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[――気付けばリュストの硬い鱗に、半ば突っ伏すような姿勢になっていた。
近く、しかし耳元ではない場所から、誰から呼び掛けてくる]
……――リュスト?
『おおきすぎる世界をみようとするな』
[その声は言った]
『おれのいるここが、おまえの世界だ』
[それでも]
『目をさませ』
[目の前に今、神代の名残の無があった>>221]
――……わかり、ました。
[随分と間は空いたかもしれないが、シリルの声>>222に応える。
唸るような音と虚無の震えが、意識を強制的に醒まさせる]
俺たちの力で、やり遂げてみせます。
[精霊のいとし子に送り出され>>223。
無の空間の中、座り心地の悪い鋼竜の背に、しっかりと身を置いて]
――――はい!
[建国王の号令>>224に、はきと声を上げた*]
― 虚無の深淵 ―
[空間にいくつも浮かぶ、薄墨色の塊。
虚無の分身だというそれの一つへ、勢いよくリュストを向かわせる。
塊は応じるように、触手を伸ばし蠢かせ始めたが]
― 虚無の深淵 ―
――はあっ!
[どこか勢い任せのような一撃だったが、手応えは確かにあった。
飛び散ってそのまま消えていくそれの横を通り過ぎ、更に進んだ先に新たな一体が待ち構えていた。
それは大きく薄く身を広げ、こちらを包み込もうとしているが]
――リュスト!
[速さの乗っている今なら、いける気がした。
鋼竜の背にぴったりと身をつけて、その翼を後方へ、強く強く羽ばたかせる*]
― 虚無の深淵 ―
[ある程度細かい破片になってしまえばそのまま消滅する、という推測はどうやら当たっていたらしい。
リュストの三つの角と頭に中心を突き破られた薄墨は、破片でこちらを害することもなく消滅した。
触れた時の感触は、快いとは言えないが]
ぶつかりあって倒せる相手なら、やりやすいってもんだ。
[自身を奮い立たせるようにそう言えば、リュストも同意を返すようにがるると鳴いた。
リュストもこのぶつかり合いを厭わないと、そう伝えたいようだった]
ああ、俺たちのやり方でいこう。
[傍から見てスマートとは言えない戦い方かもしれないが、これでやり通すと決めた。
そこに横合いから、細いが数多く分化した触手が伸ばされてきた。
この形状なら奥まで攻撃が届かないと踏んだか]
――なら、飛び道具か。
[自分たちの飛び道具は一つしかない*]
リュスト、ブレス!
[泥の中に埋もれ、縺れあった触手は、それ以上動くことができないようだった。
念のためフレイルで叩き、確実な消滅を確かめる]
――よし。
[また一体を倒したが、息をついている暇はないようだ。
先陣を切る者たちは、更に虚無の本体へと近付いていっている]
……リュスト、上だ。
[上昇速度の遅いリュストだが、あえて虚無本体の上方へ向けた軌道を取らせる]
速さで翻弄するなら他の奴らに分がある。
けども……。
[無論、薄墨もそう易々と近寄らせてはくれない*]
――はあ。
[道阻む一体をフレイルで叩き落とした。
しかし、本体に近付くにつれ、触手の密度や攻撃の激しさは増していく。
それに、そもそもその位置が"上"かも曖昧だ]
……いや。
"飛ばなきゃならない"なら"落ちる"ことだって出来るはずだ。
[もしかしたら的外れかもしれない。
それでも、自分たちに出来る最大限を模索する]
[その時、がくりと上昇の動きが止まった]
リュスト!
[見れば、こちらの狙いに気付いたか否か、リュストの右後肢にトリモチのような薄墨が絡みついている]
この……っ!
[思わず手を伸ばしかけたが、素手で剥がせるものでもないと思い直す。
代わりに上半身を後方に捻りつつフレイルを構え*]
[後方へ向けての掠めとるような一撃は、無事リュストの足にダメージを与えることなく通り抜けた。
翼をひとつ打ったリュストの身が、躍るように高度を上げる]
リュスト……。
嫌な気分にならなかったか?
