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― 魔軍・セミヨン川渡河作戦中 ―
[魔王の命に従って南を目指す魔軍の流れは、さながら大地に新たな川が現出したようだった。
闇の亜人たちはいくつかの部族や部隊に分かれて、一応はそれぞれの長に従って進んでいる。だが、部隊同士の連携は取れておらず、どの部隊も功を求めて、あるいは殺戮を欲して前へ出ようとするので、さらに入り乱れていく。]
[橋の上では力の強いものが小物を突き落として前に進み、川では溺れた仲間の身体を踏みしだいて我先に渡ろうとする。相当数が流されていったが、徐々に徐々に対岸へ到達するものが増えていく。
南の戦場へたどり着き、人間との戦闘に加わるものはまだいい。
中には魔軍同士の小競り合いで武器を振るうものもいた。
混沌たる有様ながら全体としては南へ向かおうとし、途中に現れた人間を殺戮すべく動いている。
そして、魔王はその戦況に、さしたる興味を向けていなかった。]
[魔軍の戦は単純だ。
こと、人間を狩る程度のことに策など弄しない。
数と力で踏み潰すのを良しとした。
モンテリー王国を滅ぼした際も、さして変わりはない。
守りの要たるマルサンヌ砦を、
降伏勧告などしたこともない。必要もない。
ただ、モンテリーの王都に対しては、戯れに彼らの運命を宣告してやった。
哀れな生き物が怯え泣き叫ぶさまを見るのも、案外と面白い。]
― 回想/王都シラー陥落の時 ―
[残骸と化したマルサンヌ砦を踏み越えて進んだ魔軍が、王都シラーへ到達したのは翌日の夜のことだった。
来い。ナール。
[声に応じて漆黒の竜が翼を広げ、空を滑るように玉座の前へと飛翔する。
次の瞬間には、魔王の姿はナールの背にあった。]
[光をも吸い込むような魔竜の背にあって、魔王の姿はいっそう輝かしい。
軍勢を飛び越え、シラーの門の上にナールを旋回させ、魔王は己の魔力を燃え立たせた。
魔界に立ち込める硫酸の雲さえ払う苛烈な光が、シラーの夜空に魔王の姿を浮かび上がらせる。]
人間どもよ。聞け。
この国は、今この時より我、魔王カナン・ディ=ラーグのものとする。
門を開き、歓呼の声をもって王を迎えよ。
[町全体に朗々と響き渡った声が消えるまでの一瞬、町は静まり返った。]
[次に起きたのは混乱だった。
戦おうとするもの、逃げようとするもの、怯えて隠れるもの。
歴戦の国に相応しくない混乱は、おそらく先に街に入っていた者が良く働いたためでもあろう。
混乱の最中に門が内側から開け放たれ、魔軍が街へとなだれ込んでいった。あとは実にあっけなかった。]
[戦いの趨勢も決し、見物にも飽きて玉座に戻ろうとする魔王を、魔力介した声で呼び止めるものがあった。
モンテリー王国の王その人であった。
モンテリー王国は降伏する。
自分の命を差し出すから民はこれ以上殺すな。
そういった主旨の嘆願を寛大にも聞き入れて、魔軍の戦闘行為を止めさせた。
こちらとしてもこれ以上家畜が減っては増やすのに多少苦労する]
[望み通り王と王の一族は
家族の命はどうとか言っていた気もするが、些細なことだ。
かくしてシラーは魔王のものとなり、ほどなくクレレットの街も門を開いた。
マルサンヌ砦のあった場所からクレレットまでの街道は、魔軍が闊歩する道となった。
多少頭の回る連中が他を出し抜いて功と財を得るべくミュスカの森林へ別れて行ったが、魔王はさほど気にしていない。
ゆえに、彼らがどうなっているのかは今のところ関心の外である。]**
― クレレット大橋 ―
[南より飛び来たった猛禽の群れ>>142 に注意を払うものは、知性持たぬアンデッドやゴーレムたちはもとより、他の亜人にもいなかった。
頭上から腸詰が降ってくるに至ってようやく空を見上げ、降りかかった油の臭いに顔をしかめる。>>167
中には落ちて破れた腸詰の皮を食べるのに勤しむ連中までいた。
事態が大きく動いたのは、赤い火の雨が降り注いだ時。>>176
