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[魂を見るものならば見えるだろう。
倒れたものたちの魂が、ことごとく地面へ吸い込まれていくことを。
もはや敵味方など関係なく、儀式は貪欲に生贄を求める。
捕えられた魂は次々と儀式の間へ、魔法陣の中へと消えていく。
だが、それを見守る魔人の目にはいくらかの不審があった。]
─── 力が溜まるのが遅いな。
連中、恐れを抱いていないとでもいうのか?
これだから、人間というやつは…
[第二王子の声がここまで聞こえたわけもない。>>107
だが、人間たちが勇気と喜びを持って戦いに臨んでいることは知れた。
舌打ちするも、すぐに構わないかと思い直す。]
クレスが力を出し尽くすと言っているのだ。
いつまでも気楽な戦いにはならないだろうさ。
質で足りなければ、量で補えばいい。
[それこそ気楽に呟いて、再び儀式に没頭する。]
― 儀式の間 ―
[少々の誤算はあったものの、儀式は着実に進む。
今も魂を呑みこみ続ける魔法陣の中心にはエトヴァルトが横たえられ、周囲に渦巻く膨大な魔力に反応してか、時折身体を震わせていた。
心を研ぎ澄まして儀式を進めていた魔人は、大きな力が近づいているのを感じる。]
……聖剣か。
[痛みを伴う知覚に眉を顰める。
が、すぐに唇の端を上げた。]
― 儀式の間 ―
[少々の誤算はあったものの、儀式は着実に進む。
今も魂を呑みこみ続ける魔法陣の中心にはエトヴァルトが横たえられ、周囲に渦巻く膨大な魔力に反応してか、時折身体を震わせていた。
心を研ぎ澄まして儀式を進めていた魔人は、大きな力が近づいているのを感じる。]
……聖剣か。
[痛みを伴う知覚に眉を顰める。
が、すぐに唇の端を上げた。]
いいだろう。来るがいい。
ここまでたどり着けたならば、俺の手で直接捧げてやる。
[虚空へ向けて宣言し、竜の角を手に取って魔法陣のなかへと踏み込んだ。]
― 儀式の間 ―
[聖剣の気配が、迷いなくこちらへ近づいてくる。
目を閉じていても、肌で感じるようにわかった。
胸に刻まれた封印の印が、呼んでいるのだ。
疼痛を抱えながら、薄く笑う。
扉の外に気配が現れ、声が聞こえる。
魔法陣の中心で瞑想していた目を開いた。]
通してやれ。
[外へ声を掛ける。]
[かつての主家であれ、二人の元騎士にためらいはない。
今の主君を守護するべく剣に掛けた手を、主命下れば即座に離した。
ひとりが扉を開け、中へと促す。
そのあとは、視線を前へと向けたまま微動だにしない。]
[魔法陣の中に立って、魔人は王子が入ってくるのを待つ。
手には竜の角。
その先端は、横たわるエトヴァルトの腹に向く。]
良くここまでたどり着いたものだ。
まずは褒めておこうか。
その無謀さは二年前と変わらないようだが。
[戸口に差す金の光へ、軽い口調で声を掛けた。]
― 儀式の間 ―
なにを以て邪法というのか聞きたいところだが、…まあいい。
[真っ直ぐに向けられる聖剣の輝きに目を細める。]
貴様と俺とが相容れないことはわかりきったことだ。
なら、始めようじゃないか。
[言葉とともに、槍持つ手を離した。
その手で、ぱちりと指を鳴らす。
動作に反応して、あらかじめ仕込まれていた術が発動し、竜の心臓がばさりと大きく裂けた。]
[支えを失った竜の角は、その質量と鋭さを以て真っ直ぐ下へと突き刺さる。
竜の心臓から溢れ出す大量の血は魔法陣へ流れ込み、エトヴァルトの血と混ざり合った。]
連れて帰りたかったら急ぐといい。
エトヴァルトの命尽きたとき、儀式は完成する。
[笑み浮かべる魔人の表情は、その言葉が真実か否かを韜晦する。
ただ、部屋を覆う圧力が一層増したのは確かなこと。
無手のまま構えもなく、魔人は王子を誘う。]
/*
いわゆるターン制限バトルというやつ。
正確にはエディの魂を捧げて、他の魂も十分に捧げたら儀式喊声するんだけど、後半部分は別に言わなくてもいいこと。
殺す気なら構わないが、
[悲痛な声を上げて突進してくる王子を、僅かに重心を低くして待ちかまえる。]
風よ。
[ワンワードで拳に風を纏わせ、タイミングを合わせて半歩踏み込んだ。]
動かせば死ぬぞ?
