情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
― 3年前 ユリハルシラ領 ―
[ クリフが興味を示せば、町の住民は華冑公婿の嫁取りにまつわるロマンスを語ってくれる。>>1:112
いわく、修道院に押しかけて姫を口説いたとか、塔に幽閉されていたのを助けたのだとか、果てはドラゴン退治の顛末まで、まことしやかに語られる。
ルーニーがつけた曲などもあった。]
[ その頃、生きながらにして伝説となった当人は、生涯でもっとも、自分が役立たずであると噛み締めながら、邸宅を出て、門柱にもたれていた。
空を振り仰いでは溜息をつき、落ち着かなげに拳を握る。*]
― 3年前 ユリハルシラ領 ―
[ 溜息の間に、とりとめなく弟に呼びかけていた。]
ラーシュ、 いつだと思う。
まだかな
…もう生まれてもよくはないか?
― 現在 ―
[ 素っ頓狂な声が飛んできた。]
チェシャ畑で、 なるほど?
餌付けされたか。
[ 美味しかったか、よかったな、と微笑めば、なんとなしにシェシャの味が広がる気がした。
レトの記憶から出てきたのかもしれない。
成果物を惜しみなく与える寛容な人物像が浮かぶ。]
大鎌を携えた指揮官がいたら注意しておこう。
― 大街道 ―
[ 野営地を出発した軍勢は順次、橋を渡った。
月と波を意匠化したマルール軍旗を高く掲げ、進んでゆく。
しばらく進むと、街道の交わるあたりに、ナイジェルが夜のうちに運び出させていた資材が集積されていた。
中継地点として申し分ない。
関所のような形で馬防柵を巡らせた簡単な砦を設置し、夜を過ごした。]
[ この先は、ナイジェル軍団とは別行動となる。
即席の砦/関所には、いささかの食料──塩漬け魚の樽などの重量物と旗指物と若干の伝令兵を残した。
街道を進む本隊の先頭はレオノラが指揮する騎馬弓兵隊《六月》
続くは歩兵隊《竜骨》
長弓兵隊《氷雨》は弓の先端に、風になびく細長い布を結んでいた。風を読むためのものだが、どこか祭りめいた華やかさをまとっている。
司令官のタイガは歩兵隊《狼牙》と共にあった。青鹿毛の軍馬に跨る姿は護衛兵に囲まれてはいても、その人ありと喧伝するようなオーラを発している。
その後をついてゆく工兵隊《双六》が伴う箱方の連弩は長櫃のようで、商隊か花嫁行列に見えなくもない。
大街道の左右の平原には、ふたりの軍団長が管轄する騎馬隊が散っていた。
遠目には大軍団に見える効果も期待できよう。*]
― 3年前 ユリハルシラ領 ―
[ 気のない返事でも、返ってこなければ名を呼んで注意をひく迷惑なやつだった。]
ラーシュ、 おまえも叔父になるんだぞ。
おまえの母にもらった香草は、気分がすっきりすると言って、とても喜ばれた。
…他にも何かないか 今できること
湯も布もたっぷりあるし、 オモチャはまだ早いな
[ そんなことを繰り返していたら、キレられた。]
[ 一瞬、間が落ちる。]
…不思議なんだ。
おまえが生まれたときは、自分が手を握って抱きあげたと錯覚するくらいの感覚があったのに、
どうして自分の子供でも、この目で見るまで、存在しているのかすら、わからないんだろうな。
[ 今もこうして、レトがいることがどれだけの救いになっているか。
自分は決してひとりではないという拠り所があることは、まさに奇跡だ。]
― 3年前 ―
[ 諭すような慰めるような、何よりも認めあう響きに、ふっと息をつくことができた。]
これでは、どっちが兄だかわからんな。
[ 羞恥の中に感謝を乗せた。]
ひとつ、頼みがある。
おれの子供──まだ男か女かもわからないが、
生まれたら、ルーリーの流儀でも祝福してやってくれないか。
[ 良い妖精の贈り物だ。*]
― 3年前 ユリハルシラ領 ―
[ 見知らぬ青年に声をかけられた。>>4]
あ、いや──
[ なんでもない、というのは明らかに嘘だったので、正直に言う。]
追い出されたんだ。
いや、正確には、殿方は出てくださいと。
妻が、 いや、そう言ったのは妻ではないのだけど、妻の部屋から、出なくてはいけないことになって。
そういう時は酒でもかっくらって、びしっとどしいっとしてればいいという話もあるんだが、後で、その時に酔っ払っていたというのも情けないと思わないか。
なのでこう──君ならどうする?
