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[朝の支度を済ませた…は教会の裏庭へ居た。
庭には霜が降りていて、歩くたびにパキパキと硬質な音が足元で鳴った。
雪に埋もれる前にと、庭の草花は抜くものは抜き刈るものは刈って捨ててしまった。そうしないと春、雪が融けた後、倒伏した枯れ草がみっともなく、庭の立ち上がりそのものも遅くなると聞いたからだ。
だから現在、庭には何もなかった。裏庭に来てはみたものの特に何もする事はない。]
[草木ひとつ生えてない淋しい風景にぽつりと零す。]
…何か植えましょうかね。
今度、ヤコブさんに何が良いか聞いてみましょうか。
[今は何もないが、春夏にはパセリやセージ等のいくつものハーブが裏庭を飾っていた。
先代の神父は花を植えていたそうだが、…に花を愛でる趣味はなかった。この教会へ赴任して数年は放っておいた。
けれども、ずっと裏庭を放置しているのも…、とフリーデルと話しをして。花を植えるぐらいならば、使えるものを植えたもの方が効率が良いだろう。
そう考えて、ヤコブに相談したのがつい1年前の話し。
それからはヤコブからアドバイスを受けながら、村の少女のリーザと共に草木の世話をしている。]
……。
……いえ、何でもありません。
[だけども、声を掛けておきながら口を噤んでしまう。
「頼んでいたズボン、宜しくお願いします。」と言って今度こそ見送った。]
[そもそも「先代の神父は花を植えていた。」という話しは他の村人から聞いただけで実際どうだったか、…は知らない。フリーデルが教会に住んでいた頃にも裏庭に花が咲いていたかなんて分からない。彼女から昔の話しを聞いていたかどうか。
ニコラスも前任の神父と親しかったらしい。彼も、もしかしたら。以前と変わってしまった庭を見て悲しんだかもしれない。
なんて。一年前、そんな事は全く考慮せず、「実用的ではないから。」と神父らしかぬ意見で早々にハーブを植える事を…は決めてしまったのだけど。]
[5年前に村に来たシモン。…も3、4年前に村に来たばかりであった事。また年が近い事もあり、シモンとはよく会って話しをした。
裏庭で育てたハーブを使ったソーセージやハーブティを片手に教会へ訪れて来れる。人付き合いの苦手な…にとって、この村で友人と呼べる唯一の存在と言っても良かった。
教会の前に立つシモンを見つければ、小さく笑って、]
今日は如何なされましたか?
[閉じ込められてしまう程に雪に見舞われるのは、初めての経験だった。この村へ赴任して初めての冬。雪が降り、一面真っ白に染まった村を見て思わず言葉を失ったのを覚えている。
ただ、雪に閉じ込められた村の生活というのは不便なもので、慣れない雪国の生活に…は四苦八苦したんだった。
シモンにも世話になってしまっただろう。その事を思い出せば、「ああ、今年も寒いんでしょうねえ。未だに慣れませんよ。」と苦笑する。]
[油断したら風邪を引くというシモンの言葉にふふっと笑みを零す>>142。]
ええ、ほんと。寒いところだと聞いていましたがこんなにもだとは思いませんでしたよ。
あら、貴方こそエルナさんの厚手のニットが必要なのではありませんか。
[海岸沿いの村出身だと聞いている。きっと、彼も初めて銀雪の村へ来た年は戸惑ったに違いない。
とはいえ、一面雪に染まった光景に大人げなくはしゃいでしまった姿シモンにを見せてしまったのは恥ずかしい思い出である。
話しは変わって、そろそろ戻って来る頃ではないかとニコラスに話題が移れば、]
ニコラスさんですか。
ニコラスさんでしたら、昨夜から村へ戻ってきましたよ。今頃、友人に会っていると思います。
[心配するシモンを他所にしれっと返事をした。]
