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全軍に告ぐ。
[塔の上から改めて兵たちに告げる。]
火を起こせ。町に火を放て。
魔法などという堕落の産物の象徴を、全て灰にしてしまえ。
おまえたちの手で、悪魔の歴史に終止符を打て。
[町のあちこちから声が応え、ぽつぽつと火の手が上がる。
どうやら、影響の弱いものもいるようだ。
ひととおりの略奪が済んでから、どのみち学園は燃やし尽くすつもりだった。
それが少し早まっただけのこと。
気温が上がれば、霧も消し飛ぶだろう。魔法の産物に、それが通じるかは知らないが。]
ねえ学長さん?
あなたの守りたかったものってなんだったの?
[窓の桟に肘を突き、吊された男に話しかける。
声は帰ってこないが、まだ生きてるのは知っている。]
学園は燃やし尽くすし、逃げた連中はひとり残らず殺すよ。
残念だな。見せてあげたいけど、あなたはここで死ぬ。
大好きな学園と一緒に燃えるんだから、せいぜいじっくり味わってね。
[それじゃ、と体を起こしたところで、短剣を突き立てられた傷が痛んだ。
視線を落とせば服の破れ目から、傷だけではない奇妙な痕が覗いている。
かっとして斧を振るえば、窓枠ごと縄が断ち切られ、吊られていたものが落ちていった。]
あぁあ。
やっちゃった。
[遥か下からの衝突音を聞きながら、残念そうに呟く。
これは、あと何人か魔導師を痛めつけないと収まらないな。
下に行ったらまずは捕虜を検分しよう。]
回収は終わったか?
私たちも降りるぞ。
[学長室の書類や貴重品などを捜索していた近衛兵らが、大量の荷物を抱えて皇帝に従う。
荷物の中から転がり落ちたものを見とがめて、拾い上げた。
素晴らしく大きな石の嵌まった指輪だ。]
これはあいつが気に入りそうだな。
あとでくれてやろう。
[魔法の代物かも知れないが、なんなら宝石だけ取り外せばいい。
懐に指輪を仕舞って、塔を降り始めた。**]
そうだね。
もうひと頑張りしてもらうよ。
学園の後庭が火除地に使える。
周囲の建物を打ち壊して、今日の野営地にしよう。
火と霧が収まったなら、残った建物を打ち壊して撤収だ。
今夜は燃える学園を肴に、宴会だな。
― 学園都市陥落の夜 ―
[炎上する学園都市の方々を、伝令兵が駆け回る。
やがて、広々とした学園の後庭に帝国軍は集まり始め、周囲の建物を打ち壊して火を遠ざけ、今宵の陣地を築きだした。
陣地には焼け出された一般市民や魔導師も連れてこられ、先勝に沸き立つ帝国兵らとは対照的な、青白い顔を並べている。
陣地の設営と平行して戦勝祝いの席が用意される。
残念ながら未だ戦地なので参加できる兵は半分で、陣の各所でくじ引きや力比べの悲喜こもごもが繰り広げられた。]
皆、聞いてくれ。
帝国はついに、邪悪なる魔導共和国の牙城を全て陥落させた。
残党狩りは続くが、それもすぐ終わるだろう。
今日は記念の日だ。
みんな、よくやった。
[皇帝の言葉で宴は始まり、参加券を勝ち取ったものたちは酒と勝利の余韻に大いに酔いしれた。*]
[酒が回れば羽目も外れる。
既にあちこちで腕比べや乱闘が始まっている間をすいすいと横切って、静かな一角へと近寄った。]
やあ将軍。
今日も見事な戦いぶりだったね。
[酒瓶を片手に提げているが、グラスもジョッキも持っていない。
皇帝がほとんど酒を飲まないというのは、わりと有名な話だ。
なので持っている酒瓶は相手に飲ませる用だ。
そんなわけで、問答無用で注ぐ態勢に入った。*]
それはもう。使える部下は大事にしないと。
[なみなみとジョッキに酒を注いで、ついでに隣に座る。
ドライフルーツを噛む口元を見ながら、薄い笑みを浮かべた。]
だろうね。
残っていた連中は全員死を覚悟していたし、
他がどこに逃げたか聞いても、誰も口を割らない。
まったく、忌々しい連中だな。
[尋問は皇帝の腹いせとセットだったから、なにが行われたかは推して知るべしだ。]
