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───…。
[摘み取られ散らされた花を思わせる姿態から
想像することもなかった言葉が発せられた。
見開いた目は、緩やかに笑みへと変わる。
驚き訝しんで伸ばされる海賊船長の腕をすると躱し、
水銀のように若者の身体の下へと滑りこんだ。]
これはおまえたちには過ぎたものだ。
私がもらっていこう。
[確として宣言し、若者の身体を抱え上げ引き抜く。
怒声とともに伸ばされた船長の手首を、片手で押さえた。]
この船も悪くはなかったよ。
けれども、もう終わりにしよう。
おまえたちに似つかわしい結末を、餞別に贈るよ。
[言葉と共に、掴んだ場所から船長の腕が黒く変色する。
驚愕の表情を張り付けたまま船長は黒い塊に変わり、
あっけなく塵と化して崩れ落ちた。
慄き慌てる船員たちへ片手を振るえば、黒い風が生まれる。
吹き付ける風は船員たちに船長と同じ運命を届けていった。]
では、行こうか。私の真珠。
[腕の中の若者に声を掛けて床板を蹴る。
風がごうと唸りをあげて身体を運び、
どこをどう通ったか、気づけば海と船を見下ろしていた。]
おまえを磨き上げ輝かせてみたい。
きっとおまえは私を満足させるだろう。
[闇より織り出した布で若者を包み、囁きかける。
眼下の海賊船では黒い颶風が吹き荒れていたが、
結末に興味を示すこともなく、その場から飛び去った。]
[黒衣の男は命令に畏まるのではなく、笑った。
その笑みは相手を窒息させんほどに甘やかで強かなもの。
闖入者の恣意のもと、組み敷かれていたベリアンの身体はしなやかな腕に抱き起こされる。
皆にかしづかれてきた王子が命惜しさに媚び、よがり狂う瞬間を舌なめずりして待ち受けていた海賊は激昂し、この拉致を阻止せんとしたが、ベリアンを横取りした男は意に介さず決別の言葉を投げた。
自分を貫いていたものが萎えて抜けてゆく感触。
重い枷もまた脆く砕けて、ベリアンを正真正銘、一糸まとわぬ姿にする。
途方もない疲労と、”見てはいけない”と告げる本能からベリアンは男の胸に顔を伏せて体重を預けた。]
ここは、 任せおく。
[気丈を装うのも限界だ。
掠れた声で告げれば、二人の身体は周囲を薙ぎ払う風に囲まれ、どこか不穏な宣言とともに紡がれた闇がベリアンを覆い隠した。
それは男のまとう布と同じく緻密な、そして彼そのもののごとく逃げ場のない抱擁をもってベリアンを運ぶ。
故国へではなく、新たな檻へと。]
― 「天使の鳥籠」 ―
[「鳥籠」の者に部屋を使うと言っておきながら、
足を向けたのは別の場所だった。
廊下を歩み行く途中、腕の中のものが身じろぐ。
布の奥からなされた主張に、笑みを向けた。]
しばらくそのままでいなさい。
まだ歩けないだろう?
[布越しに顔を寄せて囁く。]
― 浴室 ―
[訪れたのは、湯の香満ちる場所だった。
広々とした浴室には白い帳が幾重にも揺らぎ
湯を湛えた浴槽は大人ふたりが身体を伸ばしても
なお十分な余裕がある。
布に包んだ若者を抱えたまま浴槽に踏み込み、
自らも服を脱ぎもせず、湯に体を沈めた。
湯の面に黒衣が漂い広がる。]
まずは汚れを流してしまおうか。
[艶含んだ声で囁きかけ、布に指を掛けた。
立ちのぼる湯気がいっそう濃く揺蕩い、
二人の姿を白く押し包んでいく。]
[湯に浮かべた若者の布を解き肌を晒す。
濡れていっそう艶やかになった褐色の肌を
背中から掻き抱き腕の中に収めた。
手首に残る枷の跡を撫ぜ、肌に刻まれた陵虐の跡をなぞり、
本来の滑らかさを呼び覚ますよう掌で柔らかく擦る。]
[歩けないだろう、と示唆され、改めて我が身を顧みる。
手荒く捩じ伏せられた足腰はガクガクとしておそらく体重を支えきれまい。
その上、ベリアンは全裸で、海賊たちの欲望の名残をこびりつかせたままだ。
そんな姿を人前にさらすことは、できない。]
…う、
[おとなしく説得されかけたところで、布越しに耳朶を甘噛みされた。
相手が見えないまま、濡れた舌を感じさせる息づかいが肌を撫で上げて感覚を煽る。]
[水の響きは海を、船での監禁を思い出させ、ベリアンの身を竦ませる。]
…──、
