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─ 4年前:卒業パーティーの後 ─
終わっちまったな。
パーティー。……パーティーも、か。
[片付けをほぼ終えたテーブルを一つ一つ見詰め、名残惜しむように手のひらで触れてゆく。
殆どの者が部屋に戻っているのだろう。
宴も終われば、漣が引くように人気は引いていった。]
[戦争や死を意識させる本気の言葉は、
記憶の中では、カレルの口から聞くのは初めてのことで。
少し、言葉に詰まった。]
…、戦地――か。
このご時勢じゃあ、な。
[数ヶ月前の皇帝の崩御は記憶に新しく、学校の雰囲気も以前とは変わってしまった。
卒業という門出の日も、昨年までのような、希望に満ちたものとは少し違っていた。
来年、再来年まで両国の国境線に囲まれたこの中立地域が保つという保障は何処にもないとまで囁かれている。
無事に卒業の日を迎えることが出来ただけでも僥倖というものだ。
こころなし、列席者の笑顔が固かったのは。
口に錘でも乗っているかのように、希望めいた未来が語られぬのは。
誰しも、最早この地が平穏とは言えぬことを知っているから。]
………俺も、きっとそうなる。
[空の色に緋を真っ直ぐに据えたまま、言い。
差し出された右手に、己の右手を触れさせた。]
俺らはさ、人を守ると同時に、殺す術を学んできた。
殺すなとも死ぬなとも軽々しくは言えねえよ。
だけど………
[言葉が続かない。
逡巡し言い淀むかのような、少しの沈黙。]
…―――出来れば、お前とはまた会いたい。
[平時であっても国が違えば、なかなかに難しく。
これから両国が戦争に突き進むようなことがあれば、
最悪、互いの立場は敵国の敵兵同士ともなろう。
けれど今は、それら全てを心に沈めて。]
決着もついてない。
54勝54敗のまま、だろ?
[6年の頃よりも格段に増えた対戦回数。
その勝敗を数え上げ、にっと犬歯を見せて笑った。]
……ここでの8年間、ありがとな。
俺な、カレルが居てホントに楽しかったぜ。
[感謝や思い、伝えたい言葉は他の同級生や後輩たち、新たな同居人、各々にあるが。
最大の好敵手として友として競い合い笑い合ったこの友人には、伝え切れないほどのものがある。]
あっ、別に別れの言葉のつもりじゃねえぞ。
[この時くらいは、希望を口にしても良いだろう。
触れさせた掌を痛いほどに握った。
強く、強く。**]
/*
>電話はありませんが、極めて希少な存在に「通信用魔法石や鉱石を利用した小型通信機」が有ります。
但し、交信範囲は直径20〜25キロ前後、島の直径に満たない程度です。
交信・隷従・睦言など他陣営間となる可能性のある囁きについては、こちらを使用することを有りとします。
……共鳴はこれ使っていいんだよな。
プロのうちに決めないとなぁ。
― 卒業後・それから ―
父上、母上。
………それに、兄上。
………ただいま戻りました。
[広い扉を押し開き、対面した家族。
記憶と同じ柔らかな笑みが彼らから向けられ、
けれど、それらは決して数年前と同じものではなかった。
送り出した頃の子供と違い、ある程度の年齢に達した息子に向けるのだから、当然ではあるのだろうが。
使用人含めたフォルテア家一同、彼らの一挙一動がまるで“新当主”を前にしたかのような――――]
[父親であるフォルテア家の前当主は、婚姻後、長く実子に恵まれなかった。
家の存続を憂慮した当主とその妻は、遠い血縁より養子を迎える。跡継ぎの不在を好機と見て家の乗っ取りや転覆を狙う者もいないとも限らぬために、近縁に気取られぬようにと血の薄い者から選出し、その男児は跡継ぎとして育てられていた。
しかし、それから数年を経て、夫妻は嫡男を授かることになる。フォルテア家直系の血を引く長男でありながら、表向きは次男として育てられた―――レナト・デ・フォルテアがそれだ。]
[6年前、士官学校を卒業した後、レナトは予定通り軍部に所属を移した。
そして同時に、正式に当主襲名を固辞すべく父に直談判を繰り返した。
一度皹が入った兄弟の絆は、8年の時間を経て生家に戻っても修復が困難であると思わせるものだったが、なにも兄との仲を憂慮したが為にそのような行動を取ったというわけではない。
どう受け止められたかは知らぬが、当然ながらお情けでも、兄を慮るばかりにそうしたわけでも、ない。]
当主の命は何を置いても優先すべき、ああ分かってる!
