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力ありながら甘やかすことしか選べぬ愚者め
不正直、不誠実、我々の中にあって最も生温い!
貴様もだ、天使
愚かしい甘言に惑わされ、嘆き逃れることしか考えぬ心弱き者
[額にある冠を取り、天使の足元近くへ投げた。
水晶の冠は床に当たると同時に姿を変え、漆黒の剣となって突き刺さる]
我が殺すなどと。あれは奴の偽証だ、天使
死にたいならば自らの手で死ぬが良い
我の冠は、天でも魔でも七度だけ切り裂く刃
時を繋ぎ貴様の死を連環させる輪であっても、真に望めば命共々に切り捨てられるだろう
剣をとれ、天使
そして、考えろ
[天使に似た異形は天使を睨み下ろしている*]
…………。
[ 相手の冷たい言葉は受け止められていた。
しかし続く強い声にはびくりと身を震わせ
その内容に目を見張る。
その言葉は信じがたいもので、
少しでも彼女を信じた自分が愚かだったのだと。
そう、愚かさを突きつけられるもの。 ]
………そうなのですか。
でも、…………。
[ 神は自死を許してはくれない。
そう口にしようとして、ふ、と
口元から息が漏れて笑った。
もう、何だか疲れてしまったから。
何が真実なのだろう。
振り回されて、神には救われなくて、
それでも神を求めて悪魔を受け入れられずに
死を求めた先で更に神の怒りを買うような
そんな所業を求められて。
けれど。きっと選べる最善は。 ]
……分かりました。
[ だから、静かな声でそう返す。
足元に突き刺さる漆黒の剣を引き抜いて
何とか両手で持って、
それをピタリと首筋にあてがった。 ]
……汚してしまいます、ごめんなさい。
[ 次の瞬間、刃を引く。
ばっと辺りに咲くのは鮮血の花。 ]*
[ さて、この天使が真に死を望んでいたかと言えば
それは否と言うべきなのだろう。
ただ、酷く疲れていた。
疲れ果ててしまっていた。
自分が真に望んでいたのは穏やかな生。
薔薇を育てて生きていく事。
それは清らかな天使のままで。
それは、もう望めなくなってしまったが。
もし、また神に救われるなら。
けれど天への扉は開かれず
魔界の空へと飛び立った天使は
魔物の餌食と成り果てた。
それが本当にこの身に受けた傷で無くとも
天への扉が開かれなければ、
それは天使にとっての絶望となる。
自分は神に救われず、許されず。
それ以外の生き方なんて分からない。
天の軍勢が来たとてきっと救われない。
自分はもう、天界の門を通れない。
それ以外の生き方なんて知らないのに。
だから天使の意識は闇に沈む。
自ら闇の剣を手に取り、倒れ臥す。 ]*
[金属質が床に落ちる音
飛沫雨が降りしきる音
軽い肉塊が床に落ちる音──いや]
だめだ!
[蛇の腕が倒れ臥す天使を抱きとめ、裂けた喉を掌が塞ごうと押し当てられる]
何故だ、何故
この剣は……
ああ、ばかな
こんなこと──主もお許しにならない
[蛇の角に淡い魔法の光が宿る。
傷口を抑える手にも光がつたい、それは紛れもない癒しの力を発揮しようとするが]
ああ、待て 聞け
だめ
ずっと ようやく届いたのに
我らのただひとつのひかり──
[ゴボゴボと漏れる血泡
間近にみる死にゆく彼女はやはり美しい。
それを映す若菜色の瞳にも鮮血が膜を作り、目尻から頬へ伝い落ちた*]
[ 全身から力が抜けていた。
それでも床に倒れ臥す事がなかったのは
誰かに抱きとめられたから。
指先が痺れていく。
首は灼けるように熱いがじきに
何も感じなくなるだろう。
絶望の中でも更に心が沈んでいく。
これで良かったのか?
これしか無かったのだと。
それでも、首に何かが押し当てられた。
微かに届いた声は誰のもの?
癒しの光はどれほど死を止めるのか。
閉ざされた瞼が震え、
薄っすらと開かれる。 ]
………どうして。
私を、生かそうと?
