情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新
神前試合に横槍とは無粋だな。
いや。神が決着をつけるのを怖がったのか。
ああ。何を掴んだか聞かせてくれ。
俺も、話したいことがある。
今ちょうど、大地の民と直接
それに。
たまにはお前の仏頂面を見ないと、調子が狂う。
[会いたい、と素直に言えないのは、もう習性のようなものだった。]
[防御のために盾を上げた一瞬、視線が別種の鋭さを帯びた。
もたらされたのは王国の秘策の話。
バルタが直面しているだろう困難を思えば、汗が冷える。
拠点には船が現れた。
こちらにも新手が来ている。
北で戦うもう一人の将の所に、何もないとは考えづらい。
できるだけ早く敵を抜いて、合流するべきだろう。
そのために、敵の要を分かりやすく叩き伏せるのは有効だ。
腹の底に、ひとつ覚悟を置く。
盾が下がり、視線がぶつかったときには既に、目の前の戦いにのみ集中していた。*]
― 平原南 ―
[刃と共に、声をぶつけ合う。
これは剣だけじゃない。思いの強さを見せ合う戦いだ。
そしてそれは、剣などよりよほど重要な戦いだった。]
ゼファーに、豊かさを。
[一歩踏み込む。剣を横薙ぎに振るう。
左から右へ、相手の剣を狙って押さえこむように。
殆ど身体がぶつかりそうなほどに押し込んでいく。]
──そして、自由を。
[続く言葉は、いくらか声を潜めた。
今はまだ、周囲の兵には聞かせられない。
ゼファーの根幹を揺るがしかねない望みだから。]
死ななくていい自由。
戦わずともよい自由。
己が、己として生きる自由。
[弱い子は捨てられ、臆病者は追放されて野垂れ死ぬ。
戦士になれぬ者を養えるほど、ゼファーは豊かではないのだ。
あの時はそんな実情まで話しはしなかった。
カレルが後に知ったかどうか、それは問題ではない。]
/*
最初に縁故投げた時は、こういう縁故つけておけばキリングの時に楽しいかな、くらいしか思ってなかったのに、どうしてこうなった。
(あるある)
― 平原南 ―
[カレルが張り上げた声に、半瞬笑みを浮かべる。
理解された、と理解したがゆえに。
ふいとカレルの顔が視界から消えた。
剣に掛かっていた抵抗が消え、身体が泳ぐ。
左側に風。
気配に反応して左腕を外側に振るった。
体勢が整わないため威力は無いが、盾で相手を弾き飛ばそうとする。*]
― 平原南 ―
わからないか?
[ぼそり、と呟く。
左腕に手ごたえ。
押されたカレルが二歩下がるのを横目で見る。
バネ仕掛けのようにカレルの身体が弾み、こちらへ跳ね返ってこようとする。
構えられた剣の形に、目を細めた。]
カーマルグの富は、お前だ!
[盾を引き戻し、相手の剣が振り上げられるのに合わせてこちらから体当たりを仕掛ける。
斬り上げる剣は肩ではなく脇腹に食い込んだ。
奇しくも、最初に刃を受けた場所だ。
巻いていた布が切れて解け、赤が散る。
それ以上は盾が刃を阻み、盾の面に長い線が一本増える。
そのまま肩から相手の胸に向かってぶつかっていった。]
お前は、お前たちの、要だ。
見ていればわかる。
お前には、彼らを動かす力がある。
[剣も盾も自然な位置に下ろし、カレルへゆっくり近づいていく。
傍からは威圧しているように見えただろうか。
或いは、勝利を確信した足取りとも。
己自身は、ただ彼一人に向けて言葉を投げかける。]
俺に、カーマルグは必要ない。
だがカーマルグの富は必要だ。
わかるか?
お前は、俺の夢のために欠かせない人間なんだ。
俺と、お前たちとを繋ぐ要だ。
[体に力を溜め、地を蹴る。
未だ剣を握る彼の一撃に備えて、盾を構える。]
だから―――!
[右手の剣を高々と振り上げ、───放り投げた。
徒手となった右手を握り、拳を作る。
それを渾身の力を込めて、カレルの鳩尾めがけて打ち込んだ。]
[指笛の響きを聞いてから、王国兵に視線を遣る。
その向こうにいるカレルの仲間たちにも。]
さっさと運んでやれ。
[声を掛けてから、彼らに背を向けた。
近寄ってきた兵が膝を付き、剣を差し出す。
それを受け取って、天へと掲げた。
夜空を突き抜けるような鬨の声がそれに応えた。*]
───…ああ。
[張り詰めていた気を、ゆっくり吐き出すようにコエを零す。
名を呼ぶ響きが、緊張をほどいていくようだ。]
やれるだけはやった。
あとは、向こう次第だな。
[響きには、やりつくしたあとの充足感が漂っていた。]
もちろんだ。
戦いが終わればすぐにでも会わせてやる。
生きのいい奴だ。きっと気に入るぞ。
[明るい口調で保証する。
むこうのコエに滲む何かは、気づいたけれども直接指摘したりはしなかった。]
なにしろ俺とお前は同じものだからな。
俺が気に入ったんだから気に入るって。
[ただ、そうとだけ付け加えておいた。]
あとは、戦いを終わらせるだけだな。
[コエの雰囲気を変えて呟く。]
どう終わらせるか。
それが、最大の難問だ。
[王国は侮れぬ敵だ。
勝つにせよ負けるにせよ、最善を探さねばなるまい。]
隊を再編し次第、北へ向かう。
フェリクスの隊と合流して、態勢を立て直す。
伝令を飛ばせ。状況を確認しろ。
[当面の動きを指示すれば、周囲の動きはさらに慌ただしくなった。
やがて、わずかな小休止のみを挟んで部隊は動き出す。
北へ。*]
薬も飲みすぎれば毒?
…確かにな。
[不意に届いた言葉に、誰の言葉だ?と疑問が浮かんだが、重要なのはそこではない。]
俺たちは相手を殺しつくしたいわけでも、こちらが全滅するまで戦う気もない。
どの時点で、妥協できるかだな。
若い連中を納得させ、長老どもを黙らせる程度の戦果は持ち帰る必要がある。
それが為されなければ、先も無い。
……、
[どうした、という言葉は呑み込んだ。
あんなコエで呼ぶのは、聞いたことがない。]
わかった。
[是非もなく、行くと答える。]
― 平原南 ―
[ようやく少し落ち着いて傷の手当を受けていた元首は、不意に鋭い視線を北へと向けた。
なにごとかといぶかる兵をよそに、立ち上がり歩き始める。]
馬だ!
伝令の馬がいるだろう。一頭連れてこい。
[慌てて追い縋る兵が治療を完了しようとするのも待たず、引き出された馬に飛び乗る。
何かを察した古株の兵がさらに三頭の馬を引いてきたときには、駆け出していた。]
おまえたちは命令通りに北へ向かえ!
私は、先に行く!
[お待ちくださいと、三人の兵が後を追う。
それに構うことなく、魂が呼ぶ方向へとひた走った。**]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新