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わたしは、あれからさまざまなものを奪った。
あれもまた、わたしから奪っていった。
過去は清算されねばならない。
罪は償われなければならない。
あれこそが、わたしの罪であり、弱さの象徴なのだ。
わたしの、大切な――― …
なにがこようと、
斬ればいいだけのこと 。
[ソマリの報告に、どこか茫洋と返す]
前に立つものこそ、斬るべき罪 …。
[意識は次第に夢うつつへと近くなる。]
ジーク …
おまえが苦しむなら いっそ わたしの、手で …
…… ちがう、 わたしは、おまえと
やくそく …… …
[それきり、しばし声は途切れた**]
[唇になにか触れる感触。
ゆるく、首を振る。]
赦される …… たたかう ことで
わたしの、 罪は …
―― やくそく … また
三年…… かなら ず …
[ひとつひとつの言葉に反応して、
取り留めもない単語が唇から零れていく。
黒狼の所作を目で追っていたが、
理解は届いていなかった。
ただ、問いだけが心の中に差し込まれる。]
ジークムント、フォン … アーヘンバッハ
あれは、かけがえのない、 ともだ。
わたしの、まぶしい時代を照らした光…
純粋で、まっすぐで、依怙地で、意地の悪いやつで
澄ました顔してるくせ、案外根に持つタイプで …
[言葉を並べるうちに、肩が揺れてくる。
笑いが、こみあげてくる]
……あれはわたしの半身だ。
半身で、あるべきだった。
ふたりであれば、なんだってできた。
ともに、ひとつの理想を目指して ―――
[笑いの発作が治まれば、今度は体が震え始める。
熱病に冒されたかのように。]
わたしが、こわした …。
わたしが、こわして ――― こわしきれずに ……
… …… 。
― 砂漠の町 ―
わたしに、刺さっているもの 、
[しらない。
わからない。
いや、こころが痛いのは、罪を贖っていないからだ。
傷ついた心は、呼びかける声を受け入れる。]
ああ。 たたかって 、勝たなければ
大切な…。
[運ばれるまま身をゆだね、椅子に背を預ける。
頷いた瞳は、いまだ茫洋の向こうに霞んでいた**]
[ふ、と意識が覚める。
生薬の効果が切れたか、囁く声に意識が揺り動かされたか。]
―――新手と刃交えてきたか。
貴君を手こずらせるとは、よほどの難敵のようだな。
御自愛されよ。
[ソマリの声に囁き返し、]
人でないもの、だったか。
それは戦いにくかろう。
[ソマリがああいうのだから、
森で行う狩りとはまた違うものなのだろう。
ふと、狼から人間に変じた男を思い出して、
いささか渋面になった。]
わたしの常識とは違うことばかり起こるな。ここは。
あの娘が戻ってきた?
[ソマリの言葉に、目を細めた。]
拠点にさがしもの、とやらか。
あちらから来るなら手間が省けるが、
―――やれるか?
[不調であろうソマリを案ずる色が声に乗る]
武器がなければ撤退もやむなし、だな。
幸運を祈っておく。
[ソマリのあたりの気配がせわしない。
どうやら騒ぎが大きくなっているらしいのが気に掛かった。]
― 砂漠の町 ―
[懐かしい、声が聞こえた気がする。
ここにいるはずのないひとのこえ。]
( 死なない )
( 死なないから、そんな顔は… )
[肩を抱くための手が届かない。
それを、もどかしいと思う。]
[夢の通い路ははたしてどこまで伸びたのか。
傍に温もりを感じ、心満たされていくのを感じる。
意識揺蕩うその場所でなら、
忌まわしい声を聞かずに済んだ。]
わたしは―――わたしの罪を抱えたままで …
[いいのか? と、声紡ぐより先に、意識が覚めゆく。
温もりはたちまち覆い隠され、
砂漠の太陽が肌に照り付けた。]
[日蔭を提供していた盾が取り払われ、
眩い日差しが覚醒を促したと知る。
黒狼が去る気配を感じながら、
視線は、前へと吸い寄せられた。]
…、 ジーク 。
