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そうだ。
フェリクスの家に彼と遺言を届ける時は、俺も同道したい。
[バルタが行くことは当然として、そう告げる。]
ずっと考えていたことがあるんだ。
ゼファーに動かせる労働力がまだあるんじゃないかと。
国を富ませるために王国の、カーマルグの民の知恵を借りたい。
だがたとえば王国の民と従民に繋がりを作れば、反乱の契機を呼び込みかねない。
かといって市民をそちらへ振り向けることは、いきなりは無理だ。
もっと市民に近い者たち、───女たちに知識を得させて、そこから従民に広めていくのはどうかと考えている。
長老たちが聞いたら泡を吹いて倒れそうだが…。
[女が家の外で働くなど論外だと思っている連中は多い。
かくいう己も、女が家の中で何をしているかなど全く知らないのだが。]
だから、フェリクスの奥方に話を聞いて、可能ならば力を借りたいと思っている。
[これもまた、今は夢物語のような話だ。
だが孤児が元首になるよりは、簡単だろう?*]
― 北東の森 ―
[後退したゼファー軍は、半島北東部の森に臨時の陣営を置いた。
陣と言っても、簡易な天幕をいくつか張り、周囲に歩哨を立てただけのものだ。
ここに今、ゼファーが動かせる全兵力が集結していた。
まずは平原西側にて戦い、
ここにバルタ将軍の麾下であり船を捨てて西へ向かっていた重歩兵100名ほどが合流し、さらにクレメンス隊及び元首直属の重歩兵1200名あまりと軽歩兵150名ほどが到着した。
合わせて2150余名を数える。
拠点防衛の兵を動員すればさらに兵数が増えるが、王国側は間断なく攻撃を仕掛けることでゼファー兵の消耗を狙っていると推測されている。合流のために時間を掛ければ、逆に動ける兵は減る一方だろう。
元首はこの兵力をもって王国の野営地を攻撃し、短期決戦を目指すと決断した。]
いいか。
我々の命運はこの一戦に掛かっている。
負ければ我らに帰る術はないと思え!
[集まった兵らに発破をかけ、準備を急がせる。]
各自携帯食を持ったら、残りの物資は全て捨てろ!
輜重隊の荷車に先を尖らせた丸太を載せて、簡易の衝車を作れ!
軽歩兵はロープと斧を携行し、柵や櫓を引き倒せるようにしておけ!
[拠点攻略を見越した指示を次々下していく。
おかげで兵らは食事と短い休息以外、眠る時間も無かったが、構いはしなかった。
三日三晩不眠不休で山中行軍する訓練に比べれば、どうと言うことはない。
まだ戦える。まだ。]
[慌ただしく行軍準備をしている最中、気になる報告がいくつか上がっていた。
バルタ将軍が沿岸に置かせた物見櫓からは、王国の船が北上したとの報せが来た。それを受けて北部へ放った斥候は、予定時間をかなり過ぎても未帰還だった。
敵に発見されたのだとすれば、北側に王国の部隊が展開している可能性は高い。
それと、王国からの使者が複数、臨時の軍営を訪れた。>>51
どの使者も持っている書状は同一で、うち一人は合流途中だったクレメンス隊に接触したというから、どれかが届くように放たれたのだろう。
書状を従兵に読ませた元帥は、声を上げて笑った。]
今更だな。だが、分かった。
返書を渡すから使者をひとり留めておけ。
手は良く洗っておけよ。
[最後のひとことは、従者に向けたものだ。
政敵からの毒殺を警戒するのは、日常のこととなっていた。]
[使者を通じて届けた返書は、次のようなものだ。
総司令官代理の着任にお祝い申し上げる。
此度は是非、直接お会いして祝辞を述べさせていただきたい。
署名は入れず、かつて贈られた封蝋印のみ施した。]
王弟閣下は俺に会いたいとの仰せだ。
[使者を送り出してから、笑いの名残残したコエを送る。]
誘いを受けてくるから、全軍の指揮は任す。
クレメンス将軍には伝えておくから、あとはうまくやってくれ。
[クレメンス将軍は、二人が初陣の時に配属された部隊長で、つまりはそれなりに融通の利く相手だ。
初陣では二人揃って功に逸り、突出しすぎた挙句に死ぬかと思うほどの手傷を負って帰ったものだが、傷よりも部隊長の鉄拳の方が痛かったのを覚えている。]
[軍の準備を整える一方で、元首はとある小隊の兵を呼び出していた。]
お前たちが、王国の野営地に最も近づいた隊だな?
[呼び出された者達は「はい」「そうです…」とぼそぼそ答える。
まだ若い連中だ。軍務に入って二、三年というところか。
どこか覇気が足りないのは、まだ死を引きずっているからか。
彼らの隊長は、部下を逃がすために戦って死んだと聞いている。]
おまえたちを、今より私の直属に任命する。
[突然の命令に、若者たちが驚いて顔を上げる。
その一人一人の顔を見ながら呼びかける。]
おまえたちの知識が我が軍の切り札だ。
勇士が命を賭して持ち帰ったものを、無駄にはしない。
いいな?
