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やっぱ戦場連れてくのかよ。
[戦馬鹿発言に、間髪入れずにツッコミ。
もっとも、自分だって人のことは言えないから。
───と。]
… どうした?
いや――― わかった。
[不意に戻ると言い出した狼の言葉に、表情を険しくする。
あのトールが変事だと言うのだ。相当な変事に違いなかった。
なにがしかの覚悟を呑む。]
目の前で消えた?
[トールが持って帰ってきた報に、眉を跳ね上げる。
これが物理的に連れ去られたとか、襲撃者の痕跡があるとかならトールが見逃すはずもなし。手に負えない事態だと察するが]
……。あの塔なぁ。
[渋い顔になったのは、さんざん苦労させられた思い出が蘇ったため。]
―――そいつは、最後の手段にとっておくか。
[まずは嫁さんに相談しようかと思うのだった。]
そういやおまえ、馬どうした?
[黒狼を伴って、城の中に戻る途中、思い出したように訊く。]
あいつと一緒に馬も消えたのか?
[大概の馬は狼になったトールを恐れるから、一緒に帰ってくることは無いだろうとは思っていた。
消えていないのなら、厩舎に戻っている頃合いだろうか。
足は厩舎の方角へ向く。]
馬だけ、か?
[聞こえる声に応じて、狼の向く方を見る。
視線には、いくらかの険しさがあった。]
誰かが乗ってる、か。
通りすがりの親切な奴、ってことはねえだろうなぁ。
[予想と言うよりは願望を口にして、
黒狼が尾を振るのを見るより早く、城門の方へ歩き出していた。]
[城門にたどり着いたころには、なにやら衛兵たちが騒いでいる。]
どうした?
[声を掛けながら近づけば、気づいた衛兵たちが慌てて敬礼しはじめる。
皇太子の馬が、とか不審な男が、とか口々に言うのを聞きながら、城門の外にひょいと顔を出した。]
[城門の外にいたのは、一人の若い男だった。
彼が乗っている馬は、たしかに息子が良く乗り回しているもの。
何者か、と顔を眺め、]
………… ?
[なにか、ひどく懐かしい記憶に触れた気がして、首を傾げた。]
[声を掛けるより先に、馬上の相手から問いが飛ぶ。
色めき立つ衛兵たちを構うことはせず、前に出た。]
俺のじゃねえよ。
息子のだ。
[衛兵が自分の周囲を固めようとするのは止めた。
話をするのに邪魔だから。]
そいつを連れて帰ってくれたことには感謝する。
ついでに、話も聞きたい。
けど、見上げながら話をするのは好かないな。
降りろよ。
[言葉を続けながらも、視線は相手を観察していた。
所作、ふるまい、顔立ち、全体の雰囲気。
見れば見るほどに、胸の内でなにかが疼く。]
[馬から降りる動作を見て思う。
間違いなく、あれは武人だなと。]
いいや。まだ帰ってきてねえな。
どこかで見かけなかったか?
おれに似てるとかよく言われる奴なんだが。
[ほとんど意識せずに、武器の位置を確認していた。
ハルバードは戻してきたから、今腰にあるのは、訓練用の剣だけだ。]
あいつ、そのうち
おまえみたいな旅の人間にくっついて
どっか飛び出すんじゃないかって思ってたんだよ。
[笑ってみせるが、視線は強いまま。]
馬が帰ってきた、ってんなら、
そういうわけでもなさそうだけどな。
[ついてこいよ、と仕草で示して、ゆっくり背を向ける。]
そうか。見てないか。
[見かけたのは馬だけ、との言葉に、いささか落胆を表す。
ほんの少しだけ、誰かを案じる表情がよぎった。]
あ?
…いや。ただの息子だな。
知らないか?
うちの国じゃ、皇帝の息子が自動的に皇子になるわけじゃねえんだ。
おれが認めるまでは、な。
[端的に国の仕組みの一端を明かして笑う。
国民なら、あるいは近隣の国のものなら知っていることだろう。]
[ついて来る気配を背中に感じながら、向かったのは城壁と塔に囲まれた庭の一角だった。
適度に広くて見通しが効き、適度に人目が遮られている場所。
ついて来ようとする兵を追い払って、人払いしろと言っておく。
側にいるのは、足元の大きな黒狼のみ。
もっとも、並の人間ならば気づかない>>0:19 だろうが。]
―――で、
まさか本当に、たまたま馬を見つけたから届けに来ただけ
……ってことはないだろ?
