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[主があちらの女性になにか耳打ちするようなシーンは、見ないふりしつつ確り観察しておくのが、できる使用人の心得。
いずれにしても主が話している間に口を挟む立場ではなく、去り際に「良いご旅行を」と告げる程度だった。]
興味深い方々でしたね。
[十分に離れてから、そんな感想を零す。]
[部屋に戻る素振りの主に声を掛ける者がいた。
相手を認識して、眉がぴくりと上がる。
例の議員だ。
カードルームに誘われたのはちょうどいいというべきか。
近づく手間が省けたのは確かだ。]
― カードルーム ―
[主は気づくだろうか。
議員の周囲に薄く漂っている邪念に。
彼も、かつてはもう少し品のいい人物だったはずだ。
様々の用をこなしながら成り行きを見守る。
幾度目かのゲームを終え、次に相手がチップとして提示したのが、金髪美女だった。]
[戻ってきた手には、盆の上にグラスを二つ載せていた。
中で揺れるのは、薫り高い琥珀色の酒だ。]
いかがですか?
[まずは議員の側で腰をかがめ、グラスを勧める。
にやついた笑みとともに何か言われたが、頭を下げたのみで特に答えなかった。]
[向きを変え、主の元へグラスを運ぼうとする。
その足先がテーブルの脚に引っかかった。]
―――っ!
[つんのめったはずみに銀盆が傾き、グラスが跳ねる。
とっさにグラスを押さえるが、中身は見事な放物線を描き、主の胸元へと降りかかった。]
申し訳ございません…っ
[慌てて盆を置き、ハンカチを取り出して拭く。
だが酒精の染みは拭ったところでますます香るだけだ。]
大変な失礼をいたしました。
なんとお詫び申し上げればよいか……
[深く頭を下げて、謝罪の言葉を繰り返した。**]
[髪を掴まれ、仰のかされ、主と目が合う。
悪い顔をしているな、とふと思った。
案外、そんな顔も様になる。
なんて、口元が笑みを浮かべそうになるのを、唇を噛んで誤魔化した。]
仰せのままに。
[立ち上がる主に合わせ、議員に素早く一礼して背を向ける。
カードルームを出るまでは、悄然とした様子を保っていた。]
── 申し訳ありませんでした。
[カードルームを出たところで、小声で謝罪を付け加える。]
18年物を飲まずじまいにしてしまって。
少しくらい、味見していただくべきでした。
[冗談だと示すように微笑して、このまま部屋へ、と囁いた。*]
あちらにだけ飲ませたのが、少々癪です。
先ほど下がった時にもっと良い酒を見つけておきましたから、後で届けさせましょう。
[大股で歩く主の一歩後ろにぴたりとついて後を追う。
未熟だと吐露した横顔には、そっと視線を走らせた。]
演技に熱が入ったのでしょう。
それに、ああいうあなたも、たまにはいいものです。
[いささか冗談の範疇からはみ出す熱を差し挟む。]
あちらがあそこまで私にご執心なのは誤算でしたが、
あるいはむしろ、やりやすいかもしれません。
向こうが力押しを思いつくより先に、仕掛けてしまいましょう。
[主のために部屋の扉を開き、不敵な笑みを浮かべる。]
これが最初の実戦です。
[主の後に続いて部屋に入り、ぱたりと*扉を閉めた*]
― 客室 ―
[部屋に入れば、すぐにも主を脱がせに掛かる。
シミ抜きは時間との勝負なのである。]
先にシャワーを浴びてしまいましょう。
[ほとんど酒精の被害を受けていないボトムまで手際よく剥ぎ取って、シャワールームへと誘った**]
― 部屋 ―
[ 本日二度目のシャワーに案内される。
今度は、洗い流すのは汗ではなく酒とシガーの香りだ。
あるいは、禊でもあるのか。*]
[汚れた衣服をさっさと洗濯サービスに出した後、先ほどと同じように主が身を清める手伝いをする。
先ほどよりも入念なシャワーの後、やはりバスローブを着せかけて寝室へ送り出す。自分もまたバスローブ姿で後を追った。]
では、始めましょうか。
こちらをお持ちください。
[差しだしたのはネクタイピンだった。
先ほどの議員から黙って拝借してきたものだ。]
ベッドに上がってください。
仰向けでもうつ伏せでもどちらでも。
うつ伏せの方が姿勢が楽なのでお勧めしますが、顔を見ていたければ仰向けでもいいですよ。
[主をベッドへ導きながら、小さな瓶を取り出してくる。
中身はマッサージオイルとはまた違う香油だ。]
あとはリラックスして私にお任せを。
……説明は必要ですか?
[ベッドを軋ませ片膝を乗せたところで、ふと尋ねた。*]
[ 夜はまだ長い。別段、急ぐ気持ちはなかった。
シグルドが満足するまで身体を流させる。
バスローブを羽織って寝室へ赴くと、後から来たシグルドに尋ねた。 ]
おまえの食事は?
[ 優秀な執事は、どこか一瞬の隙に食べているのかもしれないが、労働条件を過酷なものにするつもりはない。]
[ シグルドは、始めましょうと言って、何か光るものを差し出した。
ブランドの刻印がされたネクタイピン。特注なのか、名前も彫ってあった。]
上出来だ。 よくやった。
[ 家伝の"技"を発揮するには、対象となる相手の持ち物が必要なのだ、ということは知っている。
長く身につけていたり、思いのこもったものの方がいいというのも。
名は呪であるから、これで充分役に立つだろう。]
[ 入手手段は気にしないことにする。シグルドなら事後のことも考えていると信用できる。
次の段階は、何か瞑想めいたものを行うはず。
意識の奥深く、世界そのものとつながっている無意識の領域に入り込むための。
香を焚くか薬を飲むのかもしれないと予測していたから、シグルドが手にした香油の瓶に、やはりと思った。
けれど、うつ伏せが楽とか、顔を見ていたければ仰向けに、という部分は理解が及ばない。]
説明をしてくれ。
肝心のところは、伝授されていない。
[ 執事が知っていて、後継者が知らないという図は、歴史を顧みればいくらでも例がありそうな話。
それでも少々、負けているようで悔しい。
話を聞くのに顔は合わせておきたいから、寝台に仰臥した。*]
食事は後でとらせていただくつもりでした。
ご心配いただき、ありがとうございます。
[使用人の労働環境にまで気を配る主はまさに得がたいもの。
礼節ではなく心から感謝を述べて頭を下げる。
この方にお仕えしていることが誇りであるし、ただ純粋に好きでもあった。それは幼いころ、共に遊び回っていた頃から変わらない思いだ。]
[主がベッドに仰臥する。
緩く結んだ帯がほどけ、胸元が露わになっていた。
はっとするような色香が漂う。]
── 私の一族は代々、皆様にお仕えするのと同時に、
精神世界へとお送りする船であり水先案内人でありました。
私はその知識と能力を得るための儀式を終えております。
どうぞ、全て私に任せてください。
[説明を求められて、まずはそう告げる。
共にベッドに上がり、主の腰を跨ぐように膝立ちになった。]
あなたを精神世界に導くために、ふたつのことが必要になります。
一つは、あなたが絶頂を迎えること。
ひとつは私があなたに直接精気を送り込むこと。
つまり私があなたを抱くことが要件です。
[実際は、香なり薬なりでトランス状態に導く方法もある。
だが今回はそれを取らなかった。
直接繋がることが最も効率よく、力も最大に発揮できる。
なにより、自分がそうしたかったから。]
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