それでも、俺は―――
[父親の前に立ち、執務机の端を握り、言葉を重ねる。
視線の高さは大分違うが、8年前と同じ構図だ。
眉を下げた父母の表情も変わらない。
しかし、兄だけは心なしか違うように見えた。
見慣れた人に似たその顔に真意の見えぬ表情が浮かぶのには、
少しの怯えと、少しの安堵を抱いたのは、何故だろうか。]
[フォルテア家は今でこそ武門の名家として公国の貴族に名を連ねているが、武勲により侯爵位を授かったのが三代前と、比較的新しい家柄である。
公的な場での発言力は数ある旧家と比べればまだ低いと言え、それゆえ、腹に一物抱えた政界の魑魅魍魎と対等に渡り合うだけの政治的手腕が当主には必要とされた。
帝王学を学び、人当たりよく柔軟で、怜悧な頭を持つ。そんな兄と。
真意の見えぬ交渉術に向かず、剣振るのみを得手とする自分と。
どちらが“家”を預かるに相応しいかは、誰が見るも明らかだ。
ほぼ一触即発で開戦の気配も高まっている。
これは偏にフォルテア家の為だ、と。]
[フォルテア侯としての責務から逃げたいわけではない。
適材適所という言葉もある。
ただ、継ぐべく育てられた者を飛ばしてまで血に拘るのか、と、
自身を取り巻く貴族社会への反発も、もしかしたらどこかにあったのかも知れない。]
[フォルテア家は今でこそ武門の名家として公国の貴族に名を連ねているが、武勲により侯爵位を授かったのが三代前と、比較的新しい家柄である。
公的な場での発言力は数ある旧家と比べればまだ低いと言え、それゆえ、腹に一物抱えた政界の魑魅魍魎と対等に渡り合うだけの政治的手腕が当主には必要とされた。
帝王学を学び、人当たりよく柔軟で、怜悧な頭を持つ。そんな兄と。
真意の見えぬ交渉術に向かず、剣振るのみを得手とする自分と。
どちらが“家”を預かるに相応しいかは、誰が見るも明らかだ。
両国の緊張も高まり、開戦の気配もある。
これは偏にフォルテア家の為だ、と。]
[一族を預かる当主としての責務から逃げたいわけではない。
だが、適材適所という言葉もある。
継ぐべく育てられた者を飛ばしてまで血に拘るのか、と、自身を取り巻く貴族社会への反発は、もしかしたらどこかにあったのかも知れないが。]
[長い時間を要したが、幾つかの条件を飲むことと引き換えに、軍属の地位のまま前線に留まる許可が下りたのが丁度2年前。
純粋な付き合いを経ての流れではあるものの、
結果的に、妻アリーセとの婚姻も後押しになってくれた。
間にもうけた長男、エリオットの存在も、また。
当主を襲名した兄が大の女性嫌いで子を成さぬ為、家柄と血の問題も当面は解消される。
今となっては、あれだけ頑として首を振り続けた父の想いも、
子を、その先を思えばのことだったと理解出来る部分もありはする――――けれど。
譲れるものと譲れぬものが、内に在る。
行動原理も指針も目的も、己が剣振るう意味も。
全て、士官学校時代に得たものだ。]
― 公国国境城砦付近 ―
………
[小高い丘に登り、馬上からシュヴァルベを見遣る。
豊かな大地は土色に姿を変え、活気ある街並みは遠目でもほぼ廃墟と化していた。
恐らくは、懐かしき学び舎もまた―――]
………無残なものだな。
[かつて、幾度も馬で駆けた平原。
学生たちの若い頬を撫でてくれていた冴え冴えとした風は、
今や兵や民の血を吸った砂塵を撒き散らし、怒号や悲鳴を風下へと運ぶのみ。]
[年月を経ても変わらぬ色の緋がふと、連なる山々に向く。
ゆるりと稜線をなぞり、やがて覚えのある洞窟の入り口を見つけると、軽く唇を引き結ぶ。
背後からの呼び声があればふいとそこから視線背けて、馬首を部下の方へと向けた。]
ん。あ、ああ、今戻る。
第二部隊の召集と報告は終わったか?
偵察からの情報は?
[並走しながら、部下が早口で伝えるのに耳を傾け]
そうか。ご苦労さん。
引継ぎが済んだら、第一部隊には適宜休息を取るように伝えろ。
明日はシュヴァルベの前線まで北上する。備えを怠るなよ。
[個人的な伝達事項もある。
それには早馬を差し向け、兵舎付近に馬を繋いだ。*]
/*
NPCが多いんで、A村からBプロまで検索必死だった…。
色々横に並べてみて違和感のなさそうなところで、最初はオクタヴィアさん予定だったんだけど、オクさんは教員として既に名前があったっぽいのでした。
次点だったアリーセは共鳴相方にもちょっと似てるしね、小ネタとしていいかな、っと。そんな決め方。
/*
なんかこう。
リア充っぷり+一見望む立場を手に入れているかのように見えて自分の子とはいえちょっと(ry
いや、おうちに不要な立場+血も残してあるってことで死亡フラグの心算なんだけどね!