[「いいな、俺もエルナに注文を出してみるか。」というシモンの意見>>164を聞けば良い案だと言わんばかりににっこりと笑った。]
そうですよ。貴方は外で仕事する事も多いんですから。見てるこっちが寒くなるんですよ、もう見てられません。
是非、エルナさんにセーターを編んで貰いなさい。
[袖が足りないコートを着ての外での作業を見兼ねてか、そう小言を零す。
ニコラスが戻って来ている事にはこくりと頷く。…もまた、神父らしい台詞と共に安堵の息を吐いた。]
ええ。その通りですね。雪が降る中、山道を歩くのは大変危険です。ニコラスさんが無事に村へ帰って来られて良かった。 ……これも、神のご加護のおかげでしょう。
[ニコラスが教会に戻ってくるか分からないが、ニコラスに会ったら伝言を伝えようとシモンの頼みを快く引き受けた>>164。
宿屋にはマルメロの蜂蜜漬けもあるし、という言葉には「……マルメロの、蜂蜜漬けですか?」と小首を傾げてみせる。貴方が作ったんですかと問いかけては、楽しみにしていますと返す。
教会の用件は済めば、他の場所にも薪の準備はあるか聞いて回ると言う。慌ただしいシモンに…は心なし残念そうに、]
そうですか。今度教会に来た時には貴方がくれたお茶を淹れて歓迎しますから。
[時間がある時はそうする様に、お茶を飲みながら他愛無い話しでもしよう、と。その時は勿論、貴方が作ってくれたハーブティーとお茶菓子を用意するから。]
……、また。
[「また、来て下さいね。」とは言わなかった。代わりに再会を約束する挨拶をしてはシモンを笑顔で見送る。]
[だが、シモンが一歩踏み出したところで、何かを思い出した様子でくるりと…を振り返った。不思議そうに言葉を待つ…にシモンが言い放ったのはいつかの話し。]
…ッ、…別に、わたしははしゃいでなんかいないですよ。
[なんて、嘘ばっかり。一面の雪を見て子供みたいにはしゃいでしまった癖に。大人びたリーザが見たら驚きを超えて呆れてしまうのではないだろうか。…は言葉を詰まらせながらも素直にその事を認めようとはしなかった。
相変わらず空は灰色の雲に覆われている。…は、白い息をはずませながら、]
皆の心配は良いですが、貴方こそ気を付けなさい。天気が崩れてしまう前に帰って下さいよ。
そう、くれぐれも風邪をひかないように、ね。
[未だに油断すると風邪を引いたりすると言っていたお人好しの彼。何処か控えめな声でそう告げて、小さくなる背中に手を振った。**]
[立ち去ったシモンと入れ替わり今度はヤコブが教会を訪れた>>190。
シモンの背中に胸の前で小さく手を振っていたが、ヤコブに気が付いてそっと腕を降ろした。彼の抱えた野菜の籠を見て小さくお辞儀をした。]
あっ…、野菜の配達ですか。
いつも、美味しいお野菜を届けて下さって有り難う御座います。
[ヤコブは、こうして野菜を届けに来てくれる。小さな村だから助けってあっていかなければ生きていけない。初めは慣れずに随分と息苦しさも感じたものだけど何時しかこの村の風習も苦にならなくなった。…ははにかみながら野菜を受け取った。
それから、教会の正門から二人で裏庭に移動した。草木の生えてない裏庭を見せれば、案の定ヤコブの口からは「見事に何もありませんね。」という呟き。それを聞いて苦笑する。]
はい、頂いた助言通りに冬が来てしまう前に綺麗にしてしまいました。
[そう、冬が来る前にこれまで栽培した作物の整理した。そのお陰で裏庭には草木ひとつ生えていない。調度、その事で相談しようと思っていたところだった。
何か植えるか、という質問にこくりと頷いて、]
ええ。折角ですから何か植えてみたいと思います。
ハーブ…でなくとも、そう。厳しい冬でもこの庭で育てられる、寒さに強い品種をヤコブさんはご存知ではありませんか?
