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[基本真面目なミリアムからは、突っ込みのひとつも入ったかもしれないが、男は笑顔も軽い態度も崩すことなく]
ちゃんと仕事はするから心配しなさんな。
今日はメレディスも張り切ってるだろうしな。
俺も楽しみだ。
[だが、そう口にした瞬間の表情にだけは、普段は表に出ない覇気のようなものが閃いた]
それじゃ、また後でな。
[最後にぽふりとミリアムの頭を撫でて、男は、今度こそ機動兵器ドックに向かって駆け出していく...その目前を]
あん?
ラヴィ?
[一瞬、今、ここには出て来るはずのない兎の姿がぴょんと、跳ねていったような気がしたのだが]
気の、せいか?
[視線で追った先には、既にその姿はなかった]
まいっか。
[暫し視線を彷徨わせていたものの、結局、軽く肩を竦めて歩き出す。
走るのをやめて、周囲に少し気を配りながら、になったのは、口調や態度とは裏腹に、やはりまだひっかかりを感じている証拠だった**]
[ ドックに到着する前に、探査衛星の展示ブース前を通りかかると、男は再び足を止めた ]
シュペルリング准尉、こっちは特に異常ないか?
[ イベントごとの最中に、男がこういう軍人らしい口調で声をかけるのは珍しい、と、ゾフィヤは既に知っていたかどうか。
いずれにしても、普段と少々様子は違って見えただろう* ]
ま、確かになーんにも無い方が珍しいっちゃ珍しいからなあ。
[一転、笑う表情と口調はいつもの軽さを取り戻している]
はいよ、期待には応えにゃ、男じゃねーってね。
応援よろしくな。可愛い
[去り際に、そんな台詞を残すのも、まあいつものことだった*]
― 機動兵器ドック ―
わりい、遅くなった。セットアップ済んでるか?
[ 『たりめーだ!とっとと乗れ!』と、奥から怒鳴ってきたのは、整備士長 ]
おやっさんは、今日はグライフ担当じゃなかったのかよ?
[ 苦笑混じりに言い返せば『知るか!この基地のメカは全部俺の担当だ!』と怒鳴り返され、思わず肩を竦めた ]
スミマセン、俺が悪かったわ...
[ 男にしては素直に謝って、整備済の愛機のコクピットへと昇る ]
[ 男の乗る人型機動兵器はRT-Gタイプ002『フェーニクス』...ゾフィヤの愛機『レルヒェ』と同じリッター・ガイストタイプ...ということになっているが、実は、外形にはかなりの部分に『グライフ』と同じ機構が使われているという特殊機だ ]
よし、システムオールグリーン、と。
[ 特に人型機動兵器としての運用は、ほぼグライフと同性能で、その特性故の模擬戦企画だった。
グライフとの相違点は、近距離戦用には拳ではなく特殊鋼のダガーと、ミニシールドを使用することだ ]
さって、久しぶりっちゃ久しぶりだが、うまく動けるかねえ?
[ 呟く男の顔に、しかし不安の影はない。かつて、グライフの開発段階でテストパイロットを務めてもいた男は、そのテスト機で採用されていたと同じ武器の扱いには、それなりに習熟していたからだ。
その事は、対戦相手となるメレディスも先刻承知の筈だった** ]
― 『フェニークス』コクピット ―
[ 操縦席に腰を据えると、外からの音も、それまで考えていた諸々も、全てが一度消えて、まっさらになる ]
『フェニークス』スタンバイOK。
いつでも出られる。
[ 声音にも、他では見せない鋭さが加わった ]
『了解、開始まで、あと10分です』
[ 模擬戦用のバトルフィールドを管理するイベント班の士官からの通信に頷いて、こちらからも「了解」を返し、そのまま通信の相手先を切り替えた ]
そんなもの、する必要があるなら、是非とも140字以内で理由をご説明いただきたいですねぇ?