[改めて相手と向き合って、問いを投げる。
推測というよりは勘、もしくは期待に基づくものだったが。]
[期待は、どうやら報われたようだった。]
どこか、別世界 ……ね。
[冗談めかした言葉とは裏腹に、眼差しには真剣な色が見える。
合わせるように、小さく笑みを浮かべた。]
あそこの木、
[ちょうど、その場所から見える庭の一角を指す。
一本のリンゴの樹が、枝を広げていた。]
あのリンゴ、おれがどこか別の世界から種を持って帰ってきたらしい、と言ったら信じるか?
[問いに問いを返してから、肩を竦める。]
構わない、話してくれ。
あいつが、いきなり消えた、ってとこまでは聞いている。
[改めて話し始めた相手の言葉は、ひどく難解で、突拍子もないものだった。
にわかには信じがたい…が、何の因果か自分は信じがたいものをいくつもこの目で見てきている。
傍らの黒狼も、いうなればそのひとつ。]
ああ……つまり、だ。
こことは違う別の世界ってのはいくつもあって、
そのうちのひとつにあいつが連れて行かれたんだな。
[なんとか理解した、単純な、一番肝心なところだけを捕まえて言う。]
それで、おまえがそのことを調べてる、と。
だがその様子じゃ、迎えに行ってくれと頼むわけにもいかなそうだな。
[手がかりは得ていないと言う男の様子に、しかたない、と気楽な感じで肩を竦めた。]
けど、あいつなら自力でどうにか帰ってくるだろ。
あれでもおれの息子だ。
そうしたら、あいつから話しを聞けばいいさ。
[男の声音が、声の調子が変わったように思えた。
呼びかける言葉と眼差しを、少しの間、ぽかんとした顔で見る。]
……あ、ああ。
[ゆる、と表情が崩れ]
おれが教えられてきたとおりに鍛えてやってるからな。
おかげで、あいつにはすっかり嫌われちまってるけど。
[笑うような痛みをこらえるような、微妙な顔になった。]
[並べられた単語を聞くうちに、表情は微妙に変化していった。
参ったなという顔でがしがしと頭を掻き、なにか言おうと口を開く。
そこへ、問いが飛んできて、開いた口を閉じた。]
───ばーか。
[少しおいて、声に出したのはそんな言葉。]
殴られたのも斬りつけられたのもいじめみたいな修行させられたのもひたすら雑用でこき使われたのも、振り返ってみれば全部おれの血肉になっていた。
ここまできっちり育ててくれて感謝してる。
───って言う前に死んじまったからなぁ、おれの師匠は。
文句言いたいのは、そこくらいだ。
[ぱちぱちと目を瞬いて、どこか照れくさそうな顔をする。]
[相手の視線を追って城を見上げる。
大きくなった。
ここまで大きくなったのも、土台があればこそ。]
……同じように、できてんのかなぁ。
[答えを求めるものではない、ただの独り言。]
ヨアヒムだ。
あいつはショルガハを名乗ってるがな。
嫁が、風の民のふたつ名を付けたんだが、
それがいたく気に入ったらしい。
[乾季の最後に吹いて草原に火をもたらす風の名前。
苦難の時代の最後に吹き、大地を生まれ変わらせて新しい芽吹きを促すもの。
そうあってほしいという願いがこもる名だから、そればかり名乗るなとも言えずにいる。]
/*
あっ。やべぇ。
嫁、って呼び捨てにしちまってた!
嫁さんだよ、嫁さん。
あれだ。
ちょっと気取ってたんだよ。(汗
ああ、よろしくな。
あ。心配してた、は言わなくていいぞ。
気を付けてな。
[伝言を請け負った男に答え、
もう行くという背に、餞別の言葉を掛ける。
使い込まれた大剣を眺め、目を細めた。
───と。]
あ?
[なぜ、打ち明けたのか。
人払いしてまで、国の一大事になりかねないことを。
理由は、探すまでもない。]
勘だな。
[簡潔に答えてから]
………まあ、
あんたによく似た雰囲気の奴がいたんだ。
だから、信じる気になった、
───とでもしておいてくれ。
[なにかごまかすように、不器用な笑みを浮かべた。]
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