惨殺事件とか起こしたほうがいいのかと思ってしまうよね!(不穏)
[のだが]
呼び立てして済まなかった、フレデリカ・ファロン少尉。
久しっ ………は―――?
[口から出かかった言葉が、妙なところで切れた。
数回のノックの後で姿を見せた相手は、どこからどう見ても女性兵だ。
不躾なまでに凝視したのはまた少し別の理由だが、頭の上からつま先まで眺め下ろし。]
……お前、女だったのか。
[気の抜けた声。]
[気づかなかった。
彼――彼女とは同じ寮であったし、少なからず顔を合わせたり言葉交わしたりする機会はあったのだが。
幸いにか残念なことにか、男としては美味しい思いが出来てしまったりするどっきり事件には遭遇しなかったようだ。
堅苦しい口調を崩して。
気まずそうに視線逸らして咳払いをした。]
あー……すまん。
フレデリカ・ファロン。で、間違いないよな?
士官学校の、東寮に居た。
改めて、俺はレナト・デ・フォルテアだ。
あの場所では、レト・コンテスティと名乗ってた。
[ひとまず、懐かしい者との再会を喜ぶように瞳を細めるが。]
積もる話は山とあるが、ひとまず本題に入るぜ。
口調は……いいな。
[部下が苦笑しているのを視界の端に捉え、ひと睨み。
どこからどう見ても女性だろう上官の目は節穴か、とでも言いたげな視線が機に食わない。]
フレデリカ、お前は本日付で俺の率いる部隊の所属となる。
ごく普通の、中装騎兵と軽歩兵の混成部隊だ。
その中の、一個小隊を任せる。
現状だと、遊撃隊ということになるだろうが―――ああ、兵種は出来る限り希望に応じるぜ。思うさま駆けろ。
実はな、上から何人か候補が来てた。
で、そんな中でどうしてお前を呼んだのかと言われれば、ま、腕が立つことをこの目で見て知っているから…だな。
[何人かの名簿と簡略経歴の載った書類を丸め、
自分の頭を数度ぽんと叩いた後、机に投げ出した。
推薦にあたりどれだけの勲功が盛られているか分からぬこんな紙切れよりも、あの学び舎で見たものの方が信用に値する、と。]
俺らには手が必要だが、将を立てすぎて指令系統が混乱するのは避けたい。
だからこそ精鋭を選べと、上からの通達だ。
何か質問はあるか?
[そこまで告げて、記憶と余り変わらぬ高さにあるフレデリカの顔を見た。]
― 時は少し遡り ―
レナト・デ・フォルテア大尉ならびに傘下小隊一同、
本日昼をもってシュヴァルベ戦線に到着完了しました。
[フェーダ公国各地での戦闘防衛に携わっていた一軍が、
シュヴァルベへの転戦を命じられ、任に就いた。
何を置いても先に行うべきは上官への報告であると、到着からいくらも経たぬうちに高級将校の執務室に赴いたから、彼との再会は夕闇煙る中であった。]
……再びお目通り叶い光栄です。
トルステン・フォン・ラウツェニング大佐。
[公国貴族の端に名を連ねる以上、“家”を把握するのは当然のこと。とりわけ、公国において絶大な権力を有する家であれば。
ラウツェニングは卒業後に真っ先に記憶に叩き込んだ名の一つであり―――、ただ、トルステンという名が旧知たる先輩の顔と結びつくまでにはそれなりに時間がかかったのだが。]
[綻びの無い敬礼と共に、眼差しを大佐その人に据える。]
これより、麾下として参戦します。
何なりとご用命を。
[このひとの命の元で戦場に赴くことになる。
何一つ不思議でないことなのだが、向き合う眼差しが奇妙な感慨を連れて来る。
かつてより精悍さを増したものの、変わらぬ面影に思い出されるのは、彼とその好敵手であるかつての同居人のこと。あの8年間、もう一人の兄とも慕った人のことだ。
また、トルステンと共に在った西の副寮長のことも。
若い思い出が脳裏に鮮明に蘇り、
そして思い知る。
彼らの名は、公国に無いのだと。
―――封じたはずの、どこかが痛んだ気がした。*]
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