[拭い去れない陵辱の恐怖は、そこから救い出してくれた男に無意識に縋らせるのだった。]
[身体を包んでいた布は湯に滲むように失せ、白い腕に引き寄せられ、褐色の背が男の身体に密着する。
頬が上気するのは慣れぬ湯の熱さのせいか。]
待て…っ
きちんと名乗り、礼を言いたいのだから、放せ。
[かろうじて要求を伝える。]
[湯に驚き暴れていた若者も、
抱きしめてやればいくらか落ち着きを取り戻す。
離せという要求に、すぐには応えず首筋を軽く啄んだ。]
礼など必要ないよ。
名乗らずとも構わない。
おまえは私が海で拾った真珠。
今はそれで十分だ。
[そう言いながらも抱きしめていた手を離し、
彼の後ろ首に手のひらを添えた。]
ずいぶんと酷くされていたようだからね。
腰を上げてごらん。
傷の具合を見てあげよう。
浴槽の縁に手をついて。膝立ちになるといい。
[相手の様子を意にも介さず指示を投げる。
添えた手に、有無を言わせぬ力を込めて。]
[しっとりした湯気と、礼など必要ないと告げる男の唇とが肌を濡らす。
初めて湯につかるベリアンにとっては、どちらもどこか非現実的な感覚に思われた。
「おまえは私が海で拾った真珠」と、男は囁く。]
詩人だな。
[ベリアンがよく知るのは美しくも歪な淡水真珠であるとはいえ、男の選んだ表現は艶やかだと受け入れる。
彼が実際に詩的感性に生きる相手であるならば、身分をどうこう言い立てるのは逆に親密な優しさを無にすることかもしれない。
少なくとも海賊たちと違って対話の成り立つ相手(のよう)だから、相手の意を尊重しようとベリアンは自分を納得させる。]
[ともあれ、再三言わずとも拘束の手は緩められた。
男の手は首の後ろに移り、傷を確かめようと申し出る。]
──…
[どこに触れるつもりかは明らかだったが、ベリアンが一瞬、声を詰まらせたのは、船での経験を呼び覚まされてのこと。]
海賊どもの手から救い出してくれたこと、 言葉には言い表せないほど…感謝している。
[礼は必要ないと言われても、はいそうですかと知らんぷりできる性格でもない。
ありきたりな表現だが、「言葉にできない」というのは実感を伴って紡がれた声だった。
そして、恩人たる男に促されるまま浴槽の縁に手をついて膝立ちの姿勢をとる。]
[どこに触れられるのか明瞭に理解していたが、自分では手当もままならないのだから彼に委ねる他ない。
理知的なベリアンは、道理をとおされれば素直に従う。
彼には、あの無残な光景を目撃されていた。
それゆえに、かえって躊躇は排される。
傷を調べ、身を清めよう、という提案にも拒否するべき点はなかった。
むしろ、ベリアンの好きにさせておいたら、皮膚が破れるまで海綿で擦り続けたかもしれない。
海賊たちの手脂が身体中にベタついているようで滅入る。
ましてや、不毛の胤を播かれ擦り込まれた場所は]
ノズルで奥まで洗い流せればいいのに。
[それは率直だが、この場で口にするにはいささか軽卒な言葉でもあった。]
[若者が抱いた感想に目を細める。
詩的表現をそれと認識するには、
相応の教養と感性が必要だ。
彼がそれを持ち合わせていることに喜んだ。
良い身分の出だろうとも思うが、
彼の出自そのものにはさして興味はない。
磨かれ育まれてきた気高い精神をこそ愛でるのみ。]
[必要ないと言ったのに、感謝の言葉を告げられる。
素直に晒された背を前に、自らも膝をついて身体を起こす。
水を弾く褐色の肌に爪を立てたい衝動を押さえながら、
掌で彼の背筋をゆっくりと撫でおろした。]
私がしたいと思ったことなのだから、
おまえが恩義を感じることはないのだよ。
もちろん、
海賊がしたことよりずっと良い事を、
おまえに教えるつもりだけれども。
[両手を使って腰のまわりを円を描くように撫で、
少し力を加えて揉み解す。
慣れぬ蹂躙に強張った筋肉を緩めるよう。]
[腰の上から右手を双丘の狭間に回した。
暴かれ貫かれた門に指先で触れる。
若者の様子を見ながらぐるりと周囲を探り、
指先を浅く潜り込ませた。]
酷い傷にはなっていないよ。大丈夫だ。
おまえの肉が十分にしなやかで良かった。
[幾度か浅い抜き差しを繰り返しながら、
左腕を彼の腰の下に回し、軽く引き寄せる。]
奥まで洗い流したいのだろう?
