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[稀人たる男が口にした言葉は希望。そして確信。
何か答えよう、と口を開いたときには、既にその姿は無く。]
ちぇ。なんだよ。
相変わらず、ええかっこしいだなぁ。
[ぼやくような言葉は、尊敬と感謝の素直じゃない表現。]
[傍らの黒狼の首筋に手を置き、その短い鬣をわしわしと撫でる。]
見えてたなぁ。
ただもんじゃねぇのは確かだが。
ん……。
[言葉を区切ったのは、暫し考える間を置いたため。]
………いや。
謎のまま、でいいさ。
少なくとも、おれにとっては。
[師匠なのか、とは聞けなかった。
肯定されても否定されても、きっと、困ってしまうから。
だから出自は謎でいい。
狼の知覚に信頼を置くからこその返答だった。]
こら。そのなりで舐めるなと言ってるだろう。
[舐められた指で、ぴしりとトールの額を弾く。
狼のときとやっていることは同じなのだが、気分の問題というやつだ。]
ああ。ここにいる。
[トールが去るのを背中で見送って、前方を見据える。
トールがそわそわしだした原因は、きっとあれだろう。
城壁近くに、じわりと滲み出した不可解な歪み。]
[兵士を1人呼びつけて、言伝を言いつける。
兵士が壁際の異変に全く気付いていないようなのを見て、
なおさら確信を深めた。]
これな。
陽が落ちたら宰相に渡しとしてくれ。
いいな?陽が落ちたらだぞ。
[兵士が簡単に封された書きつけを受け取り、下がる。
書かれているのは、こうだ。
「ちょっと出かけてくる。」
相も変わらず、この国は優秀な臣下団の働きで回っているようなもの。
皇帝の腰の軽さも、ほとんど変わっていないのだった。]
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