[先に聞こえたような明瞭な声は、今は聞こえない。
ただ、堅牢であろうとする意志が、こちらの心配を跳ね返した。
今は前だけ見ていろというような]
――そうだな。
[自分は騎竜師としては、正しくはないのかもしれない。
それでも今、リュストの背に在ることが全てだ*]
― 虚無の深淵 ―
[『虚無』の本体が大きく震えるのを、やや高い位置から見下ろしていた。
分身を砕かれた『虚無』は、自ら仇なす者を捉えんとするかのように、触手を伸ばす>>297]
……ついに本体の方が動いたか。
[異様な姿に思わず顔をしかめる。
そこにシリルの声>>298が届いて、意識をそちらへ向けた]
一撃必殺――か。
[試そうと思っていたことがあった。
敢えて高い位置を陣取ろうとしたのもその布石だ。
けれどそれは、むしろ道を拓くための手段と思っていたから]
――俺にやらせてくれ。
[それでも、一呼吸の後、口をついたのはその言葉だった]
叩き壊すほどの重い一撃ってんなら、俺とリュストが適任だろ。
敵ん中に飛び込んでくってのも、悪くねぇ戦い方だ。
[でも、と言いながら、一度皆がいるはずの方向へ視線を回す]
俺にできるのはそこだけだ。
敵を翻弄する速さも武器を操る器用さもねぇし、攻撃の多彩さもねぇ。
遠距離攻撃とか援護とかは任せっきりだ。
だから――皆の力で、そこまで届かせてほしい。
[危険を引き受けるのではなく、自らが果たすべき役割だと思えた]
[無論そう思えたのは、シリルの後押しもあってのことだろう]
シリル……様とヴァイスも。
後は、よろしくお願いします。
[彼らにも彼らでなくては果たせない役目があるのだろう。
それを感じながら一礼を向ける]
そこまではきっと――俺たちで、やり遂げてみせますから。
[自分からそう言い切れたのは、自身とリュスト、そして仲間たちの力なら成し遂げられると信じられたから。
こちらへ向けられる眼差し>>299>>301も、今なら揺らがずに受け止められる**]
― 虚無の深淵 ―
[全力を尽くして、と。
シリルの言葉>>306に背中を押される。
ヤコブからも、互いの役割を確認し合うような言葉を受け>>309]
……有難ぇな。
[グレートヒェンからは白花と、重ねて青葉の盾の術を受ける>>313。
『虚無』の本体が蠢き始めたのはそれとほぼ同時。
攻撃の気配に反応してか、淡く輝き放つ盾は鎧竜の足元へ。
どこか触手の波に立つ足場のようにも見えた]
――いくか。
[各々が動き始めているのを感じながら、リュストの頭を"下"へ――『虚無』の在る方向へ向ける。
鎧竜の重さと頑強さを活かすなら、落ちながら加速するのが一番だ]
今は、後ろは見なくていい。
[呟きは、誰へ向けてのものか]
突っ込め――リュスト!
[そして一人と一体は、下向きの突撃を敢行した*]
― 虚無の深淵 ―
ああ、勿論。
[シェン>>319と短く約束を交わす。
彼とエルトナが征くのは自分たちより前。
錐のように回転しながら、触手を斬り払っていく]
[カレル>>321とアークもまた、道を拓く役目に加わるか]
[ゾフィヤ>>315とグレートヒェン>>323は、彼らの拓いた道を舗装する役目を担うようだ]
[無論、自分たちもただ待っている訳ではない。
斬られてなお道を塞がんとする触手をフレイルで振り払い、急速な再生で塞がる道をリュストの鼻先で押し広げて。
道を見失わないように、先行く者たちと離されないように、前へ前へと]
おおっ!?
[触手の一本が、自分だけを絡めとるようなタイミングで伸びてくる。
咄嗟にフレイルを飛ばしたのは、リュストの角の根本。
鎖部分を引っ掛けるようにして、強引にその場を切り抜ける*]
― 虚無の深淵 ―
[カレルはアークから離れ、果敢に触手の群れへ挑んでいく>>329。
後方ではグレートヒェンとユリアが蔦での抑えに回り>>325]
ゾフィヤ……!