………誰も、誰も、
私の育てた薔薇、なん、て、
要らない、のに、
[ 枯れ果てた花園。
丹精込めて作り上げた神聖な。
それももう滅びて、
神もその天への扉を開く事なく、
そんな自分の生きる意味など。 ]
………愛しても愛されないなら、
愛、せな……
[ だってほら、神の愛は厳しかった。
自ら穢れたわけで無くとも得られなくなった。
愛したら愛してもらえなくなるなら。
そんなのは嫌なのだと、譫言めいて呟き
そっと相手の服を握りしめる。
弱々しく震えた指先で。 ]**
いや
いやだ だめ
[黒い歪な翼を広げ包み込む。
濃密で甘い血の香り
いっそ幼い言葉がぼろぼろとこぼれていた]
とまらない……
もどれ、シュテラ 行くな
主のためにでなく、我らと共に
一面の ゆたかな花原を。 もう一度……
[服を掴む手に、指を絡める。
性別未分化の細長い指も血に染まり、震える手に熱を与えようと握り込んだ]
だめ
天は、いつも奪っていく
[あんなところに帰りたいと、何故──
いや、わかっている。天使だからだ
天使だから、天使で、人間とは違っていて
そして戦天使ではないからだ。剣をとっても戦おうとはしないのだ
それが在り方だから、 ]
━ 瑠璃の部屋 ━
[ティーカップの温もりは徐々に薄れ、カモミールの残り香が漂っていた]
「主よ、主よ
私を見捨てるのですか」
[ 愛しても愛されないのならば
それならばあるいは
愛しても 許されるのでは?
くだらない、愚かしい願掛けに過ぎない。
どうあれ蛇にまつわる預言はすべて成就されるだろう。
天使の神託だの預言者のことばだのは、それらは常に天界の都合だけで定められるし、神はいつも無慈悲だった。
時と時を繋ぐ冠を両手で持つ。
その下の空白を眺めた**]
[ 目覚められるとしたら、
何方の"蛇"の元だったのだろう。
優しい彼女か、厳しい彼か。
どちらにしろ、天使が死を免れたか
一度死して戻って来たか、
目を覚ましたのなら申し訳なさそうに
悲しげに眉尻を下げる。 ]
ごめんなさい………。
[ あなたの愛が、分からなくて。
どうしたら良いか分からなくて。
ただ、どちらにしろ相手の手を取り
そこへとそっと頬を寄せるのだ。 ]
……………あなた達の哀しみも
見たくはありません。
[ 幼い声で、いくなと呼びかける声。
では自分はどうしたら良い? ]
せめて、私に出来ることは……………。
草木を育て、傷を癒す事くらいです。
私が貴方のものになるかは……
貴方が、決めてください。
[ 選べないから。
それでもまだ、選べないから。
いっそ奪ってくれと、天使は請い願う。
しかしもし死から目覚めていないのなら
これは誰かが見せた夢なのか。 ]**
……っ、
[瞬いた。
ティアラを握りしめる。
振り返れば、テーブルの上では用意されかけたティーポットから仄かに湯気が出ていた]
おかえ り……
驚いたな
[時の流れを歪め作り出した、閉じた輪も
あの剣ならば望めば切り裂ける。たしかに切り裂いたはず]
[滑らかな頬に触れた指の腹が暖かい。
もう一方の手からティアラを離し、天使の喉元に静かに触れた。
そこに濡れた熱い粘着きも、開いた肉の感触もない]
そうか
お前は優しいね
[彼が泣くから、戻ってきてくれたのかと]
……私が悪かった
私たちの誰も、お前を失いたくなかったのに
お前が死にたいと望むならば
私はそれすら叶えようと思ってしまった
[甘やかすしか能のない痴れ者か]
彼は、お前に剣を渡せば思い留まってくれると思った
逃げず、裏切らず、清いまま
戦い生き延びるという選択を見つけたなら。と
[もしそうなったとして、
結局失うという意味では同じ]
……
私のアンジェ、私のひかりよ
[一度目の死から醒めた時のように、腰に腕を回して力を込め
互いの距離を削り、触れあわせた]
すぐ外に、天界の軍の斥候が来ている
