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[戯れる波動を指に絡ませる。
期待し、強請るさまは愛らしい。
何もなくとも、
それほど我に仕置されたいか?
そんな悪い子には、特段きつい躾をしなくてはな。
[喉を鳴らすような、優しげな声]
[それら戦うものどもの上を、竜は飛んだ。
変わり果てた兄弟らを斬る男の激情を嗤い、燃える宿営地の上を一度飛び越し、人間どもが立て籠もろうとしているモーザック砦の旗に影を落として旋回する。
夜空高く飛ぶ黒竜など人間には見えなかろうが、竜の背には魔の光纏う王が在った。
光に縁どられた竜の影絵は、地上からでも見えたことだろう。]
怒りと恐怖の声が聞こえる。
血と死の匂いを感じる。
これは良い。実に心地よい。
我の心まで躍るようだ。
[風の中で高らかに笑った魔王は、ナールに指示を下す。]
我も少し遊んでやろう。
あれだ。あの木偶がいい。
[高揚のままにナールを駆けさせた魔王は、森に潜む人間どもめがけて竜翼を鋭く急降下させた。
驚愕する人間たちを尻目に上空をナールは木々の上を掠め飛びながら、投石器を前脚でつかんで別の投石器に投げつける。あるいは尾を打ち振ってなぎ倒す。
幾本もの矢が射かけられるが、下から飛んでくる並の矢がナールの鱗を傷つけることなどできようはずもない。]
良いぞ。
次はあれだ。
[遊戯の感覚で、投石器を次々と破壊していく。]
[目につくところをひとしきり破壊して満足した魔王は、ナールを燃え上がる野営地へと向けさせた。
人間がほぼいなくなった場所に、いくつかの気配がある。
玩具が壊れて落ちているなら拾っておくかと、
───ついでに楽しみのひとつでもしようかと、
上空をぐるりと回って見下ろした。
そこにシメオンと、その僕と、壊れた人形と、
人形によく似た顔立ちの人間がいた。]
ふん?
[興味を引かれた顔で鼻を鳴らし、ナールを降下させていく。]
あれだな?
ひどく壊れたものだ。
我以外の手で、こうまでされるとはな。
[声が不快を含んだ。
お気に入りの玩具を別の者に触られたときのそれ。]
───ふむ。
もう少し、壊れにくくするか。
[真剣に検討する色で唸る。]
[黒竜が舞い降りたのは、今まさに刃交わす魔と人間から少し離れた場所だった。
大人しく伏せる黒竜から降り、半ば溶けて崩れた人形の横に立つ。]
無様だな。
守りたいと願った人間に殺されるのは嬉しいか?
[呼びかけたのは、素体の記憶に向けてだ。]*
/*
そうそう。
書き忘れてたけど、ツィーアがラーグとか呼んでくるのも嬉しいよね。特別感。
兵器だなぁ。可愛いなぁ。むやみになでくり回したいなあ。
そうか。
[まだ、と言う人形に短く返す。
片足を上げ、爪先を人形の頭に掛けた。]
ならば、死ね。
[押さえきれぬ喜悦が声に滲む。
爪先に──傍目にはごく軽く──力が加わり、
熟れた果物の潰れる音がして、人形の頭が弾けた。]
そうか。弱いのか。
[人形の頭を踏み砕きながら、声はまだ思案する風。]
全て硬くすれば動きが悪くなるな。
打撃に反応させて密度を増やすか。
[ぐずぐず崩れる流動鉱石を足先でかき回し、]
我が命じる
我に染まれ
然して立て
[言葉そのものが呪へ変じ、崩れた人形へ力が流れ込む。
魔光が聖なる光を凌駕しかき消して、再生を促した。]
── 戦い方を書き加える、という方法もあるか。
新たな素体を探して、記憶を抜き出すか。
人形自身で死を増やせれば、効率もいいだろう。
[試してみようと言って弾む声は、ツィーアを改造していた時と同じだった。]
好戦的なものか。
───そうだな。
[記憶の継ぎ足しに、ツィーアは興味を持ったらしい。
思い当たるものは、ひとつあったが]
……あれは、シメオンが殊の外気に入っているものだからな。
寄越せと言ってもいいが、あの数寄者が結局あれで何をしたいのかは気になる。
案外と便利にも使っているようだしな。
そうだ。
人形の素体を獲りに行かせたのもあれだったか。
[頭を潰した人形が起き上がってくるまでの間、魔王の視線は別の場所へ流れる。
シメオンが遊んでいる、人形によく似た面差しの人間。]
おまえがロシェとか呼ぶのがあれか?