[道を切り拓いた者たちが退避した後、氷の華が道を覆い、触手を凍りつかせていく>>335。
シェンがこちらと擦れ違うように、最奥へ続く道を炎で焼き払いながら上昇して>>344]
[それらの動きとは対角線上。
虚無の更に真下へ向かった白銀が、聖なる光のブレスを放つ>>332。
それは薄墨の球体の、更に核を照らし出し――]
――見えた!
[確かにそこにある漆黒を、瞳で捉えた]
[合図はもう、不要だ。
ただ真っ直ぐに、出せる最高の速度と力を]
――リュスト。
[確認のように一度、囁く。
直後、僅かにこちら側へ向けて厚みを増した薄墨へ、一人と一体は突っ込んでいた]
[自分は騎竜師に相応しいのだろうか?
そんな疑念に取りつかれたのは、学校生活も佳境、リュストに騎乗しての訓練が始まった頃だった]
[技術や知識の不足ならば努力を重ねればいい。
けれどもっと根本的な所。
自分とリュストの絆は、本当に正しく繋げているのか]
(――リュストは確かに頑丈だ。
でも、だからっていつも危険な位置に立たせるのは、俺の身勝手なんじゃないのか?)
[自分は竜に対し、人が使役する存在として見ているのではないか。
そんな迷いが、訓練や実戦に向かうたび募っていく]
"ちゃんとリュストを、お前の竜を見ろ"
[そんな自分に対し言葉を投げ掛けてくれたのは。
リュストの親を相棒とする先達だった]
"いいか、護り手と共に在る竜には、多かれ少なかれ危険がつきものだ。
どんな竜だって、それでも信頼に足る相手でなきゃ、背には乗せねぇもんだ"
[豪快だがどこか大雑把だった先達の、その時ばかりは真剣だった目を思い出す]
(そうだ、やっぱり思い上がりだ)
(誰もが皆、自分の出来る精一杯をやっている)
(その中で、俺とリュストの選んだ場所が、ここなんだ)
[るぅおぉぉぉぉぉ!
リュストの、常にない雄叫びが上がる。
こちらを包みかけた薄墨はリュストの四肢に砕かれ。
更に分かれ伸ばされた触手を、白花の力受けたフレイルで振り払う]
そこだ、ぁ――っ!!
[そして、完全に露わになった漆黒を。
リュストの前肢が、三の角が、同時に前方向け振り下ろされたフレイルが、全体重と全速度を乗せて打ち砕く]
― 虚無の深淵 ―
[声>>356が届いている。
後ろを振り返る余裕はないけれど、竜に全てを委ねるほどの力>>353が、道を維持してくれたことは理解していて。
そうして全力をぶつけた先、漆黒がぐずりと崩れ始める>>357]
[急激な降下と共に全てを振り絞った直後で、正直虚脱してしまいそうなほどだ。
しかし、ここまできて最後の仕上げを仕損じさせてはならない]
リュスト、すまねぇ。
もう少しだけ頑張ってくれ……!
[自身はほとんど背にしがみつくような状態で。
リュストに懸命に羽搏かせ、その場を離脱する]
[そうして、やや霞む視界の中に映ったのは。
いとし子の許へ集う精霊の光>>358と、聖剣を思わせる剣>>359]
ああ……。
[色とりどりの光が、聖竜のブレスが虚無を包み込む>>360。
最後は砕かれるのではなく、溶け消えるように。
そして虚無が消えた空間は、僅かに明るさを増していて]
終わった、んだな。
[やり遂げた。
その感慨と共に、深く深く息を吐く]
リュスト……あり、がと。
[最後の最後に気力を振り絞って飛んでくれたリュストに礼を言う。
本来なら先輩らしく、道を作ってくれた仲間たちや浄化に導いたシリルとティアナに何かを言うべきなのかもしれないが]
[今は少しばかり、疲労感に身を委ねていたかった*]
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