[「「はい!」」と背を伸ばした彼らに、空馬ひとつ用意して部隊の外で待機するよう伝え置く。]
[さらに、クレメンス率いる重歩兵隊の前列中央に、己と体格のよく似た男を配しておいた。
そして、滅多に被らない、総司令の羽根飾りのついた兜を被せ、剣と盾も渡しておく。]
私は負傷が重く、右端で戦うのは難しい。
[クレメンス将軍と他の兵らにはそう説明しておいた。
将軍に対しては、目配せ付きで。]
/*
なんかこう、開戦からほぼずーーーーーっと戦闘継続中なトルーン方面軍の皆さんが不憫でwww
お互いに休み休み戦ってたりするんだろうか。
ちょっとタイム―、とか言ってご飯食べて、じゃまたやろうかなんて再開したりして。
― 開戦の後 ―
[遠く、馬蹄の轟きと具足の響きが空気を揺らして伝わってくる。
王国野営地の緊張がにわかに高まり、様々に呼び交わす声が聞こえた。
やがて、どよめきが怒号と悲鳴に変わり、金属を打ち合わせる音が入り乱れる頃になって、小集団は静かに動き出す。
戦闘中の隙を突く、と言っても別方角からの奇襲は無論警戒されているだろうから、迂闊には近づけない。
だが、海の方は比較的警戒は少ないと思われた。
なにしろ、ゼファーの水上兵力は王国に頭を抑えられている。
馬を降りて解き放ち、若者らと共に港の側から侵入する。
ここまでは、ひとまず上出来だ。]
[ゼファー兵の象徴ともいうべき剣も盾も持たず、たいした鎧も着けずに平服で行ったのが功を奏したか、慌ただしい空気の野営地の中をさほど気にかけられもせずに進めた。
一度見とがめられたが、「義勇兵の持ち場は向こうだぞ!」と言われただけだ。
槍の穂先が鉄だと気づかれれば偽装もバレるだろうが、今は袋を掛けて隠してある。
そうして、物見台の下までたどり着けば、適当な小石を拾って書き付けを結び付け、上に向かって放り投げた。
書き付けには『来た』とひとこと書かれている。*]
[頭上で赤が揺れた。
白い指が差し招く。
若者たちのうち、機転の利く者を選んで合図し、共に物見台へ上がる。
他の者は、護衛のふりをして下に立っている手筈だ。
物見台を上り切れば視界が開けた。
足下に、軍勢同士がぶつかり争う光景が見えている。
戦塵と喊声を背に立つ王弟の姿は、逆光に縁どられていた。]
女神と言っても、月の女神ではなく戦神の方だったか。
[感想を声に出して言った後、ゼファー式の敬礼をする。*]
久しぶりだな。
お招きを受け参上したぞ。
豊穣の女神に気に入られるのは、もっとガタイのいい奴だろう。
[当人の性別ではなく恩寵を降らせているもののことを口にしたのだが、些細な行き違いだろう。
嫋やかな仕草はやはり、戦場には似つかわしくないと思える。
あるいはやはり、天上の生き物なのだろうか。
招かれれば、連れてきたものを登り口に残し、彼に歩み寄った。
前を通り過ぎて横に並び、戦場を見下ろす。
ゼファー軍を率いて駆ける戦車の姿に、目を細めた。]
これが、渡せと頼まれたものだ。
[問いには答えず、まずは皮袋を差し出した。
中には素晴らしく染みる薬草と、解毒の薬酒の製法が収められている。
特に説明はしないが。]
……ゼファーは施しは受けない。
戦って勝ち取るか、
敗北して死ぬかだ。
だが、偉大な敵手に敬意を表すことはできる。
単刀直入に言おう。
カーマルグを今後、領有する気は無い。
だが単に手を引いたとなれば、民が納得しない。
ひとつ、折れてもらえないか?
勝ちを譲れ、というわけではないが。
[改めて対手に向き直り、試すように問うた。*]
詭弁だな。
[ギデオンが語った「物語」を笑う。
否定的な笑いではなかった。]
そちらの正史はそれで構わないが、こちらの史書には好きに書くぞ?
"我が軍は多大な犠牲を払いながらも敢闘した。"
"王国は我が軍に恐れを為し、富を差し出した…"
……いや、こうか。
"王国の無尽の兵力の前に押しきれずとも、講和を引き出した。"
[どちらかと言えば、そちらの方が事実に近い。
長老連中あたりには、それで通じるだろう、とひとり頷く。]
ああ。富があれば、変えられるな。
一時的なものではなく、継続的なものだ。
それと、人と、技術。
[戦場から吹く風を、目を細めて受ける。
新たな風、というのにも否定しなかった。
が、問いの答え、と聞いて首を傾ける。]
さあ?何のことだ?
聞かされていないな。
[きょとん、という音がしそうな反応である。*]
我々は、王国に勝たねばならない。
[明白に、そうと示す。]
でなければ、ここまで戦った者たちが納得しない。
海賊などは過ぎた話だ。
彼らは今も『王国と』戦っている。
我が国の政治制度は、貴殿も知っているだろう?
私は、彼らの支持を失うわけにはいかない。
海賊への勝利などという卑小な結果で、彼らを納得はさせられまい。
[改めて、ギデオンへと体を向ける。
正面から、彼の目を見据える。]
彼らは、私が止めろというまでは戦闘を止めるないだろう。
それこそ最後の一人になってもだ。
だが私も、これ以上お互いの血を流すのは忍びない。
剣を置くと、宣言してはもらえないか?
今、ここで、彼らに向けて。
私と、私の信じる者が国の上に立った時には、必ず国を変える。
個が個として、相応しい生き方を選べるように。
それが、───俺たちの望みであり、誓いだ。
実現のために貴殿の協力が欲しい。
史書になんと残そうと構わない。
負けと認めずとも構わない。
ただ、今は戦いを止めると宣言してはもらえないか?
[それは脅しでもあり、懇願でもあった。
聞き届けられないのならば、実力を持って成し遂げる。
その意志を視線に込めた。*]
/*
まあ、ここで和やかに適当な交渉で終結したら、なんで軍を率いて拠点まで押し掛けたのかというあれやそれやもありで…
(結論:眠い)
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