[いくらか薬の影響残る頭を振り、椅子から立ち上がる。]
待っていた。
[歩み寄る白の姿を見据え、サーベルの柄に手を掛ける。]
もう、邪魔はなかろう。
決着を、つけるとしようか―――
[すらり、と抜かれた刃が、日の光を反射した**]
― 砂漠の町 ―
[近寄る友の若草から、先ほどまでの苛烈さが消えている。
此方を気遣うような、心寄せるようなまなざしには
あの、焼け付くような焦燥感と戦いの衝動は無い。
友は、ゆるされたのだ。
たたかいから解き放たれ、こえの届かぬところへ。
安堵の念は、裏切られた怒りに塗り替えられる。
たたかいを放棄したのだと。
どちらかが、あるいは互いが倒れ伏すまで
つづけようという"約束"を違えて。
だから、彼が剣を抜いたとき、
感じたのは、喜びだった。
やはり信を違えぬ相手だという喜び。
殺しあわねばならぬ痛みを覆い隠した、歓喜。]
[構えられた剣先。
細く鋭くなる瞳。
誘いに応じて、じわりと間を詰める。
一本の綱で引き合うように、
じわりじわりと間を探りながらも
距離を変えず、視線は互いを見つめ合う。
消えていく音。研ぎ澄まされていく感覚。
苦悩する思念は途切れ、たたかえと囁くこえも遠い。
残るのはただ、己の全能力を尽くせる相手と向き合う
静かな昂揚感のみ。]
[見えぬ円上を踏み、互いの挙止をなぞる。
静謐の中に張りつめていく緊迫は、
時満ちて、激流へと姿を変えた。]
―――… 、 はっ!
[一陣の風が吹き抜け、二人の髪を揺らした瞬間、
不可視の境界を半歩踏み越えて、白刃煌めかせる。
剣持つ手へ振り下ろすとみせたフェイントから
右脇腹を裂き斬り払う動きへの変化。
万全であれば澱みない剣筋描かれるだろうそれは
僅かなバランスの崩れで、つながりに遅滞を生じる。
鼓動の半拍にも満たない空隙が挟まった**]
[呼気が重なり、意思が通じる。
同じとき、同じ刹那に踏み出し、動く刃。
二つが絡みあうと見えれば、目が細くなる。
フェイントにかかった。―――その思いは、
次の瞬間に、覆された。
刃の軌道を変える間の、ごく僅かな綻びを、
糸通すほどの精緻さをもって、友の剣が貫く。
怪我を負っていたから、というのは理由にならない。
傷ならば友も同じ、いや、より重いだろう。
細い道を切り拓いたのは、歪みを振り捨てた意思か。]
な…っ。
[金属同士が打ち合う衝撃が、腕に伝わる。
晴れやかなほどに澄んだ音が響くなか、
ゆっくりと、 ひどくゆっくりと、サーベルが宙に跳ね上がった。
太陽の光を受け、きらきらと刃を反射させながら
刃は宙を舞い、視界から外れ、とさり、と音を立てる。
弾かれた、と思った瞬間、すぐに体術に移るべきだったろう。
いつだったかは、そうして結局殴り合い、取っ組み合いになったのだ。
だが今は、あまりの鮮やかさに気を奪われ、
一歩、思わず後ずさった**]
/*
あちこちのシーンを思い出そうと見に行くたびに
うっかり読みふけり掛ける罠よ。
3エピを見に行って、 どきどきした。
― 砂漠の町 ―
[意識の空白が、動きの遅れを招く。
同時に、相手の動きにも虚をつかれる。
投げ出された刃が、あの日の銀の剣に重なった。
―――あの日?
ふと、記憶が揺らぐ。
そこに、]
ぐ…ぅ …
[強い一撃が、鳩尾に深く食い込んだ。]
[喘ぎ、咳き込む体を、支える腕がある。
間近よりかけられる声がある。
呼びかける声音に心が揺れかけ
――― 冷たく、暗い意識がそれを覆った。]
… 共に行くなど、できるものか。
[最初は囁くほどの声音で。]
わたしは、おまえから奪ったのだぞ?
おまえから、なにもかもを奪ってわたしの理想を求め、
結局、なにもなしえなかったのだぞ?
わたしが、 おまえの手をとれるわけなどなかろう!
[最後には振り絞るように叫んで、伸ばされた手を払った。]
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