炎は橋に大地に魔物に突き立ち、風に煽られてたちまちに燃え上がった。
あちらでは筋引くように地面を走った炎が屍兵を飲みこんだかと思うと、こちらでは松明のように全身火に包まれたゴブリンが別のゴブリンにしがみ付いて炎をより大きくする。
橋の北側の各所で、炎による混乱と惨状が繰り広げられていた。]
[橋を使わぬ渡河を試みていたものたちは、ある意味ではより大きな災難を被ることとなる。
炎に巻かれた一部の者達がなりふり構わず水を求めて川へ駆け下り、渡河に手間取って固まっていた他のものたちをも巻き込んで水の中に折り重なり流されていく。
水に入った油は燃えながら流れ下り、岸辺へ炎を広げていった。
一方、背後で上がった火の手と、それによる惨状を目にした南岸の亜人たちにも混乱は波及した。
戦意を失くしたゴブリンやコボルドたちの一部が逃げ出そうとするのを、オークが斧で叩き切り、死骸を投石代わりに騎士たちへ投げつける。
一部のオークたちは炎と油の臭いで狂乱状態に陥り、理性の箍を吹き飛ばして吶喊を開始する。
もともとの膂力から箍の外れた勢いで振るわれる斧や棍棒は、人や馬さえ容易く吹き飛ばすだろう。
魔に属する亜人たちは、全体として戦いの狂気の度合いを増した。]*
― 移動魔城"Z" ―
あっはっはっは。
これはいい。
人間ども。なかなか楽しいものを見せてくれるではないか。
[
鳥に油を運ばせるなど、賢しらにも良く考えたものだ。
次は兵でも吊り下げて送ってくるかな。
[いくつも燃え上がる炎は、鏡越しではなくとも遠望できた。
立ち昇る黒煙もまた、風に乗って流れてくる。
血と炎の臭いは魔王を機嫌良くさせた。]
[雑兵どもがいくら散ろうとも、魔王は些かの痛手とも思わない。
魔王の御座たる"Z"は、クレレットの街を南北に横切る街道の中ほどに位置していたから、ここまで炎が届くこともないだろう。
小さな駆動音と共に城塞が身じろぎ巨体を持ち上げれば、戦場の方向がより見えるようになった。
玉座の傍らにある装飾を、掌で軽く撫でる。]
なかなか良い趣向だったが、このままでは街に燃え広がるかもしれないな。
この程度の街、灰になろうと一向に構わないが──
この状況、おまえならどう収める?
[酒の肴の続き、とばかりにシメオンへ問いかけた。]
/*
ところでツィーア君の内部にキッチン2か所あるのを発見してしまった。
ひとつは魔王様専用キッチンだな?そうだな?
(嬉々としてエプロンを付けだす魔王
(そうじゃない
/*
今回上では頑張って悪い魔王様やってるので、おちゃめな部分は灰に隠しております。
にしてもごきげんな魔王になったことよ。
/*
魔王さん、ひとかけらも良い人にならないようにって頑張ってるけど、やっぱり難しいねえぇ。
ツィーアとか愛でたくて仕方ないからねぇぇ。
配下のみんなって、なんかものすごく可愛く見えるんだよね。
みんな可愛いしみんな愛でまくりたい。
あいつら裏切っちゃうとか死んじゃうとか、ちょう悲しい。
[かの魔将が何を見、何を思ったかは思考の外にある。
だが、提示された策は、実に好いものだった。]
人間の魂そのままに不死の者として支配するか。
面白いな。
絶望するか、豹変するか。それともあがいて見せるか。
興味をそそられるところだ。
そいつを見た他の人間どもの反応も、楽しみだ。
[想像を巡らせ、幾度か頷く。]
いいだろう。好きにするといい。
ただし、こいつにはもう喰っていいと許してある。
だから先取りすれば、だな。
[許可の言葉を告げたあと、こいつと言って足先でこつこつと床を軽く叩く。
ツィーアとシメオンと、どちらが先に王族を手にするか。
それもまた面白い。]//
[もっとも、これ以上人間が近づいてくるようなら小癪とも感じよう。
先の余興の礼も、してやってもいい。
尖塔の上で、ナールが片翼を広げて軽く伸びをする。
ふぁ、と欠伸をした牙の間から、黒い霧のようなものがちらちらと舞った。]**
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