掛けた声も虚しく、図書館を飛び出したペーターは気付く事はなかっただろう。
勝手知ったる図書館で転ける羽目になるとは。後を追う事は敵わずクララは床に尻餅をつく。
出て行った扉を呆然と見つめていた。
気が付けば、陽は暮れかけていた。
ただでさえ薄い暗い部屋、かろうじてある小さな窓から橙色の光が床の一部を照らしていた。]
[クララはゆっくりと立ち上がり、
仄暗いなか手探りでランプを探した。
暗闇はクララにとって身近な存在になりつつあったが、
灯りがひとつもないのは心もとない。]
ああ、嵐が来る予兆だったのね。
見た事も無い、夕焼けだわ。
[窓を覗けば、ふしぎな夕焼けが空を覆っていた。
湿った風が部屋の中まで吹き込んでくる。]
[でも何故だろう、ふしぎな不安はまだ続いている。
窓からも見える海のように広がっている。
……先程読んだ資料の中に人狼騒動が起きる前に嵐が来たと書いてあった。
思い出すのは先程の不安そうなパメラ。
もしかしてパメラの抱える心配って。
でも、当たっているかも分からない。]
[何処か淋し気な笑みを浮かべ、ふたつのカップを持って、
パメラの居る部屋へと戻って来る。
今度は唐突に絵の話しを始める。]
ねえ、パメラ。貴方は覚えてる?
初めて会った時に見せてくれた絵。島の絵だったわ。
今はどんな絵を描いてるの?
ああ、今はスランプなのよね。
[パメラに淹れたのハーブティーだった。
気持ちを落ち着かせる効果がある、カモマイル。]
あのね、パメラ。
一つの事に余り根詰めちゃ駄目よ。
[取り留めない話しをするのも、パメラを悩み事から気を逸らさせるため。
クララなりの心配の仕方だった。]
それを飲んだら、
嵐が来る前に家に帰ると良いわ。
[勿論、クララは覚えてる。あの日見た、まっさらなブルーを。
4ヶ月前、何故だか島にいるクララを見てパメラはどんな顔をしただろうか。
その時の様子を思い出してはくすりと喉を震わせた。]
きっかけがあれば、直ぐにスランプなんて抜け出せるわ。
わたしもそうだった。此処へ来るきっかけをくれたパメラには感謝してるのよ。
ここの海を見れて良かったわ。
[そう言って、自分もハーブティーを飲んだ。]
[やがてハーブティーを飲み終えればパメラが立ち上がる。
クララは図書館の入り口まで見送って、]
どういたしまして。
もう外も暗いわ、気を付けてね。
[辺りの様子から嵐が来るのは伝わって来る。
パメラの懸念を全て晴らす事は難しいだろうけども。]
今日は余り考え事はせず、
ゆっくり休んでね。**
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