そこまでして連中が守るものだ。
多分、なにかある。
[彼らが期待を掛けるものが、逃げた中にあるのだ。
どんな些細な芽だろうと、踏み潰しておかなければ。]
だからさ、将軍。
逃げた連中の殲滅、あなたに任せるよ。
人員も物資も、好きなだけ使っていい。
必要なら私も行く。
連中の息の根を、確実に止めてきて。
[笑顔のままで、天性の処刑人たる彼へ命じた。*]
国から逃げ出せば、もう少し寿命も延びたのに。
馬鹿な連中だな。
[レオンハルトの推測には同意する。
奇襲は完璧だったが、相手の脱出の手際も忌々しいほどに良かった。
年寄り共はずいぶん前から準備していたに違いない。
将軍が言う、諦めの悪い奴、が奴らの隠し球か。]
最後、空飛んでいた奴かな。
不遜にも私を睨んでいったが。
[そう考えれば、つくづくあのとき弓が手元に無かった事が惜しい。]
その手もそいつが、か。
珍しいな。天下の《死神》が手傷とは。
[開閉される左手を一瞥し、無意識に自分の胸に手をやっていた。
服は着替えていたが、下には包帯が巻かれている。]
……連中がやれることは、たかが知れている。
奴らが本気で勝つつもりなら、私を殺すしかない。
だから、私を使ってもいいよ。
その方が、私が直接連中を潰せる。
[炙り出すなら、皇帝を囮にしてもいいと笑う。
今の帝国は、勝ち続け版図を広げ続ける皇帝に民が熱狂しているからこそ、国の形をたもっている。皇帝がいなくなれば、民の不満が噴出して国が壊れるだろう。
それをわかっていながら、最前線に立ち続けるのだった。]
あと、あーん、もやめろよ。
子供みたいじゃないか。
[文句を言いながらも、ドロシーから差し出されたものを拒否したことは、ほぼ無いのだった。]
[和やかな歓談の最中、燃え続けている塔から何か崩れる音がして、火柱が一度高く吹き上がった。
断末魔のような炎は、夜空によく映える。
考えてみれば、あそこもドロシーとの思い出の地だったなと、ドライフルーツを噛みながら思いを巡らせた。
前皇帝への反乱計画がほぼ整った頃だ。
迎えに行くと絆の声で伝え、学園へと向かっていた途上で、彼の方からウル混入の顛末を聞かされた。
卒業(脱走)記念になにか大きいことでもすれば?と提案したのは自分だが、予想を越える結果を残した彼に舌を巻いたものだ。
とはいえ、脱出に少し問題も起きているようなので、急ぐことにした。]
[指輪を器用にグラスで受けたドロシーが、髪に飾るのを見届けてから、ドライフルーツを一つつまんだ。]
あーん。
[それをドロシーの口元まで差し出してみる。
噂の種になるのはこういうところだが、当人は別に気にも留めていない。]
[嬉しいと告げるドロシーのこえに心を傾ける。]
そういうのは、好きな奴が持っていればいいからな。
[喜んでいるおまえのこえは、気持ちいいし。
とは、絆の声にも出さない内心だ。]
将軍は物好きだな。
[敢えて魔法を受けたというレオンハルトに端的な感想を述べ、自分を囮にする案に対する答えにはにこにこと笑みを浮かべた。]
前の皇帝はおまえの使いどころを間違えたけれど、
私はおまえの使いどころを奪ってしまうな。
[以前に釘を刺された事を思い出しての軽口だ。]
さて。私は戦利品の検分にいくよ。
あの金庫、ずいぶん開けるのに苦労しているようだし。
[伝えるべき事は伝えた、と立ち上がる。
ドロシーが身振りで示した金庫のあたりで人が集まってなにか騒いでいた
誰が開けられるか賭けているようだ。]
残党狩りの進め方は将軍に一任するけれど、
あまり遅いようだと私が先走るから覚えておいて。
[皇帝の忍耐は、保って十日だ。
それまでに進捗がなければ、自分で動き始めるだろう。
事実上の時間制限を課しつつ、ふらりとその場に背を向けた。*]
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