[剣を持たぬ側へ身をずらしながら、腹めがけて拳を叩き込む。]
[繰り出した左の拳に確かな手ごたえ。
吹き飛んだ相手を見ながら、軽く手首を振る。]
まったく。
肉体労働は専門外なんだがな。
[武術の類の経験を積んだことはない。
ただ、増強された肉体能力のままに動いているだけ。]
[再び立ち向かってくるカレルの剣を、斜めに軽くステップして躱す。
いや、躱したつもりだった。
刃の軌道を見切って身を引いたものの、聖剣から伸びる剣圧に胸を真横に裂かれる。]
く、…
[忌々しい、と吐き捨てるのも惜しんで拳を振るう。
拳に纏わせた風を風弾として投げつけた。
カレルとエトヴァルトを結ぶライン上を、風が奔る。]
[裂けた服の間からは、古い傷も見えるだろう。
隠すでも押さえるでもなく、魔人は手を宙に伸ばした。]
はは。なにをいまさら。
[王の資格を語るカレルの言葉をあざ笑う。]
生贄にされたくなれば、強くなればいい。
エトヴァルトとて、その機会は十分に与えたぞ?
[王子の後ろで動く小さいものたちに一度目をくれてからカレルに視線を戻し、手になにか巻き取るしぐさをする。]
あまり暴れるのは止してもらおうか。
立て。影なるものども。
[術の言葉に従って、いくつかの魂が消滅する。
同時に、燭台が生み出す影がいくつもゆらりと立ち上がった。
おぼろげで不安定なそれらは聖剣の圧を受け止めて消滅し、残る数体がカレルへと冷たき手を伸ばす。]
ならば貴様は、弱者が強者を搾取する方が好みか?
[思い上がりとの指摘を鼻で笑い、影が王子にとりつくのを見る。
影の接触は生者の力を奪い生気を奪い、いずれはおなじ影と為す。
影に捕まれた王子の姿に目を細めるが、次にはそれが見開かれた。]
なに…っ!?
[魔人の目には、王子の体が強く光ったように見えた。
淡い桜色の閃光が視界を眩ませ、身体を竦ませる。
光のなかから何かが手を伸ばした。そんな錯覚。]
があぁぁぁっ!
[灼熱が、胸を貫きとおした。
左胸から入った聖剣は、切っ先を背中側まで覗かせている。
焼け串を突き立てられたように聖なる光が身体を灼いていく。]
…っ、爆ぜろ!
[喉をせり上がる血をこらえ、相手に掌を密着させて小規模な爆発を起こし、強引に剣を振り払った。]
[自身も爆発の衝撃で吹き飛び、数度床を転がったあと立ち上がって血を吐き捨てる。
肺をやられたらしく、息をするたびに鮮血が口の端を伝った。]
俺はな。
助けてもらうのを待つだけの連中にも、
他人のために命を投げ出すような連中にも、
反吐がでるんだよ…。
[服も半ばは吹き飛んで、今や胸に刻まれた十字が露わになっている。
爆発を直接浴びた手の方は、じわりと癒える兆しを見せていた。]
呪い?
[王子の口から零れた言葉に、眉を跳ね上げる。
それから、片頬だけで笑った。]
貴様らにとってはそうだろうな。
[言いながら、片手を傷の上に置いた。
今貫かれた傷ではなく、古い傷の方に。
先ほどの刺突は左胸のほぼ中心であり、心臓の上からは少しずれていたとは見て取れるだろう。]
[気迫の声とともに振り下ろされる聖剣を、どこかひとごとのように眺めやる。
カレルの技量、そして剣自身の意思が加わったような斬撃を、躱しきれはすまい。]
ぐ……っ
[星をも落とす勢いで振り下ろされた刃は、過たずに魔人の肩を砕き胸を裂き、
───かつり、と硬い音をたてて途中で止まった。]
[剣の勢いに負けてそのまま膝を突きながら、魔人は魔法陣に手を触れる。]
我が呼び声に応えよ、
[言葉に応え、足元から吹き上がるように白い竜巻が巻き起こる。
渦を構成するひとつひとつが恨み持つ霊であり、そのすべてでひとつである群体。
生者を呪い群れに引き込もうとする力が、周囲に渦を巻く。
その激しい負の感情に自らも身を晒しながら、魔人は苦痛の色なき目で王子を見上げた。]
貴様もやはりロルフと同じだな。
そんな剣で、俺は殺せない。
所詮、貴様も俺と同類なんだよ。
力でもって障害を叩き伏せて、自分の欲しい世界を作るんだろう?
聞こえのいい言葉で他の連中をたきつけて、自分の目的のために死なせてきたんだろう?
ひかりが、聞いて呆れる。
[聖剣を振り払うほどの力はすでにない。
それでもまるで勝利を確信しているかのような顔をする。]
勝手に、呪いと呼ぶな。
[突き入れられる手に呻きながらも、低く吐き捨てる。]
そのような輩が手を触れること、許されると思うなよ…
[カレルの手首を逆に握り返し、押し倒さんとする。]
俺の世界は、あの御方から始まったんだ。
俺に、道を示してくださったあの御方から。
そんななまっちょろい正義感で、それを砕けるわけがないだろうが…っ!
[血を吐きながら、手に握るのは闇より生み出した短剣。
表の激戦により、魔法陣にはある程度の力が溜まっていた。
本来ならばエトヴァルトの魂、あるいはカレルの魂を以て儀式を完成させる予定だったもの。
だが今、魔人は自身の魂を捧げてでも儀式を完遂しようとしている。
それほどの怒りが、瞳にちらついていた。]
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