[…が花を植えた方が良かったのかもしれないと考えたのは気紛れみたいなものだった。ふと、裏庭に顔をだしたフリーデルを見てそう思っただけだ。特に今は花を植えたいと考えている訳ではなく、どうしたものかと思案顔。
何を植えたらいいだろうかと、困った顔のまま隣のヤコブに訊ねた。]
[お互い様だと言うヤコブ>>209。
今度は…がふるふると首を振る。ごく自然に、すらすらと…の口から言葉が流れ出た。]
いいえ、そんな事は、ありません。
畑仕事を初めてみて知りました。当たり前の事ですけれども…、放っておけば勝手に育つわけではなくて、世話をする人がいてそれが育つように見守ってようやく実を結ぶのですよね。
いつも神様が私達を見守って下さるように。光をあてたりだとか、肥料をやったりだとか、一生懸命にヤコブさんが野菜を育てて下さったお陰で美味しい野菜を頂ける訳ですから。矢張り、ヤコブさんには感謝しなければ。
[主と農夫への感謝の気持ちを告げれば、にこりと笑った。]
[そして、一寸待って欲しいと断ってから教会の中へ入っていった。野菜の籠を置いて財布を持ってヤコブの元へと戻って来る。
ヤコブに野菜の分の代金を支払う。]
また、宜しくお願いします。
そうだ、今度は…、
[ヤコブをミサで見かけた事は無かった。ヤコブが教会に寄るのは野菜の配達の時だけだった。裏庭の相談に乗ってもらってからは自分の世話した畑の様子が気になるのか教会へ訪れる頻度は増えたが。
信者ではないのだろう、だけども偶にはミサに参加してみてはどうだと誘おうとして…、口を噤んだ。神を信じるのも信じないのもその人の自由だ。]
シモンがね、裏庭で取れたものでハーブティーを作って下さったんですよ。
特に用がなくとも教会へ寄って下さい。歓迎しますから。
[代わりに別のお誘いを掛けた。
それは、人付き合いの苦手な…らしくなく、少しだけ緊張した顔持ちで笑いかけた。]
[すらすらと台詞を読むかのように慣れた口調で、主への感謝の気持ちを示せば。
ほんの少しだけヤコブの表情が曇った気がした>>233。
3年前。ヤコブは肩に大きな傷を負って村に戻って来た。…がこの村の教会を任されたのはそれよりも少し前。詳しい事情は聞いていない。
ヤコブの真意を図る様にじっと見つめてみたが、彼の気持ちを察する事は無理だった。
気軽に教会に寄って欲しいと声を掛けたものの、同意とも拒否とも取れる曖昧な返事に…の表情が僅かに強張った。
それでも笑顔を作ってヤコブを見送った。彼が教会を離れた後、…はひとり肩を落とした。
ヤコブと会話をしている間に小さなお客様が訪れていた事にも気付かないまま>237。]
[これだから人付き合いは苦手なのだと溜息をつく、…。
暫くして、仕立て屋に行って冬用のズボンを取って来て欲しいと頼んだフリーデルが帰って来る>>257。随分と威勢の良い挨拶に思わずくすり。
沈んだ表情ではなく笑顔で彼女を出迎えて、]
おかえりなさい、フリーデルさん。
お使い、有り難う御座いました。
[礼を言ってズボンを受け取ろうとするだろう。
受け取る間際に出掛ける前の事を聞かれれば、…は一拍の間をおいてから返事をする。]
……ああ、本当に何でもないんです。ちょっと、庭のことで悩んでいまして。
冬になる前に綺麗にしてしまったから今は何にもないでしょう。
だから、今度は何を植えようかと思ってフリーデルさんの意見を聞こうと思ったんです。
[フリーデルの声で自分と彼女以外にもう一人の人物がいる事に気が付いた >>258。
聖堂を見渡せば、椅子にちょこんと座っているリーザ。椅子の背もたれの影に隠れてしまっていて直ぐには気付かなかったのだ。]
おや、リーザ。
居たんですか。寒い中、待たせてしまいましたかね。
[建物の中だというのに空気はひんやりと冷たかった。申し訳無さそうに眉を垂らす。
…はリーザのそばに立つと、膝を折り曲げ少女との目線を合わせる。感情に揺さぶりを掛けないよう、穏やかな眼差しで少女を見つめた。出来るだけ声色は優しく。]
お姉さんに会いに行ってたんですか?
[リゼットはというと、黙り込んで何か思い出そうとしているようだった。
思い入れのある金色があるらしかった。]
何か、特別な花があるのですか。
[例えば、そう。リゼットの姉との思い出の花なのだろうか、と。
口にはしないが、金色の花の名前を思い出そうとする少女の様子にそう思った。]
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