[ とりとめなく畳み掛けるように語りながら、意見を求めた。*]
― 大街道 ―
[ 「後方に接近者あり」との知らせは、程なくレトたちが追いついてきたものと知れた。
ただいま、と語りかけてくる当人がそこにいることに、軽い驚きがある。
馬を並べる感覚は久しぶりだ。
だが、それ以上の交流をしている暇はないらしく、レトは再び馬を走らせると言った。
彼に任務を託したのは自分なのだが、慌ただしさが切なくもある。
とはいえ、兵らの手前、投げかける挨拶は節度を守った。]
ご苦労、将佐。
さらなる活躍を期待している。
風呂の件は、ソン・ベルク軍団長に後ほど伝えておこう。
彼の行き先は王都だ。
囮役を買って出てくれた。
[ 軍機に関することなので、肉声にはしないで伝える。]
あの沐浴施設は確かに楽しそうだったな。
その笑顔つきで伝えられないのは残念だが、おまえの嬉しさはわかってもらえるさ。
ともあれ──よく来てくれた。
気をつけて進め。
その名に宿るトーテムの加護を。
― 大街道 ―
[ 伝令が次々と報告をもたらす。>>56
連邦軍先鋒は同じく弓騎兵。
そこへレオノラ率いる《六月》が、魁の驟雨を降らせるのが見えた。
風を切る音が遅れて届いた時には、《六月》はすでに最初の地点にはいない。小隊にわかれて駆けていた。
タイガのハンドサインを受けて、奏手が角笛の音をひとつ響かせる。
歩兵隊《竜骨》は鏃の形に広がり、足をとめて地面に突き刺した盾を支え、その間から槍を突き出した。
続く弓兵隊《氷雨》はその傘の内側へ寄り、長弓を引き絞る。]
[ 《竜骨》の槍衾は、ティルカン弓騎兵の射撃と突撃に備えたものだったが、案に相違して
上からでなく水平に射込まれた矢に、乗騎を、あるいは騎手を貫かれて落伍する者が見える。
マルールの血が流された。
両翼の軍団長は、駆け続けるティルカン弓騎兵を慌てて追うことはせず、逆にその進路へ同数程度の騎兵を送り込み、激突を狙った。]
[ 《氷雨》からは、長弓の射程を活かした斉射が、ティルカン軍中央へと放たれる。
何か仕掛けるつもりのレトたちが戦場のどこにいるかは把握できていないが、さすがにそこにいないのは自明だ。
最後尾の工兵隊《双六》は、装填した箱型連弩を街道の左右と後方に向けて待機していた。
ティルカン弓騎兵が射程にまで回り込んでくるのなら、水平撃ちの
タイガとその周囲の《狼牙》は、まだ動かなかった。
散開して陣を大きく見せてはいるが、ナイジェルの軍団がいない分、現時点で兵数は互角以下。
馬蹄の響きに負けじと手持ちの武具を盾にぶつけ、揺るぎない鼓動のごとき音を揃える。*]
― ― 3年前 ユリハルシラ領 ― ―
[ 我ながら不審な言動ではあったろうと思うが、若者は真摯に聞いてくれた。>>73
物腰は柔らかく紳士的で、良い育ちをしているのだと思う。
対応策を問われて考え込む様子からは、彼には、もうすぐ子供が生まれるという、この嬉しいような所在ないようないろいろがないまぜになった時間を持て余した経験はないと察せられた。
この街のことを語っては、と言われ、ひとつ深呼吸をする。
焦っても仕方ないのである。ならば、]
生まれ来る子に話すつもりで、君に教えよう。
[ 来る者拒まず、活気があって金は回るが貯まらない、新旧が入り混じり刺激しあって、明日は何が起きるだろうと楽しみなこの土地のこと。すれ違う人たちが紡ぎ出すささやかでも愛おしい営みのこと。
この地を選んだ"君"に、幸運だと感じてもらいたい。
成長した我が子を連れ歩きたい場所を思い浮かべて、さらには思春期になった暁のデートスポットまでピックアップしたものだから、]
もし君が各地を回って結婚相手を探しているのであれば、紹介するのはやぶさかではないぞ。
[ 話が飛躍した。**]
― 大街道 ―
