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[だけども、…の頭に過ぎる談話室のやりとりが思考を鈍くさせる。間違った方向へと連れて行く。
これから人狼を探し出す為の話し合いが始まるのだ。疑い、罵り合い、人狼と疑わしき者を処刑台へと送り出す。大切な人はそうやって村人達に奪われた。頭のどこか冷静な部分が大切な人を殺した村人達ではないと正している。けれど、どうしても重ねてしまう。
いま、…の身体が震えているのは、決して恐怖からではなかった。ぶつけどころのない怒り、哀しみが混ざり合う。]
許せない、 …村人達が。
[ヨアヒムの声は静かな倉庫に思いのほか響いたんだったか。感情に支配される余りに人が居た事に気が付かなかった…は大袈裟に肩を震わせた。]
ヨアヒム、さん…。
[声がした方へと振り返る。何時から其処に居て、呟きを聞かれたかどうか訊ねたかったが、今更かもしれないが怪しまれると思い口を噤む。
ヨアヒムの視線を追えば、先にはゲルトの無惨な死体が。]
ええ、本当に。可哀想に。
……痛かったでしょうね。
[さも辛そうに眉を顰めてみせる。その言葉に嘘はない。可哀想だ、と思う。
ただ、普段浮かべている笑顔と同様に薄っぺらい同情だった。]
[だが、青年の難詰は終わらない。]
…どうして。
[何故、赤い聲を知っているのか。どうしてもなにも、談話室での呟きを聞かれたのだろう。]
聴こえませんよ、赤い聲なんて。
[かろうじて否定の言葉を発する。上目遣いで何やら探られるような目を向けられれば、視線から逃げる様に顔を背ける。
こてりと首を傾げる仕草が憎たらしい。
浅はかな同情はおろか、日頃の作り笑いさえも見透かされてるかのような気分になった。]
[以前まで聴こえていた人狼の囁き。もう始まっているのならば、自分にも聴こえている筈で。なのに、何も聴こえない。
いや、違う。何を馬鹿な事を口走ろうとしているのか。自分で自分が抑え切れない。]
……今だけじゃない。もう、ずっと。
[もう、ずっと。あの人が死んでから聴いていない。]
[ヨアヒムから視線を外され胸を撫で下ろすも、束の間。作り物と揶揄される。今度こそ、否定出来なかった。
相手が近づく度に一歩ずつ…は後退りをする。とうとう壁際まで追い詰められる。ヨアヒムの腕に逃げ道は早々に塞がれてしまった。]
そう、疑い、罵られて、処刑されるぐらいなら、
……人狼に喰い殺される方がずっと良い。
[壁に手をついて逃がさないように閉じ込められる。振りほどこうにも身動き出来ない。
まるで、補食された獲物さながら。]
[「『聲』の聴ける人間?」と囁かれ、小さく頷く。
しかし、直ぐに首を振って、]
違います。私は守る事が出来なかったから、
あの人を……聲を失ってしまった。
[其処ではたと気が付く。何故、ヨアヒムはその存在について知っているのか。
直ぐ側に死体が安置された場所で彼は愉快げにこちらを観察していたのか。この状況で尚、笑っていられるのか。
どうして、追及されるがまま洗いざらい白状してしまったか。
どうしたって不釣り合いな笑顔を見つめては、]
貴方は――…
[青年の残酷な笑みが好きな人と何処か似ていたから。]
[言う直前で、指先で唇を押さえられ言葉を遮られてしまった。
ひらりと身を翻して去っていく。その背中に追る声がひとつ。 ]
貴方がそうなら、
そのまま、噛み切って欲しかった。
[何度、後悔した事か。ひとり残されてしまうぐらいなら殺されるべきだった、あの人の牙にかかって。
壁際に追い詰められた時にそのまま首を噛み切って欲しいと思った。余りにも自分勝手な願いだ。ヨアヒムを引き止める事は叶わなかっただろう。*]
― 倉庫 ―
[暫くして、一人残された…のもとに訪れるシモンとペーター。
シモンの声に「どうぞ。」と淡々と返す。開けた扉には二つの影。ペーターも来てるとは知らずにゲルトの死体をそのままにして中へと招き入れてしまった。]
ペーター、居たのですか!
てっきり、シモン。貴方ばかりと…。
[自分の不行き届きに申し訳なさそうに眉を顰める。]
[ゲルトの遺体にぺーターは取り乱す。子供には余りに酷だったのだろう。そう、さも死を悼む様に悲し気に。すらすらと口からは言葉が流れる。]
平気な訳では…、ないですよ。
とても不幸な事だと思います。何故、こんな事が起きてしまったのか。
[シモンの目配せに大丈夫だと首を振って、ペーターを倉庫の外へ連れ出そうとするだろう。]
子供の貴方には残酷過ぎましたね。
さあ、落ち着いて。
[ペーターの肩を抱く様に、その小さな背中を押してふたり一緒に廊下へと。
少年の肩へと手を伸ばした。
ゲルトの遺体を目にした際の心乱した姿は露とも感じさせず、
何時もの笑みを浮かべていた。]
[ペーターの疑いの声にも困った様に笑うだけ。
責め立てながら、その反面でペーターは…縋る。「懺悔…?」まるで助けを求める声に幼子をあやすように少年の頭に触れようとして、止めた。代わりに自嘲と悲哀とを薄くのせた瞳を向ける。]
私に懺悔する必要はありませんよ。
私は神の代わりにはなれません。
[そこまで言い切って、…は自嘲の色を更に濃くさせた。…こそ、懺悔する罪人のような面持ちだった。]
神父なんかやってますけどね、神様なんて信じてないんです。
[少年がどの様な罪を背負って生きてきたか知ったとして、
一介の人間である…に救う事は出来ないのだ。誰一人、守る事は出来ない。
少年が何かを囁いた。
その声を拾おうと身を屈める。]
[垣間見た、幼い口元がゆっくりと弧を描いた。
…の知らない顔。]
…、ペーター?