もし私が手を貸せば、お前は彼らと共に地上に去れる
[抱擁した雛仔へ、囁くような甘やかに低い声]
だが、
私が間違っていた
お前に望みを選ばせるのではなく、私が決めよう
[祝福を授けるように呪いを与える。
額に唇を寄せ]
お前は彼らと共には行けない
お前にできることは、私のそばにいること
私はお前を攫いお前を捕らえ、
お前を奪い尽くして体の隅々、魂の一片鱗にまで私を覚え込ませ
他の全てを忘却させてしまう
お前は私達の腕の中に平穏を見いだし
私の為に私と共に草木を育て、
私だけを癒して暮らす
天はお前を奪われたことを嘆き私を憎むが
虜囚であるお前は私に狂わされ、私に染まり、
『悪魔』の僕に成り果てて決して戻れない
お前が拒んでも
懐かなくても、懐いても
関係ない
悪魔の奸計に陥ったお前は、私に穢され私と共に生きることしか許されない
[頬に触れた指で目尻をなぞり
額をこすり合わせるようにすれば、瑠璃色の角が天使の髪に絡みつく]
これは呪詛だ
愛しているよ、私のアンジェ
戦う………。
[ 其れは、天使にとっては
考えられもしなかった選択肢。
この天使は争いごとを嫌う。
血の流れることを嫌う。
清浄の花園が汚されるのを嫌う。
だから全く思い浮かばなかった。
死を望んだ時点で、誰かを傷つけてまで
生きようとは思えなかったから。
だから驚いたように一瞬目を見開き、
しかし微かな笑みを浮かべて首を横に振る。
矢張り考えられないことだった。
自分は、戦天使ではないから。
だから、斥候の話を聞いても
天使は一度瞳を揺らしただけ。
本当に彼らに受け入れられるとは思えず
受け入れられたとて、その為に血が流れるなら
思わずそれを否定してしまうかもしれない。
受肉してしまった、自分など。
しかし蛇は、そんな自分が良いのだという。
自分を受肉させた張本人の蛇は。 ]
[ ひたいに唇が寄せられる。
紡がれるのは呪詛か告知か、予言か祝福か。
紡がれる言葉に「嗚呼、」と微かに声が漏れ
瑠璃の角と緑の髪が絡まる気配に
瞳を閉じてそっと身を預ける。
微かにその体は震えていたが、
彼女を否定することはきっと、無い。 ]
…私は貴方を信じきれないかもしれません。
神への敬愛を失うことはできないかも。
けれど、貴方の好きな花を育てましょう。
………私の死を悲しんでくださるのは、
きっと、貴方たちだけ。
[ 自分には相手の望む全ては
渡すことはできないかもしれないが。
その死を悲しんでくれると言うなら
悲しまないで欲しいから、
自分からも手を伸ばしてその身に縋ろう。
少なくともその悲しみが、
自分が死ぬことを躊躇わせたのだから。 ]*
私が偽りを紡ぐのは、お前を愛するために
そしてお前の疑念すらも奪ってしまおう
[瑠璃の角が光り
鼻梁同士が触れ合う。
天使の唇が動き、花の香が声に混じって奏でられるのを唇に感じ]
主を、忘れられない気持ちは私たちの間にもあるよ
だが忘却させると言っただろう
お前は痛み絶望と共にではなく
かすかな郷愁と思慕と共に、それを懐かしく思うだけになる
[は、と息を吐いて微笑んだ。
だがそれは相手には見えないはず。
その視界にあるのは蛇の双眸。
彼女の翼を映した若菜色が濡れて、瞬きで睫毛同士が擦れれば星のささめく音色]
私の好きな花か
そうだね……多いよ。全部育てるのに百年はかかる、楽しみにしておいで
三度めの死はないと思え
私たちはほんとうは、強欲なのだから
ああ……それよりも、まずお前を育てよう
お前は無垢な花芽
蕾みをひらかせ、花を膨らませ
私の手で、清らかなまま七重八重に咲き誇る薔薇に
[私はお前を奪う]
……
[囁きに動く唇同士が触れ合い、熱が繋がれば
天使に穢れを捧ぐ *]
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