[ 長弓の応射が来る。>>119
警報の声が上がり、前線の兵は前方に構えていた盾を頭上に翳し直す。
長弓兵もその陰に身を縮こませながら、次の矢を準備した。
ザッと降り注ぐ矢の雨。
散開していたとはいえ、運の悪い者は負傷し、戦線離脱を余儀なくされた。
矢の刺さった盾は取り回しも悪くなる。
後方の《狼牙》まで届く矢はほとんどなかったが、中には剛弓の使い手がいたのだろう、意地を見せるように飛んできた矢を、タイガは指揮杖で叩き落とした。 ]
[ 前線の視界が盾で塞がれている合間に、ティルカンの騎馬隊が動いていた。
ナネッテ隊の進路を防ぎそこねたマーティン軍団の先頭のさらに南側へと回り込もうという動きだ。
それを見つつ、タイガは《氷雨》に二射目を命ずる。
狙いは同じく、敵中央。
ただ今度は、放たれる矢のいくつかには、飛距離と威力を犠牲にして、端切布に灰を包んだ小さなおまけがついていた。
着弾の衝撃で目潰しの灰を撒き散らす仕掛けだ。 ]
[ 戦況が動く中、ティルカン軍の一部が北へと離脱するのを見やる。>>113
北に配したチャールズ軍団はナネッテ隊と対峙していた。
さすがに兵数が違うから押し負けることはなかろう。
チャールズもあえて兵を割いて離脱したティルカン軍を追おうとはしていない。
ナイジェルの作戦どおりだからだ。]
《氷雨》を下げる。
《竜骨》前進せよ。《六月》の作る隙を逃すな。
[ 角笛が吹き鳴らされた。*]
なんの魔法を使った?
ロンジーで馬でも買い付けていたのか?
…びっくり、箱?
[ 言われてようよう、ダミーだと思い至った。]
[ 戦場の南方で新たな動きがある。
南方に配されたマーティン騎馬軍団の、さらに南へ回り込もうとする動きを見せたティルカンの騎馬隊の、それまた南側から飛び出したレトの伏勢が砂塵を蹴立てて突撃する。
その進路は、中央から突出してきた騎馬隊──ではなかった。>>125]
鬨の声をあげよ。
《狼牙》、前進しつつ方陣へ移行。
《双六》と《氷雨》は合流して《狼牙》の後ろにつけ。
[ ティルカンの注意をひとところに集中させないよう、じわりと動き出した。]
[ マーティン軍団は、おおよそ2倍の兵数で南のティルカン別働隊を受け止め、包囲して潰そうと画策していた。
残りは相変わらず本隊の横につけている。
チャールズ軍団もまた、相手にするのは400騎かそこらの騎馬弓兵という状況だ。
ハルバードを振り回す猛将に手こずっている、との報告もあり、確かに混乱の気配はみてとれたが、チャールズが討たれでもしない限りは心配ないと踏む。
王都方面へ離脱したティルカン軍──伝令によればリンデマンス領の兵──も、ナイジェル軍団の兵力には及ばないと見た。]
チシャの人、だったな。
[ ここまで予定どおり、ティルカンの部隊を少しずつ本隊から引き離すことに成功している。
悠然と、飛びかかる瞬間を見定めていた。*]
― 3年前 ユリハルシラ領 ―
[ 通りすがりの青年の押しかけ仲人になる話が進んで(?)いる最中、屋敷の窓が開いて、大きな青い布がバルコニーに広げられた。]
──!
[ それを見るや、青年の首を小脇に抱え込んで、頭を撫でくりまわしたい衝動を抑えかねた。]
[ ほどなく家令が、祝いの酒を持って出てきて、タイガと青年それぞれに、黒くて軽い盃を差し出した。]
これも縁だ。
乾杯を受けてくれ。
[ その後は、急いで邸内に戻ることになったから、話の続きをする暇はなかったけれど、感謝の気持ちのままに、盃を持ち帰ってくれと勧める。
海の彼方の技術で作られた漆盃であった。]
記念すべき日の思い出に。
次に会う時があれば、是非、だからな。
[ 青年自身の言葉を借りて破顔した。*]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新