[そうではない。少年の抱える罪を知っていた。
だが、彼の名前を紡ぐ事はない。]
[突然の豹変振りに呆気に取られる。
ペーターが自分を嵌めようとしている。人狼に怯えているばかりの子供は初めからいなかったのだ。
「“あの声”には、抗えないから」と聴けば、目を細めて。]
そう、貴方もそうだったんですね。
[人なのか狼なのか分からないが、聲が聴こえる存在。
そう、一人勝手に納得してみせる。だが、ペーターには…がすんなりと受けている理由が分からなかっただろう。]
[受けた傷を抑えながら、騒ぎを聞いて他の村人が集まり出す前に…は立ち去った。
願いは叶わなくとも、あの人と同様に村人に殺される位ならば自分で命を絶つ方がずっとマシだ。]
疑うなら疑いなさい。
けれど、私は貴方達に殺されたりはしない。
[自身を裏切ったペーターの事を責める事はなかった。怯えるペーターに…は笑った。
最後、シモンを一瞥して、そのまま立ち去った。助けを求める事はなかった。**]
[シモンから立ち去るよりも前。
まず、シモンはペーターの元へと走った。幼い子供が怪我をして怯えているのだから当然だ。当たり前だ。
ペーターの言っている事は理解出来なかった訳ではないだろうに。シモンは肯定もしなかったが否定もしなかった。だから言い放った、疑うなら好きに疑うが良い、と。実際に後を追って来ないではないか。
もしも、「俺を置いていくつもりか。」その言葉がシモンの口から出ていれば、
苦渋に満ちた顔で言い捨てた、「友人だなんて。……私は貴方を友人と思っていませんでしたよ、一度だって。」]
[助けて欲しかったなんて、思った事はない。
今だって、村人の一人である貴方に掬いを求めようとは思わない。そもそもこの村に来たのは、間違えだった。いや、或いは死に場所を求めに此処へ来たのか。あの人を失った同じ騒ぎのなかで死ぬ為に。疑い、罵り合い、殺し合う。無様な村人達…こんな村は滅んでしまえば良い…、殺されてたまるものか。それなら、殺される前に自分で死んでやる。騒ぎを聞きつけて人が集まれば疑われるのだろう、シモンが疑ったみたいに。シモンが、本当に自分の事を疑ってるとは思っていない。嘘だ、だけども友人として過して来た日々が頭を過ぎる。最後まで助けは求めなかった。無理やり笑ってみせた。もうニ度と会う事はない。]さようなら。
― 回想/いつかの教会 ―
[シモンとは色んな話しをした。
銀雪の村へ来た経緯や幼い頃過ごした村について、シモンから様々な話しを聞いた。特に幼少時代について話しを聞きたがった。友人達とどんな会話をして遊びをしたのか、そんな他愛無い話しが…には珍しかった。同年代の友人と一切無縁の生活だったから。こうして年の近い知り合いが出来るのも久しぶりの事だった。
シモンにとって白銀の村を知ったきっかけはほんの偶然に過ぎなかったという。生きて欲しい、大切な人の最後の命令に従うままに惰性で生きていた。そんな…が辿り着いた先がこの雪に閉ざされる弧村だった。それから4年、短いようで長い時間を共に過した。]
[あの人を亡くしてからというものも何もかも色褪せて見えた。全てがどうでも良くなって何もする気は起きなくなった。なのに時々、分からなくなる。何故、自分が此処に居るのか。暖かな室内で、シモンが作ったハーブティー……、裏庭で作ったハーブをシモンが煎じた。とお茶菓子を食べながら穏やかな会話を交わす。一般的にはそう、友人とも呼べる存在の来訪を何時からか楽しみにしていたのではないか。
そんな事はないと頭を振っては否定するが。お茶を飲みながら語らい合う時間は嫌いではなかった。]
[ある日、うっかり漏らしてしまった。話すつもりなんてなかったのに、「大切な人をなくしてしまった。」と。シモンは戦場を出ると決めた時から大切な人を作る事を止めたらしい。
何故作らないのかと訊ねた。分からないと言われた。私も。もう、私も大切な人は作りません。そう返した。
それなら、どうして。どうして自分はこうしてシモンの前でお茶を飲んでいるのだろう。そんなの、自分でも良く分からない。**]
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