ま、そもそも必要ないと思ってましたんで、御心配なくー?
― イベント会場/バトルフィールド ―
[ 模擬戦のためのバトルフィールドは、イベントのメイン会場であるドックの外に設けられている。
観客の安全に配慮して、フィールドの周囲には不可視の電磁ネットが張り巡らされ、万一機動兵器が破損して部品が飛んで来るような事態になっても、ネットによって客席は守られるような仕組みだ ]
『あと五分で、イベント開始です。整理券をお持ちの方はお急ぎくださーい!』
[ 声を張り上げる若い兵士の促しに従って、観客席には多くの人が集まりつつあった ]
― イベント会場/バトルフィールド ―
『御来場の皆様、お待たせしました!只今より本日のメインイベント、新型機動兵器RT-Uタイプ001『グライフ』及びRT-Gタイプ002『フェニークス』による、模擬格闘戦の公開演習を開始いたします!』
[ 定刻になると、ぽーん、と上がった花火とともに、アナウンスが流れて機動兵器ドックの入口が開く。
最前列に陣取った子供達から真っ先に歓声が上がった ]
っしゃ!出るぞ!
[ ドアが開き切ると同時、バトルフィールドへと歩いて出る。
『フェニークス』の塗装は、青く輝く『グライフ』とは対照的な深紅で、脚部と上腕部には、炎を思わせる紅から緋色、黄へと変化するグラデーションが施されていた ]
[ その左腕から、丸い形のミニシールドが扇が開くように展開し、更に、右腕に格納部から射出されたダガーが受け止められて握り込まれる ]
[ そのままぐるりと、フィールドを見渡すように動くのは、観客へのサービスが半分、対戦相手の出方と位置取りを探る目的が半分といったところ ]
[ 男がこういった対戦で、先手を取ろうと動くことは稀だ。
落ち着きの無い普段の性格とは裏腹に、相手の出方を見て受け流し、反撃へと移る...その癖は、メレディスにも馴染みの動きの筈だった* ]
[ 一気に懐まで飛び込んできた『グライフ』は、一度その身を沈み込ませ、エネルギーを溜めた拳を、下から上への軌道で振り上げる ]
そう、簡単に...
[ その狙い所は、予想外だったが、踏み込まれるまで男も遊んでいたわけではない。相手が身を沈めようとしているのは、脚部の動きで先に読み取れたが故に、瞬時に手にしたダガーを逆手に持ち替え、突き上げてくる拳を前方に弾くようにして、払おうと試みた ]
取らせるかって!
[ 同時、左腕を上から下へと振り下ろし、防御に使うはずのシールドを、武器に変えて『グライフ』の右肩関節部辺りを打ち据えようとする* ]
ち...やーっぱ、諦めわりーな、レディっ!!
[ ダガーで防御、シールドで攻撃という荒技は、多少は通用したようだが、やはり、思い切りの踏み込みを跳ね返せるほどの威力はない ]
おわっ!!
[ シールドの一撃も上腕で受け止められ、寸刻を置かず腹部へと拳が繰り出される。
バチリ、と一瞬火花が散る程鋭い一撃は、もし相手がバランスを崩した状態でなければ『フェニークス』を地に倒していたかもしれなかったが、なんとか踏みとどまって、背後へと下がる ]
はは...やっぱまっしぐら、だよ、なあ。
[ 距離を取り、なんとか体勢を立て直そうとダガーをシールドの裏に隠すようして構えながら、男はコクピットの内で、笑みを浮かべる ]
そうでなくちゃ...!
[ 酷く愉しげな、その顔が、次の瞬間、固まった ]
[ 突如バトルフィールドに現れた、羊の大群が、蒼と紅の機体の間を、元気に鳴きながら、駆け抜けていく ]
[ ぴょんぴょん飛び跳ねながら走る羊達は、そのまま観客席に飛び込みそうな勢いだったが、電磁網に接触すると、その網に溶け込むように消えていった** ]
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