[彼が零した言葉を拾って返し、
浅く入れていた指を根本まで押し込んだ。]
力を抜くといい。身を任せて。
全て掻き出してあげよう。
[内奥を柔らかくかき混ぜながら身を乗り出し、
彼の背のくぼみに口づける。
溜まった水を掬うよう、ちろりと舌がひらめいた、]
[男の掌が背を伝う。
薄荷のような清涼感が肌を緊張させ引き締めた。
「恩義を感じる必要はない」と、度量を示しながら男が続けた言葉は淀みなく流れる中にどこか訝しいものが散見するのだったが、確とした証拠は掴めない。
少なくとも賊たちのしたことはベリアンにとって決して「良い事」ではなかったと反発する気持ちは、わずかな困惑の後、前段である「傷の確認」と文脈を繋げて、身体に「良い事」すなわち治療行為であろうと自己完結する。
それを「教える」というならば、彼は詩人であるばかりでなく医師なのかもしれない。
医術に通じているならば、海賊たちと対立しながらも同船を許されていた理屈は通ると思った。
つれづれと巡る思考は、自分と共に在る男に対する期待に補正されている。
信じていたいのだ。]
[言われるままの姿勢をとったベリアンの腰のまわりを揉みほぐす指の加減は確かに巧みだった。
心地よさを感じて寛いだ息が零れる。
王子として、恭しく身体に触れられての奉仕には幼少のみぎりより慣れている。
こうして執拗に菊花を弄られるのは初めてではあるけれど、躊躇いは傷の程度を報告する声に呑み込まれた。
これは診察の一環だと受け入れる。
酷い傷にはなってないとの知らせにベリアンは深い安堵の息を吐いた。
烙印のように生涯消えない、人の目にも明らかな痕を残されたかもしれないと、内心、怖れていたのだ。]
[「良かった」と我がことのように言祝いでくれる男に微笑もうとしたベリアンはそのまま抱き寄せられる。
液体の浮力を借りた、優雅で、だが強かな捕獲。
釣り針を引っ掛けるかのごとく、指が身体の奥へと滑り込む。
反射的に身を堅くしたが、耳元で囁かれたとおり、それは確かに自分が望んだことでもあった。
やめよ、と言う機を逸したベリアンは男の導くままに身を委ねるべく浅い呼吸を繰り返す。]
[狼藉の残滓を掻き出すために潜り込んだ指は、隘路を拓き戦かせる凶暴な太さもなく、しなやかに動いてベリアンの硬直をほぐしてゆく。
時折、離れた場所に彼が施す舌の戯れがまた、意識を散らすのに一役買っていた。
酷い目にあわされた身体をきちんと清めてもらいたい。
そんなベリアンの真摯な願いを汲むように、彼の指は繰り返し震える肉をなぞってゆく。
しかし、いかんせん、熱り立ったものと比べて長さは足りなかった。
もっと奥まで送り込んでほしいと望んでしまうのは、際どい欲。]
[内奥へ忍ばせた指をゆるゆると動かしながら、彼の反応を窺う。
拒絶は薄く、委ねられた身体は素直に開いた。
絡みつく肉の襞は時折震え締め付けてくる。
快楽を感じているわけではないらしいが、
どこか物足りなさも感じているようだ。
送り込む指を二本に増やし、
未だ拓かれぬ快楽の源泉をまさぐりながら
少しばかり思案する。]
もっと奥まで、 欲しいのかい?
[背に唇をつけて囁きかけ、指を引き抜いた。
咥えるものを失くして震える花門に、掌をあてがう。
注ぎ込んだのは、質量を備えた闇だった。
うねりのたくる闇が後孔を満たし内壁を擦りあげ、
指では届かぬ奥まで広げて脈動する。
最初は、水を流し込まれたと錯覚するかもしれない。
温度を持たない闇は、すぐに体温と馴染むだろう。]
これが気持ちいいことなのだと、
おまえの身体も理解し始めているようだよ。
わかるだろう?
きっとおまえは喜ぶようになる。
おまえの身体は、感じる素質を持っているのだから。
[内側を満たすのは闇に任せて、指を若い雄芯へ差し向けた。
海賊に犯されている間、一度として頭を上げることのなかったそれを、根元から柔らかく揉みしだく。]
[効率を良くせんとしてか門を潜る指が増やされる感触にビクと背を反らし、首を振る。
海賊たちに繰り返し蹂躙されたそこは複数の指をとっぷりと呑み込むまでに拓かれているけれど、理性の戻った今は恐怖がたち勝るのだった。
ベリアンに施術せんとする男は、その機微も察したらしい。
異物を押し戻そうと蠕動する内襞に抗わず指が抜かれる。]
すまない、 自分でもどうにもならないんだ──
[癒されたい、けれども辛い。
潤んだ眼差しで正直に告げれば、包み込む質量を失った後庭が第三の切なさを点す。]
[ベリアンの背を抱く男は、そんなベリアンに失望した様子もなく、褐色の膚に接吻けを落した。
止めるとも我慢しろとも言ず、指の代わりに何か柔軟なものを押し込む。
瞬く間に隘路を遡及し、微弱に震えて汚濁を削ぎ落とすそれは粘性の強い水──あるいは薬だろうか。
悩む間もなく、男の囁きが思いがけない効用と診たてを示唆する。
気持ちいい、というのは、体調が良くなるというだけの意味ではあるまい。
注ぎ込まれたものが脈動する感触は媾合に似て、それでいて身体の芯を疼かせる。]
── あ、!
[動揺の混じった声が喉をつき、ベリアンは浴槽の縁に上体を預けて喘ぐ。]
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