[人形が再生した直後、稀に口にする名だ。
足元に問いかけるが、返事はない。
さきほど、自分で壊したから。]
レオヴィルの王族か。
[人間などを一々個体識別することは稀だが、その人間は魔王の心を惹くだけのものを持っていた。
気に入って、人形の素体にまでした男に似ている顔は、太陽の加護を示すような色合いをしている。]
シメオンに遣らずに、我のものとしても良かったな。
[戯れだ。きっと飽きてすぐに捨ててしまうだろうけれど。
シメオンの背から流れる魔に、暫し目を細めた。]
[ツィーアの反応に、堪えられぬとばかりに笑いが零れた。]
おまえは、本当に良く私を楽しませてくれる。
[くつりくつりと笑いの波動が暫く止まない。]
そう拗ねるな。
すぐにおまえにとっても楽しいことになる。
そうだな。
差し当たっては──あのあたりを一匹、使ってみるか。
[笑いを収めてから、とりあえず、と先のことを考える。
手頃なところに、いくつか近づいてくる気配もあった。]
[跳ね起きた人形が、またあの名を口にした。
今まさにシメオンの力に囚われようとしている人間が、微かにその名に反応したのを見る。
逃げろという単語に反応しただけかもしれないが、それだけということもないだろう。]
ロー・シェン。
ロシェ。
レオヴィルの、ああ。王子だったか。
[そうだったと思い出して頷く。]
王が出ていないとしたら、
あれが、人間どもを纏めていたのか。
なかなかに面白い戦いであったなぁ。
[すでに過去のこととして戦いを振りかえる。
このあとは蹂躙するだけだろう。]
行くぞ、ツィーア。
おまえを改良しなくてはな。
[暫しの感慨にふけったあとは、すぐに興味を失くして人形を呼ぶ。
シメオンらに背を向けて、ナールが飛んでいった方向へ歩き出した。]
[闇に堕ちゆく王子からなんらかの魔力が飛んだような気がしたが、魔王は関知しない。気にもしていなかった。
背後に人形が従うのも当然として、確認もしない。
歩みゆく先では、狩りが行われていた。
ヨセフと共に炎を潜り抜けた騎士の一団。
任されて、盟主の元へと急ぐ彼らを黒竜が襲っている。]
[騎士たちはいずれも手練れで、勇敢で、献身的でもあったが、空を自由に舞う竜と渡り合える人間などごく稀だ。
奮闘も空しく、一人の騎士が竜の前足に捕らえられていた。]
一匹で良いぞ、ナール。
他に構うことはない。
[新たな闖入者に、騎士たちが息をのむ。
それを見ることもせず、魔王は乗騎を呼んだ。]
さあ?
なにやら試したいことがあると言っていたが。
[シメオンの行う屍術には、魔王もさして造詣は深くなかったから、返答も曖昧なものになる。]
ここで終わる程度の相手のことなど捨ておけ。
人形がまともに動くようになれば、いくらでも狩れるぞ。
我とて歩くくらいはするぞ。
歩かねば太るらしいからな。
[上機嫌なツィーアに、返す言葉も冗談のようなもの。
太る、の意味は自分でも今一つわかっていなかったが。]
[人間どもの砦の上を飛んだとき、騒がしい声が下から飛んできた。
双子が確かに仕事を果たしているらしいと、満足をひとつ置く。
悦びの気配に愛いものよと思ったが、言葉は掛けなかった。
褒美は稀少なのがよい。
──と思ったわけではなく、単に興味がそこへ留まらなかっただけだ。]
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